バリーは興が乗ってきたのか、
外国から戻ってきたキャラバンから仕入れた噂話を、
冒険者目線の切り口で語る、語る。
それが面白いの何の。
俺とカールは聞き入った。
独演会は一人の娘によって中断された。
カールが馬を売るために声掛けた受付嬢だ。
能面のような表情をしていた彼女が血相を変えて駆け込んで来た。
「バリーさん、ギルドマスターから集合がかけられています」
彼女の声に余裕がない。
余程のことが持ち上がったらしい。
俺達は部外者なので興味本位に尋ねることは出来ない。
でも予想はついた。
今のところの最大の懸案は、大樹海からの魔物、それしかない。
他にもあるとしたら、それはそれで・・・。
バリーが腰を浮かし、俺とカールを見た。
「すまんなカールと坊主。
これからが面白かったのにな。
・・・。
坊主、ダンだったか、幼年学校に合格するといいな」
俺達はそれぞれバックパックを持って店から出た。
外は暗くなりかけていた。
「少し歩くぞ」とカール。
バックパックを背負った。
売り払った馬から降ろしたバックパックだ。
たいした重さではない。
俺が国都で生活する際に必要とする物は、
現地で新品を購入するように、と父に指示されていたので、
道中で必要になる物だけを詰め込んでいた。
着替えとか、干し肉とか。
カールの家に向かって歩いた。
実家の細川家の屋敷ではない。
カールが軍と冒険者で稼いで手に入れた住居に向かった。
国都の区分で言うと、東門が近いので東都区になるのだそうだ。
賑やかな繁華街の端にあった。
煉瓦造りの二階建てで、一階部分は店舗になっていて、
野菜を商っていた。
「八百屋マルコム」と看板。
店仕舞いの最中だった。
中年夫婦らしいのが店頭の野菜を片付けていた。
よくよく見ると、二人とも獣人だった。
女の方がカールに気付いた。
「あっ、おかえりなさい」と手に持っていた野菜を男に預け、
こちらに歩み寄って来た。
男も野菜を元に場所に戻し、歩み寄って来た。
二人がカールに向ける笑顔は、商売人のそれではなかった。
まるで、まるで、そう、下町のオジさんオバさんの打算のない笑顔。
カールが俺を引き合わせた。
「これがダンタルニャン。
・・・。
こっちの二人は、偉い方がオルガ。
偉くない方がマルコム」
男の方が首を竦めた。
偉い方のオルガが俺をマジマジと見た。
「手紙に書いてあったように、お利口そうね。
これなら幼年学校に合格するわね」
偉くない方のマルコムが慌てた。
「軽々しく言うな。
試験は運もあるんだ」
「私の見立てにケチをつける気なの」
「これだから女は・・・」
カールがオルガに尋ねた。
「色々と慌ただしかったから、
手紙は出立する前日にしか出せなかった。
村の旅籠に頼み駅馬車便にしたんだが、手元についたのは何時」
「昨日よ」
「よかった。
もしかしたら手紙より俺達の方が早く着くんじゃないかな、
と心配していたんだ」
駅馬車は各地方の領都と領都、国都を結ぶ馬車による交通網で、
主に旅客と小荷物、手紙を運んでいた。
運営するのは駅馬車ギルド。
毎日運行している分けではない。
人員や馬車に限りがあるので、
便数はそれぞれの地方のギルドに任されていた。
俺達が立ち話をしていると、店の奥から獣人の娘が飛び出して来た。
「カール兄貴っ」勢いよくカールに抱きついた。
年の頃は十五、六か。
カールは苦笑いしながら、「道行く人が見てるぞ」と頭を撫で回した。
「そのくらいにしなさい」オルガが力尽くで引き離した。
娘が俺を見た。
「君が手紙にあったダンタルニャン君だね。
私はカール兄貴のお嫁さんになる予定のイライザ。
よろしくね」無邪気に言う。
「こちらこそ」言葉の勢いに押されて無自覚に握手してしまった。
オルガとマルコムの夫婦には二人の子供がいた。
目の前の大人びて見えるイライザは実年齢十三才。
その上に兄、現在荷車でお得意様廻りをしているサム、十六才。
