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金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

(注)文字サイズ変更が左下にあります。

白銀の翼(辻斬り)32

2011-05-08 10:15:31 | Weblog
 新宿署に置かれた「辻斬り」捜査本部を統括する管理官は徳岡警視。
彼は現場上がりの管理官が多い中では唯一のキャリア組。
自分には浅い捜査経験しかない事を自覚していたので、
捜査に無闇な口出しはせず、古参の篠沢警部の助言を頼りとしていた。
組織の階段を上がらねばならぬキャリア組としては、当然の人材活用術。
人を見る目さえ確かなら出世は約束されたようなもの。
捜査が停滞、ないしは失敗すれば全てを篠沢警部の責とすれば済む話し。
どう転ぼうと彼には擦り傷一つ付かない。
 代わって実質的な指揮を執っていた篠沢警部は、
そんな自分の置かれた立場を楽しんでいた。
現場上がりのくせに、
実績ではなく組織内政治力で管理官となった者ほど嫌なものはない。
何のかのと口煩く指図してくるのだ。
それが的を射ていれば良いのだが、たいていの場合は浅慮からくる思いつき。
現場が四苦八苦するばかり。
徳岡管理官は自分達の意見を吸い上げ、上手く活用してくれる。
だから、ほとんど泊まりの毎日だが、仕事が楽しい。
 篠沢は現場の座敷で一人離れて携帯をかけていた。
相手は徳岡管理官。
板橋の事件を辻斬りの仕業と断定し、合同捜査とする事を進言した。
「早々にウチで引き取りましょう」と。
徳岡に否はない。
 座敷に目を転じると、みんなの目が加藤に注がれていた。
相手にしている老人は小野田精密(株)顧問、小野田晃一郎。
傍目にも何やら胡散臭さがあった。
 確認の為に携帯で曙橋分室資料班が監修をしている裏データーに接続した。
勿論、アイウエオ順に整理されている人物バンクで、分類は経済人。
携帯向けであるので読み易いように簡略化されていた。
 それによると、「総会屋タイプとの付き合いは淡いが、
大学での同窓であった御厨康浩と親しい縁から、
御厨が会長である広域暴力団『桐生会』と個人的に接触あり。
どす黒くはないが、濃い親密振りで、要注意の一人」と。
 携帯向けのデーターでも充分に疑問符の付く人物ではないか。
帰庁したら庁内端末で接続して、より深いデーターを拝まねばならない。
 たぶん加藤は、そうとは知らずに追い込んでいるのだろう。
質問が熱を帯びてきた。
 相対する老人は開き直ったのか、貝のように口を閉じた。
警察との対峙を辞さぬつもりらしい。
 篠沢は二人の傍に歩み寄った。
老人に聞かせる為に加藤に言う。
「この件もウチで引き取る事にした。辻斬りの合同捜査本部でだ。
板橋署からも捜査員を借りて聞き込み範囲を拡大する」
 加藤が上司の意を汲み取った。
「顧問が非協力的なので小野田精密社内に聞き込みしたいのですが」
「構わん、取引先にも手を広げて良いぞ」
 青ざめたのは老人。
「巫山戯たことを言うな。これは会社とは無関係だ」
 反論しようとする加藤を制し、篠沢は老人を睨む。
「無関係かどうかは私達が判断する」
「何をー、上に抗議する」
 おそらく本社所在地の所轄署とは仲が良いのだろう。
幾人か天下りを受け入れているのかも知れない。
涙を流したり、怒鳴ったり、威嚇したりと忙しい老人だ。
こういうのを、「煮ても焼いても喰えない」と言うのだろう。
 篠沢は断言した。
「これは殺人事件の捜査で、経済の事案とは違う。
どこからも誰からも横槍は許さない」
 居合わせた捜査員達が大きく頷いた。
みんにの胸の内に響いたらしい。
 対する老人の意気消沈は明らか。
それでも篠沢から目を離さない。
 篠沢は加藤に質問を続けるように目で促した。

