ごっとさんのブログ

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コーヒー生豆のポリフェノールで認知機能改善

2018-03-31 10:44:28 | 化学
山形県立米沢栄養大学の研究グループが、コーヒーの生豆などに含まれるクロロゲン酸に高齢者の認知機能を改善する効果があることを発表しました。

これは大手食品メーカ花王との共同研究で実証したもので、コーヒー摂取による認知症改善の報告はありますが、クロロゲン酸摂取による実証例は初めてとのことです。

研究グループは2014年8月から半年間、米沢市の65歳以上の男女8人にクロロゲン酸330ミリグラム入りの試験飲料100ミリリットルを毎日就寝前に摂取してもらい、その前後の認知機能テストで効果を調べました。

このクロロゲン酸というのは、コーヒー酸とキナ酸という面白い構造をした化合物の縮合物で、ポリフェノールの1種と考えられます。かなり加水分解されやすい物質で、コーヒー抽出時にはかなり分解されてしまうようです。

この化合物はラジカル補足能を持つため、抗酸化作用が期待されています。またα-グルコシダーゼの阻害活性が認められ、ラットで食後の血糖値の上昇の抑制作用も認められています。このようにクロロゲン酸は色々な生理活性があり注目されているようです。

ただ今回の試験での使用量が多いような気がしますが、コーヒー1杯中のポリフェノール総量は230ミリグラム程度とされていますので、その量に合わせたのかもしれません。

さてこの実験では8人全員テスト前は認知機能の低下を自覚していましたが、摂取後に視覚運動機能や注意機能、記憶能力など計15項目をテストしたところ、最高で平均20%の改善が示されました。特に前頭部の脳がつかさどる注意機能などの改善が顕著だったようです。

血液検査では、認知症を引き起こすタンパク質の一種であるアミロイドβが平均27%低下し、言語記憶の改善にも効果が見られました。

認知症は将来的に高齢者5人に1人の割合で発症するとの予想もあり、根治治療が確立されていませんので、今回の実証は予防対策に役立つと期待されています。しかし今回の実証試験はわずか8人という少人数であり、色々と述べられているように認知症の診断自身が非常に難しいこともありどの程度有意差のある検証かはやや疑わしいところもあります。

研究グループは、クロロゲン酸の効果が実証されたことで、今後は運動と栄養の側面から認知症予防への相乗効果の具体策を考えていきたいとしています。クロロゲン酸はコーヒーなどの成分として長く摂取している化合物ですので、副作用などの心配もなく予防薬としては面白いものなのかもしれません。


悲観主義者は自信を持っている?

2018-03-30 10:47:21 | その他
私は昔から、それこそ学生のころから楽観主義と自他ともに認めていました。ここではそういったポジティブ思考にリスクがあるという話題を取り上げてみます。

前向きで健康的な生活が、充実した人生や社会的成功に結び付くとされています。書店に入っても健康や自己啓発に関連した本が多数並んでおり、何かにつけても人々のポジティブ志向、健康志向が目立つ世の中になっています。

しかしこの世のポジティブ志向を少し考え直してみたくなる最新の研究が報告されています。ある種のペシミスト(悲観主義者)は、仕事などで高いパフォーマンスを発揮し、悲観的でありながら自分に自信を持っているといいます。

そのクールな悲観主義者は「防御的ペシミスト」と分類されるもので、その特徴は常に最悪の結果やシナリオを想定している人物というものです。研究者によるとこれら防御的悲観主義者は、物事を悲観的にとらえることで集中力を高めて成功を呼び込むことができるといいます。

2008年に発表された研究では、実験参加者にパズルの課題を出したのですが、予想される最悪の成績をイメージした後の方が、回答に高いパフォーマンスを発揮していることが報告されています。

結果を楽観的に考えてポジティブに物事に対処することも有効ですが、楽観主義者の「最後はどうにかなる」という態度が裏目に出て、場合によっては現実を直視しないケースも起こり得ます。

それとは逆に防御的悲観主義の場合、そもそもが最悪の結果を想定しているので、リアルな現実を無視せず受け入れられ、物事の細部を詳細に把握できるため、より客観的で分析的な戦術を講じることができるようです。その結果自分への信頼感と自信を勝ち得るとしています。

健康面でも長い目で見れば、防御的悲観主義者の方が有利で、自分の健康に悲観的なため、うがいや手洗いも自然に増え、体に異常を感じればすぐ病院に行くといった傾向があるようです。

ポジティブ志向のリスクについても述べていますが、常にポジティブでいるということは、影響を受けてネガティブになりそうな物事や出来事を無視することであり、感情を偽ることにつながっていると指摘しています。その他にもポジティブ志向のリスクを上げていますが、やや極端な話になっています。

冒頭私は楽観主義であることを書きましたが、これは研究者にとって必要な考え方と思っています。研究というのは結果の99%は失敗ではありませんが、期待する結果が出ないものです。次こそは良い結果が出ると期待して新たな実験を始めますが、99%裏切られるわけです。それでもあきらめず続けるには楽観的志向が必要で、その面でも私は研究者に向いていたのかもしれません。


「人体」第6集 生命誕生

2018-03-29 10:43:59 | 自然
なかなか面白いNHKスペシャル「人体」第6集が先日放映されました。

気を付けてはいたのですが、たまたまこれを見逃してしまい深夜の再放送を録画しました。このところテニスなどで見るものが多く、なかなかゆっくり見られなかったのですがやっと集中して見ることができました。

今回のテーマは「生命誕生」ということで、卵子と精子が結合して子宮に定着し、赤ちゃん誕生までの話でした。その例として体外受精で赤ちゃんを設けた夫婦の様子が紹介されていました。

受精卵が子宮に付着し、胎児となるためにはやはり色々な現象が起きるようです。まず卵からこの特集のテーマであるメッセージ物資が放出され、母親の体内に入ります。これはhCGという物質ですが、これを母親が受け取ると、生理を止め卵が流されないようにすると同時に、子宮を厚くし卵がしっかり包み込まれるようになります。

ここで卵は細胞分裂を繰り返すわけですが、ある程度進むと色々な臓器に分化していきます。これを番組では「ドミノ式全自動プログラム」と呼んでいましたが、私もこの分化という過程には興味を持っていました。

最初の臓器として心臓ができてくるようですが、もともと一つの細胞であったものがどうやって色々な臓器に分化するのか非常に面白いところです。番組では「ウイント」と呼ぶメッセージ物質が次々と新しい臓器を作り出すとしていました。

私の記憶では、サイトカインと呼ばれる小さなタンパク質が放出されこれが非常に多くの種類があり、この比率によって分化の方向性が決まるとされていました。ここで出てきたウイントというのがそういった多くの種類のサイトカインなのかもしれません。

実際にES細胞などを適当な条件で培養すると、まず拍動する心筋細胞のようなものが出来てくるようです。これをさらに続けると拍動しない細胞が生じ、これが肝臓の細胞となるといった具合に次々に新しい臓器ができてくるようです。

この様に臓器ができてくると次に赤ちゃんの大きさまで育たなくてはいけません。それが赤ちゃんから出てくる胎盤と子宮との結合になります。子宮には「恵みの窓」と名付けた血管があり、それを胎盤の「赤ちゃんの木」で酸素や栄養を吸収するシステムです。

私は母親の血液が胎盤を通して赤ちゃんに入るのかと思っていましたが、実際は必要なものだけを受け取るようです。ここでも酸素や栄養が不足すると、PGFというメッセージ物質が出て胎盤の構造が変わり大量の栄養を送れるようになるようです。

番組では体外受精した赤ちゃんが誕生するところで終わっていますが、この一連の大きな動きは本当に不思議なメカニズムといえそうです。


ヘルペスが繰り返し発症するのは

2018-03-28 10:45:56 | 健康・医療
東京大学の研究グループが、単純ヘルペスウイルス(HSV)の新しい免疫回避機構を発見し、それをつかさどるウイルスタンパク質として「VP22」を同定したと発表しました。

本来いったん抗体ができて免疫を獲得すれば、2度と発症しないはずのウイルス疾患がなぜ何度もかかってしまうのかは興味がありますが、この記事はかなりわかりにくいものでした。

HSVは一度感染すると、宿主の免疫応答によって体内から排除されることなく、ヒトの体内に終生潜伏します。このことからHSVには、ヒトの多様な免疫応答から免れる高度な機構があると考えられています。

これはAIM2インフラマソームに対するHSVの阻害因子があるのではないかと長い間示差されていました。AIM2インフラマソームというのは、DNAのセンサータンパク質であるAIM2がDNAを認識して、多量体化することが引き金になって形成される巨大タンパク質複合体です。

