国立大学職員日記
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国立大学職員日記:記事一覧




■はじめに
 給与体系や採用関係を調べていくと、あちらこちらで「公務員の高学歴化」という言葉を目にします。これは実際に職場で働く上でも実感するものですが、しかしいざその詳細を調べたデータを探そうとしてもなかなか見つけることができません。公務員全般についてすらこの有様であり、ましてや国家公務員や国立大学事務職員に限定したデータは小耳にはさむことすらありません。
 そんな訳で、本当に公務員・国家公務員・国立大学事務職員は「高学歴化」をしているのか、前々から興味があり、コツコツと資料収集と内容整理をしてきました。実際に集めたデータは2009年現在で国立大学事務職員である人間のものですが、法人化する前、つまり国立大学事務職員が国家公務員であった時代のデータも多く含み、なおかつ、国家公務員と地方公務員のデータにはある程度の類似性があるだろうとのかなりいい加減な予想の下、今回のエントリーでは題名には「国立大学事務職員」ではなく「公務員」という単語を使わせてもらいました。「そんないい加減な…」と思うかも知れませんが、収集したサンプル数は大体2000人分くらいあるので、大数の法則に則って公務員全体の類似値と呼べるものくらいは出来上がったのではないかと自負しております。
 なお、今回のエントリーは題名にあるとおりデータが中心となります。説明文やら感想文は短いですが、このエントリーを書くに当たって事前調査にかなりの時間を費やしたことを勘案くださり、決して手抜きなエントリーとお思いにならぬよう、よろしくお取り計らい下さい。

※今回のエントリーは使用する画像サイズの関係上、モニターの解像度を「1280pix×960pix」に設定していないとレイアウトが崩れると思います。

■年齢別最終学歴調査
 「公務員の高学歴化」を調べるのであれば、本来なら「年齢別」ではなくて「採用年月日別」を横軸に据えるべきなのかも知れません。しかしそうなるとあまりにデータ整理が煩雑となってしまうため、今回使用した全てのデータは「年齢」を基準としています。この点に関し、「高学歴化の編纂」という観点からはデータの正確性が薄れるかもしれませんが、過去の日本の採用形態が新卒か、あるいは就職浪人をしても1年か2年くらいであったと思うので、年齢別の最小単位に3年という幅を持たせることで、この点に対応したつもりです。


<データ1:年齢別最終学歴別実数 ~歪(いびつ)な人口ピラミッド~ >

 まずはパーセンテージなどの調整をしていない、限りなく「生」に近い状態の年齢別最終学歴のグラフです。学歴に目が行く前に、年齢構成の歪さにまず目が行ってしまいます。現在定年退職を迎えているあたりの「団塊の世代」がいかに職員の中で大きな割合を占めているかが分かります。「団塊の世代」より下においては、「団塊ジュニア」と呼ばれる世代の存在も確認できます。「団塊の世代」全員定年退職した後も、この「団塊ジュニア世代」の山がある限り、年齢構成が横一直線にはなりませんが、それでも「団塊世代」の定年により、公務員の年齢構成の歪みがかなり解消されるのではないでしょうか。「23~25」歳の世代がかなり少ない点にも目が行きますが、これは院卒が含まれ得なかったり、公務員になる前に民間で働いている人がいたり、受験浪人・留年・就職浪人を一度もしたことがない人間しかこの枠に入れないという事情があるからでしょう。数年後にはこの世代の人数も恐らく他の世代並みに増えていると思います。
 次に学歴に注目して見ましょう。個人的に意外だったのはかなり年配の世代にも大学卒業者が多くいることです。もちろんこれは「実際の人数」なので、母体集団(この場合はその世代の合計人数)の数が多ければ「割合的に」少なくともその数は多くなるのですが、高学歴化と言っていても、実は組織の中で定年退職世代と若手世代の大学卒業者の人数が同じくらいというのは驚きました。


