ハッピーの質問にルイス・ブラウンは頑強に抵抗した。
嘘を吐く度に、施された術式が起動し、ランダムに、
身体の一部に痛撃を喰らわせるのだが、
彼は泣き叫びながら耐えてみせた。
どうやら尋問対策を講じているようだ。
だが、それは無駄というもの。
妖精の一人が悪い顔をしてルイスに告げた。
『貴殿はコラーソン王国の第三騎士団長、ルイス・ブラウン殿だろう』
ルイスが涙と涎、嘔吐で汚れた顔を上げた。
見難いが、自我は壊れていないようだ。
「・・・」
妖精は再び呼び掛けた。
『ルイス・ブラウン殿』
ルイスが怪訝な表情を浮かべた。
「どう、どうして分かった」
『まず、この念話から驚いて欲しいな』
ルイスがハッとした。
「念話・・・、これは」
ようやく我々が口を開いていない事に思い及んだようだ。
『我々は貴殿の頭の中に話し掛けている。
つまり、貴殿の考えている事が手に取る様に分かる』
怪訝そうな彼に続けた。
『我々は質問で貴殿の記憶を揺らし、
術式による刺激で更に掘り起こしている。
つまり、貴殿の記憶の全てを露わにしている、そういう事だ。
その上での注意だ。
これ以上続けるとダメージが深部に及ぶ。
要するに、そうなると我々では治癒できなくなる。
今なら正常な身体に戻せるが、これを続ける事はお勧めしない。
さて、貴殿はどうしたい』
虚と実をこねくり回した。
ルイスはただの人間。
激しく動揺し始めた。
しめしめ、狙い通り。
ハッピーの術式が虚実の仕分けをしている、と理解してくれれば、
より混乱させられ、尋問対策を突き崩せる。
ハッピーが冷静に質問を続けた。
『パー、貴殿は妻帯しているのか』
『ピー、国王の名は』
『プー、コラーソン王国の敵国は』
『ペー、嫡男の名前は』
『ポー、無事に帰国できると思うか』
ハッピーは関連せぬ質問でルイスに混乱を招いた。
その混乱に妖精達が付け入った。
綻びたステータスを糸口に、それぞれが鑑定を利用し、
ルイスの記憶の海をサルベージした。
嘘はハッピーの術式のお陰で分かり易い。
尋問対策用の虚構の外海を回避し、
巧みに隠された真相の内海へ至った。
この足利国は天然の要害に守られていた。
南には水棲魔物が棲む大海原。
東には大型魔物が蠢く大樹海。
北には深く険しい大山岳地帯。
そして西は広大な大砂漠地帯。
だが古来より、そこを越えて往き来する者達がいた。
一攫千金の商人、冒険者、探索者、学者。
彼等により足利国の豊かさが広く知られていた。
垂涎の地ではあるが、世界は足利国への侵攻は控えた。
その理由は二つ。
国が長く一つに纏まっていた。
要害を越えるとなると収支が赤。
そこへこの所の内戦勃発の報せ。
世界は色気を見せた。
情報収集に力を入れた。
西域諸国に属するコラーソン王国はまず侵攻を決めた。
そして先兵として、偽装させたキャメルソン傭兵団を送り込んだ。
彼等の主目的は進軍路調査と、途次の宿営地の選定、
足利国での足場確保の三つ。
傭兵団は前の二つを成し遂げ、三つ目に取り掛かっていた。
戦に託け、島津家の不満分子に密かに接触して、
それなりに手応えを得ていた。
ルイスは現在の王国の動きは知らないが、現国王の性格からして、
軍勢編成は済んでいると読んでいた。
その軍勢を待機状態にして置く事はない。
兵糧を喰うばかりだからだ。
従い、もしかすると、既に送り出しているかも知れない、とも。
アリスは決めた。
『こちらから出向いてみよう』
妖精達は賛成した。
『いいね、進軍路を逆に辿ってみよう』
『そう、見つけたら蹴散らすか』
『多少は手応えがあるのかしら』
ハッピーも大喜び。
『パー、戦だ戦だ』
アリス達はエビスに乗り込み、都城の練兵場を見下ろした。
