国立大学職員日記
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■雇用期間の延長を認めない国立大学もある
 「東京大学短時間勤務有期雇用教職員就業規則」には北大や阪大のような例外規定を探すことができませんでした。単に就業規則上に規定が無いだけで実際は雇用延長をしているのかなとも思ったのですが、このページを読む限り規定に則って厳格に雇用延長を認めていないようです。このような運営の是非はともかく、「雇用期間の延長は認めない」というはっきりとした基準を持っている点に関しては個人的に評価したいなと思いました。
 しかしその反面、国立大学における様々な形態の非常勤職員の雇用期間に関して「明確な基準」を求めようとするとどうしてもこのような「シンプルであるが故に例外を認めず、結果として非常勤職員に不利益感を与えかねない結果」となる可能性もあるのだなと思いました。東京大学は更新が4回まで認められているようで、最大で「5年」まで雇用期間が確保される点では他の国立大学に比べて決して非常勤職員の保護が薄い訳ではないのです。にも関わらず非常勤職員側から反対の声が上がっていることを考えると、雇用期間の設定は「非常勤職員に有益なもの」を目指すと同時に、「非常勤職員に『不利益感』を与えないもの」を目指す必要もあるのかもしれません。次に述べることは非常勤職員の方をひどく馬鹿にした物言いになってしまうかもしれませんが、「雇用期間は5年を上限にして延長を認めない」という規定よりも、「雇用期間は3年を上限にするが、必要と認められる場合はさらに2年を限度雇用期間の延長を認める」という規定の方が反発は少ないのかもしれない、ということがありうるという話です。「朝三暮四」という故事を思い出すような話ですが、朝に三つもらっていたドングリを四つに増やしたは良いが、暮れのドングリは四つから三つになっていたということが無いように、労働組合側などの職員さんは制度全体を視野に入れて団体交渉に当たるのがよろしいかと思います。

■国立大学はなぜ雇用期間を制限したがるのか?
 「末端事務職員には大学の意向など知る由もないのでそんなこと聞かれても分かりません」と答えたいところなんですがそうもいきません。この問いに対する一番簡潔な回答は、恐らく「非常勤職員の『常勤職員化』を防止するため」でしょう。「常勤職員化」にもいろいろあると思いますが、とりあえずここでは「常勤職員化」を「有期雇用職員から無期雇用職員になること」に絞って考えていきたいと思います。
 この点についてはよく議論されるのは、いわゆる「雇い止めの問題」です。「雇い止め」とは簡単に言うと「有期雇用契約者の契約更新をしないこと」を指します。この問題は特に、複数回に渡って契約の更新がなされてきた有期雇用労働者が、会社から更新を拒絶された時に更新の拒絶は不当であるとして裁判で争う形で顕在化するようです。上記でははっきりと「無期雇用職員になること」と書きましたが、「雇い止めが不当」だからといって即時に「有期雇用職員が無期雇用職員になる」という訳ではない、というのが裁判所の判断のようです。が、少なくとも「有期雇用職員のクビが切りにくくなる」というのは確かなようなので、国立大学はこの点を懸念している訳です。「なぜ有期雇用職員(つまり非常勤職員)のクビが切りにくくなると国立大学は嫌がるのか」という問いがあるかと思います。この問いはなにも国立大学に限らず、広く非常勤職員を雇っている企業全般にも共通する問いかけかと思うので、詳しくはその手の書物やら新聞で各自お調べいただきたいと思いますが、このあたりも簡単に言うと「非常勤職員という『雇用の調整弁』が機能不全を起こすことを懸念している」のだと思います。そのような意味では「国立大学における非常勤職員の雇い止めの問題」というのは昨今の経済状況や国立大学の法人化とそれに伴う運営費交付金の削減等、割と最近の諸問題を背景にして発生している問題なのかもしれません。

