波佐見の狆

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Cantores CDその(2) ' Twilight’

2007-09-05 08:46:21 | Harry Sever

 

その(1)の記事をまだ読んでいない方は、

ぜひそちらから先にお読みください。

では2枚目‘Twilight’についてお話ししましょう。

Strawberries & CreamとTwilightは、Harryのソロのトラックはなくて、あくまでアンサンブルの中でharmoniseしながら彼の声の特質が生かされるようになっているということ、そして、映画音楽とポップス路線だということで、共通していると言いましたが、このTwilightには決定的な違いがあるのです。

それは、こちらは昨年8月、すなわちHarryの変声が始まった直後に録音されたということです。

Twilightには別の声の持ち主となったHarryがいます。それは1曲目からすぐにわかってしまうほど明らかな変化です。しかも、テナーになりかけの低い声と元のソプラノが共存し、低くなったり高くなったり安定しない状態であることは否めません。しかしです・・・ここがHarry Severという人のすごいところなのですが・・・・そのような状況がハンディとはなっておらず、むしろこの変異する状態を、人生のうちで1度しかない「面白い」時だと捉え、うまく利用するようにして、なかなかの芸達者ぶりを聴かせてくれているのです。

メンバーと担当パートはStrawberriesと全く同じなので省略します。

Track list:

1. Reach for the Stars    S Club 7, arr. Sever  **
2. Penny Lane    McCartney, arr. Keen  **
3. Hide and Seek    Heap, arr. Burnham  **
4. Hallelujah     Cohen. Arr. Woods *
5. Title of the Song    Da Vinci’s Notebook  *
6. I will   Lennon/McCartney    arr. Burnham 
7. Girl     Lennon/McCartney    arr. Keen
8. You raise me up    Graham/Levland   arr. Woods  *
9. Fix you     Martin, arr. Burnham  ** 
10. Grease Megamix     Jacobs/Casey.  arr. Sever  ***
11. Again     Cochran, arr. Newman
12. As time goes by     Hupfeld, arr. Gilchrist
13. Blue Orchids     Camichael, arr. Simpson
14. Starship      various, arr. Cantabile   *
15. Twilight      Kellogg, arr. Koschat

2006  Diamond Records   DRCD029

 1. Reach for the Stars  

 イギリスの男女混合ダンスボーカルグループ S Club 7の曲で、「いろんな願いがうまくいかなくてくじけそうになっても、絶対にあきらめないで。僕がいつも励ましてあげるから。過去は振り向かないで。君のゴールは空なんだ。もっと高い山に登って星に向かって手を伸ばしてごらん・・」といった超前向きソング(→YouTube)。

まず、When the world leave you feeling blue, you can count on me・・とテナーから入りますが、すぐ全員が加わり、Reach for the starsに続くClimb every mountain higher、さらに2回目、3回目のReach for the starsに続くFollow your heart desireというところとWhen that rainbow’s shinning over youというところに耳を澄ましてみてください。これが変声したHarryの第一声です。 Strawberries における声と比べると、なるほど低くなったなあと感じますね。あと、Fly away, swim the ocean blue / Drive that open road, leave the past behind you..とテナーとの掛け合いでかなり強く聴こえてきます。

それにしても、音の高低はともかくも、歌唱力という観点から聴いていると、このオリジナルのヴォーカルと比べて、Harryのほうがいかに技術的に優れているかよくわかります。これまで培ってきたしっかりしたクラシックの基礎がありますから、変声しようがポップス路線になろうが何の不安もなしという感じですね。

 2.Penny Lane

Strawberries でも紹介した千葉の英語の先生のページに、歌詞・訳詩と、この曲が生まれたバックグラウンド等について、大変詳しい話が書いてあります。「動画」というところをクリックするとYouTubeにリンクします。Penny Laneなんて久々に聴きましたが、ちょうど40年前に作曲されたものとは思えないほど、新鮮な感じがします。さて、Cantoresバージョンで、注目は、Harryによる管楽器(トランペットですよね?)の模倣、パパパパパーン!でです。実に明るく元気ではないですか。こんなふうに遊びの要素を加味することはクラシックのみやっていたころは、思いつきもしなかったでしょうね。

 3. Hide and Seek

イギリスの女性歌手Imogen Heapの曲(→YouTube)。彼女の独特の世界についてはAmazonのカスタマーレビューなどにも書いてありますが、「かくれんぼ」という意味のこの曲も、人間の声をヴォコーダー(vocoder)というソフトで処理して意図的に電子的に聞こえるようにし、不思議な雰囲気を作っているようです。 オリジナルがこのようにきわめて個性的なので、大変やりにくい曲だと思いますが、電子音処理ではないナチュラルな人間の声のコーラスで全体的にとても上手くまとめられていています。リードをとっているDominicのカウンターテナーも美しい。

最初、Where are we? What the hell is going on?のコーラスにつづいて、Harryの繊細な(The dust has only just) begun to form / Crop circles in the carpet...が聞こえ、後のほうでも随所でかなりHarryの歌声が際立って聴こえてきます。このトラックでの彼の歌う声は、1と比べると、かなり高いほうに逆戻りしています。その一方で、しゃべるようにMm, that you only meant well?というところなどはやはり1と同じくらい低いようです。

最後、You don't care a bitと小さめにテナー陣が繰り返し、HarryのHide and seekが何度か高く大きく入りますが、このseekの微妙なビブラートがいいですね~。