解放したルイスがフラフラと歩いていた。
その後ろを部下達が付いて行く。
手の施しようがないから全員が困り顔。
あっ、ルイスがこけた。
直ぐに起き上がれない。
部下達が慌てて手を貸した。
アリスがハッピーに尋ねた。
『回復できるのかしら』
『ピー、無理無理。
ポーションでも施術でも無理っピー』
コラーソン王国の進軍路を逆に辿る事にした。
上陸点・枕崎をその上空から見下ろした。
ここからなら鹿児島から程よい距離。
近場には開聞岳と池田湖を擁する大樹海もあった。
兵糧の肉にも不足しないだろう。
良い着眼点だ。
アリスが提案した。
『先に池田湖の魔物・イッシーを狩らない』
イッシーの餌となる巨大ウナギも気になる。
『それは戻ってから』
『突っ込んで、チャチャッとやっちゃおうよ』
『アリス、寄り道は程々にね』
真西に飛行した。
下は砂漠なので見るべき物はない。
ただただ砂々砂、一面が砂の海。
時折、大量の砂が吹雪の様に風に飛ばされて来た。
それでもエビスに影響なし。
何事もなく飛行を続けた。
気が付いた。
棲む魔物がいない。
たぶん、餌となる物がいないから。
オアシスを見つけた。
小さな泉があり、低木の木々が周囲に生えていた。
家は、家は、と探したが、痕跡一つなし。
面積からして定住は無理だろう。
ただ、宿営地にはなっている様で、
それらしき広さの土地が踏み固められていた。
妖精の一人が注意を喚起した。
『気を付けて。
右斜め前方に黒い雲が出現した』
確かに怪しい。
その雲がこちらに向かって来る。
あれは・・・、黒い柱、蛇の様に揺れ動いて・・・。
それも三つ。
『アリス、竜巻よ。
こちらに急接近して来るわ』
三つの竜巻はそれぞれ速度が違った。
しかも、右に左に揺れ動きながらだから、影響する範囲が確としない。
嘘を吐く度に、施された術式が起動し、ランダムに、
身体の一部に痛撃を喰らわせるのだが、
彼は泣き叫びながら耐えてみせた。
どうやら尋問対策を講じているようだ。
だが、それは無駄というもの。
妖精の一人が悪い顔をしてルイスに告げた。
『貴殿はコラーソン王国の第三騎士団長、ルイス・ブラウン殿だろう』
ルイスが涙と涎、嘔吐で汚れた顔を上げた。
見難いが、自我は壊れていないようだ。
「・・・」
妖精は再び呼び掛けた。
『ルイス・ブラウン殿』
ルイスが怪訝な表情を浮かべた。
「どう、どうして分かった」
『まず、この念話から驚いて欲しいな』
ルイスがハッとした。
「念話・・・、これは」
ようやく我々が口を開いていない事に思い及んだようだ。
『我々は貴殿の頭の中に話し掛けている。
つまり、貴殿の考えている事が手に取る様に分かる』
怪訝そうな彼に続けた。
『我々は質問で貴殿の記憶を揺らし、
術式による刺激で更に掘り起こしている。
つまり、貴殿の記憶の全てを露わにしている、そういう事だ。
その上での注意だ。
これ以上続けるとダメージが深部に及ぶ。
要するに、そうなると我々では治癒できなくなる。
今なら正常な身体に戻せるが、これを続ける事はお勧めしない。
さて、貴殿はどうしたい』
虚と実をこねくり回した。
ルイスはただの人間。
激しく動揺し始めた。
しめしめ、狙い通り。
ハッピーの術式が虚実の仕分けをしている、と理解してくれれば、
より混乱させられ、尋問対策を突き崩せる。
ハッピーが冷静に質問を続けた。
『パー、貴殿は妻帯しているのか』
『ピー、国王の名は』
『プー、コラーソン王国の敵国は』
『ペー、嫡男の名前は』
『ポー、無事に帰国できると思うか』
ハッピーは関連せぬ質問でルイスに混乱を招いた。
その混乱に妖精達が付け入った。
綻びたステータスを糸口に、それぞれが鑑定を利用し、
