ベティ王妃は陣頭に立った。
軍服ではない。
そもそも王妃用の軍服はない。
そこで主立った連中が思い立ったのが儀式用の礼服・ドレス。
頭にはティアラ。
その姿で前線を見回してから視線を隣のロバート三好侯爵に転じた。
「これでいいの」
「はい、ベティ様のご尊顔で敵を威圧するのです」
「私で威圧ね・・・」
「敵の多くは雇われ者です。
ベティ様を見て、誰を敵に回しているのか、はっきり分かるでしょう」
威圧してるかどうかは分からないが、
敵陣が静まり返っているのは分かる。
「矢も魔法も飛んで来ないわね」
「美しいベティ様に見惚れているのでしょうな」
「貴方は余裕ね」
ベティの困惑を無視してロバート三好が右手を上げた。
将兵が一斉に鬨の声を上げた。
それがベティの背中を押した。
国王の代理として采配を振った。
途端、空気が変わった。
最初に飛び出したのは予想外の物。
隊列が左右に割れ、巨人が現れた。
3メートルの鉄鋼ゴーレム。
その一体がドタドタと駆けて行く。
巨体が起こす風ゆえに、ベティのドレスの裾がフワリと捲れ上がった。
敵陣から悲鳴に似た怒号が上がった。
「誰か足止めしろ」
「シールドを張れ」
「魔法で迎撃しろ」
「ベティ様、お下がり下さい」
「分かったわ。
でも凄いゴーレムよね」
「確かに」
「敵が気の毒よね」
「はい、私なら真っ先に逃げますな」
「そうかしら。
そうは思えないわね。
貴方なら逃げる様に見せて、
追って来るゴーレムに罠を仕掛けるのではないですか」
「はっはっは、試す日が来なければ宜しいですな」
ベティはロバート三好に背中を守られて後方へ退いた。
途中、レオン織田子爵に出迎えられた。
尾張地方を統治するフレデリー織田伯爵の庶子だ。
その彼が踵を揃えた敬礼した。
「驚かせましたでしょうか」
レオンが土魔法でゴーレムを造り上げた。
土のゴーレムなら十体は可能なのだが、
それを自らの提言で敢えて一体の鋼鉄ゴーレムにした。
水魔法に弱い土のゴーレム十体より、
強度と剛性に優れた一体の鋼鉄ゴーレム。
「気にしないで。
それより、ゴーレムの操作をしなくていいのかしら」
「核の魔水晶に術式を施しています。
最高管理者は私ですが、サブとして家臣を書き込みました。
ゴーレム操作はその家臣に任せています。
お陰で今、私はとても暇なのです」
ロバートが言う。
「あれだけのゴーレムだ、魔力を使い切ったのだろう。
ごくろうだった。
どうだ、王妃様と一緒にお茶でもどうだ」
「よろしいので」嬉しそう。
「よろしいも、よろしくもない、付き合え。
ポーションも奢るぞ。
王室の物だから高品質の物だ」
敵陣から攻撃魔法や矢がゴーレムに集中した。
しかし、鉄鋼製。
蚊に刺された様なもの。
全てを弾き返した。
鉄鋼ゴーレムが無傷で敵陣に突入した。
遅れじと王妃の軍が続く。
多勢に無勢。
加えて鉄鋼ゴーレム。
こうなると単なる虐殺でしかない。
南門に陣を敷いたカーティス北畠公爵は、
前線から戻って来た側近の報告に我が耳を疑った。
「鉄鋼ゴーレムが現れたと」
「はい、
矢も攻撃魔法も通じません」
「鉄鋼ゴーレムか。
造れる者が存在したのか」
「如何いたます」
応じたのは公爵家の執事。
「大切なのは公爵様の御身。
一度や二度の負けで命を散らしてはなりません。
再起を期して今は逃げましょう」
カーティスは顔を歪めた。
「まだ一度も負けていないが・・・」
執事は周りの者に指示を下した。
「一隊は先に出て貴族の屋敷を襲って下さい。
幸い、相手は南区の貴族街にいます。
ダンタルニャン佐藤子爵、お子様子です。
王妃軍に忍ばせている者の報告によると、
王妃は王女をお子様子爵に預けているそうです」
カーティスは目を瞬いた。
「どうするんだ」
「一隊で子爵邸を襲い、王妃軍の目を引き付けます。
公爵様はその隙にもう一隊と共に外郭の南門から逃げていただきます」
「屋敷の者達は」
「逃げる準備はさせてあります」
「手回しがいいな。
負けると読んでいたのか」
「まさか。
全てに備えるのが執事の役目です」
北門のバーナード今川公爵は兄からの使者に言葉を失った。
「兄はすでに逃げたと言うのか」
「はい、公爵様も直ちに逃げられる様にと」
「随分手回しがいいな」
ここでも公爵家の執事が言葉を差し挟んだ。
「公爵様、こちらの屋敷も準備は終えています」
「向こうの執事と事前に示し合わせていたのか」
「それが執事の仕事です」
「そうか。
逃れられるか・・・」
「それ相応の者に殿を任せましょう」
側近の一人が名乗りを上げた。
「私目にお任せ下さい」
「死ぬぞ」
「もう充分に生きました。
ここらで終えましょう」
「すまぬな。
必要な兵力を持って行け」
「自分の中隊で」
「少なくないか」
「門で防ぐだけなので、これで充分です」
「すまぬな」頭を下げた。
「公爵様、最後に言わせて頂きます。
主は臣に頭を下げてはなりません」
軍服ではない。
そもそも王妃用の軍服はない。
