劉芽衣は追い込まれた。
名を上げた二人が却下されたのだ。
有力な外戚である何進将軍。
宦官の家系に生まれた曹操。
袁紹党といっても詳しく知っている分けではない。
袁紹と親しくしている朝廷の官吏も知らない。
彼の周辺で思い浮かぶのは、名を上げた二人のみ。
困っている芽衣の表情を季律が覗き込む。
「何とか、お力添え願えませんか。
毒殺の首謀者を知りたいのです。
于吉殿に連絡を取り、調べていただきたいと、その旨を伝えて頂けませんか」
今の状況で于吉に連絡を取るには、彼女本人が後宮に出向くしかない。
となれば人目を引く。
噂が流れ、尾鰭がつく。
いや、それ以前に于吉との面会が許されるかどうか。
別の問題も。
果たして于吉が依頼を引き受けるだろうか。
万が一、受けたとして、「調べるだけの力量があるのか」という新たな問題も。
正式な職務ではないので、はなはだ難しいだろう。
毒殺未遂現場に遭遇したからといって、
俗世とは無縁の者である彼が気軽に受けるとは思えない。
道士には道士の生き方がある。
浮世の義理で後宮に留まっているのだろうが、
それ以上の深入りは好まないだろう。
芽衣は季律を正視した。
「お断りするわ。
このような大事を頼むほど、于吉殿とは親しくないの。
ごめんなさいね」
季律は諦めない。
「天下の一大事ですよ。
今こそ我ら一同、結束して働くべきでしょう」と力を込めた。
「貴方達は朝廷の恩恵を受けているので、当然、身を粉にして働くべきでしょうね。
でも、于吉殿は別よ。
あのご老人は、朝廷とも劉家とも無縁の方。
何も期待してはいけません」
「しかし」と季律が言うのを芽衣は止めた。
「よく考えなさい。
毒を盛ったと思われる三人は服毒自殺しているのですよ。
おまけに、その三人はたいした手掛かりも残していないの。
それでも官吏、近衛等が必死になって調べたわ。
強権でね。
何者かが事件の背後にいるのではないか、全容を曝こうと、それは知っているでしょう」
「ええ、今もって何も分かってません」
「そうよ。
彼等の力不足ではないわ。
相手が一枚上手なだけだと思う。
それを貴方達は女官二人で調べ上げられると思った分け。
女官二人には気の毒だけど、暢気よね」
季律の表情が曇った。
「たしかに・・・、返す言葉がありません。
それでは我ら、どうすれば」
芽衣は気になる事を尋ねた。
「女官二人に調べさせようとしたのは誰なの」
季律が、「言い出したのは袁紹殿の屋敷に居候している食客の一人です」と即答。
「それに袁紹殿が賛同した分けね」
「ええ、それが・・・」
「袁紹殿はこのところ官職への登用を固辞しているわね。
それには何か理由があるのかしら」
「宦官が幅を利かせている朝廷には昇りたくないそうです」
芽衣から笑みが漏れた。
「前回、宦官に意地悪されて懲りた、ということかしら。
打たれ弱いのは、それはそれで困りものね。
官職を渡り歩けば、様々な気苦労で人間が磨かれ、ちょっとは、まともになれるのにね」
芽衣の真意が伝わったのだろう。
季律は口を半開き。
言い淀んでいるようにも見えた。
芽衣は無視して続けた。
「それで女官二人はどこまで調べ上げたのかしら」
季律はさらに言い淀む。
たいした収穫もないまま、姿を消したに違いない。
芽衣は季律から視線を外さない。
間を置いて問う。
「毒殺が成功して得する者は誰なのかしらね」
「それは・・・」
「得する者は次の帝。
あるいは王莽のように帝位を簒奪する者」と断言。
季律は何も言わない。
ジッと次の言葉を待つ。
「袁紹党はそれでも調べるつもりかしら」
困惑する季律をよそに、芽衣は続けた。
「蔵書を調べさせて頂いているので、そのお返しに女官二人の遺骸を探しましょう」
予期せぬ申し出に季律の表情が改まった。
「出来るのですか」
「半々ね。
後宮の闇に噂を流すの。
女官二人の生死は問わない。
犯人も問わない。
引き渡してくれれば、それ相応の礼金を支払う。
それだけよ。
こちらを信用すれば、犯人が話しに乗ってくるわ」
「すると犯人が分かりますね」
「それは問わない約束。
どんなことでも信用は大事よ」
名を上げた二人が却下されたのだ。
