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金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

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白銀の翼(辻斬り)30

2011-05-03 21:26:34 | Weblog
 膝枕されていた娘が、百合子の手を借りて上半身を起こした。
「オムツなんて年頃の娘に言うこと。康平君、オツムが弱くなったの」
 辛辣なのか、親しいのか。
加藤が判断に苦しんでいるのを余所に、池辺本人は笑う。
「身体を起こして大丈夫か」
「慣れぬ真剣勝負で身体の芯が弱ったみたい。
でも少し休めば大丈夫よ。康平君より若いから」
 池辺が表情を改めた。
「大丈夫なら良かった。
でもね、何も君が辻斬りに真剣勝負を挑む事はなかったろう」
 毬子も表情を改めた。
「彼奴が目の前で二人を倒し、私達のいる座敷に向かって来たのよ。
私以外の誰が止めるというの。私が立ち合う以外に手がなかったわ」
「しかし」
 百合子が毬子の口添えをした。
「怒らないで許してあげて。毬子は何も悪くない。
女の子なのに無鉄砲で困るけど、良い子よ」
「分かった、分かった」と池辺。娘二人にお手上げらしい。
 見透かしたように毬子が問う。
「もしかして、あれが本物の辻斬りなの」
「状況から本物だと判断している。気付かなかったのか」
「私は、彼奴が名札も値札も付けてなかったから、身形と気配で判断したわ。
今、ニュースで騒がれてる奴に違い無いって」
「まあ、怪我がなくて良かった。それで、奴は強かったのか」
「素人目だけど、斬られた二人も凄腕だった。
一挙手一投足に何の無駄もないの。ただ、ただ、人を斬る動きに特化していた。
人斬りに慣れていたみたい。
でも辻斬りは、それを軽くあしらう腕前。全く問題にしなかったわ」
 池辺が口笛を吹く。
「よく、そんな奴と引き分けたね」
「引き分けた訳じゃないの。
戦っている時は必死で分からなかったけど、今思うと手加減されていたみたい。
去り際の目が笑っていたわ」
「へぇー、女には甘いのか」
「こんな佳い女を見たのは初めてなんでしょうね」
 呆れるほど池辺と毬子は仲が良かった。
まさかとは思うが、事件現場という事を忘れている気配がした。
なので加藤は遠慮無く割り込んだ。
百合子に、「腕を斬り落とされた二人は、この家の使用人かな」と尋ねた。
「いいえ、お客様のお連れです」
「その方の名前は」
「それは知りません。父の関係ですから。
離れに行けば分かりますよ。お歳を召してらっしゃいますから」
 加藤は池辺と村山の二人に目で合図して離れ座敷に向かう。
 背後から毬子が、「私達も行く」と。
「動けるのか」と池辺。心配そうな表情で振り返った。
「ユリが肩を貸してくれるから大丈夫よ。
それよりも自分達が何に巻き込まれたのかを知りたいのよ。
あのご老人の事情聴取をするんでしょう。ねっ」
 もっともだ。
池辺は交番時代のつもりかもしれないが、
肝心の娘は年齢以上に大人びているではないか。
加藤は思わず含み笑い。
 殺気だった一団が現れ、渡り廊下から離れ座敷にドカドカと入って来た。
およそ十余人。
到着したばかりの篠沢警部や班の同僚達だ。
加藤達も離れ座敷に上がり、彼等に合流した。
 座敷には現場に居合わせた者達と、板橋署の捜査関係者がいた。
篠沢警部に気付いた板橋署の刑事が、急いで傍に寄って状況説明を始めた。
これまでの事情聴取の途中経過をだ。
 加藤は池辺を連れ、同僚達から離れて、ただ一人の高齢者に歩み寄った。
しわくちゃ顔の老人は身体を小刻みに震わせていた。
「斬られた二人は貴方のお供の方だそうですね」
 老人は無愛想。上目遣いで頷くだけ。
 加藤は丁寧な口調を崩さない。
「貴方の名前を伺いたいですね」
 老人は震える手で内ポケットから名刺入れを取りだし、
「小野田晃一郎」と答え、一枚を加藤に手渡した。
 それには、「小野田精密(株)」の顧問と肩書きがあった。
二部上場だが、精密機械の老舗として知られ、海外展開もしていた。
「こちらには何の御用で」
 老人は無言。
「あの二人の名前は」
 それでも聞えぬ振りをする老人。
 加藤の口調は変わらない。
「二人はいつからお雇いですか」
 それをも老人は無視をした。
「腕を斬り落とされたぐらいでは人は死にませんよ。
あの二人が口を利けるようになれば、どちらかが、あるいは二人が喋ります。
二人の指紋を調べましょうか。前科があれば分かりますからね」
 途端に老人が怒鳴る。
「五月蠅い、小役人風情が」
 精一杯の抗議だったのだろう。
ゼイゼイと荒い息遣い。
 みんなの目が老人と自分に向けられるのを加藤は感じ取った。
自分としては当たり前の事情聴取だが、老人にとっては違っていたらしい。
老人は、みんなの視線を避けるように、ソッポを向いた。
 加藤は逃がさない。
追いかけるようにして正面に回った。
視線を合わせようとしない老人だが、
隠し事のある人間は得てして、そういう行動を取りがち。
分かり易い行動に、加藤は胸の内で嘲笑う。「馬鹿野郎」と。
顔には出さず、神妙に質問を続けた。
「榊毬子という女の子が三人目として立ち合わなかったら、
今頃、貴方の首が刎ねられていましたね。
どう思います」
 その言葉に老人の身体が一瞬だが、ビクッと反応した。
身に覚えがあるらしい。
再び小刻みに身体を震わせる。
 辻斬りの標的は、この老人以外にはありえない。
「話してもらえませんか。
何も無いという事なら、ここから一人で帰っていただく事になります。
それで大丈夫なんですか。
辻斬りが、どこかで待ち伏せてはいませんか」
 口調こそ柔らかいが、ほとんど脅迫。




2001年9月11日のアメリカ同時多発テロの報復として、
米軍によりビンラディンが殺害されたそうですが・・・。
欧米のマスコミは米軍の報復を賞賛しています。
「よくぞ殺害した」と。
 さて、その論調でゆくと、・・・。
欧米軍の誤爆でイスラム圏の無垢の民が大勢殺されているのは周知の事実。
と言う事は、「被害者家族は欧米に報復できる」という理屈になります。
果たして欧米のマスコミはそれを正当な権利と認めるのでしょうか。
いや、認めないでしょうね。
人権は欧米にのみあるのですから。
 報復が報復を呼ぶ「報復の連鎖」。
いつまで殺し合うのでしょうか。
もしかして、いずれか一方が死に絶えるまで・・・。




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