さまざまな病原体由来のDNAによって活性化され、生体内での病原菌感染の阻害に関わるインターロイキン類を細胞外に放出するという、重要な自然の免疫応答を作り出しています。しかしHSVはDNAを遺伝子として持っていますが、AIM2インフラマソームが活性化されないことが分かっていました。

この研究ではまず、細胞にAIM2インフラマソームの構成因子、未成熟なインターロイキン類、および72種のHSVタンパク質をそれぞれ発現させ、培養上清に放出されたインターロイキンを測定しました。

その結果阻害因子としてHSVのタンパク質であるVP22を同定しました。このVP22はAIM2と結合し、その多量体化を抑制することで、AIM2インフラマソームの活性化を阻害していることも分かりました。

次にAIM2欠損細胞と野生型細胞に、VP22欠損ウイルスと野生型ウイルスを感染させました。VP22欠損ウイルスの場合は、DNAを遺伝子として持つ他の病原体と同様に、AIM2があればインフラソームの活性化が認められました。しかし野生型ウイルスの感染では、どちらの細胞でも活性化は認められませんでした。

動物実験として、AIM2欠損マウスと野生型マウスの脳内に、VP22欠損ウイルスと野生型ウイルスを接種し、ウイルスの増殖を比較しました。VP22欠損ウイルスの場合、AIM2欠損マウスでは脳内ウイルスが顕著に上昇していました。一方野生型ウイルスの感染では有意な差が認められませんでした。

以上の結果は、VP22によるインフラマソームの阻害が、生体内ウイルス増殖に重要であることを示しています。以上がHSVが何度も再発するメカニズムですが、これを基にしたHSV感染症の新しい治療法の開発につながると期待されています。

皮膚のガンを防ぐバクテリア

2018-03-27 10:42:16 | 健康・医療
皮膚の常在菌の話ですが、いくら清潔にしても皮膚には多くの細菌が住み着いています。

ヒトの体全体を覆う皮膚は、成人で面積が約1.6平方メートルもあり、皮膚に常在する細菌叢は腸内に次いで多く1000種類以上の菌が住んでいると報告されています。この細菌類はヒトを守る役割をしていることが知られていますが、ここではそういった菌が皮膚ガンの予防をしているという話を紹介します。

この細菌叢の生態系が健康に重要な影響を持つことはわかってきていますが、この分野は個別の細菌とその集団からなるエコシステムが複雑に絡まっているため、分かりやすく説明するのが難しいようです。

それでも現在はこういった複雑な細菌叢研究に注目が集まっているのは、このシステムを人為的に変えることが可能なためとしています。もちろん皮膚にも細菌叢が存在し、たとえばニキビの原因となるアクネ菌もその一つです。思春期に急に皮脂の成分の変化と分泌量が上昇し、皮膚に常在するアクネ菌の増殖と炎症が起きるのがニキビです。

ただし腸内細菌叢の研究と比べると、皮膚細菌叢研究人口は少ないようです。そういった中で、カリフォルニア大学の研究グループは、皮膚ブドウ球菌の中に人間の皮膚で病原性を持つ他の黄色ブドウ球菌の増殖を抑えていると発表しました。

これは病原菌の増殖を抑えるペプチドを分泌する系統が存在し、アトピー性皮膚炎の患者の皮膚では減少していることを示し、皮膚の細菌叢の重要性を示すことに成功しています。

次がタイトルのように、皮膚の細菌叢からガンの発生を抑制するブドウ球菌を発見したということを、同じグループから報告されました。A型溶連菌や緑膿菌など、皮膚に常在する病原菌の増殖を抑える細菌をスクリーニングする過程で、ペプチドとは異なる6-HAPと名付けた低分子化合物を介して、増殖を抑える菌株をやはりブドウ球菌の中に特定したことから始まります。

有機化学分析により6-HAPの構造を調べると、この化合物が核酸合成を阻害する構造を持つことが分かりました。そこで正常皮膚細胞株や皮膚ガンの細胞に対する6-HAPの作用を調べると、ガン細胞にだけ増殖抑制作用を示しました。

通常核酸合成阻害剤に特異性があることは無いのですが、この6-HAPの作用能力がガンと正常でどのように違っているかを調べました。最終的にミトコンドリア内に存在するmARCの発現を比べたところ、正常細胞にのみで発現が高いことが明らかになり、これが6-HAPの能力の差として出ると推測しています。

この化合物はすでにできたガンの治療に使えるほどの薬理作用はないようですが、ガン発生を抑えているのが細菌であるというのは面白い知見といえそうです。