ベティ王妃は西門に本陣を構えていた。
奥の陣幕に諸将を集め、情勢を検討していた。
本来であれば元帥である国王陛下がいて、
左右に近衛大将と近衛参謀長が侍り、招集した各隊よりの報告を聞く。
しかし、今、その三名の姿はない。
国王陛下は真っ先に魔法攻撃を受け、
その地で反乱軍に身柄を拘束され、以後の安否も所在も不明。
大将と参謀長は未だ現れず。
ベティの左には国王の最側近であったポール細川子爵。
右には、かつてバイロン神崎とエリオス佐藤の一件を担当した中佐、
現在は近衛軍大佐のアルバート中川子爵がいた。
カーティス北畠家公爵軍を偵察して来た近衛軍中尉が報告した。
「南門を掌握し、こちらに向かっています。
兵力はおよそ2000。
公爵軍には傭兵が多い様に見られますが、
一部に国軍や近衛軍の隊旗も散見されます」
代わってバーナード今川家公爵軍を偵察した近衛軍中尉。
「こちらは北門を掌握し、同じくこちらに向かって来ています。
兵力はおよそ3000。
こちらも傭兵が多く見られ、国軍や近衛軍の隊旗も散見されます」
ベティが諸将を見回して口を開いた。
「どういう訳で国軍や近衛軍の隊旗が散見されるの」
ポール細川子爵が宥める様に答えた。
「公爵世代は兵力を有しませんが、
次代が子爵として領地を賜った際、家臣集めに困らぬ様に、
事前に退職・退役した者を雇用するのを許されているのです。
その関係で国軍や近衛軍は無論、役所とも深い繋がりがあります」
ベティは不承不承頷いた。
一人の少佐が味方の現状を報告した。
「我らの現有兵力を説明します。
この西門、表に一個中隊。
こちら側、正面に二個大隊、左翼に一個大隊、右翼に一個大隊、
遊撃として後方に三好侯爵様ご一統の混成部隊、およそ1000。
計3250です。
状況によっては表の中隊を引き剥がし、投入します」
もう一人の少佐。
「東門の毛利侯爵様や佐々木侯爵様方も似た様な兵力です」
ベティは確認した。
「近衛の兵力は一万ほどと聞いていました。
少々、数が少ないですね」
アルバート中川大佐が説明した。
「第一にワシバーンの襲撃です。
多くの負傷者が出ています。
そして反乱軍に加わった離反者。
これに少々ですが、去就を明らかにしていない部隊があります」
「大将や参謀長がそれだと・・・」
「確認は、していません」苦り切った表情。
ベティは溜息つきながら一同を見回した。
「国軍の助勢は」
ポール細川が言う。
「頼んでいません」
「どうして・・・」
「今なら王宮区画だけの戦闘ですんでいます。
もし、これに国軍を加えるとなると、
勝手に走る部隊が出る懸念があります」
「それは・・・」
アルバート中川が説明した。
「上級部隊は信用できますが、個々の部隊は信用なりません。
指揮する尉官クラスは平民の将校が多いのです。
出動命令を受領した途端、反乱軍に加わるかも知れません」
「貴官は国軍を信用していないのですね」ベティがもっともな質問。
「そうではありません。
昨今、自由平等の思想が広がっています。
それに平民の尉官クラスが影響を受けています。
まずは古い体制の打ち壊し、それから新たな秩序の創世、
そう謳っています。
・・・。
今回の騒動は壊すには打ってつけかと思い、憂慮しているのです」
それまで聞き役に徹していた評定衆の一人が立ち上がった。
三好一族の総帥・ロバート三好侯爵。
「となれば我等、古い世代の出番だな。
・・・。
王妃、ご安心なされよ。
既に手は打ってあります。
国都に在住している三好一族に招集をかけております。
それとは別に国元へも使者を走らせております。
・・・。
我等だけではない筈です。
東門を任されておる毛利一族も同様にしておりましょう。
他の評定衆も勿論、同様でしょう。
・・・。
