国立大学職員日記
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国立大学職員日記:記事一覧




■はじめに
 国立大学における旅費計算について、以前に「国立大学における旅費について」というエントリーを作成いたしましたが、今回はその中の、特に「支度料」にスポットを当ててエントリーを作成してみました。
 「どうして支度料なんかについてエントリーを作成するの?」という疑問があるかと思います。発端となったのは以前に騒がれた「公務員の支度料」に関する各種の報道です。個人的な印象としては「公務員には海外出張する度にスーツ代が支給されるらしいぞ!」てなノリで「さっさと無くせ!」という結論しか報じられなかったお粗末なものだったのですが、現場で実際にこれを支給する立場としてはもう少し存続派の意見もあって良いだろうと思い、いろいろと調べて書いてみました。
 なお、当時のニュースの記録などを見ると「廃止」という文言が多く見受けられるのですが、とりあえず旅費法上はまだ規定があります。またネットで記事を探すと「旅費業務に関する標準マニュアル」で持って支給に一定の歯止めはかけられているようなのですが、文面を読む限り最終的に支給するかしないかの判断は旅行命令権者によるようなので、各省庁や機関で実際にどのように運営されているのかは明らかになっていません。

■そもそも「支度料」は必要なのか?
 自分が考える「支度料」の存在根拠として、真っ先に思いつくのが「パスポート等に関する費用への充当」です(パスポート自体は10年物でも取得にかかる費用は2万円未満なので、「パスポート取得だけのため」では到底「支度料」の存在は肯定できません。あくまでパスポートは「海外出張にかかる諸経費」の一例と考えてください)。海外出張であれば当然にパスポート取得の手続きをしなければならず、「海外出張を命じておきながらパスポート費用を大学が負担しない」のはさすがに問題があるため、どうしても「交通費」や「日当」などの他に、こういった「海外出張への諸経費に対する手当」が必要になる余地があります。また、パスポートの他に、例えば海外の学会で発表を行うに際して、各種の資料や機材を国内から海外へ運搬する手続きがあったりもします。こういう手続きは「金額がかかる」のもそうですが、それ以上に「手間がかかる」ものであり、そのような出費や労務に対する措置として、「金銭を支給する」という方向性は、それ自体は誤りではないと思っています。
 「必要経費への充当」という意味では「旅行雑費」が存在するため、「支度料」そのものの存在は必要ないのではないか、という意見もあるかと思います。これについて、「旅行雑費」と「支度料」の最大の違いは「実費支給」であるか「定額支給」であるか、の点にあるのではないかと、個人的には考えています。「旅行雑費」に関する詳しい規程を探したところ、北海道大学の旅費規則に規定を見つけることができました。それによると、「旅行雑費」は「旅行者の予防注射料,旅券の交付手数料及び査証手数料,外貨交換手数料並びに入出国税等の実費額」に支給されるとあります。このような費用は、例えば「A教授が平成23年10月1日にアメリカの○○学会に出席するために要した費用」といった具合に位置づけることが可能で、その実費額も領収書などによって厳密に金額を計算することが可能です。一方で、例えば「B教授が海外での学会発表に備えて用意しておいた機材」や「C教授が急な海外からの招聘に備えて準備しておいたパスポートや各種税関対策の証明書類」は、仮にそれが役に立つことがあったとしても、必ずしもある具体的な海外出張のために要した費用とは断言できず、またその金額についても不明瞭となる部分が多くなると思います。このような「厳密な線引きができないが、しかし全体として必要となってくる諸準備」に対しては、「実費支給」ではなく「定額支給」でもって対応する、という方針は、それ自体はあっても良いと考えます。

■今後の議論における提案
 個人的に考える「支度料」の存在意義などは上記のとおりですが、これに関しては各機関や報道機関単位で異なる意見もあるでしょうから、ここで特に結論付けるつもりはありません。しかし、「支度料」が注目されるたびに単なる公務員叩きの道具として利用されるのも何なので、この章では上記を踏まえて、「支度料」に関する議論については今後次のような手順を踏むことを提案いたします。

1.国立大学(あるいは国家公務員)の「支度料」についてはそれ単独での議論はせずに、あくまで「旅費」の中における「海外出張への諸経費」に対する「定額支給で対応するのが適当と思われる部分に対する手当」と理解する。
2.そのため、「支度料」に関する議論は、(1)「海外出張への諸経費に対する手当が必要であるか」(2)「実費支給部分と定額支給部分に分ける必要があるか」(3)「定額支給部分が必要だとして、その金額と支給方法は妥当であるか」の順に検討する。

