前にも書きましたように、わたしは、痛みとかしこりとか自覚症状が皆無だったので、乳がんになっているなんて、夢にも思わなかったわけですが、早期乳がんの場合、痛みがないのが普通らしいです。(乳房にがんができたから、痛くなるというわけではないそうです。痛い場合は、乳腺炎などほかの病気の場合が多い。)
とはいえ、全然痛くもないし、しかも自分では触ってもしこりも感じないのに、手術しなければならない、という感覚は、まことに不思議なものでした。
手術自体は、全身麻酔下なので、意識を失った次の瞬間には目覚めて、すべてが終わっており、痛み止めの薬剤のおかげで、麻酔が切れても傷口の痛みはあまり?ほとんど?感じません。麻酔が切れたらどんなに痛いだろうと想像していたので、意外と楽だなあとびっくりするほどです。
しかしです。乳がんで入院しますと、手術よりむしろ、いや、手術とは比べ物にならないくらい痛い時間があるのですよ・・・。
それは、「センチネルリンパ節生検」という検査のときです!
センチネルリンパ節生検とは、がんの発生している乳房側の脇の下(腋窩<えきか>)にあるリンパ節に、がんが転移していないか調べる検査です。乳がんが、もしこの腋窩リンパ節に転移していれば、これを経由して全身の臓器まで転移する可能性もあるそうで、検査の結果、リンパへの転移が分かった場合は、転移しているリンパ節を除去する手術(腋窩リンパ節郭清<えきかリンパせつかくせい>)を同時に行います。
ちなみに、センチネルリンパ節(sentinel lymph node)とは、「見張り役」とか「監視役」のリンパ節という意味で、センチネルリンパ節は、すべてのリンパ節の入り口に位置しています。なので、まずセンチネルリンパ節だけを調べて、ここにがん細胞がなければ、ほかのリンパ節にはまったく転移していないと判断することができるため、腋窩リンパ節郭清をする必要がないわけです。
全摘にせよ部分切除にせよ、腋窩リンパ節郭清もやらなければならなくなると、腕がむくんだりして、術後も結構辛いらしく、しかも、抗がん剤治療が必要になる場合もでてきますから、センチネルリンパ節生検で、正確な判断をすることが、重要なわけですね。
で、この検査の目的(意義)はいいとして、その方法は衝撃的です!
手術の前日または当日手術開始直後に行われるのですが、乳輪(乳首のとっぺんではないですが、その周囲の茶色い部分ですね)に注射をするもので、手術開始直後であれば、それはつまり麻酔下ですから、痛くないわけですが、前日に行う方法ですと、麻酔はかけないので、激痛を我慢しなければなりません。
前日にやる場合は、RI(radio isotope: 放射性同位元素)法という方法を用い、当日にやる場合、色素法という方法を用い(詳細はこちら)、併用する方法もあり、その選択は、病院や執刀医によりまちまちです。私の入院した病院では、RI法のほうが精度が高いということで、原則こちらを採用していました。
私も、前日の午後にやると決まりました。先生が説明してくれたとき、「これはねえ~脅かしときますけどねえ~マジで痛いですよぉ~」とか言うので、びびりまくりました。
私がRI室の検査台に仰向けになって待っていると、先生が研修医さんを二人連れてやってきて準備し、「では始めますね。2本打ちます。痛いですけど、頑張りますよ~~ 何かに捉まっときますか?」「え・・何に?」と私が言うと、台の左側にいた研修医さんが私の手を握ってくれました。
ぶすっ!
ここまで既に、うぎゃっていう感じだったんですが、「はーい、ここからお薬入りますから、もっと痛いですよ~~」と言われたとたんに、もう、右胸の中で火花がバチバチと炸裂したかのような激痛が!研修医さんの手をぎゅーーっと握り返しながら、体を震わせて泣いてしまいました。2本終わったときには、茫然自失。(痛みの感じ方は、差があるそうです。これは素人の憶測ですけど、胸が貧弱だと、痛みも一層強いんじゃないですかね。)
終わるやいなや、先生は、さっさと研修医さんたちを連れて行ってしまいました。私は、ぽつんと拷問台?!に残され、先生ったら、お疲れ様でした。頑張りましたね~くらい言ってくれよーーとか思いながら、ふらふらになってRI室を出て病室に戻りました。前の記事で力説した通り、本当に優しい先生ですけど、ときたま、このように、結構そっけないときもありましたっけねぇ。
もちろん、翌日、手術の開始時間となり、先生が迎えに来てくれたとき、「昨日は痛かったですね~~大丈夫でしたか?」とか優しくいたわってくれたし、手術だけでなくセンチネルもちゃんと主治医が責任もってやってくれたということに、感謝しています。
肝心の検査の結果はというと・・・リンパへの転移はゼロで、腋窩リンパ節郭清を行う必要はありませんでした!
割合からいえば、手術を受ける患者の3割くらいに転移がみつかるそうですから、私は運がよかったと言えます。
そして、手術から3か月近くが経つ今、傷口には、痛みはありません。ケガしたときの痕みたいな痛痒さもないです。
じゃあ、結局痛みからは解放されたのかといえば、そうではなく、ちょっとした後遺症がありまして、乳房自体に微妙な痛みがあり、以前着ていたユニクロとかの下着は痛くて着れません。これは徐々に落ち着くと先生からも言われていましたし、実際心配するような症状ではないのですが・・手術の前、なんの痛みもなかったのを思うと、ちょっと滅入ることもあるのも正直なところ。先生のおかげで予後良好であることを思えば、これくらい何だ!と自分に言い聞かせています。ホルモン治療が終わるころ・・・つまり2029年ころですねえ・・・には、完治して再発もなく、一切の痛みも嘘のように消えているよう願うばかりです。