金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

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金色の涙(江戸の攻防)275

2010-10-13 19:45:31 | Weblog
 豪姫は信頼できる三人を物見に出していた。
その三人目が、若菜、佐助に続いて戻って来た。
中山才蔵であった。彼は敵本陣の様子を探ってきた。
「遠目ですが、天魔らしき者が敵本陣最前列の祭壇に居ります。
その本陣を守る魔物兵は、およそ千五百」
「思ってたよりは多いわね」
 豪姫率いる二千余騎は普通の兵。
たいして千五百余の魔物兵が待ち構えているとは。
計算違いだが、今さら後には引けない。
「それだけではありません。
我等の行く手に別の魔物兵、およそ五百が伏せております」
 急襲を見抜かれていた。これは痛い。
 真田昌幸が口を開こうするのだが、それより中山兼行の方が早かった。
真摯な顔で豪姫を見詰めた。
「それがしの隊が囮として真っ直ぐに進みます。
豪姫様は残りを率いて迂回し、本陣を衝いて下さい」
 豪姫は意外そうな顔で兼行を見返した。
「良いのですか」
「我が隊はまだ一度も戦っておらず、元気が有り余っております。
囮として敵の目を惹き付けるには充分かと」
 豪姫は昌幸に問う。
「そなたも意見があったのではないの」
「はい。それがしが囮の隊を率いようと思ったのですが、
中山殿に先に言われてしまいました」
 昌幸が率いるとなると中山隊や井伊隊から兵を借りるしかない。
そうなれば混成部隊となり、連携に問題が生じそうだ。
比べて中山兼行が率いるとなると彼の隊だけで充分に間に合う。
ただ、彼等は魔物兵との戦いは初めての筈。
豪姫達が本陣を衝くまで耐えきれるかどうかが心配になった。
 それを読んだかのように才蔵が提案した。
「それがしは魔物兵には熟知しております。兄の隊に同行させては頂けませんか」
真摯な顔で主人の真田幸村に頭を下げた。
 即座に兄である兼行が叱りつけた。
「馬鹿を申すな。以前にも申したように、お前の死に場所は幸村様の御前だ」
 悄然とする才蔵。
 幸村が豪姫に言う。
「才蔵が我が家来であるのも何かの縁、
それがしを中山隊に加わらせては頂けませんか」
 言葉に才蔵の顔が綻ぶ。
 遣り取りに昌幸が言葉を足した。
「魔物兵に慣れた者が中山隊に同行すれば、大いに力となりましょう」
幸村を振り返って軽く頷いた。
 身辺にいた者が減るのは寂しいが、そうせざるを得ない状況だ。
豪姫は幸村と才蔵を交互に見てから、兼行に視線を向けた。
「邪魔かも知れないけど、二人を連れて行ってくれる」
 兼行は、「喜んで」と、深々と頭を下げた。

 前田慶次郎は槍を振り回して松平広重に辿り着いた。
「怪我はないか」
 広重は、「有るが、たいした傷ではない。案ずるな」と笑い飛ばした。
強がりにしか聞えない。
出撃する時には見事だった甲冑が今は見る影もない。
あちこちに槍傷がつき、一部は剥がれ落ち、血で塗れていた。
それでも広重は残り少ない家来達を叱咤激励した。
「敵本陣まで今一歩だ。行くぞ」
 彼の家来は二十数人にまで減っていた。
あまりにも一方的な魔物兵の攻撃に遭い、士気は落ちていたのだが、
慶次郎等の加勢と主人の声に勢いを取り戻した。
 そこに狐の甲高い雄叫びが届いた。
伏見の狐ぴょん吉が、「豪姫の陰供をしている『まん作』からだ」と。
「豪姫の率いる部隊が二手に分かれて敵本陣を急襲する。
囮の部隊が正面を進み、豪姫達は迂回して回り込むそうだ」
 慶次郎が聞き返した。
「それだけか」
「そうだが」
「我等には」
「何も。同士討ちをせぬように知らせただけだろう」
 慶次郎は近くで戦っていた白拍子に声をかけた。
「於雪、ぴょん吉の声が聞えたか」
「今はそれどころじゃないわ。目の前の敵を斃すので忙しいの」
「豪姫達が敵本陣を急襲するそうだ」
 白拍子は面白がった。
「あの子は可愛い顔して大胆よね」
「小さい頃からの男勝りの性格は直らないらしい。
だから我等が豪姫達より先に天魔に辿り着かねばならぬ」
「アンタは豪姫に甘いわね」
「そう言うな」
 白拍子は笑顔で魔物兵の手足を斬り放った。
「それじゃ、急ごうか」
そして、少し離れていた於福と九郎に、「前進するわよ」と声をかけた。
それまでは広重と彼の家来達の疲労具合を考慮に入れ、前進速度を緩くしていた。
が、豪姫の勇断でそうも言っていられない状況になった。
 慶次郎は、ぴょん吉を振り向いた。
「結城秀康にこの事を知らせてくれ」
「知らせるだけで良いのか」
「ああ、それで良い。
俺が策を練るより、秀康の方がより良い策を練ってくれる筈だ」
 ぴょん吉は即座に後方で戦っている結城秀康隊に向かって駆け出した。
 肩を並べて戦っていた広重が、「急がねばならぬようだな」と言うなり、
目前の敵に槍を突き出した。 
どうやら豪姫の勇断が彼の疲れを吹き飛ばしてしまったらしい。




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