5. Title of the Song

アメリカのアカペラグループDa Vinci’s Notebookの曲 →YouTube)。基本的に、Cantores Episcopiは、楽器伴奏付のグループの歌とかあるいはソロ歌手の歌とかを、アカペラ用に編曲して歌っているわけですが、この曲に限っては、オリジナルにほぼ忠実のようですね。アカペラを本職とする大人のグループにも負けないくらい上手だと思います。

8. You raise me up

多くの歌手が歌っているので、皆さんもよくご存知と思いますが・・・ここで残念なのは、テナーの1人、Mattの声がふらついていて(もちろん、変声とは何の関係もありません)、聞き苦しい部分があることです。この点については、Judyさんからも前もって伺っていたのですが・・・この頃彼はいろいろあったようで・・・Strawberries では惚れ惚れするテナーを聴かせてくれていたのに・・・。

ともかく、全体のハーモニーと、それからHarryのスキャットだけ楽しんでください。 余談ですが、テナーのソロでのYou raise me upとして私が一番好きなのは、Aledが’Higher’の中で歌っているものです。

9. Fix you

イギリスの超メジャーロックグループColdplayの名曲。HarryはBCMインタビューで、レッチリなどと並んで好きなグループとして名前を挙げていたことから推測すると、彼がぜひこれを歌いたかったのではないかと思います。バンドのリーダーでキーボードとヴォーカルのChris Martinが、父を亡くして悲しむ妻を励ますために作った歌だとのことです。YouTubeでオリジナルを聴いてみると、このCDでリードをとっているDominicとChrisは声が結構似ていますね(Chrisの声も高いので)...でも、歌唱力の点ではやはりDomのほうが上ですが。

Fix you とはどういう意味でしょうか。この他動詞にはいろんな意味がありますが(「固定する」「修理する」等)、このように人間が目的語というのは私は初めて見ました。辞書で人が目的語の場合を調べると、「復習する」とか「懲らしめる」とか物騒な意味ばかりですね・・・(それも米口語で)。しかし、ここでは悲嘆にくれる愛する人に向かって言っているのですから、君を修理してあげよう、すなわち癒してあげよう、苦しみを軽くしノーマルな状態に戻してあげよう、という意味だと解釈するしかないでしょう。

Lights will guide you home / And ignite your bones / And I will try to fix you. というところから、Harryの声がぐんと大きく入り、優しくFix you!と呼びかけるように歌うところは包容力すら感じさせ、またワーオ、ワーオというスキャットも素敵(オリジナルでは、ギターが加わって重厚に盛り上がる箇所)。

10. Grease Megamix

John Travolta とOlivia Newton-Johnのコンビで大成功を収めたミュージカル’グリース’の挿入曲の中から’You’re the one that I want’、’Greased lightnin’, ‘Summer nights’の3曲を1つにつないでミキシングし直し、初演から20周年目の記念として1998年にシングルとしてリリースされたものです(→YouTube)。  
 
Harryは、オリビアが演じたSandyのパートを全面的に歌っており、私も*印を3つもつけてしまったように、Twilightの中でも一番の聴きどころとなっています。ここで、Harryの声は高さがめまぐるしいほどアップダウンしており、変声中であることを強く実感させられます。

Well this car is automatic, it's systematic, it's hydromatic, Why it's greased lightnin'! というMatt(トラボルタのDannyの役)の台詞に続いて入るコーラスの中で、Keep talkin’ / whoah keep talkin’I’ll get the money. / I’ll kill to get the money こういうところは「ドスを利かせた」?!と言っていいほどの低さで、続く ‘You better shape up/ 'cause I need a man / and my heart is set on you./ You better shape up; / you better understand / to my heart I must be trueではだんだん上がってきてYou're the one that I want, o,o, oo, honeyではアルト。If you're filled / with affection / you're too shy to convey / meditate in my direction / Feel your way.では再び下がる・・・・ 

ずっとSandyのパートに耳を澄ましていると、さすがにきつそうだと思えるところがあります...。それでも、この記事の冒頭で「芸達者な面を見せている」と書いたように、私には、特に無理して歌っているとは思えないのです。変声が始まったけどレコーディングの日程は決っているからなんとか切り抜けよう、というぎりぎりの状態というのではなく、むしろ不安定な声を操りながら、クラシックにはなかったjazzyな歌い方を自ら楽しみ、それはHarryの新たな職人芸の芽生えとなっているように思います。Dannyの‘I met a girl crazy for me’に続いて’I met a boy cute as can be’ というところなんて、cuteで意図的に声をひっくり返し「すっごくかっこいい~~い男の子に出会ったわ」と、まるで台詞のような効果を出していますが、こんな遊び心は、余裕の表れでしょう.

                                          

実はJudyさんは、変声期の録音を流通させることについてはきわめて慎重で、私に、「まずあなたが聴いてみて、どう思うか聞かせてください。あなたの感想次第では、日本の皆さんに紹介するのはStrawberries の方だけにしようかと。」とまでおっしゃったのです。ですが、当の本人(Harryのこと)は、こっちもとってもいいよ~と言っているとのことで、それから考えても、いかに楽しくレコーディングしたかが想像できます(なにせ、プラス思考の標本みたいな人ですからね・・・)そういう意味で、またしてもHarryの型破りさにしてやられた!といってもいいくらいです。

ここでブログの字数制限オーバー直前のため、購入方法についてはまた別の記事にします。このすぐ下に入れますので、引き続きお読みください