そこで主立った連中が思い立ったのが儀式用の礼服・ドレス。
頭にはティアラ。
その姿で前線を見回してから視線を隣のロバート三好侯爵に転じた。
「これでいいの」
「はい、ベティ様のご尊顔で敵を威圧するのです」
「私で威圧ね・・・」
「敵の多くは雇われ者です。
ベティ様を見て、誰を敵に回しているのか、はっきり分かるでしょう」
威圧してるかどうかは分からないが、
敵陣が静まり返っているのは分かる。
「矢も魔法も飛んで来ないわね」
「美しいベティ様に見惚れているのでしょうな」
「貴方は余裕ね」
ベティの困惑を無視してロバート三好が右手を上げた。
将兵が一斉に鬨の声を上げた。
それがベティの背中を押した。
国王の代理として采配を振った。
途端、空気が変わった。
最初に飛び出したのは予想外の物。
隊列が左右に割れ、巨人が現れた。
3メートルの鉄鋼ゴーレム。
その一体がドタドタと駆けて行く。
巨体が起こす風ゆえに、ベティのドレスの裾がフワリと捲れ上がった。
敵陣から悲鳴に似た怒号が上がった。
「誰か足止めしろ」
「シールドを張れ」
「魔法で迎撃しろ」
「ベティ様、お下がり下さい」
「分かったわ。
でも凄いゴーレムよね」
「確かに」
「敵が気の毒よね」
「はい、私なら真っ先に逃げますな」
「そうかしら。
そうは思えないわね。
貴方なら逃げる様に見せて、
追って来るゴーレムに罠を仕掛けるのではないですか」
「はっはっは、試す日が来なければ宜しいですな」
ベティはロバート三好に背中を守られて後方へ退いた。
途中、レオン織田子爵に出迎えられた。
尾張地方を統治するフレデリー織田伯爵の庶子だ。
その彼が踵を揃えた敬礼した。
「驚かせましたでしょうか」
レオンが土魔法でゴーレムを造り上げた。
土のゴーレムなら十体は可能なのだが、
それを自らの提言で敢えて一体の鋼鉄ゴーレムにした。
水魔法に弱い土のゴーレム十体より、
強度と剛性に優れた一体の鋼鉄ゴーレム。
「気にしないで。
それより、ゴーレムの操作をしなくていいのかしら」
「核の魔水晶に術式を施しています。
最高管理者は私ですが、サブとして家臣を書き込みました。
ゴーレム操作はその家臣に任せています。
お陰で今、私はとても暇なのです」
ロバートが言う。
「あれだけのゴーレムだ、魔力を使い切ったのだろう。
ごくろうだった。
どうだ、王妃様と一緒にお茶でもどうだ」
「よろしいので」嬉しそう。
「よろしいも、よろしくもない、付き合え。
ポーションも奢るぞ。
王室の物だから高品質の物だ」
敵陣から攻撃魔法や矢がゴーレムに集中した。
しかし、鉄鋼製。
蚊に刺された様なもの。
全てを弾き返した。
鉄鋼ゴーレムが無傷で敵陣に突入した。
遅れじと王妃の軍が続く。
多勢に無勢。
加えて鉄鋼ゴーレム。
こうなると単なる虐殺でしかない。
南門に陣を敷いたカーティス北畠公爵は、
前線から戻って来た側近の報告に我が耳を疑った。
「鉄鋼ゴーレムが現れたと」
「はい、
矢も攻撃魔法も通じません」
「鉄鋼ゴーレムか。
造れる者が存在したのか」
「如何いたます」
応じたのは公爵家の執事。
「大切なのは公爵様の御身。
一度や二度の負けで命を散らしてはなりません。
再起を期して今は逃げましょう」
カーティスは顔を歪めた。
「まだ一度も負けていないが・・・」
執事は周りの者に指示を下した。
「一隊は先に出て貴族の屋敷を襲って下さい。
幸い、相手は南区の貴族街にいます。
ダンタルニャン佐藤子爵、お子様子です。
王妃軍に忍ばせている者の報告によると、
王妃は王女をお子様子爵に預けているそうです」
カーティスは目を瞬いた。
「どうするんだ」
「一隊で子爵邸を襲い、王妃軍の目を引き付けます。
公爵様はその隙にもう一隊と共に外郭の南門から逃げていただきます」
「屋敷の者達は」
「逃げる準備はさせてあります」
「手回しがいいな。
負けると読んでいたのか」
「まさか。
全てに備えるのが執事の役目です」
北門のバーナード今川公爵は兄からの使者に言葉を失った。
「兄はすでに逃げたと言うのか」
「はい、公爵様も直ちに逃げられる様にと」
「随分手回しがいいな」
ここでも公爵家の執事が言葉を差し挟んだ。
「公爵様、こちらの屋敷も準備は終えています」
「向こうの執事と事前に示し合わせていたのか」
「それが執事の仕事です」
「そうか。
逃れられるか・・・」
「それ相応の者に殿を任せましょう」
側近の一人が名乗りを上げた。
「私目にお任せ下さい」
「死ぬぞ」
「もう充分に生きました。
ここらで終えましょう」
「すまぬな。
必要な兵力を持って行け」
「自分の中隊で」
「少なくないか」
「門で防ぐだけなので、これで充分です」
「すまぬな」頭を下げた。
「公爵様、最後に言わせて頂きます。
主は臣に頭を下げてはなりません」
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