 さっそく加藤は質問を再開した。
「どうやら刀が原因のようですね。辻斬りと刀の関係を窺いましょうか」
 佐川の部屋から見つかった木箱に白鞘一振りなら収められる。
丁度良い大きさとも言える。
 老人は渋々といった調子で答えた。
「北尾から『風神の剣』という刀が持ち込まれた。
長い事、行方不明だったという妖刀だ。本物かどうかまでは分からんがね。
長い付き合いだったから買う事にした。原因と思えるのはそれしかない」
 同僚の一人が白鞘三振りを二人の間に運んできた。
 加藤はその三振りを指し示した。
「どれが『風神の剣』なのですか」
 老人は一振り一振り吟味してから、そのうちの一振りを加藤に手渡した。
「これだ」と無愛想。
 加藤は鑑識眼とは無縁の者。
傍に立っていた篠沢警部に預け、老人に向き直った。
「残りの二振りは」
「比較対称の為に持ってきた」
 加藤は質問の狙いを変えた。
「斬られた二人を雇ったのは、北尾が斬られた後ですよね」
 身元が判明すれば、その周辺に捜査員を飛ばして調べさせる。
そうすれば直ぐにも分かる。
「次の日だ」
「どこから雇ったのですか」
「古い友人に頼み込んだ」
「それは誰ですか」
 言い淀む老人。
 傍で妖刀の鯉口を切り、中途半端に抜いて刃紋を見ていた篠沢が言う。
「桐生会の御厨」
 途端に老人の肩が落ちた。
 篠沢の情報通振りには、いつも驚かされる。
何時どこで入手しているのだろう。
 篠沢が続けた。
「図星か、そうか。
小野田さん、貴方は事件以降の夜の外出は控えているね」
 無言で頷く老人。
「ここを訪れようとアポを取ったのは何時かな」
「・・・五日ほど前」
「もしかすると、・・・辻斬りを誘った。
刀を売ると見せて、この邸に入るところを狙わせようと。
その為に二振りの刀を比較対称として持ち、二人の用心棒を引き連れた。
そうか、そうか。
二人だけでなく、桐生会の者達も駆け付ける手筈か」
 老人は全ての視線を避けようとソッポを向いた。
 篠沢が板橋署の捜査員達を振り向いた。
「この近辺に桐生会の者達が待機している。
おそらくは車。
パトカーの配備が早かったので逃げる間を失い、今も車内に籠もっている筈だ。
辻斬りの手配とは別に彼等を見つけ、職質しろ。
辻斬り用に武器を持っているに違いない」
 まだ合同捜査本部扱いではないが、
板橋署の捜査員達は放たれた猟犬のように散って行く。
 篠沢の追求は止まらない。
「誘いは相手に伝わらなければ何にもならないが、・・・、
つまりは、自分の近くで盗聴器を見つけたという事か。
小野田さん説明がなければ、家宅捜査にご協力を願いますよ」
 老人に逆らう力は残っていなかった。
「会社の儂の部屋だ」
 加藤も思い当たった。
「辻斬りの手筈が良いのは、
盗聴器で事前に相手の行動を知っていたからだとすると、
西木や北尾の周辺にも有るのですね」
「そうだろう。もう一度家宅捜索して盗聴器を探す必要がある。
表に出ているのは辻斬り一人だが、大掛かりな複数犯だと見て、
こちらも陣容を改めよう」
 突然、桟敷の片隅に居た野上邦男が立ち上がった。
老人を睨み付ける。
「そんな事の為にウチに来たのか。
おまけよ、予想に反して表門ではなく、この庭先とは、・・・。
舐められたもんだな、この野上家は。
小野田さん、アンタとの付き合いもこれまでだ」と爆発する。




読書疲れには漫喫と思い、近場の店に寄りました。
男の大人向けの漫画は大方読んでいるので、足を向けたのは女性コーナー。
そこで目についたのが『天は赤い河のほとり』。
題名に惹かれて手にしてしました。 
読んで見ると、これが面白い。
紀元前のヒッタイトにタイムスリップした少女の物語。
これまで読んでいた男向けとは違い、新鮮な味わい。
良いですね。
全28巻。何とか今月中には完読します。