<データ2:年齢別最終学歴割合 ~奢れる大卒者もそのうち久しからず?~ >


 このグラフは「世代ごとにおける最終学歴の割合」を示しています。一般に「公務員の高学歴化」を示すグラフとも言えるでしょう。高校卒業者の減少と大学卒業者の増加をはっきりと示しています。2009年度現在においては国立大学事務職員の採用条件に「大学卒業程度の学力保持者」が挙げられているので、数年後には「若い世代における」高校卒業者の割合は完全にゼロになるでしょう。しかし、高校卒業者であっても民間企業経験などを経て採用にいたる職員さんなどもいるとは思うので、組織全体の中にあっては、今後も一定数の高校卒業者が存在するのではないかなと思っています。大学卒業者の割合は完全に右肩上がり(グラフ的には左肩あがりですが)で、もっとも若い世代ではほぼ100%に近い数値となっています。ここで注目しなければならないのは、大学院卒業者の増加傾向です。今でこそまだその数と割合も少ないですが、増加傾向、つまり係線の傾きに注目すると、大学院卒業者の割合は大学卒業者の割合と同じ角度を持っているのです(一見するとグラフの左端でガクッと割合が落ちていますが、これは就業開始年齢の起因するものです。今回の調査では修士修了者も博士修了者も大学院卒業者として扱っているので、大学院卒業者の割合は大体27~30歳あたりから始まると思ってください)。
 個人的には今後、学歴構成のあり方は高校卒業者がほぼ0%となり、変わりに大学卒業者が大半を占めるようになった数年後に、大学院卒業者の増加に伴い、大学卒業者の割合が減っていくと予想します。ちなみにこれは国立大学事務職員の場合のみです。国家公務委員全体で考えると国家公務員採用試験Ⅲ種が存在するので、高校卒業者は一定の割合を保ち、残りのパイを徐々に大学院卒業者が取るようになるという構図になるのではないかと思っています。


<データ3:相対的学歴指数 ~実は高学歴化していない公務員~>
 データ2で見る限り明らかに高学歴化している公務員ですが、ここで一つ注意しなくてはならない点があります。まずは下のグラフをご覧下さい。

 これは大学進学率と、データ2の各年代における大学卒業者の割合を並べたグラフです。大学進学率の方がサンプル数が多いので緩やかな曲線を描きますが、明らかにこの二つは相関関係を持っています。それを端的に示したのが下のグラフです。

 これはデータ2の大学卒業者割合を大学進学率で割って100を掛けた数字です。公務員における大学卒業者数がその年代の大学進学率と完全に一致するなら数字は100の値で横一直線になります。別の言い方をするなら、もし公務員の最終学歴をその年代の人口における最終学歴に完全に反映させるなら、値は100で平均させなければなりません。グラフでの値が100を超えているということは、公務員になる人間がその年代の内の高学歴なグループから多く採用されていることを示しています。俗な言い方をすれば高学歴な方が公務員になりやすいということを、さらに詳しく言えば「大学卒業者の公務員へのなりやすさ」を示す値が上のグラフです。
 これらを踏まえた上で上のグラフを見ます。すると確かに大学進学率を上回る勢いで公務員における大学卒業者割合が増えていることがわかります(もし大学進学率と公務員における大学卒業者割合が比例するばあい、このグラフは横一直線になるはずです)が、その勢いはわずかに右肩上がりである程度のものであることが見て取れます(団塊世代より一つ上の世代における大卒偏重の傾向も目を見張るものがありますが、それは今回は割愛します)。要するに、確かに公務員は高学歴化してきましたが、社会全体も高学歴化しているため、「その当時毎の感覚として」は公務員は実はそんなに高学歴化していないのではないか、というのが自分の推論です。言い方を変えれば、公務員になるのはいつの世代でもその世代の内の学力が上位数十%の人間であり、公務員になる人間の「知能指数」が上がっているという訳ではないという意味において、公務員は高学歴化していないのではないか、ということです。
 このあたりは社会学とかを専攻していないので結構ツッコミどころが満載な推論かもしれませんし、「そもそも高学歴とはなんぞ」という問題提起が必要になりそうなのでこのあたりで切ります。まぁとにかく、データを調べている内にふと大学進学率との関係が気になったので調べてグラフにしてみたら結構面白いものになった、という程度のことと捉えてください。


