ごっとさんのブログ

病気を治すのは薬ではなく自分自身
  
   薬と猫と時々時事

「自己拡散型ワクチン」自ら感染して広まる

2022-03-31 10:39:38 | 健康・医療
遺伝子編集などの遺伝子改変技術が進歩し、有効な使い方ができるウイルスを作ることができるようになってきました。ここでは「自己拡散型ワクチン」を取り上げます。

これは非常に簡略化しますと、感染力は強いがなんの悪影響を及ぼさないようにしたウイルスに、ターゲットのウイルスの抗体を作るような部位を付けて野生動物に接種するというものです。

人獣共通感染症となるウイルスはかなり多く、これが人に感染しないようにするには野生動物に広がらないようにすることが重要です。こういったウイルスのワクチンを作っても、野生動物の多くを捕獲して接種するというのはあまり現実的ではありません。

そこで接種したワクチンが、野生動物の中で自然に感染するように工夫したものが「自己拡散型ワクチン」です。米国疾病対策センター(CDC)の推定によると、既知の感染症の60%、新規および新興感染症の75%が人獣共通感染症としています。

新たな人獣共通感染症がなぜ、いつ、どのように発生するかを予測することはできません。いったん発生してしまえば、多くの場合感染症は人命を奪い対策にも多大な費用がかかります。

そこで研究者は現在、エボラ出血熱、牛結核、ラッサ熱などの自己拡散型ワクチンを開発しており、その対象は狂犬病、西ナイル熱、ライム病、腺ペストなどの人獣共通感染症まで広げようとしています。

1999年にスペインの研究チームが、アイレ島においてウサギ出血病とウサギ粘液腫という2種類のウイルス性疾患に対する自己拡散型ワクチンのテストを行いました。

このワクチンの詳細は省略しますが、研究チームは147匹のアナウサギを捕獲し、首にマイクロチップをを入れて、約半数のウサギにワクチンを投与した後すべてのウサギを野に放ちました。

その32日以降にマイクロチップを入れたワクチン未接種のウサギを再度捕獲したところ、そのうちの56%がどちらのウイルスに対しても抗体を持っていました。これはワクチンを接種した個体から未接種の個体にワクチンがうまく拡散したことを示しています。

研究チームは2000年に評価と実世界での使用の許可を得るために、欧州医薬品局(EMA)に申請しました。EMAはワクチンの安全性評価に技術的な問題があることを指摘し、行われていない粘液腫のゲノム解読の実施を要求しました。

結局研究チームはこれをクリアすることができず、アイレ島での実験は自己拡散型ワクチンの概念を実証する初めての、そして今に至るまで唯一の野外実験となりました。

ここでこの種の研究は一旦休止状態になりましたが、2016年ごろから複数の研究グループが動物用の自己拡散型ワクチンの開発を進めています。

このワクチンは興味はあるのですが、人工的なウイルスを野生動物に接種し拡散するということは、若干気持ち悪いような気がしますが進展を見守りたいと思っています。

神経細胞を守るオートファジー

2022-03-30 10:27:43 | 自然
私はオートファジーに興味があり、このブログでも何回か取り上げてきました。

オートファジーは「自食作用」と訳されており、細胞の不要な部分をいわば食べてしまう現象として古くから知られていました。現在では主要な機能として、「飢餓時の栄養補給」「自己成分の作り替え」「外来有害物の隔離・除去」ということが分かっています。

近年この中の「自己成分の作り替え」が健康や生命維持に密接にかかわっていることが分かってきました。つまり細胞は中の成分を分解して同じものを作り直すことで、新しい健康な状態に保たれています。

細胞には寿命があり、古い細胞は死に新し細胞に入れ替わっています。胃や腸の表面の上皮細胞は1日程度、血液中の赤血球は約4か月、骨の細胞は約10年と細胞の種類により寿命はさまざまです。

一方でほとんど入れ替わらず生まれてからずっと使い続けなければいけない細胞もあり、脳の神経細胞や心臓の心筋細胞です。こういった細胞にとっては、中身の作り替えがきちんと行われることが重要になってきます。

オートファジーによる分解が滞ると、古いものや壊れたものが溜まり細胞は死んでしまいます。しかも新しい細胞に入れ替わることなく脱落したままになるため、組織や器官の機能にも支障が出てしまうわけです。

神経細胞におけるオートファジーの重要性を示す実験結果はいくつも報告されています。脳の神経細胞のみにオートファジーが起きないマウスは、生後1か月ごろから歩行がふらつくなどの運動障害がみられるようになります。

