韓秀が口を開いた。
「威張る事ではないが、私は方術には、ど素人だ。
それで恥を忍んで聞くが、解き放たれた悪霊怨霊の類の恨みはどうなる。
遙か昔に封じられたお陰で、恨みを晴らしたくても、
憎い相手はとっくの昔に亡くなっている。
違うかな于吉殿」
于吉が顔を綻ばせた。
「そうだ。その点が大問題なのじゃ。
相手は既に死んでいるからな。
・・・。
連中は何時かは消滅するものと諦めていたのに、行き成り解き放たれた。
今はその喜びに溢れている。
自由だ、自由だ、どこへでも行ける。何でも出来る。
が、そのうちに落ち着いてきて現実に気付く。
憎い相手は既に死んでいた、なのに自分は悪霊怨霊のまま、とな。
気付いた連中が、どう行動するのか考えると頭が痛くなる」
頭が痛くなった様子はない。
言葉とは裏腹、喜んでいた。
「面白がっている場合かしら」と劉芽衣が注意した。
それでも于吉の表情は変わらない。
「まあ、固いことは言うな」と目を輝かせて言う。
「噂では、于吉殿は悪霊怨霊の類と仲良く話せるそうですわね」
「まあ、そうじゃな。
連中の恨み言を聞くのも修行の一つ、と理解してくれ。
今回は大昔の話が聞けるかと思うと、今からワクワクする」
「連中から危害は加えられないの」
「ワシは道士であって、方術士ではない。
その点を説けば理解してもらえる」
「先ほどの『聖なる火』の手際は方術士そのもの。
隠していても方術士の臭いは消せないと思うけど」
「ワシは道士が主で、方術の方は片手間。ほんの片手間じゃ。
危害が加えられない限り除霊はしない。
悪霊怨霊も人間味があってな、根気強く説けば分かってくれる」
劉芽衣は呆れ顔。
「いいでしょう。好きになさって下さい。
それより、この先行きが気になります。
世情は暗澹たる有様。
朝廷は上から下までが乱れに乱れ、巷は小さな一揆や乱が勃発し、
盗賊が我が物顔で横行する始末。
中華の隅々にまで怨嗟の声が溢れています。
そこに悪霊怨霊が解き放たれとなれば、状況は悪化の一途。
仙人とも噂される于吉殿の見解をお聞きしたい」
それでも于吉の表情は変わらない。
「成るようにしか成らん。それが浮世の習い。
我ら道士は不死を目指しておるから、よく分かる。
生ある物は必ず滅す」
「不死の否定ですか」と芽衣が咎める目付き。
于吉が口の端を歪めた。
「そうではない。
入れ物である身体のみが滅する
芽衣殿も方術士の一人だから、魂魄は知っておるじゃろう。
魂は天に与えられしもの。
目には見えないが、確と存在するもの。
魄は入れ物の身体。
魂が魄に宿って初めて人になる。
まあ、この話は長くなるから今は止すか」
韓秀がホッとした表情で問う。
「そうです。
急ぎ知りたいのは、悪霊怨霊が朝廷に仇なすのか、どうか」
「恨み骨髄の劉邦が死んでいるとなると、どう出るかな。
そうじゃ、お主達、張良が封じた悪霊怨霊が如何なる者達であるのか、分かるか」
劉芽衣が即座に答えた。
「当時、大勢が粛清されましたが、なかでも高名なのは韓信、彭越、英布。
この大物三人なら悪霊怨霊になって祟っても不思議ではないですわね」
軍師にして大将軍でもあった韓信。
盗賊から大将軍にのし上がった彭越。
刑罰としての刺青を入れられながら、これまた大将軍にのし上がった英布。
いずれも漢王朝の礎を築くのに功績がありながら、後に粛清の対象となった。
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ただの飾りです。
「威張る事ではないが、私は方術には、ど素人だ。
それで恥を忍んで聞くが、解き放たれた悪霊怨霊の類の恨みはどうなる。
遙か昔に封じられたお陰で、恨みを晴らしたくても、
憎い相手はとっくの昔に亡くなっている。
違うかな于吉殿」
于吉が顔を綻ばせた。
「そうだ。その点が大問題なのじゃ。
相手は既に死んでいるからな。
・・・。
連中は何時かは消滅するものと諦めていたのに、行き成り解き放たれた。
今はその喜びに溢れている。
自由だ、自由だ、どこへでも行ける。何でも出来る。
が、そのうちに落ち着いてきて現実に気付く。
憎い相手は既に死んでいた、なのに自分は悪霊怨霊のまま、とな。
気付いた連中が、どう行動するのか考えると頭が痛くなる」
頭が痛くなった様子はない。
言葉とは裏腹、喜んでいた。
「面白がっている場合かしら」と劉芽衣が注意した。
それでも于吉の表情は変わらない。
「まあ、固いことは言うな」と目を輝かせて言う。
「噂では、于吉殿は悪霊怨霊の類と仲良く話せるそうですわね」
「まあ、そうじゃな。
連中の恨み言を聞くのも修行の一つ、と理解してくれ。
今回は大昔の話が聞けるかと思うと、今からワクワクする」
「連中から危害は加えられないの」
「ワシは道士であって、方術士ではない。
その点を説けば理解してもらえる」
「先ほどの『聖なる火』の手際は方術士そのもの。
隠していても方術士の臭いは消せないと思うけど」
「ワシは道士が主で、方術の方は片手間。ほんの片手間じゃ。
危害が加えられない限り除霊はしない。
悪霊怨霊も人間味があってな、根気強く説けば分かってくれる」
劉芽衣は呆れ顔。
「いいでしょう。好きになさって下さい。
それより、この先行きが気になります。
世情は暗澹たる有様。
朝廷は上から下までが乱れに乱れ、巷は小さな一揆や乱が勃発し、
盗賊が我が物顔で横行する始末。
中華の隅々にまで怨嗟の声が溢れています。
そこに悪霊怨霊が解き放たれとなれば、状況は悪化の一途。
仙人とも噂される于吉殿の見解をお聞きしたい」
それでも于吉の表情は変わらない。
「成るようにしか成らん。それが浮世の習い。
我ら道士は不死を目指しておるから、よく分かる。
生ある物は必ず滅す」
「不死の否定ですか」と芽衣が咎める目付き。
于吉が口の端を歪めた。
「そうではない。
入れ物である身体のみが滅する
芽衣殿も方術士の一人だから、魂魄は知っておるじゃろう。
魂は天に与えられしもの。
目には見えないが、確と存在するもの。
魄は入れ物の身体。
魂が魄に宿って初めて人になる。
まあ、この話は長くなるから今は止すか」
韓秀がホッとした表情で問う。
「そうです。
急ぎ知りたいのは、悪霊怨霊が朝廷に仇なすのか、どうか」
「恨み骨髄の劉邦が死んでいるとなると、どう出るかな。
そうじゃ、お主達、張良が封じた悪霊怨霊が如何なる者達であるのか、分かるか」
劉芽衣が即座に答えた。
「当時、大勢が粛清されましたが、なかでも高名なのは韓信、彭越、英布。
この大物三人なら悪霊怨霊になって祟っても不思議ではないですわね」
軍師にして大将軍でもあった韓信。
盗賊から大将軍にのし上がった彭越。
刑罰としての刺青を入れられながら、これまた大将軍にのし上がった英布。
いずれも漢王朝の礎を築くのに功績がありながら、後に粛清の対象となった。
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