有力な外戚である何進将軍。
宦官の家系に生まれた曹操。
袁紹党といっても詳しく知っている分けではない。
袁紹と親しくしている朝廷の官吏も知らない。
彼の周辺で思い浮かぶのは、名を上げた二人のみ。
困っている芽衣の表情を季律が覗き込む。
「何とか、お力添え願えませんか。
毒殺の首謀者を知りたいのです。
于吉殿に連絡を取り、調べていただきたいと、その旨を伝えて頂けませんか」
今の状況で于吉に連絡を取るには、彼女本人が後宮に出向くしかない。
となれば人目を引く。
噂が流れ、尾鰭がつく。
いや、それ以前に于吉との面会が許されるかどうか。
別の問題も。
果たして于吉が依頼を引き受けるだろうか。
万が一、受けたとして、「調べるだけの力量があるのか」という新たな問題も。
正式な職務ではないので、はなはだ難しいだろう。
毒殺未遂現場に遭遇したからといって、
俗世とは無縁の者である彼が気軽に受けるとは思えない。
道士には道士の生き方がある。
浮世の義理で後宮に留まっているのだろうが、
それ以上の深入りは好まないだろう。
芽衣は季律を正視した。
「お断りするわ。
このような大事を頼むほど、于吉殿とは親しくないの。
ごめんなさいね」
季律は諦めない。
「天下の一大事ですよ。
今こそ我ら一同、結束して働くべきでしょう」と力を込めた。
「貴方達は朝廷の恩恵を受けているので、当然、身を粉にして働くべきでしょうね。
でも、于吉殿は別よ。
あのご老人は、朝廷とも劉家とも無縁の方。
何も期待してはいけません」
「しかし」と季律が言うのを芽衣は止めた。
「よく考えなさい。
毒を盛ったと思われる三人は服毒自殺しているのですよ。
おまけに、その三人はたいした手掛かりも残していないの。
それでも官吏、近衛等が必死になって調べたわ。
強権でね。
何者かが事件の背後にいるのではないか、全容を曝こうと、それは知っているでしょう」
「ええ、今もって何も分かってません」
「そうよ。
彼等の力不足ではないわ。
相手が一枚上手なだけだと思う。
それを貴方達は女官二人で調べ上げられると思った分け。
女官二人には気の毒だけど、暢気よね」
季律の表情が曇った。
「たしかに・・・、返す言葉がありません。
それでは我ら、どうすれば」
芽衣は気になる事を尋ねた。
「女官二人に調べさせようとしたのは誰なの」
季律が、「言い出したのは袁紹殿の屋敷に居候している食客の一人です」と即答。
「それに袁紹殿が賛同した分けね」
「ええ、それが・・・」
「袁紹殿はこのところ官職への登用を固辞しているわね。
それには何か理由があるのかしら」
「宦官が幅を利かせている朝廷には昇りたくないそうです」
芽衣から笑みが漏れた。
「前回、宦官に意地悪されて懲りた、ということかしら。
打たれ弱いのは、それはそれで困りものね。
官職を渡り歩けば、様々な気苦労で人間が磨かれ、ちょっとは、まともになれるのにね」
芽衣の真意が伝わったのだろう。
季律は口を半開き。
言い淀んでいるようにも見えた。
芽衣は無視して続けた。
「それで女官二人はどこまで調べ上げたのかしら」
季律はさらに言い淀む。
たいした収穫もないまま、姿を消したに違いない。
芽衣は季律から視線を外さない。
間を置いて問う。
「毒殺が成功して得する者は誰なのかしらね」
「それは・・・」
「得する者は次の帝。
あるいは王莽のように帝位を簒奪する者」と断言。
季律は何も言わない。
ジッと次の言葉を待つ。
「袁紹党はそれでも調べるつもりかしら」
困惑する季律をよそに、芽衣は続けた。
「蔵書を調べさせて頂いているので、そのお返しに女官二人の遺骸を探しましょう」
予期せぬ申し出に季律の表情が改まった。
「出来るのですか」
「半々ね。
後宮の闇に噂を流すの。
女官二人の生死は問わない。
犯人も問わない。
引き渡してくれれば、それ相応の礼金を支払う。
それだけよ。
こちらを信用すれば、犯人が話しに乗ってくるわ」
「すると犯人が分かりますね」
「それは問わない約束。
どんなことでも信用は大事よ」
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