脳を調べると神経細胞にユビキチン化されたタンパク質が蓄積しており、細胞が死んで脱落しているところもありました。ユビキチンは立体構造が正しくないタンパク質や損傷したリソソームなど、分解されるものにつけられる目印です。

ユビキチン化されたタンパク質が蓄積しているということは、分解されるべきタンパク質が残っていることを意味します。この実験に使ったマウスには、細胞に蓄積しやすい異常なタンパク質が作られるような遺伝子変異はありません。

遺伝子変異など特別な原因が無くても、オートファジーの働きが低下しただけで神経性疾患になることが分かりました。これはオートファジーが疾患に対抗する防御機構として働いていることを示す大きな発見といえます。

この様にオートファジーが神経疾患を引き起こす有害タンパク質を除去している例は多く、この活性化で色々な神経疾患の予防や治療につながるのかもしれません。

オートファジーが誘導されるメカニズムの研究なども進んでおり、アルツハイマー病やパーキンソン病などとの関連も明らかになりつつあります。オートファジーはこれからも注目すべき研究課題といえそうです。

他の病気との区別が難しい「肺高血圧症」のはなし

2022-03-29 10:25:13 | 健康・医療
循環器の病気は色々ありますが、「肺高血圧症」という希少疾患があるようです。

肺が高血圧になるということは単純な高血圧の一種かと思っていましたが、診断=短期間で命を失うという非常に恐ろしい病気となっていました。

この病気は肺動脈のおける血圧の上昇であり、原因となる病気は多岐にわたるため診断が非常に難しいようです。また患者数の少ない希少疾患でであるため、専門医が少なく適切な診断が難しいという課題がありました。

肺高血圧症の原因となる基礎疾患はさまざまな領域におよび、関わる診療科も多岐にわたります。代表的な症状は「身体を動かしたときの息切れ」ですが、同じ症状をきたす病気は山ほどあり、適切な診断にたどり着きにくいという点も大きな課題です。

この治療法は脳死心肺同時移植でしたが、国内ではその選択肢はなく海外でしかできませんでした。しかし日本では肺動脈を広げる「肺血管拡張薬」が1999年に登場したことで治療成績は向上しました。

肺血管拡張薬が登場してから20年余りで、これだけ短期間で生命予後が改善した病気はほかにはありません。一方留意すべき点も残されており、肺血管拡張薬が有効であっても典型的な使い方があるわけではなく、患者に合わせた「個別化医療」が重要であるという点です。

基礎疾患により治療法は異なりますし、同じ基礎疾患であっても病態や重症度、合併症により使用する薬剤や治療戦略が変わってきます。

この病気は比較的若年で発症するため、5年10年という長期での生命予後を見ると必ずしも「十分に改善した」とはいえないようです。

この点を改善するために現在進められているのが、個別化医療を実践するための治療アルゴリズムの作製や、バイオマーカーなどできるだけ簡便な方法によって病態を識別するための研究です。

肺血管拡張薬はある意味で対症療法であり、肺動脈圧を下げて生命予後を改善することはできても、肺高血圧症の根本にある肺血管リモデリングという病的変化をもとに戻せるわけではありません。

また肺血管拡張薬は肺血管のみならず全身の血管を拡張することから、顔面紅潮、頭痛や低血圧などの副作用が起こります。それでも最近肺血管リモデリングを改善する治療薬がの候補がいくつか出てきたようです。

日本での承認はありませんが、海外の臨床試験などで肯定的な結果を示すものがあり、期待が寄せられています。

私は基本的には薬に対して懐疑的ですが、こういった生命予後という命に直結するようなケースは、薬によって治療することは大いに賛成しています。

このように肺高血圧症が一刻も早く根治できるように期待しています。

薬の新しい「リフィル処方箋」の制度が開始

2022-03-28 10:33:50 | 

このブログでも何回か触れていますが、私は毎月かかりつけのクリニックに行って喘息の発作予防のための吸入薬を処方してもらっています。

この時医師の診察を受けるのですが、毎回「変わりはありませんね」で終わっていますので、もっと簡単にできないかと思っていました。それが2022年4月から「リフィル処方箋」の制度が導入されるという記事を見ました。

リフィル処方箋とは、一定期間内に反復使用できる処方箋のことです。これまでは医師が決めた日数分の薬をもらえましたが、リフィル処方箋は定められた期間内・回数内であれば同じ処方箋を使って、医師の診察なしでくり返し薬をもらえる仕組みです。

「リフィル」という言葉は知りませんでしたが、化粧品などで使う補充するという意味のようです。つまりリフィル処方箋は、1つの処方箋で「おかわり」ができということのようです。