ルイスの記憶の海をサルベージした。
嘘はハッピーの術式のお陰で分かり易い。
尋問対策用の虚構の外海を回避し、
巧みに隠された真相の内海へ至った。
この足利国は天然の要害に守られていた。
南には水棲魔物が棲む大海原。
東には大型魔物が蠢く大樹海。
北には深く険しい大山岳地帯。
そして西は広大な大砂漠地帯。
だが古来より、そこを越えて往き来する者達がいた。
一攫千金の商人、冒険者、探索者、学者。
彼等により足利国の豊かさが広く知られていた。
垂涎の地ではあるが、世界は足利国への侵攻は控えた。
その理由は二つ。
国が長く一つに纏まっていた。
要害を越えるとなると収支が赤。
そこへこの所の内戦勃発の報せ。
世界は色気を見せた。
情報収集に力を入れた。
西域諸国に属するコラーソン王国はまず侵攻を決めた。
そして先兵として、偽装させたキャメルソン傭兵団を送り込んだ。
彼等の主目的は進軍路調査と、途次の宿営地の選定、
足利国での足場確保の三つ。
傭兵団は前の二つを成し遂げ、三つ目に取り掛かっていた。
戦に託け、島津家の不満分子に密かに接触して、
それなりに手応えを得ていた。
ルイスは現在の王国の動きは知らないが、現国王の性格からして、
軍勢編成は済んでいると読んでいた。
その軍勢を待機状態にして置く事はない。
兵糧を喰うばかりだからだ。
従い、もしかすると、既に送り出しているかも知れない、とも。
アリスは決めた。
『こちらから出向いてみよう』
妖精達は賛成した。
『いいね、進軍路を逆に辿ってみよう』
『そう、見つけたら蹴散らすか』
『多少は手応えがあるのかしら』
ハッピーも大喜び。
『パー、戦だ戦だ』
アリス達はエビスに乗り込み、都城の練兵場を見下ろした。
解放したルイスがフラフラと歩いていた。
その後ろを部下達が付いて行く。
手の施しようがないから全員が困り顔。
あっ、ルイスがこけた。
直ぐに起き上がれない。
部下達が慌てて手を貸した。
アリスがハッピーに尋ねた。
『回復できるのかしら』
『ピー、無理無理。
ポーションでも施術でも無理っピー』
コラーソン王国の進軍路を逆に辿る事にした。
上陸点・枕崎をその上空から見下ろした。
ここからなら鹿児島から程よい距離。
近場には開聞岳と池田湖を擁する大樹海もあった。
兵糧の肉にも不足しないだろう。
良い着眼点だ。
アリスが提案した。
『先に池田湖の魔物・イッシーを狩らない』
イッシーの餌となる巨大ウナギも気になる。
『それは戻ってから』
『突っ込んで、チャチャッとやっちゃおうよ』
『アリス、寄り道は程々にね』
真西に飛行した。
下は砂漠なので見るべき物はない。
ただただ砂々砂、一面が砂の海。
時折、大量の砂が吹雪の様に風に飛ばされて来た。
それでもエビスに影響なし。
何事もなく飛行を続けた。
気が付いた。
棲む魔物がいない。
たぶん、餌となる物がいないから。
オアシスを見つけた。
小さな泉があり、低木の木々が周囲に生えていた。
家は、家は、と探したが、痕跡一つなし。
面積からして定住は無理だろう。
ただ、宿営地にはなっている様で、
それらしき広さの土地が踏み固められていた。
妖精の一人が注意を喚起した。
『気を付けて。
右斜め前方に黒い雲が出現した』
確かに怪しい。
その雲がこちらに向かって来る。
あれは・・・、黒い柱、蛇の様に揺れ動いて・・・。
それも三つ。
『アリス、竜巻よ。
こちらに急接近して来るわ』
三つの竜巻はそれぞれ速度が違った。
しかも、右に左に揺れ動きながらだから、影響する範囲が確としない。
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