国立大学職員日記
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■はじめに
 国立大学における非常勤職員の雇い止めの問題は新聞やインターネットの記事などのマスメディアに加えて、現場サイドでもよく話題となる問題です。現にこれまで「国立大学事務側」「国立大学研究者側」「非常勤職員側」「労働組合側」「労働政策に関する有識者側」「文部科学省側」と様々な立場の方が、現状肯定、現状否定、立法にての改革等々、様々な意見を述べてきたのを耳にしました。
 今回のエントリーは「どの立場のどの意見が正しい」と訴えるものではありません。ただ末端の事務職員が触れた「国立大学における非常勤職員の雇用期間」に関することの情報と、個人的な考えをつぶやく程度のものです。この先、非常勤職員の雇用期間が長くなるにしろ短くなるにしろ、このエントリーがそのような動きを決める上での一助となれば幸いです。

■雇用期限に関する事務処理・事務手続きについて
 国立大学側は、まず就業規則上に非常勤職員の雇用期限を明記しています。非常勤職員の雇用期限の上限は「3年」が多いようです。旧帝大の就業規則を探したところ、九州大学のパートタイム職員就業規則に「通算の雇用期間は、3年を限度とする。」という分かりやすい規定がありました(例外規定もありますが)。
 また「雇用期限」とはまた違ったものですが、多くの大学では契約期間は「1事業年度の範囲で」とか「契約開始日からその年度の最後の日まで」とされています。これは要するに「採用日から3月31日まで」ということです。そのため、例えば平成20年12月1日付けで採用された非常勤職員は平成21年3月31日で一度契約が終了し、その後1年間の契約を2回更新して、最後は平成23年4月1日から平成23年11月30日までの契約がなされます。単純に「3年の雇用期間」でも、このように「4つの契約」からなる場合が多いわけです。雇用期間を3月31日で区切る理由は恐らく会計における単年度決算の影響だろうと思われます。
 就業規則における一般的な雇用期間の定めに加えて、国立大学においては「労働条件通知文書」においてより具体的な雇用期間の定めがなされます。つまり就業規則では「雇用期間は3年を上限とする」といったルールの概要が書かれ、労働条件通知文書では「労働期間は平成20年12月1日から平成21年3月31日までとする。契約の更新は可能だが、平成23年11月30日を越えないものとする」などと、具体的な日付が非常勤職員に対して通知されることになる訳です。労働条件通知文書はその契約ごとに作成されますので、非常勤職員は採用日と、それ以後の4月1日ごとに労働条件通知文書を受け取ることになります。上記の例だと平成23年4月1日付けの労働条件通知文書で「契約規範は平成23年4月1日から平成23年11月30日までとする。契約期間の更新はしない」などと書かれ、「今年で3年目だからもう更新はしないよ」と非常勤職員に通知されるのです。