慢性疾患で長期間同じ処方を続けている患者の中には、コロナ禍の現在できるだけ受診頻度を減らしたい人もいるでしょう。実際医師から処方される薬の日数は近年徐々に伸びており、31日以上の処方箋は全体の34.7%に上るという統計もあるようです。

リフィル処方箋制度は欧米ではかなり前から導入されており、諸外国とようやく足並みがそろうことになります。リフィル処方箋の「おかわりの」の使用回数の上限は3回までとなります。

このリフィル処方箋のメリットとしては、医師の診察なしにこれまでと同じ薬が入手できるため、処方箋をもらうだけの「おくすり受診」を抑制することができます。

また国の医療費の抑制につながり、処方箋だけを取りにくる場合であっても基本的には診察ありきですので、再診料や外来管理費などの保険点数が算定されますが、これを削減することができます。

さらに残薬問題の解決につながることも期待され、薬剤師による残薬確認がこまめにできることから家に薬が余っているという事態を減らせる可能性もあります。

デメリットとしては当然ですが、医師の診察が入らないため病状の悪化が見逃され医療事故につながる可能性はありそうです。一応制度としては薬剤師が患者の経過を観察する必要性があり、薬剤師が担う医療責任は大きくなるとしています。

また受診回数が減るので、医療機関の収益が低下するという問題はありますが、現在が過剰医療の状態にありそうですので、適正化されるともいえそうです。投薬量に限度が定められている医薬品(麻薬、向神経薬)や湿布薬については、リフィル処方箋による投薬はできないようです。

私に処方されている吸入薬が可能かどうかわかりませんが、ぜひこの制度を定着させクリニックに行くのが3か月に1回になって欲しいものです。

見逃しがちな脳梗塞の前触れ症状

2022-03-27 09:35:36 | 健康・医療
私の歳になると「脳梗塞」は身近な病気となり、古くからの友人も2人脳梗塞を発症しました。

幸い二人とも処置が早く、リハビリも含めて2週間ほどの入院で回復し、重篤な後遺症もなく元気に暮らしています。

この脳梗塞は発症する前に前触れとなる特徴的な症状が一時的に表れることがあり、この段階で適切な治療を受けることで発症を防ぐことができるようです。ただこの前触れとなる症状は自然に消失するため、あまり重要視されず見逃されてしまうケースも少なくないとしています。

この症状としては「顔が歪んで口元がしびれる」「ろれつが回らない、言葉が出ない」「片腕の力がだらんと抜ける」「力はあるのに立てない、歩けない」といった結構気になりそうなものです。

この様な症状が一時的に出て消失した場合は、「一過性脳虚血発作(TIA)」と呼ばれる脳梗塞発症前の特徴的な兆候と考えられます。この時の状態が脳梗塞を起こす前の最終段階で、早急な対応が必要となることから「崖っぷち警報」と呼ぶところもあるそうです。

これはアメリカでも「FASTによる啓発運動」(F=顔、A=腕、S=言葉、T=時間)と呼ばれているもので、日本でも早期発見に向けたスローガンとして使われています。

症状が表れ始めたら初期段階で早く気付き、脳が大きなダメージを受ける前の予防救急が重要で、「顔、腕、言葉」に異常を発見したらすぐに救急車を呼ぶ必要があるようです。

先ほどのTIA(一過性脳虚血発作)とは一時的に脳の血管が詰まって血液の流れが悪くなり、神経細胞の機能が停止して半身に運動麻痺などを起こした状態のことですが、血栓が自然に溶けることで数分から24時間以内には症状が消失するため、軽視する人も少なくないようです。

しかしTIAを発症した人の15〜20%が3か月以内に脳梗塞を起こしており、そのうち48時間以内に発症したケースが5割以上を占めています。TIA発症後、早期脳梗塞を起こす可能性は「ABCD2スコア」と呼ばれる数値によって予測することができます。

これは年齢や血圧、臨床症状や発作の持続時間、糖尿病の有無などを数値化して発症のリスクを評価するもので、画像検査機器のない一般の医師でも診断できます。スコアの数値が高い人は低い人に比べて、TIA発症後90日以内の脳梗塞発症率が8倍だといわれています。

TIAを発症したら医師の指導の下、生活習慣を改善するとともに適切な薬物治療に取り組むことが重要となります。

上記のTIAの症状はかなり重篤のような気がしますが、数時間で消えてしまえばあまり気にしないかもしれません。これをすぐ救急車というのはよほどしっかりした意識が必要な気もしています。