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白銀の翼(辻斬り)31

2011-05-06 21:49:30 | Weblog
 百合子の手助けで離れ座敷に上がった毬子は、みんなに合流した。
百合子の両親に兄、使用人三人、それに客の老人が片隅で一塊となっていた。
場は心なしか寒い空気が漂い、先行きを憂いていた。
それはそうだろう。
普通の人というものは、こういう荒々しい事件現場には滅多には居合わせない。
 二人が合流しただけというのに、みんなは活気を取り戻した。
 母親の綾子が娘の百合子と毬子を、ひとし抱き寄せた。
「よかった」
 その様子に父親の邦男と、兄の裕也が相好を崩した。
親子だけに表情が可笑しいくらいに似ていた。
「立ってるのはキツイ」と毬子は腰を下ろして、後ろの柱を背もたれにした。
気遣う綾子に、「初めての真剣勝負で疲れただけです」と。
 そんな毬子の脳内に風が吹いた。
何者かが断りもなく接触をしてきた。
手探りで調べ物でもしているかのような感触。
 ヒイラギが対抗して存在を露わにした。
「この気配、・・・サクラか」
 そう言われると確かにサクラのような気配。
しかし、サクラは烏鷺神社の神域に縛られ、勝手に出歩けなかった筈では。
 それを見透かしたようなサクラの声。
「私のような高貴な霊は身動きが取れなくても、触手は伸ばせるのよ。
このようにね。
ただし江戸の内側限定よ。
あぁ、そうそう、厳密には、ここは板橋だから江戸の外なんだよね」
「だからといって人の頭を勝手に調べないでよ」と毬子。
「悪い、悪い」と口では言うが、反省しているとは思えない。
サクラは続けた。
「アンタの危機だと知って駆け付けたのよ。何か力になれないものかってね」
「分かったの」
「私の神社にまで、だだ漏れよ」
「そうだったの。駆け付けてくれて有難う」
「分かればいいのよ。
ところでヒイラギ、アンタは何をしていたの」
 矛先を向けられたヒイラギは不機嫌な声。
「毬子を守るので精一杯で、とても相手にまでは手が回らなかった。
自分の身体じゃないから思うようには動かせない。分かるだろう」
 サクラの舌鋒は鋭い。
「無理にでも動かせばいいでしょう。
毬子の意志なんて無視して、一時的に身体を乗っ取ってでも相手を斃すべきよ。
毬子が命を失ったら、棲み着いているアンタも死ぬのよ。
分かるよね。アンタが生き続ける為には毬子が必要なの。
まあ、アンタはどうでもいいけど、毬子だけは生かして置いて欲しいものね」
 より不機嫌になるヒイラギ。
 毬子がヒイラギの為に弁明をした。
「私がヒイラギに、『私の身体を乗っ取らないで』と頼んだのよ」
「まったくアンタ達は、・・・。
次ぎに同じような絶体絶命の急場に追い込まれたら、どうやって凌ぐつもり」
 サクラの疑念に毬子とヒイラギは答えられない。
 サクラは怒りを押し殺して続けた。
「まあ、いいでしょう。その事は二人で話し会いなさい。
それから、『風神の剣』についてだけど、アンタ達の対処法は間違いよ。
妖刀の妖気に乗っ取られないように防御しているけど、
それでは何の解決にもならないわ」 
 怒気を含んだヒイラギの声。
「何を偉そうに。戦っているのは俺達なんだ」
「これだから、『生ける武神様』は困るのよ。
相手によって攻め方を変えなさい」
「どういう事だ」
「昔の人が、『押さば引け、引かば押せ』と言ってるわ。