■雇用期間は本当に「3年」で終了するのか?
 前述したように、国立大学における非常勤職員の雇い止めの問題はあちこちの記事で読みますが、「雇用期間は本当に厳守されているのか」という問いかけはあまり耳にしません。あるとしても、せいぜい各国立大学の労働組合が提言の中で触れるくらいです。小見出しには「3年」と書きましたが、この数字は「就業規則における雇用期間の上限年数」と捉えてください(以下の文章でも同様)。つまり上記問いかけは「雇用期間が就業規則の範囲を超えて更新されることは全く無いのか?」という意味です。
 結論から言うと、雇用期間が「3年」を超えることはあまり珍しいことではありません。「3年を超えて雇用して良いのか」という問題がまずありますが、そもそも就業規則の雇用期間に関する条項に「3年を超える場合が有りうる」旨を最初から記載している大学が多いのです。
 ざっと探したところ、「北海道大学契約職員就業規則」と「大阪大学非常勤職員(定時勤務職員)就業規則」にその規定を認めることができました。両大学は「雇用期間は3年を超えないものとする」という規定の中に、「大学が特に必要と認める場合を除き」という文言をいれており、場合によっては「3年」を超えて雇用を更新するということをあらかじめ明記しているのです。
 北大と阪大を含め、各大学が「どのような場合に」「どのような事務処理で」「どのくらいの割合で」雇用延長を認めているのかさすがにデータがありませんが、自分の大学では「3年」の期間を超えて雇用の更新をしたい場合には部局から大学本部の職員採用担当の長に向けて申立書を送ることになっています。「3年」の範囲内での更新であれば部局長の権限で手続きが行え、その申請書もテンプレートに沿って作成すれば済みます。これに対して「3年」を超える場合は「3年」を超えて雇用する非常勤職員一人一人の申立書を作成し、それぞれを大学本部に送付して許可を受ける必要があるなど、事務手続きとしてはかなり煩雑なものとなっています。また申立書の内容も各非正規職員一人一人の実情をしっかり説明する必要があり、テンプレートに沿って作成すれば済む「3年」の範囲内の更新とは作成にかかる手間が一回り違います。
 上申書が提出されれば必ず期間の延長が認められるという訳ではないようですが、自分の部局では大学本部に上申書が提出されて雇用期間の延長が認められなかった例はほとんどありません。時には大学本部から「この上申書のここのところをもう少し詳細に書いてね」と言われるくらいなので、「大学が特に必要と認める場合」というよりかは、「部局が『大学が特に必要と認めるに足る根拠となる文書』を作成して大学本部に提出すれば」雇用期間の延長がなされるのだと理解しています。
 このような上申書を用いた雇用期間の延長は、それが雇用期間が延長される非常勤職員にとって有益なものであることは認めざると得ませんが、上申書の提出がなされなかった職員との整合性なども考慮に入れ、延長を認める判断基準などを事前にしっかりと策定して明示するか、明示しなくとも大学本部と部局の長の間くらいではしっかりと意思統一しておく必要があると、個人的に考えています。そうしないと、「今の現状」、つまり「出された上申書がなんだかんだ言ってほとんど全て認められている今の現状」に歯止めがかからずに、雇用期限に関する条項の存在が骨抜きになってしまうからです。「条項が骨抜きになれば非常勤職員が長く勤められることになって良いじゃないか」という意見もあるかと思いますし、実際そのようなメリットも否定しがたいとは感じます。しかし条項が骨抜きになってしまうと、今度は条項を遵守して「3年」で更新を止められた非常勤職員が相対的に不利益を被っていることになりますし、条項の形骸化によって一つ一つの非常勤職員の更新の停止の成否に疑義が生じかねない状況(いわゆる「雇い止め」の問題が生じやすくなってしまう状況)も考えられます。ゆえに、条項が骨抜きになることで結果として非常勤職員にメリットが生じることになるかも知れませんが、本来そのようなメリットは「そのようなメリットを生むように手続きを改定すること」によって生じさせるべきであり、基本原則の例外規定を冗長に使い続ける方法は懸念事項が多く、手段として不適切であると考えるわけです。

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■雇用期間の延長を認めない国立大学もある
 「東京大学短時間勤務有期雇用教職員就業規則」には北大や阪大のような例外規定を探すことができませんでした。単に就業規則上に規定が無いだけで実際は雇用延長をしているのかなとも思ったのですが、このページを読む限り規定に則って厳格に雇用延長を認めていないようです。このような運営の是非はともかく、「雇用期間の延長は認めない」というはっきりとした基準を持っている点に関しては個人的に評価したいなと思いました。
 しかしその反面、国立大学における様々な形態の非常勤職員の雇用期間に関して「明確な基準」を求めようとするとどうしてもこのような「シンプルであるが故に例外を認めず、結果として非常勤職員に不利益感を与えかねない結果」となる可能性もあるのだなと思いました。東京大学は更新が4回まで認められているようで、最大で「5年」まで雇用期間が確保される点では他の国立大学に比べて決して非常勤職員の保護が薄い訳ではないのです。にも関わらず非常勤職員側から反対の声が上がっていることを考えると、雇用期間の設定は「非常勤職員に有益なもの」を目指すと同時に、「非常勤職員に『不利益感』を与えないもの」を目指す必要もあるのかもしれません。次に述べることは非常勤職員の方をひどく馬鹿にした物言いになってしまうかもしれませんが、「雇用期間は5年を上限にして延長を認めない」という規定よりも、「雇用期間は3年を上限にするが、必要と認められる場合はさらに2年を限度雇用期間の延長を認める」という規定の方が反発は少ないのかもしれない、ということがありうるという話です。「朝三暮四」という故事を思い出すような話ですが、朝に三つもらっていたドングリを四つに増やしたは良いが、暮れのドングリは四つから三つになっていたということが無いように、労働組合側などの職員さんは制度全体を視野に入れて団体交渉に当たるのがよろしいかと思います。

