高校公民Blog

高校の公民科(現代社会・政治経済・倫理)教育に関連したBlogです

この夏の読書 1 格差問題の整理

2007-07-27 12:40:40 | ブックレビュー
経済問題としての格差の難解さ

 私は、授業で不平等の問題を提起しきれていません。この問題を、どう扱うかということですが、学校内では「落ちこぼれ」問題なんです。それは、やがて生存権というコンセプトへとつながっていくんですね。デキの悪い人間が学校へ来る意味は何か、みたいな。 他方、不平等問題は、経済問題でもあります。通常、こちらが強調されるわけですね。フリーターやニートに代表される経済格差や正規・非正規の雇用形態に対するアプローチ、それは、学校というもの、学歴というものが持つ意味を考えるというところへとつながります。おさえておかなければいけないのは、たとえば『現代社会』は通常、新入学した生徒が履修する機会が多い。いわばモラトリアム状態まっただ中の彼らには経済なんて意識にのぼりません。それだけに大変扱いにくい問題なんです。 学校の外部の人間は、経済問題をあたかも身近なような錯覚で捉えられると思うのですが、学校的には全然そうではありません。私たちが最も頭が痛い問題なのです。教員も経済問題は「外部」の問題です。下世話で言う「教員の世間知らず」の問題なのです。 さて、下に紹介した文献は、いずれも不平等を扱ったものです。私は、その殆どの文献に一応目を通し、中には精読したものもありますが、中にはさらっと通読したり、ポイントと思われる所だけ読んだもの若干あります。 今年の夏は、これらの文献を整理する作業をしたいと考えています。これをもう一度よむとしたら膨大な時間がかかります。このブログでも何回かにわたって紹介したいと考えています。

総論的な文献
不平等社会日本―さよなら総中流
佐藤 俊樹
中央公論新社

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希望格差社会―「負け組」の絶望感が日本を引き裂く
山田 昌弘
筑摩書房

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日本の経済格差―所得と資産から考える (岩波新書)
橘木 俊詔
岩波書店

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格差社会―何が問題なのか (岩波新書)
橘木 俊詔
岩波書店

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佐藤俊樹の『不平等社会日本』は、2000年に話題になった本です。身分制とでもよぶべき現状を多彩なデータで論証しています。授業で使うというより私たちが踏まえておくべきフレームワークとして山田昌弘の文献ともどもお読みになられるとよいと思いますね。橘木俊詔は、経済的な格差を問題にした草分け的な存在です。資産や所得の格差の現状と構造分析、『日本の経済格』でしばしば登場し、人口に膾炙するようになった「ジニ係数」を駆使して日本社会の不平等を明らかにしています。さらに、対談形式で不平等論議の専門家たちが書いた下の文献もどうぞ。
封印される不平等
橘木 俊詔,斎藤 貴男,苅谷 剛彦,佐藤 俊樹
東洋経済新報社

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学校の問題としての格差

教育の格差問題を考える上で、重要な研究者のひとりが苅谷剛彦です。苅谷は『大衆教育社会のゆくえ』で、総中流化の中でひそかに格差が拡がってゆく現実を問題提起しました。さらに、下の作品は格差が表面化していく現実を「意欲格差社会」という概念を駆使して分析してゆきます。下の新書はその大衆版とお考えいただいていいと思います。
階層化日本と教育危機―不平等再生産から意欲格差社会(インセンティブ・ディバイド)へ
苅谷 剛彦
有信堂高文社

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教育改革の幻想
苅谷 剛彦
筑摩書房

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学校社会と労働社会の接続

本田由紀は、学校と労働社会の接続を問題にしている社会学者です。 本田は、『ニートって言うな!』のなかでニートやフリーターが、ひきこもりのような個人的な事情で発生するかのような論調に対して、あくまで社会の構造上の問題として発生するという立場に立っています。『若者と仕事』ではそれを学校という機関がもってきた職業斡旋の機能の変遷をとおしてフリーターの発生を説明しようとしています。
 さらに、この夏労働問題の専門家である熊沢誠の議論を重ねて、若年労働のおかれている状況を整理したいと思います。さらに、『内側から見た富士通』で成果主義の問題を提起した城繁幸の『若者はなぜ3年で辞めるのか?』は副題にあるように実は本田がいう構造が年功序列という既得権を守るシステムだという告発がなされているのです。

「ニート」って言うな! (光文社新書)
本田 由紀,内藤 朝雄,後藤 和智
光文社

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若者と仕事―「学校経由の就職」を超えて
本田 由紀
東京大学出版会

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若者が働くとき―「使い捨てられ」も「燃えつき」もせず
熊沢 誠
ミネルヴァ書房

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若者はなぜ3年で辞めるのか? 年功序列が奪う日本の未来
城 繁幸
光文社

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