妖気が出張って来れば、待ち構えて引き込み、そして捕らえるだけの事。
妖刀を逆に乗っ取ればいいでしょうよ」
 ヒイラギは一呼吸置いた。
「相手は捕らえどころの分からぬ妖気、随分簡単に言うよな」
 それなのにサクラは、「アンタ達二人なら出来るわよ」と言い切った。
 その言いように毬子とヒイラギは押し黙った。
 と、そこに池辺が相棒の刑事に連れられて現れた。
年嵩の、加藤とか言う刑事が老人に尋ねた。
「斬られた二人は貴方のお供の方だそうですね」と。
 どうやらこれが事情聴取とかいうものらしい。
穏やかな口調で質問をする加藤の隣では、
神妙な顔の池辺がメモ取りをしていた。
 次第に不機嫌になる老人。
いつ癇癪を起こしても不思議ではない。
 居合わせた毬子達の目が、耳が、釘付けとなった。
緊迫する事情聴取。
これまた滅多に見られるものではない。
「五月蠅い、小役人風情が」と老人が爆発しても加藤の口調は変わらない。
聞き急ぎもしなければ、威圧的な態度にも出ない。
ましてや怒鳴るなんて事はない。
ただ、ただ、淡々と質問を続けた。
そして最後に、「話してもらえませんか。
何も無いという事なら、ここから一人で帰っていただく事になります。
それで大丈夫なんですか。
辻斬りが、どこかで待ち伏せてはいませんか」と柔和な口調で毒を吐いた。
 小刻みに身体を震わせるだけで、なんとか耐えていた老人だったが、
ついに限界がきた。
顔を引き攣らせ、「くそっ・・・」と声ならぬ声を漏らした。
前のめりになりながら両肩を落とし、畳に両手をついて涙を流す。
 好機と見た加藤は質問を続けた。
「別の事を聞きましょうか。
西木正夫、北尾茂、この二つの名前に聞き覚えは。
よおく考えて」
 毬子はうろ覚えながら、ニュースで聞いた名前だと気付いた。
二人は辻斬りの被害者の名前ではなかったか。
ヒイラギが関心を持つ事件なので毬子も付き合いでニュースを見た。
否、見せられた。
毬子の目を通してでないと、ヒイラギは外の世界が見られないのだ。
 老人は涙を拭きながら、喋ろうか、隠そうか、迷っている表情。
この期に及んでも打算があるらしい。
「北尾茂なら古美術品の売買で付き合いがある」
「西木正夫はどうですか」
「北尾の取り巻きに居たかもしれないが、直接は知らない」
「分かりました。それでは質問を変えましょう。
最近、北尾から何か買いましたか」
 老人の目が泳ぐ。
「刀を持ち込まれた」
 加藤は座敷中央に置かれた三振りの白鞘に目を遣った。
「もしかするとアレですか」
「いかにも」
「あの三振りの刀で辻斬りを迎え撃ったのですか」
「ああ、儂の連れと女の子がな」
 加藤は、「そうですか」と毬子をチラ見しながら続けた。
「大事な刀を何の為に此所に持ってきたんですか」
 老人が空威張りするかのように身体を反らした。
「売るためじゃ。
儂もいい歳になった。
そこで身辺整理をしている。
ああいう光り物を残されては家族が始末に困るだろう」
 加藤は老人を見てニコリと笑う。
「北尾が刀を持ち込んだのは何時ですか」
 「しまった」というような顔の老人。渋々と答えた。
「・・・二ヶ月ほど前だったかな」
「二ヶ月ほど前に買ったばかりなのに、今では身辺整理ですか。
貴方は辻斬りが現れた理由を知っているのじゃないですか。
だからそれを売ろうとして此所を訪れた」
「それは・・・」と老人。抗議しようとするが、何故か止めた。
貝のように口を閉ざす。




