「ベーシック駈歩」レッスンに出るようになって、1か月。
前の記事 に書いたように、最初のレッスンは予想以上に上手くいき、何周もスイスイ駈歩できて、90分間ずっと満面の笑顔でした。先生からもほめられっぱなし。
しかし、やはりというか、毎回そういうわけにはいきません。。。。さっそく、いろんな課題が出てきて、あたふたしてしまい、満面笑顔する余裕なし。。。
ともかく練習を積むしかありません!
さて、今日は、お道具編といきますか。
「拍車」について、お話ししましょう。
そうです、物事の進行をさらに加速させる、という意味で日常よく使われる、「拍車をかける」という慣用句の語源となった道具です。
私の拍車です。
この、金属の突起部分(矢印)がポイント。上の青い部分は皮のベルトです。
このように、ブーツに結び付け、突起がかかとに来るようしっかり取り付けます。
この突起を、馬の腹に押し当てることにより、馬に、「もっと速く走って!」とか「もっと歩幅を大きく!」などという、指示(「扶助」といいます)を出すことができるのです。
基本的に、止まっている馬を発進させるには、両足のふくらはぎを、馬の腹に押し当て圧迫します(「脚」を使う、と言います)。そしてそのまま、ふくらはぎを腹に密着させておくと、ある程度は進み続けますが、馬も、乗り手から何らかの更なる扶助がないと、すぐさぼろうとするので、まもなくペースが落ちて止まったりします。そこで、拍車を腹にクイッ、クイッと、当てることによって、馬に注意を促し(刺激を与え)「もっと!!」と命令するわけです。
あるいは、常歩(なみあし)、軽速歩(けいはやあし)、駈歩のいずれの歩様の場合においてもですが、進み続けてはいても、だらだらと続けているだけの場合もありますから、拍車を効果的に使うことにより、動きをさらに元気にし、スピードを上げることができます。
なお、比喩的な表現では、拍車を「かける」といいますが・・・「○○の発展に拍車がかかった」など、物事について言うからでしょうね。乗馬では、生き物が相手なので、拍車を「使う」とか「当てる」と言っています。
ランダムハウス英語辞典に、動詞 spurの例文として、spur a horse (on) to jump over the fenceとあり、その訳が「 馬に拍車をかけて塀を飛び越えさせる.」と書いてありますが、変です。馬術の現場で「拍車をかけて」とは言わないと思います。障害物を飛び越えるときは強い扶助が必要なので、当然拍車が必要なのですが、「拍車を当てて」とか「拍車を使って」でしょう。
さて、こんな突起を腹に押し当てられて、お馬さんは痛そう、、、と思われるかもしれませんが、痛みを与えるような道具ではありません。先は丸くなっていますし、基本的には、あまり強く押すものではなく、チョイチョイという感じですかね。。。(場合によっては、強めに使ったりもしますが。)
私は、「ベーシック馬場」クラスに上がったころ(つまり、1年前)にやっと、先生に勧められて使い始めたのですが、それまでの2年半、今考えてみれば、よくぞ拍車なしでやっていたなと自分で驚くくらい、拍車の導入によって、馬の操作がずいぶん楽になった感じがしました 。というのは、拍車なしだと、何かを「もっと!!」と命令したいと思っても、かかとを強く押し付けなければ伝わらず、このかかとを押し付けるというのが、ものすごく脚力が要るので、疲れ果てるのです。拍車の突起は、「点」に力が集中するので、かかとだけを使うよりずっと小さい脚力で、馬に刺激が伝わりますから、足が疲れません。「ベーシック馬場」以前に拍車無しで乗っていた馬に今乗ってみると、別馬かというくらい動きがよく、上手になったような気分がします。
こんなに馬のコントロールがやりやすくなる道具なのに、なんでもっと速く先生は勧めてくれなかったのだろう・・・とずっとと思っていたのですが・・・実は、乗り手の上達の度合いにより、拍車を導入する時期が決まるらしいのです。
つまり、初心者のうちは(しかも、へたっぴいは)、拍車をつけても、正しく使えない。拍車を馬の腹に押し付ける。。というとごく簡単に聞こえるかもしれませんが、馬の腹と一口に言っても以外と広いので、当てる箇所とそして当てる角度が問題でして、効果的に当てるのは、簡単ではないのです。特に私は、最初の2年くらいは、いつも足がブラブラして、馬体から離れてしまい、まるで安定しなかったので、そんな状態で拍車を使おうとしても、変なところに当たってしまって、馬に指示が伝わらず、馬を怒らせてしまう恐れすらあったというわけです。それで、やっと2年半くらいの時点で、拍車を使うお許しが出たと・・・ハイ、もちろん、ものすごく遅かったです。
ここで、「拍車」という言葉そのもののについて考えてみます。
拍車は、英語では、名詞・動詞ともに、spur ( / spɚ́ / )と言います。
この単語を、なぜ「拍車」と訳したのだろうと私は不思議に思っていました。なぜ「車」なのか??
そこで思い出したのが、西部劇などで見られる、ブーツのかかとについている小さい歯車のようなもの。これが、ウエスタンスタイルの拍車です。ワイルドな乗り方が醍醐味のウエスタンスタイルの乗馬では、拍車もやっぱり派手??なのですね。これを初めて見た日本人が、「拍車」と訳したのではないでしょうか??
(・・・というのは、あくまで私見というか推論ですけどね。なお、乗馬には、「ブリティッシュ」「ウエスタン」の二つのスタイルがあり、私の乗馬クラブでやっているのはブリティッシュだということを、こちらの記事 で説明しましたね。)
日本人が初めてウエスタンの馬術を見て「歯車」だ!という印象を強くして、英語のspurに「拍車」という日本語を当てたのでは、と仮定すると、それ以前、つまり江戸時代からさかのぼって、戦国時代などでは、拍車を何と呼んでいたのだろう、、、と、気になりました。検索の結果、やはり、戦国時代には拍車を使っていなかったという、ことがわかったのです !これは驚くべき。
「コトバンク 」のサイトに、このような記載が!
「・・・ヨーロッパの中世の騎士はかならず装着し、鉄、金、銀製のものがある。日本では明治以後用いられている。<中略>
安土(あづち) 桃山時代に渡来したポルトガル人は、日本の乗馬具に拍車がないと記している 。江戸時代には拍車の訳名はなく、仮名で「スポール」と記し、明治初期は「刺馬輪」と和訳してある。拍車という文字は明治中期に現れ、現在は馬具としてより、「拍車をかける」という表現のことばとして盛んに使われている。【 日本大百科全書(ニッポニカ)の解説」という部分より、転載しました。】
「拍車」という言葉は明治中期に現れ・・か!やっぱりねえ・・・戦国時代は、脚とムチだけで、あれほど馬を巧みにコントロールしていたということで、日本の武将は本当にすごかったですね。
最後に、とても分かりやすい動画をみつけました。ウエスタンの拍車の実物を見せながら話をしていますが、このように、遠目には鋭いギザギザのようでも、先端は角を丸めてあるので、決して馬体を傷つけることはありません (ギザギザをグサッとやるのだったら、単なる虐待ですからね!)。
VIDEO