暴力団と一緒にされて田原は気を悪くしたらしい。
眉間に皺を寄せながらミラーボールを見上げた。
だからといって毬子に危害を加える恐れはない。
ヒイラギがサクラに問う。
「奴の考えが読めたのか」
「読もうと思えば読めるけど、そこまで深く読むつもりはないのよ。
下手すると雑念に囚われるかも知れないからね」
「ほう、雑念に囚われるか」
「そうよ。
人体の強弱は分かり易いけど、心だけは別物なの。
人ほど複雑なモノはないから、
雑念に囚われると底なし沼に引き摺り混まれたも同然なのよ」
「そうか、難しいものだな」
「だから必要以外には人の中に深く入り込まない。
下手すると自分が壊れるか、相手が壊れる。あるいは両方。
だから出来るだけ表層から全てを読み取る。分かった」
サクラはヒイラギに教えると、続けて毬子を相手とした。
「この男の心底は分からないけど、今のところは爆発する危険性はないわ。
妙に脈拍が安定している。だからアンタもリラックスして」
「分かった、ありがとう。
ところでヒイラギの触手はどうなったの。指くらいは出来た」
「んー、悔しいけど、これが意外と器用なのよ。
十日はかかると思っていたら、もう小指らしきモノが出来たわ」
田原が表情を引き締めて毬子を見た。
「事情を話そう。事の発端は一年ほど前だ。
私が赴任する予定の大分の牟礼寺から所有物が盗まれた。
その時の住職は、盗んだ相手に心当たりがあったので、警察沙汰にせず、
内々に返還して貰おうと東京へ交渉に向かった。
そして、それっきり。行方不明になった」
田原は毬子が理解していると顔色で判断し、続けた。
「そこで我々の出番になった。
行方不明になった住職から事情を粗方知らされていたので、
我々は相手方の住居や事務所に盗聴器を仕掛け、事実関係を調べた」
「そんなに簡単に盗聴器を仕掛けられるものなの」
「簡単も簡単、慣れれば君でも出来る。忍び込む覚悟さえあればね。
試しに遣ってみるかい」
「結構です」
田原が鼻で笑う。
「ふっ。
・・・。
時間はかかったけど真相が分かった。
盗んだのは一番目に殺した西木正夫。
その仲間が二番目に殺した北尾茂。
勿論、その二人だけじゃない。
盗品を買ってくれる相手がいなければ商売にならないからな。
盗む前に買ってくれる相手を探す。それが失敗しない盗品商売の鉄則。
話しを持ちかけられたのが、三番目に狙った小野田晃一郎。
盗品と知って購入を承知した。
と言うわけ。
後は新聞やテレビのニュースで知ってのとおりだ」
「我々と言ったけど何人か仲間がいるのね」
「勿論。誰々とか、何人とかは秘密だけどね。
とにかく我々は慎重に裏付けをとって、100%の確証を得た上で行動した」
「さっきも聞いたけど、どうして警察に届けないの」
「私達は僧侶だから、密告のような真似はしない。犯罪者も作らない」
「何を、・・・でも結果として殺したじゃない」
田原が鋭い目で毬子を見た。
「人を殺したわけじゃない。罪を裁いただけ。罪を憎んで人を憎まず。
罪の前には、人の生き死になんてのは二の次なんだよ」
目に狂気の色はない。
心底から至極当然と思っているらしい。
どこでどういう教育を受けたのか。
本当に僧職にあるのだろうか。
とにかく、まともに相手は出来ない。
「それで、私には何の用なの。
人を殺した自慢話をする為に声掛けたわけじゃないでしょう」
「自慢話ときたか」と田原。傷付いたような表情で一呼吸置く。
「それなら思い出してもらおうかな。
野上邸で君は私を迎え撃った。
その時の太刀筋を私はしっかりと覚えている。
あれは本気で私を斬る太刀筋だった。斬る事に何の迷いもなかった。違うかな」
「あれは、・・・みんなを守る為だったのよ」
田原が余裕のある顔をした。
「君は、みんなを守る為に私を斬るつもりだった。
私は会ったことのない住職の無念を晴らす為に二人を斬った。
そこに何の違いがある。
私は実際に二人を斬り、四人に手傷を負わせた。
君は運の良い事に、腕が未熟だった為に私を斬る事が出来なかった。
殺せなかったというだけで、行なった行為は私と何の違いもない」
返す言葉がなかった。
毬子は田原の挑むような視線を正面から受け止められず、
唇を噛んで、悔しそうに顔を逸らした。
あの時は辻斬りの技に魅せられた。
庭先で用心棒二人の腕を斬り落とした太刀筋を見て、
「立ち合いたい」という欲求が湧き上がった。
気持を抑えられるほど大人ではなかった。
気付いたら、反射的に『風神の剣』を掴んで庭先に飛び出していた。
「みんなを守ろう」という気持が本当にあったのかどうかは今でも分からない。
ただ、ただ、立ち合いたかっただけなのかもしれない。
田原は毬子をそれ以上は追い詰めない。
何事も無かったかのように話しを変えた。
「頼みがあるんだ」
「・・・私に」
「そう。寺から盗まれた物を預かって欲しいんだ。
『風神の剣』というんだけどね」
いきなり、「風神の剣を預かってくれ」とは。
予想だにせぬ話しの展開ではないか。
それに、もう一つ。
『風神の剣』でそれを思い出した。
辻斬りの太刀筋が「判官流」であった事だ。
上方の古武術、判官流。京八流の系統と謂われる。
「その前に確かめたいのだけど。貴男の修行した流派は判官流なの」
★
東電が福島原発の二号機、三号機のメルトダウンを認めました。
これで一号機から始まってワンツースリーフィニッシュ ! ! !
メルトスルーが起こる可能性も・・・。
格納容器から床に漏れ落ちると、次は地中しか残ってないけど・・・。
素人のような後手後手の公表。
東電に原発の玄人はいないんですかね。
★
ランキングです。
クリックするだけ。
(クリック詐欺ではありません。ランキング先に飛ぶだけです)

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だからといって毬子に危害を加える恐れはない。
ヒイラギがサクラに問う。
「奴の考えが読めたのか」
「読もうと思えば読めるけど、そこまで深く読むつもりはないのよ。
下手すると雑念に囚われるかも知れないからね」
「ほう、雑念に囚われるか」
「そうよ。
人体の強弱は分かり易いけど、心だけは別物なの。
人ほど複雑なモノはないから、
雑念に囚われると底なし沼に引き摺り混まれたも同然なのよ」
「そうか、難しいものだな」
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下手すると自分が壊れるか、相手が壊れる。あるいは両方。
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サクラはヒイラギに教えると、続けて毬子を相手とした。
「この男の心底は分からないけど、今のところは爆発する危険性はないわ。
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「分かった、ありがとう。
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「んー、悔しいけど、これが意外と器用なのよ。
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田原が表情を引き締めて毬子を見た。
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その時の住職は、盗んだ相手に心当たりがあったので、警察沙汰にせず、
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そして、それっきり。行方不明になった」
田原は毬子が理解していると顔色で判断し、続けた。
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行方不明になった住職から事情を粗方知らされていたので、
我々は相手方の住居や事務所に盗聴器を仕掛け、事実関係を調べた」
「そんなに簡単に盗聴器を仕掛けられるものなの」
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田原が鼻で笑う。
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勿論、その二人だけじゃない。
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「さっきも聞いたけど、どうして警察に届けないの」
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「何を、・・・でも結果として殺したじゃない」
田原が鋭い目で毬子を見た。
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目に狂気の色はない。
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