■国立大学はなぜ雇用期間を制限したがるのか?
 「末端事務職員には大学の意向など知る由もないのでそんなこと聞かれても分かりません」と答えたいところなんですがそうもいきません。この問いに対する一番簡潔な回答は、恐らく「非常勤職員の『常勤職員化』を防止するため」でしょう。「常勤職員化」にもいろいろあると思いますが、とりあえずここでは「常勤職員化」を「有期雇用職員から無期雇用職員になること」に絞って考えていきたいと思います。
 この点についてはよく議論されるのは、いわゆる「雇い止めの問題」です。「雇い止め」とは簡単に言うと「有期雇用契約者の契約更新をしないこと」を指します。この問題は特に、複数回に渡って契約の更新がなされてきた有期雇用労働者が、会社から更新を拒絶された時に更新の拒絶は不当であるとして裁判で争う形で顕在化するようです。上記でははっきりと「無期雇用職員になること」と書きましたが、「雇い止めが不当」だからといって即時に「有期雇用職員が無期雇用職員になる」という訳ではない、というのが裁判所の判断のようです。が、少なくとも「有期雇用職員のクビが切りにくくなる」というのは確かなようなので、国立大学はこの点を懸念している訳です。「なぜ有期雇用職員(つまり非常勤職員)のクビが切りにくくなると国立大学は嫌がるのか」という問いがあるかと思います。この問いはなにも国立大学に限らず、広く非常勤職員を雇っている企業全般にも共通する問いかけかと思うので、詳しくはその手の書物やら新聞で各自お調べいただきたいと思いますが、このあたりも簡単に言うと「非常勤職員という『雇用の調整弁』が機能不全を起こすことを懸念している」のだと思います。そのような意味では「国立大学における非常勤職員の雇い止めの問題」というのは昨今の経済状況や国立大学の法人化とそれに伴う運営費交付金の削減等、割と最近の諸問題を背景にして発生している問題なのかもしれません。