オルガは元々は細川子爵家にメイドとして仕えていた。
その子爵家の屋敷に出入りしていた八百屋がマルコム。
どこでどうなったのか知らないが、
周りが気付いた時には二人は良い仲になっていて、目出度く寿退社。
・・・。
カールは家を買ったのはいいが、冒険者なので留守がち、
空き巣への不安があった。
困っていた時に思い出したのがオルガとマルコム夫婦。
カールの子守をしていたのがオルガ、という縁もあった。
夫婦は細川屋敷のある西都区で店舗を借りて営業している、
と聞いていた。
そこで夫婦に声をかけた。
留守番代わりに無償で一階部分を貸すので入居しないか、と。
裏の外階段に回った。
店舗の奥がマルコム一家の住居になっているので、
内階段を撤去して新たに取り付けたそうだ。
その外階段は裏庭にあった。
階段を上がっている途中で、異様な明かりに気付いた。
南側の外壁の向こう。
夕闇の中、オレンジ色が下から上へ、空に膨れ上がろうとしていた。
火事か・・・。
脳内モニターに文字。
「冬蛍です。
蛍の種から枝分かれした魔物です。
ほとんどが魔素で構成されていますが、魔卵を持つ個体はありません。
人に危害を加えることもありません」鑑定スキル君。
人に危害を加えない魔物がいるとは・・・。
脳内モニターをズームアップ。
一つ一つを仔細に見た。
前世の蛍に似ていた。
俺が足を止めているとカールが教えてくれた。
「あれは冬蛍だ。綺麗な色だろう。
南に巨椋湖というのがあって、そこだけに生息しているんだ。
夏の蛍に比べて一回り大きく、この季節にだけ姿を現す。
もっとも、天候が荒れている時には姿を現さないがな。
ここでは普通だが、他所から来る者には珍しいそうだ」
口振りから、国都の者達は魔物とは認識していないらしい。
★
ランキングの入り口です。
(クリック詐欺ではありません。ランキング先に飛ぶだけです)
★
触れる必要はありません。
ただの飾りです。
外国から戻ってきたキャラバンから仕入れた噂話を、
冒険者目線の切り口で語る、語る。
それが面白いの何の。
俺とカールは聞き入った。
独演会は一人の娘によって中断された。
カールが馬を売るために声掛けた受付嬢だ。
能面のような表情をしていた彼女が血相を変えて駆け込んで来た。
「バリーさん、ギルドマスターから集合がかけられています」
彼女の声に余裕がない。
余程のことが持ち上がったらしい。
俺達は部外者なので興味本位に尋ねることは出来ない。
でも予想はついた。
今のところの最大の懸案は、大樹海からの魔物、それしかない。
他にもあるとしたら、それはそれで・・・。
バリーが腰を浮かし、俺とカールを見た。
「すまんなカールと坊主。
これからが面白かったのにな。
・・・。
坊主、ダンだったか、幼年学校に合格するといいな」
俺達はそれぞれバックパックを持って店から出た。
外は暗くなりかけていた。
「少し歩くぞ」とカール。
バックパックを背負った。
売り払った馬から降ろしたバックパックだ。
たいした重さではない。
俺が国都で生活する際に必要とする物は、
現地で新品を購入するように、と父に指示されていたので、
道中で必要になる物だけを詰め込んでいた。
着替えとか、干し肉とか。
カールの家に向かって歩いた。
実家の細川家の屋敷ではない。
カールが軍と冒険者で稼いで手に入れた住居に向かった。
国都の区分で言うと、東門が近いので東都区になるのだそうだ。
賑やかな繁華街の端にあった。
煉瓦造りの二階建てで、一階部分は店舗になっていて、
野菜を商っていた。
「八百屋マルコム」と看板。
店仕舞いの最中だった。
中年夫婦らしいのが店頭の野菜を片付けていた。
よくよく見ると、二人とも獣人だった。
女の方がカールに気付いた。
「あっ、おかえりなさい」と手に持っていた野菜を男に預け、
こちらに歩み寄って来た。
男も野菜を元に場所に戻し、歩み寄って来た。
二人がカールに向ける笑顔は、商売人のそれではなかった。