 個人的には、上記(3)について、特に「支度料」に関する規定が置かれた当時の時代背景を考慮する必要があると思います。海外旅行が非常に高額で、とても庶民には手が届かなかった時代とは変わり、現在は年間に1500万人以上が海外旅行をする時代です。当然、海外旅行にかかる費用も安くなっていると考えるべきで、この点から「支給額の見直し」はあってしかるべきだと考えます。
 しかし、それ以外の部分については、「支度料」の必要性を認めることも可能だと思います。特に「実費部分」と「定額部分」に関する役割分担は、「旅費」の「交通費」の部分においても採用しているやり方ですし、現場レベルで国立大学の教員の出張業務に関与している身分からしても、二種類のやり方でもって海外出張への諸経費を処理するのは、公平性と業務の簡略化の均衡を考慮しているやり方だと思います。

■「支度料」の再定義について
 また、「支度料の定義」そのものも検討しなおす必要があると思います。
 国家公務員の「支度料」がどうしてこんなに騒がれたかというと、そもそも手当の存在意義が「海外出張時の品位を整えるためにスーツケースや背広の準備をするための手当」と理解されたからだと思います。このような理解は、旅費法制定時における立法者意思に基づくようなのですが、まずそのような事実が本当に存在するのかしっかり確認する必要があるはずです。
 また、仮に立法者意思を確認できる資料があったとしても、そのことを踏まえた上で「現在」における「支度料」の役割や使い道を確認し、その定義を再検討することが必要だと思います。こう考えるのも、そもそも何のために「旅費」を支給するのか、ということが(少なくとも自分にとっては)非常に重要だからです。
 「旅費は安ければ安いほど税金の節約になって良い」と考えるのであれば、立法者意思が「支度料は洒落た背広の準備代」と分かった時点で廃止して良いと思います。しかし、もし旅費を「国立大学における高等教育及び学術研究を推進するために、特にその出張業務に対し使われる費用」と捉えるのであれば、「支度料が支給することによって生まれる効果」を考慮することなく、この手当を廃止するべきではないと考えます。
 もっとも、このあたりの考え方は人によると思います。法令やルールの内容を「解釈」する場合に、自分は「仮に立法者意思がどうであったとしても、それが規定を解釈する唯一のものではない」と考えますが、人によっては「法令の規定は立法者意思にそって理解されるべきである」と考える人もいます。実際、それは一つの有効な考え方ですし、時にはそのような考え方が重要となってくる場面もあると思います。詳しくは法律における「立法者意思説・法律意思説」あたりのお話になるかと思うのでここでは割愛します。

■結論
 とにかく自分としては、国立大学教員の円滑な業務遂行のためには「支度料」は現在においても有益なものであり、確かに「公費の適切な使用」という観点を考慮して金額に関する見直しは必要かもしれないが、それでも存在そのものはまだ完全に否定すべきではない、と、「立法者意思以外のこともルールの解釈に際し考慮すべきである」とする立場から、考える訳です。
 と、自分の意見を書いたものの、実際「支度料」は廃止になる方向で進んでいるんでしょうか?法律で廃止が決まれば何を言ったところで無意味なんですが、まぁ議論の肥やしに反対意見も少しくらいあって良いと思うので、上記のとおりに文書を残しておこうと思います。

コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )


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コメント
 
 
 
支度料の廃止論議について (FLYING_TO-JO-)
2011-09-05 00:52:52
私が勤務する国立大学では,平成20年(2008年)に「支度料」が廃止されました。

理由は旅費規則の大幅改定の一貫として事務の簡素化・合理化を推進するためとなっています。
(日当における甲地方,乙地方区分や職級別区分も統一されたりと簡素になりました)

うちの場合は海外に出張する先生が少ないので,特に異論も出ませんでしたが,総合大学で世界各地に出張なさる先生方にとってはまだ支度料の意義は大きいと思います。


「海外旅行は安くなった・・・なのに多額の支度料をもらっているのはけしからん」という話を耳にします。
日本に馴染み深い国へ行くならそうかもしれません。


しかし先生方が行くのは観光スポットではありません。チリの険しい山脈に天文台を設置する調査に行ってみたり,日本には馴染みのないアフリカ諸国の教育事情の調査などにいったりするのです。

感染症予防の予防注射など防疫体制を整えたり,先方との連絡・準備などには意外と通信費用がかかります。こういった費用を賄うのが「支度料」の役割ではないでしょうか。

ですから安易な考えで支度料を廃止することには慎重であるべきと私も考えます。
あくまで先生方が海外に実地踏査をされる時に必要な費用は,きっちり賄うという前提で考えていくべきでしょう。
 
 
 
Unknown (gucci replica)
2016-07-21 15:07:06
と、自分の意見を書いたものの、実際「支度料」は廃止になる方向で進んでいるんでしょうか?法律で廃止が決まれば何を言ったところで無意味なんですが、まぁ議論の肥やしに反対意見も少しくらいあって良いと思うので、上記のとおりに文書を残しておこうと思います。
 
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