■「雇い止め」をめぐる現状と問題点
 現状の「3年」とか「5年」のように、雇用期間に上限を設けることが即「雇い止めの問題」につながる訳ではありません。この点について特に、国立大学側はかなりしっかりと対策を講じています。対策というのは例えば、「就業規則にあらかじめ雇用期間の上限を明記すること」であったり、「労働条件通知文書において更新を停止する年度の初めに非常勤職員にこれ以上の更新はしないことを通知すること」であったり、「契約の更新をする場合には一度契約をしっかりと終了させ、改めて採用の手続きを取るなど、手続きを形骸化させない措置を取っていること」などです。
 反面、「雇い止めの問題が生じうる要因が全く無い」とも言い切れないのが現状でしょう。上で述べたように、雇用期限を就業規則で規定しつつも、例外規定の適用によって雇用期限の規定が形骸化することが要因の一つの例です。またこの手の問題の判例を調べると、「業務内容」も雇い止めを判断する場合の材料となりえるようで、特にこの点については事務サイドからのコントロールを離れての研究室などでの実態が調査されるため、事務サイドや文部科学省サイドでは懸念が大きいところなのではないだろうかと個人的に思っています。というのも、「研究室にいる技術系の非常勤職員が常勤職員の教員に混じって研究活動をしている」なんて話は、量は多くないにせよ、あったとしてもさほど珍しいことではないからです。これは非常勤職員から常勤職員の教員に採用される人もいることを考えると一概に批難したり、事務サイドから「そのような業務を行わせるのを止めさせてくれ」と簡単に言えるものでもないと思います。また次のようなパターンも考えられます。例えばある研究室の教授が非常勤職員の採用時に「最初は非常勤として採用するけど、雇用期限が過ぎる4年目からは常勤職員として採用してあげるからね」と約束をして、常勤職員となんら変わらない業務に「3年」間従事させたけどやっぱり常勤職員に採用することができなかった、という場合です。こんなことが起こってしまうと、非常勤職員側としては例え就業規則に規定があったとしても、契約更新の拒絶はかなり不当なものとなってしまう訳で、仮に裁判となって国立大学側が勝訴したとしても大学側の道義的な責任は免れ得ないこととなってしまいます。
 この例はあくまで例えであり、教員の方々からすれば「我々がそんな軽率な口約束をすると思っているのか!」とお怒りになられるかもしれません。しかし事務サイドや文部科学省サイドとしては、「そういうことが起こるかもしれない」ということだけで、就業規則を厳格なものとする充分な動機となりうるのです。同じ機関にいながら、こういう事務サイドと教員サイドの不信感は(もし仮にあるとするなら)嫌だなと思うのですが、日々末端事務業務を行う上で、こういう教員側の「制度上はこうなっているけどこれでは満足な研究ができないからこうしてくれ」という圧力と、事務側の「それでは問題が生じうる余地がある。何か起こったときに尻拭いをするのは我々なんだぞ」という圧力が同時に存在する状態はたまに感じることがあります(で、板挟みとなる研究科長と事務長、あるいは担当の係長が苦しんだりする)。非常勤職員の更新期限の問題でも、労働組合などとは別に、研究者側から規定の改正を求める声が上がっていると聞きますので、この手の軋轢は少なからず存在しているのではないかと思います。実際、事務で雇っている非常勤職員が「3年」を超えて雇用延長する例は、研究室の場合と比べて明らかに少ないです。このあたりの現象に、非常勤職員の雇用期間に関する事務サイドと教員サイドの考え方の違いが見て取れるのではないでしょうか。
 すこし話がずれましたが、事務サイドとしてはこのように、「非常勤職員の雇用終了に関して生じうる問題」を未然に防ごうとするために規程や手続きを厳格なものにしようとする方向に傾きやすい訳です。雇用期間の上限をあまり長いものとしない措置もそのような方向性の一つの現れだと思ってください。個人的にこのような問題の解決は、もちろん現場から声を上げることも重要であると思いますが、最終的には教員サイドのトップでもあり事務サイドのトップでもある「学長」の「裁量的判断」で決するのが良いと思います。そしてその際に重要なのは必ずしも「何か改革的なことを行うこと」ではなく、「我が大学は非常勤職員の雇用期間についてこう考えている」ということを明らかにすることにあると、個人的に思っています。要は現状維持でも良いわけです。現状維持でも良いですが、「現在の制度設計の根拠を明らかにする」という点だけは一歩進めてほしいのです。逆に例え制度改革をするにしても「なんとなく教員側の要望が強いから」では困る訳です。必要なものは「議論のたたき台となりうるもの」だと思います。「最終的に結果をどうする」ということも大事でしょうが、国立大学はもう少しその決定プロセスに個々の職員(この場合は非常勤職員も含め)が意見を伝える場を組み入れてほしいと思います。例え結果が落ち込むことになっても、「決定に関与できた」と感じられれば一定の満足感を伴うものなのですから。

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■現場からみた極めてミクロな問題
 ここで述べることはひどく個人的な懸念です。「制度全体に影響を及ぼすほどでもないけど、こういう小さな事情もあるのではないかな」と思ったので、記しておきます。