■「雇い止め」をめぐる現状と問題点
 現状の「3年」とか「5年」のように、雇用期間に上限を設けることが即「雇い止めの問題」につながる訳ではありません。この点について特に、国立大学側はかなりしっかりと対策を講じています。対策というのは例えば、「就業規則にあらかじめ雇用期間の上限を明記すること」であったり、「労働条件通知文書において更新を停止する年度の初めに非常勤職員にこれ以上の更新はしないことを通知すること」であったり、「契約の更新をする場合には一度契約をしっかりと終了させ、改めて採用の手続きを取るなど、手続きを形骸化させない措置を取っていること」などです。
 反面、「雇い止めの問題が生じうる要因が全く無い」とも言い切れないのが現状でしょう。上で述べたように、雇用期限を就業規則で規定しつつも、例外規定の適用によって雇用期限の規定が形骸化することが要因の一つの例です。またこの手の問題の判例を調べると、「業務内容」も雇い止めを判断する場合の材料となりえるようで、特にこの点については事務サイドからのコントロールを離れての研究室などでの実態が調査されるため、事務サイドや文部科学省サイドでは懸念が大きいところなのではないだろうかと個人的に思っています。というのも、「研究室にいる技術系の非常勤職員が常勤職員の教員に混じって研究活動をしている」なんて話は、量は多くないにせよ、あったとしてもさほど珍しいことではないからです。これは非常勤職員から常勤職員の教員に採用される人もいることを考えると一概に批難したり、事務サイドから「そのような業務を行わせるのを止めさせてくれ」と簡単に言えるものでもないと思います。また次のようなパターンも考えられます。例えばある研究室の教授が非常勤職員の採用時に「最初は非常勤として採用するけど、雇用期限が過ぎる4年目からは常勤職員として採用してあげるからね」と約束をして、常勤職員となんら変わらない業務に「3年」間従事させたけどやっぱり常勤職員に採用することができなかった、という場合です。こんなことが起こってしまうと、非常勤職員側としては例え就業規則に規定があったとしても、契約更新の拒絶はかなり不当なものとなってしまう訳で、仮に裁判となって国立大学側が勝訴したとしても大学側の道義的な責任は免れ得ないこととなってしまいます。
 この例はあくまで例えであり、教員の方々からすれば「我々がそんな軽率な口約束をすると思っているのか!」とお怒りになられるかもしれません。しかし事務サイドや文部科学省サイドとしては、「そういうことが起こるかもしれない」ということだけで、就業規則を厳格なものとする充分な動機となりうるのです。同じ機関にいながら、こういう事務サイドと教員サイドの不信感は(もし仮にあるとするなら)嫌だなと思うのですが、日々末端事務業務を行う上で、こういう教員側の「制度上はこうなっているけどこれでは満足な研究ができないからこうしてくれ」という圧力と、事務側の「それでは問題が生じうる余地がある。何か起こったときに尻拭いをするのは我々なんだぞ」という圧力が同時に存在する状態はたまに感じることがあります(で、板挟みとなる研究科長と事務長、あるいは担当の係長が苦しんだりする)。非常勤職員の更新期限の問題でも、労働組合などとは別に、研究者側から規定の改正を求める声が上がっていると聞きますので、この手の軋轢は少なからず存在しているのではないかと思います。実際、事務で雇っている非常勤職員が「3年」を超えて雇用延長する例は、研究室の場合と比べて明らかに少ないです。このあたりの現象に、非常勤職員の雇用期間に関する事務サイドと教員サイドの考え方の違いが見て取れるのではないでしょうか。
 すこし話がずれましたが、事務サイドとしてはこのように、「非常勤職員の雇用終了に関して生じうる問題」を未然に防ごうとするために規程や手続きを厳格なものにしようとする方向に傾きやすい訳です。雇用期間の上限をあまり長いものとしない措置もそのような方向性の一つの現れだと思ってください。個人的にこのような問題の解決は、もちろん現場から声を上げることも重要であると思いますが、最終的には教員サイドのトップでもあり事務サイドのトップでもある「学長」の「裁量的判断」で決するのが良いと思います。そしてその際に重要なのは必ずしも「何か改革的なことを行うこと」ではなく、「我が大学は非常勤職員の雇用期間についてこう考えている」ということを明らかにすることにあると、個人的に思っています。要は現状維持でも良いわけです。現状維持でも良いですが、「現在の制度設計の根拠を明らかにする」という点だけは一歩進めてほしいのです。逆に例え制度改革をするにしても「なんとなく教員側の要望が強いから」では困る訳です。必要なものは「議論のたたき台となりうるもの」だと思います。「最終的に結果をどうする」ということも大事でしょうが、国立大学はもう少しその決定プロセスに個々の職員(この場合は非常勤職員も含め)が意見を伝える場を組み入れてほしいと思います。例え結果が落ち込むことになっても、「決定に関与できた」と感じられれば一定の満足感を伴うものなのですから。

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コメント
 
 
 
求人が減少することはやめて (ウラン)
2015-12-20 13:21:04
3年が雇用期間の限度なのに、いつまでも長く居座っている人はたくさんいます。
でも、そういう場合、事務処理能力が、新しく採用した人の方が優れている場合が多いです。
やはり、3年以上になると、なあなあになってしまい、正職員でもないのに、妙な癒着が起こる可能性は多いです。
それに、ただでさえ、公共機関の求人が減ると、景気も悪くなる元です。
そういう元凶を、国家が暗黙しているのはどうかなと思います。
 
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