まるで、まるで、そう、下町のオジさんオバさんの打算のない笑顔。
カールが俺を引き合わせた。
「これがダンタルニャン。
・・・。
こっちの二人は、偉い方がオルガ。
偉くない方がマルコム」
男の方が首を竦めた。
偉い方のオルガが俺をマジマジと見た。
「手紙に書いてあったように、お利口そうね。
これなら幼年学校に合格するわね」
偉くない方のマルコムが慌てた。
「軽々しく言うな。
試験は運もあるんだ」
「私の見立てにケチをつける気なの」
「これだから女は・・・」
カールがオルガに尋ねた。
「色々と慌ただしかったから、
手紙は出立する前日にしか出せなかった。
村の旅籠に頼み駅馬車便にしたんだが、手元についたのは何時」
「昨日よ」
「よかった。
もしかしたら手紙より俺達の方が早く着くんじゃないかな、
と心配していたんだ」
駅馬車は各地方の領都と領都、国都を結ぶ馬車による交通網で、
主に旅客と小荷物、手紙を運んでいた。
運営するのは駅馬車ギルド。
毎日運行している分けではない。
人員や馬車に限りがあるので、
便数はそれぞれの地方のギルドに任されていた。
俺達が立ち話をしていると、店の奥から獣人の娘が飛び出して来た。
「カール兄貴っ」勢いよくカールに抱きついた。
年の頃は十五、六か。
カールは苦笑いしながら、「道行く人が見てるぞ」と頭を撫で回した。
「そのくらいにしなさい」オルガが力尽くで引き離した。
娘が俺を見た。
「君が手紙にあったダンタルニャン君だね。
私はカール兄貴のお嫁さんになる予定のイライザ。
よろしくね」無邪気に言う。
「こちらこそ」言葉の勢いに押されて無自覚に握手してしまった。
オルガとマルコムの夫婦には二人の子供がいた。
目の前の大人びて見えるイライザは実年齢十三才。
その上に兄、現在荷車でお得意様廻りをしているサム、十六才。
オルガは元々は細川子爵家にメイドとして仕えていた。
その子爵家の屋敷に出入りしていた八百屋がマルコム。
どこでどうなったのか知らないが、
周りが気付いた時には二人は良い仲になっていて、目出度く寿退社。
・・・。
カールは家を買ったのはいいが、冒険者なので留守がち、
空き巣への不安があった。
困っていた時に思い出したのがオルガとマルコム夫婦。
カールの子守をしていたのがオルガ、という縁もあった。
夫婦は細川屋敷のある西都区で店舗を借りて営業している、
と聞いていた。
そこで夫婦に声をかけた。
留守番代わりに無償で一階部分を貸すので入居しないか、と。
裏の外階段に回った。
店舗の奥がマルコム一家の住居になっているので、
内階段を撤去して新たに取り付けたそうだ。
その外階段は裏庭にあった。
階段を上がっている途中で、異様な明かりに気付いた。
南側の外壁の向こう。
夕闇の中、オレンジ色が下から上へ、空に膨れ上がろうとしていた。
火事か・・・。
脳内モニターに文字。
「冬蛍です。
蛍の種から枝分かれした魔物です。
ほとんどが魔素で構成されていますが、魔卵を持つ個体はありません。
人に危害を加えることもありません」鑑定スキル君。
人に危害を加えない魔物がいるとは・・・。
脳内モニターをズームアップ。
一つ一つを仔細に見た。
前世の蛍に似ていた。
俺が足を止めているとカールが教えてくれた。
「あれは冬蛍だ。綺麗な色だろう。
南に巨椋湖というのがあって、そこだけに生息しているんだ。
夏の蛍に比べて一回り大きく、この季節にだけ姿を現す。
もっとも、天候が荒れている時には姿を現さないがな。
ここでは普通だが、他所から来る者には珍しいそうだ」
口振りから、国都の者達は魔物とは認識していないらしい。
★
ランキングの入り口です。
(クリック詐欺ではありません。ランキング先に飛ぶだけです)
★
触れる必要はありません。
ただの飾りです。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます