天地わたるブログ

ほがらかに、おおらかに

今は昔の「草泊」に挑む

2024-08-31 04:44:59 | 俳句



今月のKBJ句会で今ではもう行われていないであろう季語「草泊(草山)」を楽しんだ。皆さん見たことも経験もない兼題に苦労したらしい。
火山の裾の広い草原地帯で、秋の彼岸の後、草を刈る。そのとき仮小屋を建て、寝泊りする風習があった。これを「草泊(草山)」という。
刈り取った草は家畜の飼料や、茅葺の材に利用される。集団での寝泊りは若い男女の楽しみでもあったとされる。阿蘇が有名だが、久住山、鳥海山、岩木山などにも見られる。
小生は経験がないが父と兄は頼まれて伊那の奥の大鹿村へ草刈りに何日か出張したことがあった。そのとき二人が使った大鎌が目に焼き付いている。大鹿村は村歌舞伎で人寄せをしている。辺りで撃ち取った鹿を刺身として出してくれる。美味い。






何年か前、絶滅季語を再生すべくこの季語に挑み、
父母会うて吾を得しといふ草泊 わたる
と書き鷹主宰が採った。フィクションである。
母は祖母に気に入られた。祖母は10キロほど歩いてその家を訪ね、息子の嫁にきてくれないかと頼んだそうだ。それが縁で母と父は結婚したのであり、草泊は関係ない。しかし若い男(父)と若い女(母)が雑魚寝して草の褥で契ったというのはロマン。俳句にしてしまった。
さて「草泊(草山)」にはほかにどんな句があるか。

草山の一歩ははるか秋燕 折井眞琴
「一歩ははるか」はよくわかる。気が遠くなるような広さの草刈りである。別に配した「秋燕」が効いている。

草山に浮き沈みつつ風の百合 松本たかし
いちめんの緑の草のなかに百合が首を出している。印象的な光景。

指で梳く蓬髪秋の草山に  中尾寿美子
「蓬髪」と「草山」が呼応する。自分の髪の哀れさが際立つ。

火山灰汚れして草泊重ねけり  佐藤淡竹
火山灰が降るのは阿蘇山か。いま噴煙を上げていないとすれば往時の阿蘇山。想像でない迫力がある。

草泊こゝぞこゝぞと火を焚ける 井桁蒼水
火を焚いて煮て食う。茶を沸かす。火は人の集う拠り所である。

************************************************
     


草山に星見る女妻に欲し わたる
昼間よく働く。夜は星を愛でる。そういう女は伴侶にいいだろうな。

鎌研ぐも煮炊きも沢や草泊 わたる
小屋を作るのはそうむつかしくない。野営の問題は水である。何日も滞在するのであれば川のそばでないと。
歳時記には今はない季語がたくさんある。「相撲」は神事でありいま大相撲協会がやっているものとは違う。
「鹿垣」はあるかもしれないが、「鹿火屋(かびや)」などどこに存在するか。まして「鹿火屋守」など。こういう季語を見ていると東北に「蝦夷(えみし)」がいたころを思う。
第一次産業の原点のような営みである。農林水産業の衰退と裏腹に現代の日本がある。いまスマホに象徴される通信文化など浮塵子(うんか)のようにはかなく感じてしまう。歳時記の中に死蔵されている季語の実態を想像しいろいろ考える秋である。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 鷹9月号小川軽舟を読む | トップ | 根岸操を鷹同人に推薦します »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

俳句」カテゴリの最新記事