ブログを書くようになって、読書時間が減りました。
前は二、三日で一冊のペースでしたが、このところは月一冊・・・・。
なので反省し、GWには読書に集中しようと、文庫本を五冊買いました。
堂場瞬一『裂壊』『波紋』。
道尾秀介『向日葵の咲かない夏』。
香納諒一『孤独なき地』。
沢木冬吾『ライオンの冬』。
果たして完読できるのでしょうか・・・。




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白銀の翼(辻斬り)30

2011-05-03 21:26:34 | Weblog
 膝枕されていた娘が、百合子の手を借りて上半身を起こした。
「オムツなんて年頃の娘に言うこと。康平君、オツムが弱くなったの」
 辛辣なのか、親しいのか。
加藤が判断に苦しんでいるのを余所に、池辺本人は笑う。
「身体を起こして大丈夫か」
「慣れぬ真剣勝負で身体の芯が弱ったみたい。
でも少し休めば大丈夫よ。康平君より若いから」
 池辺が表情を改めた。
「大丈夫なら良かった。
でもね、何も君が辻斬りに真剣勝負を挑む事はなかったろう」
 毬子も表情を改めた。
「彼奴が目の前で二人を倒し、私達のいる座敷に向かって来たのよ。
私以外の誰が止めるというの。私が立ち合う以外に手がなかったわ」
「しかし」
 百合子が毬子の口添えをした。
「怒らないで許してあげて。毬子は何も悪くない。
女の子なのに無鉄砲で困るけど、良い子よ」
「分かった、分かった」と池辺。娘二人にお手上げらしい。
 見透かしたように毬子が問う。
「もしかして、あれが本物の辻斬りなの」
「状況から本物だと判断している。気付かなかったのか」
「私は、彼奴が名札も値札も付けてなかったから、身形と気配で判断したわ。
今、ニュースで騒がれてる奴に違い無いって」
「まあ、怪我がなくて良かった。それで、奴は強かったのか」
「素人目だけど、斬られた二人も凄腕だった。
一挙手一投足に何の無駄もないの。ただ、ただ、人を斬る動きに特化していた。
人斬りに慣れていたみたい。
でも辻斬りは、それを軽くあしらう腕前。全く問題にしなかったわ」
 池辺が口笛を吹く。
「よく、そんな奴と引き分けたね」
「引き分けた訳じゃないの。
戦っている時は必死で分からなかったけど、今思うと手加減されていたみたい。
去り際の目が笑っていたわ」
「へぇー、女には甘いのか」
「こんな佳い女を見たのは初めてなんでしょうね」
 呆れるほど池辺と毬子は仲が良かった。
まさかとは思うが、事件現場という事を忘れている気配がした。
なので加藤は遠慮無く割り込んだ。
百合子に、「腕を斬り落とされた二人は、この家の使用人かな」と尋ねた。
「いいえ、お客様のお連れです」
「その方の名前は」
「それは知りません。父の関係ですから。
離れに行けば分かりますよ。お歳を召してらっしゃいますから」
 加藤は池辺と村山の二人に目で合図して離れ座敷に向かう。
 背後から毬子が、「私達も行く」と。
「動けるのか」と池辺。心配そうな表情で振り返った。
「ユリが肩を貸してくれるから大丈夫よ。
それよりも自分達が何に巻き込まれたのかを知りたいのよ。
あのご老人の事情聴取をするんでしょう。ねっ」
 もっともだ。
池辺は交番時代のつもりかもしれないが、
肝心の娘は年齢以上に大人びているではないか。
加藤は思わず含み笑い。
 殺気だった一団が現れ、渡り廊下から離れ座敷にドカドカと入って来た。
およそ十余人。
到着したばかりの篠沢警部や班の同僚達だ。
加藤達も離れ座敷に上がり、彼等に合流した。
 座敷には現場に居合わせた者達と、板橋署の捜査関係者がいた。
篠沢警部に気付いた板橋署の刑事が、急いで傍に寄って状況説明を始めた。
これまでの事情聴取の途中経過をだ。
 加藤は池辺を連れ、同僚達から離れて、ただ一人の高齢者に歩み寄った。
しわくちゃ顔の老人は身体を小刻みに震わせていた。
「斬られた二人は貴方のお供の方だそうですね」
 老人は無愛想。上目遣いで頷くだけ。
 加藤は丁寧な口調を崩さない。
「貴方の名前を伺いたいですね」
 老人は震える手で内ポケットから名刺入れを取りだし、
「小野田晃一郎」と答え、一枚を加藤に手渡した。
 それには、「小野田精密(株)」の顧問と肩書きがあった。
二部上場だが、精密機械の老舗として知られ、海外展開もしていた。
「こちらには何の御用で」
 老人は無言。
「あの二人の名前は」
 それでも聞えぬ振りをする老人。
 加藤の口調は変わらない。
「二人はいつからお雇いですか」
 それをも老人は無視をした。
「腕を斬り落とされたぐらいでは人は死にませんよ。
あの二人が口を利けるようになれば、どちらかが、あるいは二人が喋ります。
二人の指紋を調べましょうか。前科があれば分かりますからね」
 途端に老人が怒鳴る。
「五月蠅い、小役人風情が」
 精一杯の抗議だったのだろう。
ゼイゼイと荒い息遣い。
 みんなの目が老人と自分に向けられるのを加藤は感じ取った。
自分としては当たり前の事情聴取だが、老人にとっては違っていたらしい。
老人は、みんなの視線を避けるように、ソッポを向いた。
 加藤は逃がさない。
追いかけるようにして正面に回った。
視線を合わせようとしない老人だが、
隠し事のある人間は得てして、そういう行動を取りがち。
分かり易い行動に、加藤は胸の内で嘲笑う。「馬鹿野郎」と。
顔には出さず、神妙に質問を続けた。
「榊毬子という女の子が三人目として立ち合わなかったら、
今頃、貴方の首が刎ねられていましたね。
どう思います」
 その言葉に老人の身体が一瞬だが、ビクッと反応した。
身に覚えがあるらしい。
再び小刻みに身体を震わせる。
 辻斬りの標的は、この老人以外にはありえない。
「話してもらえませんか。
何も無いという事なら、ここから一人で帰っていただく事になります。
それで大丈夫なんですか。
辻斬りが、どこかで待ち伏せてはいませんか」
 口調こそ柔らかいが、ほとんど脅迫。