 非常勤職員の雇用期限が「3年」である現状にはコインの裏表のようにメリットとデメリットがあります。そのメリットの内の、極めてミクロなものの一つが「事務側常勤職員の異動パターンとの一致」です。各国立大学やそれぞれの職員によって差はあるかと思いますが、大体事務の常勤職員は2年から3年(長くて4年)くらいのスパンで異動を繰り返します。非常勤職員が「3年」で雇用上限を迎えるということは、係などにおける非常勤職員が「3年」を目途に入れ替わるということであり、事務側の常勤職員からしてみると新陳代謝の期間が一致するので違和感を覚えにくい訳です。これが教員側にとってみるとデメリットになります。教員側では常勤職員(つまり教授など)が10年以上同じ研究室にいることがざらにあります。そのため教員にしてみれば、非常勤職員がたったの「3年」で居なくなってしまうことには違和感を覚えやすい訳です。また、かつて公務員であった時代では事務側には非常勤職員はほとんどいなかった一方で、研究室などでは当時においてもその講座の事務を行う非常勤職員を長年雇っていたという習慣が存在します。事務側にしてみると非常勤職員とは最近新設された職種であって、その雇用期間が短くても「元々そういう風に設定されたものだから」という理由でこれを受け入れやすいのに対して、教員側では「元々はそのようなものでは無かった」ということになって、ここでも雇用期間の年数や、そもそも上限を設けること自体に対しても認識に差が生じるわけです。

 別な問題として、異動が2年から3年くらいのスパンで行われる事務側常勤職員にとって、同じ場所で事務業務を何年も行っている事務の非常勤職員は例外的な存在になる、というものがあります。これは「異動を繰り返す事務職員側の事情」が「異動をしない事務の非常勤職員」には通用しないことになります。具体的には、例えば出張の事務処理なんかは部局によって僅かな差が生じたりします。それは旅費の精算方法の事務手続きの違いであったり、各部局においてどこまでを「業務」と認めて出張命令とするかという問題であったり様々です。このような業務の中核となる部分は、就業規則や、あるいは出張の場合は国家公務員に適用される「旅費法」などを参照して部局間においても意思統一をしています。あるいは事務処理を行う常勤職員が部局間を異動することが、自然にある程度の統一性を保持する結果を生みます。このような中で、その部局特有の出張の処理なども存在します。それは係が細分化していたりするために他の部局ではどこかの係が一手に引き受けている業務を、その部局では二つの係に分けて行っていたりとか、医療系研究者における研究活動が人文科学系研究者における研究活動と違うために、出張命令の幅が異なるとか、これも様々にあります。事務側の常勤職員は部局間を渡り歩くので、当然に「部局間で統一された部分」に強い一方、部局で長年事務を行っている非常勤職員は「その部局特有の事務」に強いことになります。これもどっちが「正しい」かを判断するのが非常に難しいことになります。常勤職員側が「この手の事務処理は就業規則や旅費法に則ってこう処理するのが適切である」と思っても、非常勤職員側は「この手の事務処理は長年このように処理してきた」という風に、意見が分かれる場合があります。時には「10年前の教授会でこう処理することに決定している」というような場合があり、事務側常勤職員としては「その教授会の決定はそもそも旅費法に違反していないのか?あるいは10年前のその決定はいまでも有効なのか?」と、いろいろと頭を悩ましたりします。このようなものは「問題」と解するのではなく、「性質の違う者同士が相互に足りない部分を補完しあう関係」と理解したほうが良いのかも知れませんが、気をつけていないと軋轢を生む原因にもなりかねないので常勤職員も非常勤職員も注意が必要かと思います。

