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膵臓ガンの分子標的薬治療

2019-04-10 10:59:46 | 健康・医療
ゲノム研究が進んでガン発生に必要な遺伝子突然変異がよく分かってきても、膵臓ガンは治療の最も困難なガンとされています。

このブログでも2か月ほど前に膵臓ガンの術前化学療法について書きましたが、色々治療法は進歩しているようです。

ガン発生のためには、細胞の増殖を促進するアクセル役の遺伝子変異と、増殖し過ぎを抑えるブレーキ役の遺伝子の機能を抑える変異の両方が必要となります。

これまでの膵臓ガンの研究では、100%に近いガンがRasシグナルに関わる分子の変異をアクセルとして使っており、5-8割のガンでブレーキ役のp53がん抑制遺伝子の機能が落ちています。

またRas遺伝子とp53変異を組み合わせることで、マウスでも人間と同じような膵臓ガンを発生させることができます。つまりこの経路を操作してアクセルを止めるかブレーキを踏みなおすかすれば、ガンを抑えられるはずですが、薬剤を用いてRasやその下流のシグナルを抑制しても、ガンは全く反応しないか反応してもすぐに復活してしまいます。

これまでの研究で、ガン細胞増殖のアクセルであるRasシグナル経路を阻害して細胞の増殖を止めようとすると、この細胞の自己防御反応といえるオートファジーが活性化され、ガン細胞を守ることが分かっています。

そこでRasシグナル経路を阻害すると同時に、オートファジーも止めてしまえば、ガンを治せることになります。この可能性にユタ大学の研究グループが挑戦し、実際の患者のガンを抑えることに成功したという報告が出ました。

この研究の詳細は省略しますが、まずガン細胞のオートファジーが亢進しているのか低下しているかを調べました。その結果Rasシグナルを阻害するとオートファジーは亢進すること、およびこのオートファジーを高める分子経路も明らかにしました。

そこでRas下流のMEK分子の機能を抑える薬剤のトラメチニブと、オートファジーが起こるのを止める薬剤のクロロキンの両方を同時にガンに投与すると、期待通りガン細胞の増殖を強く抑えることが分かりました。

研究グループは、一般的な化学療法では全く反応しなかった患者を選び、トラメチニブの量は固定して、ガンマーカーを見ながらクロロキンの量を増やしていく治療を行いました。

クロロキンの濃度が1200mgを超えたとき、急速にガンマーカーが低下し、CTでもガンの縮小が認められました。4か月経過した後もガンの進行は抑制されたままで、現在も観察中としています。

一人の患者だけですので臨床試験とは言えませんが、早く安全性を確認し有効な治験を始めてほしい結果と言えるかもしれません。