ここは耐えて、耐えて、時間を味方にすれば良いだけのこと。
国軍を無理して引き込む必要はありません。
国軍には外郭の治安維持を命じ、我らに反乱軍の鎮撫を命じて下され。
さすれば打ち砕き、陛下を取り戻しましょう」
アルバート中川大佐が疑問を呈した。
「随分と準備がよろしいですな。
事前に反乱をご存知であったとか・・・」
途端、三好一族の一人が気色ばみ、ドッと立ち上がった。
「ふざけるな、聞き捨てならん。
こちらも既に一族に戦死者が出ている。
お前、どういう意味でものを申している。
訳次第によっては切り捨ててくれる」
ロバート三好が呆れ顔で仲裁した。
「双方とも落ち着け」
「しかし総帥・・・」
「大佐の疑問ももっともだ。
・・・。
我等は王宮にいて反乱軍に掛かりきりだった。
外との連絡もつけようがなかった。
その場を切り抜けるのに必死で、頭も回らなかった。
それが翌日には手回しよく準備が整っている。
誰しも疑問に思う、それは当然だ。
・・・。
大佐、答えは小僧にある。
ポール細川子爵が現場に連れてきていた小僧だ。
お子様子爵のダンタルニャン佐藤子爵と言えば分かるだろう」
「ええ、確かに、それらしい子供がいました。
それが・・・」
「奴が王宮から外郭に抜け出し、
評定衆の主だった家に状況を知らせる書状を出した。
それを読んだ各家の執事が適切に動いた。
我らが知ったのは今朝遅くだ。
知った時には全ての手配がすんでいた。
そういう訳だ」
アルバート大佐は素直に頭を下げた。
「申し訳ありません。
勘違いしていました」
「よいよい。
お主の家からの兵力は如何した」
「宮廷子爵なので250が限度です。
そこで冒険者ギルドや傭兵ギルドに声をかけ、
せめて倍にしてから、西門に寄越す様に執事に申し伝えました」
「500か、それは無理だろう。
他の貴族達も動いているだろうからな」
奥の陣幕に諸将を集め、情勢を検討していた。
本来であれば元帥である国王陛下がいて、
左右に近衛大将と近衛参謀長が侍り、招集した各隊よりの報告を聞く。
しかし、今、その三名の姿はない。
国王陛下は真っ先に魔法攻撃を受け、
その地で反乱軍に身柄を拘束され、以後の安否も所在も不明。
大将と参謀長は未だ現れず。
ベティの左には国王の最側近であったポール細川子爵。
右には、かつてバイロン神崎とエリオス佐藤の一件を担当した中佐、
現在は近衛軍大佐のアルバート中川子爵がいた。
カーティス北畠家公爵軍を偵察して来た近衛軍中尉が報告した。
「南門を掌握し、こちらに向かっています。
兵力はおよそ2000。
公爵軍には傭兵が多い様に見られますが、
一部に国軍や近衛軍の隊旗も散見されます」
代わってバーナード今川家公爵軍を偵察した近衛軍中尉。
「こちらは北門を掌握し、同じくこちらに向かって来ています。
兵力はおよそ3000。
こちらも傭兵が多く見られ、国軍や近衛軍の隊旗も散見されます」
ベティが諸将を見回して口を開いた。
「どういう訳で国軍や近衛軍の隊旗が散見されるの」
ポール細川子爵が宥める様に答えた。
「公爵世代は兵力を有しませんが、
次代が子爵として領地を賜った際、家臣集めに困らぬ様に、
事前に退職・退役した者を雇用するのを許されているのです。
その関係で国軍や近衛軍は無論、役所とも深い繋がりがあります」
ベティは不承不承頷いた。
一人の少佐が味方の現状を報告した。
「我らの現有兵力を説明します。
この西門、表に一個中隊。
こちら側、正面に二個大隊、左翼に一個大隊、右翼に一個大隊、
遊撃として後方に三好侯爵様ご一統の混成部隊、およそ1000。
計3250です。
状況によっては表の中隊を引き剥がし、投入します」
もう一人の少佐。
「東門の毛利侯爵様や佐々木侯爵様方も似た様な兵力です」
ベティは確認した。