2001年9月11日のアメリカ同時多発テロの報復として、
米軍によりビンラディンが殺害されたそうですが・・・。
欧米のマスコミは米軍の報復を賞賛しています。
「よくぞ殺害した」と。
 さて、その論調でゆくと、・・・。
欧米軍の誤爆でイスラム圏の無垢の民が大勢殺されているのは周知の事実。
と言う事は、「被害者家族は欧米に報復できる」という理屈になります。
果たして欧米のマスコミはそれを正当な権利と認めるのでしょうか。
いや、認めないでしょうね。
人権は欧米にのみあるのですから。
 報復が報復を呼ぶ「報復の連鎖」。
いつまで殺し合うのでしょうか。
もしかして、いずれか一方が死に絶えるまで・・・。




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白銀の翼(辻斬り)29

2011-05-01 10:17:01 | Weblog
 現場の民家の前で加藤と池辺の二人組は足を止めた。
その民家は立派な洋風の門構えと、
三メートルほどの高い塀で周囲を睥睨していた。
 池辺が呆れた声を上げた。
「これで民家ですかね」
「んー、この場合は邸宅、もしくは屋敷と表現すべきだろうな」
「そうですよね。でも、明らかに周囲から浮き上がってる」
「住む場所を間違えてるのだろう」
 この町は中流階級が住む住宅街と位置づけられ、
区画整理された土地に瀟洒な民家が軒を並べ、
独特の空気を醸し出していた。
それは、城北地区特有の「緩やかな中流」の空気。
 門の表札は「野上」。
となると、門構えから、一部上場の「ノガミ」の関係者に違いない。
「面倒臭い取り調べになるかもな」と加藤は内心で思った。
 金持ちとか、社会のエリートを自認する者は、
「俺は偉い、偉い。だから優遇されて当然」というバリアを周囲に張り巡らし、
常に上から目線でものを言う。
そういう時は、「これは殺人捜査だ」と一喝し、バリアを蹴散らすのだが、
面倒臭い事この上ない。
 遠くに見える玄関から警官隊が飛び出して来るではないか。
必死の形相で、門から出ると左右に分かれ、塀沿いを走って行く。
どうやら犯人に逃げられたらしい。
 後尾の私服警官に見覚えがあった。
以前、板橋署に捜査本部が置かれた時、一緒に仕事をした刑事、村山だった。
先方も加藤に気付いたようで、追跡を止め、こちらに歩み寄って来た。
「お久しぶりです。
篠沢班の加藤さんがいるという事は、例の辻斬り捜査ですね」
「そう、そのつもりで来たんだか、どうだい、辻斬りかい」
「間違いないですね」と村山。
追跡する仲間達の後ろ姿を目で追いながら、
「こちらへ」と二人を邸宅に招き入れた。
 池辺が生真面目な顔で、「追わないんですか」と加藤に。
「板橋署が全力を挙げてる。邪魔しちゃ悪いだろう」
 用意周到な辻斬りが簡単に捕まるとは思っていない。
だからといって、正直に胸の内は語れない。
「板橋署に捕まるわけがないだろう」とは。
回りは板橋署の者達で一杯。
追跡とは別に、大勢が現場保全や事情聴取に残っていた。
 村山に、「現場はこちらです」と住居ではなく、庭沿いに離れに案内された。
離れと言っても、その大きさは、ここへ来る途中で見掛けた民家と大差ない。
 庭先には芝生が植えられ、その奥に枯山水が造られていた。
通常、枯山水では、川や池を小石や砂を敷き詰めて表現するのだが、
ここでは芝生を代用しているらしい。
門外漢には理解できないが、この芝生の広さはたぶん、・・・海なのだろう。
 その芝生の上で幾人もの救急隊員が忙しく立ち働いていた。
「また誰か首を斬り落とされたのですか」と意気込む池辺。
