香港と台湾の民主化運動は再びシンクロするか? 【澁谷司──中国包囲網の現在地】
2019.07.02(liverty web)
《本記事のポイント》
- 「逃亡犯条例」改正は「死人を見送る」ようなものだった
- 香港情勢が台湾・民進党の勝利を左右するとしたら?
- 「雨傘革命」につながった「ひまわり学生運動」
香港では「逃亡犯条例」改正をめぐり、大規模なデモが連日繰り広げられた。すでに報道されている通り、改正に反対する市民は200万人を超えた(主催者側発表)。そのなかには、「親中派」の香港ビジネスマンも参加しているという。
市民が掲げていた言葉は、「反送中」。「香港での犯罪容疑者を中国へ送ることに反対する」という意味だ。
この言葉は奇しくも、「最期を見届ける、死人を見送る」ことを意味する「送終」と同じ読み方である。実際、容疑者が香港から中国本土へ送られたら、政治色の強い不透明な裁判で裁かれる。まさに死人を見送るようなものだ。
「雨傘革命」につながった「ひまわり学生運動」
こうした香港の民主化運動は、台湾の民主化運動と強くシンクロしていることに注目したい。
2014年3月、台湾で中台間での「サービス貿易協定」をめぐり、「ひまわり学生運動」が起きたことは記憶に新しい。協定の批准を阻止するため、学生や市民が立法院に立て篭もった。
この運動を見て鼓舞されたのか、同年9月、香港で「雨傘革命」が起きた。中国の全人代常務委員会が、「香港の次期行政長官候補は、指名委員会の過半数の支持が必要であり、その候補者を2~3人に限定する」ことを決めた。これに対し、一部の知識人や学生らが立ち上がった。
そんな「雨傘革命」が進行中の11月下旬、台湾で統一地方選挙が行われた。当時の野党・民進党は「今日の香港は、明日の台湾」と主張して、大勝。これが2016年1月の台湾総統と立法委員選挙の大勝利にも繋がった。
香港情勢が台湾・民進党の勝利を左右するとしたら?
今回の「反送中」運動も、事の運び方によっては、台湾情勢とシンクロするかもしれない。
林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官は、立法会での審議を急いだことを市民に謝罪した。だが、審議を無期限で延期しただけで、改正案は撤回していない。
習近平政権としては、威信(面子)にかけて、一刻も早く改正案を通過させたい。そのために最終的には、南部戦区の人民解放軍を香港へ送り込み、「反送中」運動を弾圧する可能性も否定できない。
さすがにG20大阪サミット前に強硬手段に出られないだろうが、7月以降ならばその確率は高まる。
一方、台湾においては、民進党の調子が正直言ってよろしくない。今年に入り、蔡英文総統は、無理矢理「同性婚」の立法を進めた。これに、民進党の強力な支持母体である台湾基督長老会(福音派)は怒り心頭。次期総統選挙では、蔡総統に投票しないだろう。
目下、野党・国民党からは郭台銘(かく・たいめい)鴻海元会長か、韓国瑜(かん・こくゆ)高雄市長が出馬する可能性がある。どちらになっても、蔡総統の勝算はさほど高くはない。
しかし、もし香港で「第二次天安門事件」が起きれば、来年1月の総統選挙で、中国共産党に近い候補者は敬遠され、結局、蔡総統が再選するかもしれない。
拓殖大学海外事情研究所
澁谷 司
(しぶや・つかさ)1953年、東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。関東学院大学、亜細亜大学、青山学院大学、東京外国語大学などで非常勤講師を歴任。2004年夏~2005年夏にかけて台湾の明道管理学院(現、明道大学)で教鞭をとる。2011年4月~2014年3月まで拓殖大学海外事情研究所附属華僑研究センター長。現在、拓殖大学海外事情研究所教授。著書に『人が死滅する中国汚染大陸 超複合汚染の恐怖』(経済界新書)、『2017年から始まる! 「砂上の中華帝国」大崩壊』(電波社)など。
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