「近衛の兵力は一万ほどと聞いていました。
少々、数が少ないですね」
アルバート中川大佐が説明した。
「第一にワシバーンの襲撃です。
多くの負傷者が出ています。
そして反乱軍に加わった離反者。
これに少々ですが、去就を明らかにしていない部隊があります」
「大将や参謀長がそれだと・・・」
「確認は、していません」苦り切った表情。
ベティは溜息つきながら一同を見回した。
「国軍の助勢は」
ポール細川が言う。
「頼んでいません」
「どうして・・・」
「今なら王宮区画だけの戦闘ですんでいます。
もし、これに国軍を加えるとなると、
勝手に走る部隊が出る懸念があります」
「それは・・・」
アルバート中川が説明した。
「上級部隊は信用できますが、個々の部隊は信用なりません。
指揮する尉官クラスは平民の将校が多いのです。
出動命令を受領した途端、反乱軍に加わるかも知れません」
「貴官は国軍を信用していないのですね」ベティがもっともな質問。
「そうではありません。
昨今、自由平等の思想が広がっています。
それに平民の尉官クラスが影響を受けています。
まずは古い体制の打ち壊し、それから新たな秩序の創世、
そう謳っています。
・・・。
今回の騒動は壊すには打ってつけかと思い、憂慮しているのです」
それまで聞き役に徹していた評定衆の一人が立ち上がった。
三好一族の総帥・ロバート三好侯爵。
「となれば我等、古い世代の出番だな。
・・・。
王妃、ご安心なされよ。
既に手は打ってあります。
国都に在住している三好一族に招集をかけております。
それとは別に国元へも使者を走らせております。
・・・。
我等だけではない筈です。
東門を任されておる毛利一族も同様にしておりましょう。
他の評定衆も勿論、同様でしょう。
・・・。
ここは耐えて、耐えて、時間を味方にすれば良いだけのこと。
国軍を無理して引き込む必要はありません。
国軍には外郭の治安維持を命じ、我らに反乱軍の鎮撫を命じて下され。
さすれば打ち砕き、陛下を取り戻しましょう」
アルバート中川大佐が疑問を呈した。
「随分と準備がよろしいですな。
事前に反乱をご存知であったとか・・・」
途端、三好一族の一人が気色ばみ、ドッと立ち上がった。
「ふざけるな、聞き捨てならん。
こちらも既に一族に戦死者が出ている。
お前、どういう意味でものを申している。
訳次第によっては切り捨ててくれる」
ロバート三好が呆れ顔で仲裁した。
「双方とも落ち着け」
「しかし総帥・・・」
「大佐の疑問ももっともだ。
・・・。
我等は王宮にいて反乱軍に掛かりきりだった。
外との連絡もつけようがなかった。
その場を切り抜けるのに必死で、頭も回らなかった。
それが翌日には手回しよく準備が整っている。
誰しも疑問に思う、それは当然だ。
・・・。
大佐、答えは小僧にある。
ポール細川子爵が現場に連れてきていた小僧だ。
お子様子爵のダンタルニャン佐藤子爵と言えば分かるだろう」
「ええ、確かに、それらしい子供がいました。
それが・・・」
「奴が王宮から外郭に抜け出し、
評定衆の主だった家に状況を知らせる書状を出した。
それを読んだ各家の執事が適切に動いた。
我らが知ったのは今朝遅くだ。
知った時には全ての手配がすんでいた。
そういう訳だ」
アルバート大佐は素直に頭を下げた。
「申し訳ありません。
勘違いしていました」
「よいよい。
お主の家からの兵力は如何した」
「宮廷子爵なので250が限度です。
そこで冒険者ギルドや傭兵ギルドに声をかけ、
せめて倍にしてから、西門に寄越す様に執事に申し伝えました」
「500か、それは無理だろう。
他の貴族達も動いているだろうからな」
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