夕暮れ時、ふと通りの向こうを見ると、半開きになったシャッターの内側がすぐ階段になっており、階段の中ほどに黒い猫がいて、こちらを見つめている。
思わず、私もその猫を凝視する。
なんだか、私に話したそうにしているように思えたので、手招きする。
ゆっくりゆっくりと猫は階段を一段づつ降り、どういうわけかそのテンポにしたがってシャッターも少しづつ降りてゆく。
やがてシャッターが降りきろうとし、猫も下段にたどりついたようで、思わず「危ない!」と私は叫ぶ。
しかし猫はもう隙間もなさそうなシャッターの下から、そろりと這い出してきた。
そのまま猫は注意深く道を渡り、私のところまで1歩一歩近づき、ついには膝に駆け上がってくる。
周囲の人たちは、気づかぬふりをしている。
しばらく黒猫を抱いていたが、姿勢が疲れてきたので、下ろそうとすると、その猫は鋭く私を睨む。
そしてだんだん抱きかかえる手の中で、大きさを増し、重量も増えていく。
私は、その猫に圧迫されながら、助けを呼ぼうとするのだが、道行く人は、誰も無言で振り返ろうとしない。
図版;船幽霊
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