 最後に、非常勤職員の業務内容と賃金水準の問題です。非常勤職員の業務内容は、研究分野や事務分野などによって種類はいろいろあるものの、原則として常勤職員の補助業務という色合いが濃くなります。事務側においては、かつて新卒の正規職員が最初の数年で行っていた割と簡易な事務処理を、最近は非常勤職員が行うようになっています。研究者側ではそこそこの専門知識が必要とされる業務も行っているようですが、基本的にそれらはある特定の研究の下調べだとか実験の補助など、割とルーティン業務であるようです。しかし、事務と研究の違いに関わらず、簡易な仕事やルーティン業務を長年行うとより応用の利いた仕事やより責任がある仕事をしたくなる、あるいはそのような仕事を任されるようになるという場合が少なくありません。「ルーティン業務が好き」とか「責任ある仕事はちょっと…」という職員さんもいますが(「夫の収入を補うためにパートをやっています」という非常勤職員さんとかに多いです)、特に昨今は「本当は常勤職員としてどこかで働きたいのだけれども、勤め口がないから今は非常勤職員をしています」という非常勤職員さんも多いので、限られた期間で多くの業務を習得しようとする人は珍しくないのです。国立大学側としても、より高度な業務や違う種類の事務処理をしてくれるというのであれば大変に助かるわけですが、ここに国立大学側にひとつのジレンマが発生します。それは業務内容と賃金の関係です。全国一律というわけでもないと思いますが、非常勤職員の給与というものは(研究職の例外を除けば)大体が事務の新卒(4年制大学卒業者)の3年目から4年目くらいの給与水準を上限に停止してしまいます。そのため、例え本人が希望したとしても、非常勤職員に高度で責任ある業務を任せると、そのような業務を行わせているにもかかわらず給与水準が低いままであるという、完全な違法とは言えないかもしれませんが「好ましくない状況」が生じてしまいます。この問題は例え本人が「給与水準は低くても良い」と了承していても応じることができないという、なかなかやっかいなものです。応じることができない理由として、業務とは法律的には企業側から労働者への「命令」と理解されるので、仮に労働者側の承諾があったとしても、労基法とか労基署から見ると「国立大学が安い賃金で労働者に分不相応な業務をさせている」と理解されてしまうこと、などが挙げられると思います。要するに職務をより高度なものにするのであれば、賃金水準も上げるのが「全うな処置」な訳ですが、予算から見ても賃金水準を上げることができず職務も高度化させることができないという、何かおかしな因果関係が出来上がっているのです。このような国立大学の処置はある意味で非常勤職員の権利を重視しているから行われているわけです。そうでないなら低い賃金水準のまま常勤職員並みの業務に非常勤職員にバンバン従事させることも可能なわけですから。しかしその一方で、非常勤職員の権利を重視したゆえに非常勤職員の賃金水準が上がらないというのは、ある意味ストレートに権利侵害するより複雑な状況だと思います。また、非常勤職員の業務を簡易的なものとし続けることは上記の雇い止めの問題とも関連してきます。「業務内容」も雇い止めの際の判断基準となることを踏まえれば、雇い止めの問題を生じないように配慮する国立大学側は、「業務が簡素なものであることを、非常勤職員が有期雇用であることの根拠にしやす」くなるのです。もうこのあたりの話は「いたちごっこ」か「タマゴが先かニワトリが先か」の話だと思います。原因が結果を生み、その結果がまた原因を補強するという循環です。この循環が良いか悪いかは別として、こういう構造が存在しうる点について、機会があれば大学本部の職員さんや非常勤職員さんの意見も聞いてみたいなと思います。

■おわりに
 えらく長くなってしまいましたが、末端の事務職員ですらこのくらいの疑問を感じていることを持って、この問題がなかなかにやっかいなものであることと理解していただきたいと思います。
 文中において語尾に言い切りの形を多用しましたが、本当は全ての語尾に「~だと思います」を付け加えたいくらい、このエントリーは自分の独断と偏見で構成されています。勉強不足か考察不足で間違っていることも含まれているかと思いますが、そのような誤解を生じさせている環境であることも踏まえて、国立大学における非常勤職員の雇用期間の問題を捉えてください。
 本当は「無期雇用より有期雇用であった方が採用を促進するのではないか」とかの問題を、過去のフランスの解雇自由化法案の内容と絡めて書きたかったんですが、下手すると卒業論文より時間がかかりそうなので諦めました。つくづく、「働く」ってことを考えるのは難しいことなんだなと、痛感した思いです。


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