<データ4:学校歴の高偏差値化>
 さて、ここまで進んできてかなり初歩的な指摘ですが、「学歴」と「学校歴」は違います。このあたりに関しては過去に書いた「学歴、学校歴についてを参照して欲しいのですが、要約すると「大卒」と「高卒」が「学歴」の違いで、「東大」と「どっかそこらへんの大学」の違いが「学校歴」の違いです。今回のエントリーにおける「学歴」は全て上記における「学歴」を示しています。だから前章でも「高学歴化はしているけど公務員になる人の頭が良くなった訳じゃないんじゃない?」と言っている訳です。そんな推論をたった数行先で吹き飛ばすのもなんですが、実は今回は学校歴に関してもおまけ程度に調査をしてみました。まずは下のグラフをご覧下さい。

 このグラフでは「高学歴」の指標として、学部の学力偏差値を平均すると大体その値が60以上となる大学を「高学歴大学」として任意にピックアップしました(旧帝7大学と有名私立大学、その他いくつかの総合大学と捉えてください)。そして最終学歴が大学卒業である者の内、その「出身大学」が「高学歴大学」である者の割合を示したのが上のグラフです。
 結論から言って凄まじく分かりやすい感じに公務員は「高学校歴化」しています。学歴偏差値の高い大学を卒業したことを「頭の良さ」の基準にするなら、公務員はもの凄い勢いで頭が良くなっている訳です。
 もちろんここでもデータ3の時のような注意点が必要となります。つまり、「このグラフが右肩上がりであるのは、単に自分が選んだ大学の入試定員数が増加しているだけではないのか」という点です。この点に関してはデータ収集がやっかいというか面倒くさかったのでやっていないのですが、それでもこのグラフの勢いで東大やそれに連なるいわゆる「有名大学」が入試定員を増やしたという話は聞きません。ので、この点を考慮しても、公務員の出身大学は高偏差値化していると言えそうです。
 「公務員になるためには良い大学に入るのが近道だ」なんて高度経済成長期の日本のようです。感覚的には「学歴に囚われないで職員を採用する」のが最近の風潮だと思っていたのに、データを調べるとまるっきり違う結果が出てしまいました。サンプルの取り方に偏りがあった可能性はありますが、ここまでハッキリと出るとは思いませんでした。


■おわりに
 結論として、国立大学事務職員をサンプルとして推測される国家公務員並びに公務員全般の「学歴」は、本来の意味での「学歴」と通俗的な意味での「学歴(つまり学校歴)」ともに「高学歴化」している、と言えそうです(データ3が示すような注意点はありますが)。
 ただ気をつけてもらいたいのが、今回のエントリーで調べたデータの統計的な正確性と信憑性、あるいは信頼性です。はっきりいって今回のエントリーで出したグラフなんぞは人事院が示す資料の100分の1も信頼できないものとお考えください。収集したデータを意図的に加工した訳ではありませんが、とある国立大学事務職員が一人で、それも手作業で集めたデータの信憑性なぞは朝のテレビの占い程度のものだと思います。
 特にこれから国立大学事務職員や公務員を目指す方々にとって、今回のエントリーの内容はいたずらに不安をあおる内容となってしまったかも知れない点、エントリを書き終えた現在、やや反省しております。公務員になれるのは良い大学に通う人間のみではありませんし、高校卒業の資格しかないからといって公務員になれない訳ではありません。その点お気をつけの上、今回のエントリーは多くの資料の内の一つであることをご留意ください。

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