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居酒屋さすらい 0777 - 風が吹くとき - 「吉太郎(きちたろう)」(福島市置賜町)

2014-08-29 17:42:25 | 居酒屋さすらい ◆地方版

それは静かな恐怖でした。

福島駅からレンタカーを借り、南相馬に向けて、深い山間を走りました。

飯館村に差し掛かると、もはやすれ違うクルマは皆無になりました。ただ、青いパトライトを点けた自警団のクルマとは何度もすれ違いました。

それだけでホッとしました。なにしろ、全ての者が死に絶えてしまったようにも感じましたし、時間さえ止まっているようにも見えたからです。

 

途中、道に迷い、駐車場のあるお店らしき場所にてクルマを止めました。店舗のガラスに何か貼ってあります。

近づいてみて、そこに書かれている文章を読みました。

「自警団の皆様、お疲れ様です。早くみんなが家に帰れますように」。

 

浪江の県道は通行止めになっていました。

仕方なく、道を迂回するのですが、ここでまたしても道に迷ってしまいました。取材の約束は13時でしたが、すでにその時間を過ぎていました。

やがて、雨が降り始め、次第に雨足は強くなっていきます。人っ子一人いない風景はわたしを焦らせました。

尿意を催し、車外に出ておしっこをしました。雨に打たれながら。この雨が全てを流してしまえばいいのに。

 

南相馬はもっと死の匂いを感じさせる町でした。

主なき建物はどこもかしこも朽ち果てようとしていました。建物は人がいなくなると、急激に朽ちていくというのは本当なのだと思います。

小高地区での取材を終えて、次の取材地、原町地区へ。6号線を行くと、海岸線が未だに震災後、そのままの情況であることに愕然とします。

 

2件目の取材を終えると、もうすっかり日は暮れていました。

福島市に戻る道中、飯館村に灯が点る家は全くありませんでした。家々は確かにあるのですが、そこから生活感のある温もりの灯は漏れてはきません。

時折、青いパトライトを回すクルマが走ります。それはさながら鬼火のように見えました。

 

福島駅に戻ったのは20時に差し掛かろうとする時間でした。わたしは9時間もクルマを運転していたことになります。

悪夢のようなドライブでした。

でも、それは現実でした。いえ、それが現実でした。震災から2年が経ち、東京はすでに震災を過去のものにしつつあります。

わたしの旅は、その過去にしつつある時計を戻すためのものであります。

 

クルマを返却して、わたしは赤ちょうちんの温もりを探しました。

朝から何も食べてはいなかったものの、空腹感はありませんでした。しかしながら、雨に打たれ、長時間の運転をしたことで、わたしはかなり体力を消耗していたはずです。

英気を養わなければ、躰は弱ってしまうでしょう。まだ旅はこれから先長いのです。

そうやって、スーツケースを引きずりながら、盛り場らしき方向へ歩いていると、ちょうどいい温かみのある赤ちょうちんが見つかりました。

ここなら、ゆっくりできそうです。

わたしは「吉太郎」という店の暖簾をくぐりました。

 

カウンターにはすでに常連と思しきひとりの男が座っていました。

わたしもカウンターに腰掛け、生ビールを頼みました。

おつまみは豊富にあるようです。どtれにしようかと、わたしは店内の貼り紙を物色しました。

 

お店はおじさんとおばさんが営んでいました。

黒木のカウンターは年季が入っており、古いお店であることがうかがえます。

わたしは、まず冷えた躰を温めるため、「煮物」をいただくことにしました。

 

カウンターの背後にある棚には、腰にあてる本皮のタバコケースなどが陳列されています。

よく見ると値札が貼ってあり、どうやら売り物のようです。

もし、わたしが今も喫煙者でしたら、きっと欲しくなるようなアイテムです。

何故、このようなものが販売されているのか、店主の男性に聞いてみると、どうやらその男性が手作りで革製品を作っているとのこと。

それは素晴らしい技術でした。

 

「煮物」が出てきました。福島の山河の恵みをいただきます。

味付けは若干濃い。白川関を渡ると味付けは濃くなるようです。
おいしい。はい。とてもおいしい。
山の恵みはあるけれど、海の幸の肴はないようです。

わたしは、相当喉が渇いていたのでしょう。生ビールを2杯もおかわりしました。

隣に座る常連と思しき若い男に話しかけると、彼は常連ではないといいうます。彼は昨日福島に入り、明日からこの福島に赴任するという警察官でした。なんとなく、意気投合し、わたしが日本酒を飲み始めると、彼も同様にお酒を飲み始めました。
肴はお店のお母さんが勝手に出してくれています。田舎料理の数々を。

若き警察官の話しは面白かったです。
わたしがこんな質問をしました。「何故、パトカーはクラウンばかりなのか」。
わたしは、高級車を受注して警察は無駄遣いばかりしているとにらんでいました。彼の答えは、パトカーへの構造変更はかなりコストがかかり、それを嫌った自動車メーカーは入札をしないようになったといいます。しかも、このクラウンも排気量を1800ccのエンジンに積み替えているとのことです。つまり、ボアダウンしていると。
この話がもし本当だとすると、トヨタとしてもクラウンでなければ採算が合わないということなのでしょうか。

ついつい、話し込んでしまいました。
気が付けば、時計は22時近くになっています。
わたしは今夜中に次の目的地の近くに行っていなければなりません。

福島では未だに13万人もの人々が避難生活を余儀なくされています。
そして、政府は今、原子力発電所を再稼働しようとしています。
「世界で最も厳しい日本の原発安全基準」のもとに。

わたしたちはジムとヒルダです。
物語を読む読者ではありません。
国家とは一体なんなのでしょうか。

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2 コメント

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世界で最も厳しい安全基準 (ふらいんぐふりーまん)
2014-09-04 10:18:34
 世界で最も厳しい安全基準なんて、どでかい自然災害の前では、さして役に立たないということは、先の震災による原発事故で十分にわかった事だと思うんだけど、人は自分にもらえるお金や利得(既得権益)の前では、それらの事を忘れてでも、利益を守ろうとしてしまう生き物なんだなあと強く思うよ。

 そんなこと書いてる俺も、当事者であればそうなるのかもしれないし、未だに電気を今まで通り使っている身であることを考えると、事実その当事者で既得権益を守っているとも言える。

 でも、既得権益を守るために大切な事に目をつぶるようなことはしたくないから、俺ができる何かをしたいと思うよ。
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Unknown (熊猫)
2014-09-04 13:40:04
まさに電力モンスターシステムだよ。
そして被災地は、復興ドクトリンだ。
この構造は簡単には崩壊しない厚い岩盤だ。

誰もが、多かれ少なかれ、既得権を持っている。
システムはもはや手段ではなく、目的だ。

あらゆるものから腐臭がするよ。
返信する

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