金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

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昨日今日明日あさって。(足利国の国都)39

2018-03-03 07:48:46 | Weblog
 バリーは興が乗ってきたのか、
外国から戻ってきたキャラバンから仕入れた噂話を、
冒険者目線の切り口で語る、語る。
それが面白いの何の。
俺とカールは聞き入った。
 独演会は一人の娘によって中断された。
カールが馬を売るために声掛けた受付嬢だ。
能面のような表情をしていた彼女が血相を変えて駆け込んで来た。
「バリーさん、ギルドマスターから集合がかけられています」
 彼女の声に余裕がない。
余程のことが持ち上がったらしい。
俺達は部外者なので興味本位に尋ねることは出来ない。
でも予想はついた。
今のところの最大の懸案は、大樹海からの魔物、それしかない。
他にもあるとしたら、それはそれで・・・。
 バリーが腰を浮かし、俺とカールを見た。
「すまんなカールと坊主。
これからが面白かったのにな。
・・・。
坊主、ダンだったか、幼年学校に合格するといいな」

 俺達はそれぞれバックパックを持って店から出た。
外は暗くなりかけていた。
「少し歩くぞ」とカール。
 バックパックを背負った。
売り払った馬から降ろしたバックパックだ。
たいした重さではない。
俺が国都で生活する際に必要とする物は、
現地で新品を購入するように、と父に指示されていたので、
道中で必要になる物だけを詰め込んでいた。
着替えとか、干し肉とか。
 カールの家に向かって歩いた。
実家の細川家の屋敷ではない。
カールが軍と冒険者で稼いで手に入れた住居に向かった。
国都の区分で言うと、東門が近いので東都区になるのだそうだ。
 賑やかな繁華街の端にあった。
煉瓦造りの二階建てで、一階部分は店舗になっていて、
野菜を商っていた。
「八百屋マルコム」と看板。
店仕舞いの最中だった。
中年夫婦らしいのが店頭の野菜を片付けていた。
よくよく見ると、二人とも獣人だった。
女の方がカールに気付いた。
「あっ、おかえりなさい」と手に持っていた野菜を男に預け、
こちらに歩み寄って来た。
男も野菜を元に場所に戻し、歩み寄って来た。
二人がカールに向ける笑顔は、商売人のそれではなかった。
まるで、まるで、そう、下町のオジさんオバさんの打算のない笑顔。
 カールが俺を引き合わせた。
「これがダンタルニャン。
・・・。
こっちの二人は、偉い方がオルガ。
偉くない方がマルコム」
 男の方が首を竦めた。
偉い方のオルガが俺をマジマジと見た。
「手紙に書いてあったように、お利口そうね。
これなら幼年学校に合格するわね」
 偉くない方のマルコムが慌てた。
「軽々しく言うな。
試験は運もあるんだ」
「私の見立てにケチをつける気なの」
「これだから女は・・・」
 カールがオルガに尋ねた。
「色々と慌ただしかったから、
手紙は出立する前日にしか出せなかった。
村の旅籠に頼み駅馬車便にしたんだが、手元についたのは何時」
「昨日よ」
「よかった。
もしかしたら手紙より俺達の方が早く着くんじゃないかな、
と心配していたんだ」
 駅馬車は各地方の領都と領都、国都を結ぶ馬車による交通網で、
主に旅客と小荷物、手紙を運んでいた。
運営するのは駅馬車ギルド。
毎日運行している分けではない。
人員や馬車に限りがあるので、
便数はそれぞれの地方のギルドに任されていた。
 俺達が立ち話をしていると、店の奥から獣人の娘が飛び出して来た。
「カール兄貴っ」勢いよくカールに抱きついた。
 年の頃は十五、六か。
 カールは苦笑いしながら、「道行く人が見てるぞ」と頭を撫で回した。
「そのくらいにしなさい」オルガが力尽くで引き離した。
 娘が俺を見た。
「君が手紙にあったダンタルニャン君だね。
私はカール兄貴のお嫁さんになる予定のイライザ。
よろしくね」無邪気に言う。
「こちらこそ」言葉の勢いに押されて無自覚に握手してしまった。

 オルガとマルコムの夫婦には二人の子供がいた。
目の前の大人びて見えるイライザは実年齢十三才。
その上に兄、現在荷車でお得意様廻りをしているサム、十六才。
 オルガは元々は細川子爵家にメイドとして仕えていた。
その子爵家の屋敷に出入りしていた八百屋がマルコム。
どこでどうなったのか知らないが、
周りが気付いた時には二人は良い仲になっていて、目出度く寿退社。
・・・。
 カールは家を買ったのはいいが、冒険者なので留守がち、
空き巣への不安があった。
困っていた時に思い出したのがオルガとマルコム夫婦。
カールの子守をしていたのがオルガ、という縁もあった。
夫婦は細川屋敷のある西都区で店舗を借りて営業している、
と聞いていた。
そこで夫婦に声をかけた。
留守番代わりに無償で一階部分を貸すので入居しないか、と。

 裏の外階段に回った。
店舗の奥がマルコム一家の住居になっているので、
内階段を撤去して新たに取り付けたそうだ。
その外階段は裏庭にあった。
 階段を上がっている途中で、異様な明かりに気付いた。
南側の外壁の向こう。
夕闇の中、オレンジ色が下から上へ、空に膨れ上がろうとしていた。
火事か・・・。
 脳内モニターに文字。
「冬蛍です。
蛍の種から枝分かれした魔物です。
ほとんどが魔素で構成されていますが、魔卵を持つ個体はありません。
人に危害を加えることもありません」鑑定スキル君。
人に危害を加えない魔物がいるとは・・・。
脳内モニターをズームアップ。
一つ一つを仔細に見た。
前世の蛍に似ていた。
 俺が足を止めているとカールが教えてくれた。
「あれは冬蛍だ。綺麗な色だろう。
南に巨椋湖というのがあって、そこだけに生息しているんだ。
夏の蛍に比べて一回り大きく、この季節にだけ姿を現す。
もっとも、天候が荒れている時には姿を現さないがな。
ここでは普通だが、他所から来る者には珍しいそうだ」
 口振りから、国都の者達は魔物とは認識していないらしい。




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