「被害者は腕を斬り落とされた二人だけです」
 救急隊員達はその二人の止血に手間取っていた。
 襲撃が昼日中であった事から目撃者も多く、110番通報が早かった。
それが功を奏したらしい。
お蔭で死者は出ていない。
 動き回る警官や救急隊員を余所目に、摩訶不思議な空間があった。
芝生の上に娘が横座りし、別の娘を膝枕していた。
横座りの娘は優しい仕草で、横たわる娘の頬を撫でている。
そこには、「他のことには我関せず」しいう空気が漂い、
現場の喧噪をシャットアウトしていた。
 犯罪現場慣れした加藤でも理解出来ない。
「あれは」
 村山は困ったような表情。
「本当かどうかは知りませんが、
横になっている少女が、三人目として辻斬りと立ち合ったそうです。
それで疲れてしまって動けないそうです」
「手傷は」
「それは無いそうです。
ただ、疲れていて、立てそうにないとか」
 加藤は池辺と顔を見合わせた。
好きこのんで辻斬りと立ち合う者がいるとは。
それも小娘が。
 興味を覚え、そちらに足を向けた。
横座りの娘の涙がポタポタと、膝枕されてる娘の髪に落ちている。
三人の大人が近付いても二人の娘は顔を向けない。
気付いてないのか、関心がないのか。
「君達は」と加藤。
取り調べもナンパも名前から。
 横座りの娘が、ようやく顔を上げた。
美しい顔。片手で涙を拭う。
「私は、この家の娘で百合子。膝枕されてるのが友達の榊毬子」
「百合子ちゃんと毬子ちゃんか」
 後ろの池辺が素っ頓狂な声を上げた。
「毬子、・・・榊毬子」
 驚いた顔で身を乗り出した。
「巣鴨の榊毬子ちゃんか」と、膝枕されてる娘の顔を覗いた。
 閉じていた娘の目が開けられた。
「貴男は」
 池辺の顔から刑事の色が消えていた。
「俺だよ。交番にいた池辺」と見やすい位置に顔を置いた。
 毬子という娘は繁々と池辺の顔を見た。
思い出したのか、目を見開いた。
そして、「池辺康平君か」と表情を和ませた。
 年下の娘に、フルネームで君付けされる池辺とは。
呆れていると、その池辺が加藤を振り返った。
「豊島署だった頃に配備された交番が彼女の家の隣だったので、
よく出入りしていたんですよ」
「普通、隣だったからといって出入りするか」
 池辺は照れ臭そうに苦笑い。
「彼女の榊家は特別だったのです。
榊家の敷地の一角が交番用地に譲渡された経緯から、
戦後ずっと交番は夜警代りを兼ねてたそうです。
たぶん今もでしょうがね。
それに彼女が赤ん坊の頃は、
手空きの巡査がオムツの交換を手伝ってたそうです。
俺の頃は残念な事に彼女は小学生でしたがね」




どうやら私の花粉症のシーズンが終わったようです。
ずっと目が痒かったのですが、通院せずに、季節物と思って耐えてきました。
そのかいもあり、先週あたりから快適な日々。
目薬を使う量が減りました。
あぁぁぁ、嬉しい。

それにつけても菅サン、まだ居座ってる。
以前に大連立を模索したのは正しいのだけども、
谷垣サンに電話で入閣要請したのが、そもそもの手違い。
入閣要請を男女に例えれば、プロボースの言葉。
電話でプロポーズする人がいますかね。
えっ、いるんですか。それは、それは。
まあ、それは置いといて、与野党はいつまで党利党略を続けるのでしょう。
菅サンが辞めて問題ないけど、代わりに立派な人がいますかね。
いませんよね。「ドングリの背比べ」「目糞鼻糞を笑う」、そんなのばかり。
政界は人材が払拭している。
あぁぁぁ、情け無い。




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