ごっとさんのブログ

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トリカブトの根から治療薬

2019-04-16 10:05:27 | 
名古屋市立大学の研究グループが、神経の損傷で起きる慢性的な激しい痛み「神経障害性疼痛」を抑える化合物をトリカブトの根から発見しました。

これはより効果的な治療薬の開発につながることが期待されています。神経障害性疼痛は、切り傷や抗がん剤の副作用などで神経が傷つけられると発症し、ドアノブに触るだけでも激しい痛みを感じるような病気です。

国内で患者は600万人以上と推計され、モルヒネなど既存の鎮痛薬が効きにくく、効果的な治療薬が求められています。

トリカブトはキンポウゲ科の植物で、ドクウツギやドクゼリと並んで二本の三大有毒植物のひとつとされています。この主な毒の成分としてはアコニチンというジテルペン系のアルカロイドに分類される化合物ですが、類似の有毒物質が多く含まれています。

研究グループは、鎮痛薬のひとつとして知られる、トリカブトの根を加熱減毒処理した市販生薬「加工ブシ」に注目しました。これまでの動物実験で神経障害性疼痛の有効とのデータはあったものの、どの成分が作用しているかは不明でした。

今回マウスを用いた実験で加工ブシに含まれる化合物「ネオリン」により、神経障害性疼痛が改善することが判明しました。抗ガン剤の成分を注射して疼痛を起こしたマウスにネオリンを与えると、数日で改善傾向を示しました。

ネオリンはトリカブト毒のアコニチンに類似の構造を持っていますが、毒性はかなり低減しているようです。古くからトリカブトのような毒性植物は、人間に対して生理作用があり、それをうまく利用し毒性の出ないような生薬として使われてきました。

トリカブトの塊根を乾燥させたものを「附子(生薬としてはぶし、毒として使うときはぶす)」と呼ばれています。余談ですが、俗に不美人のことを「ブス」といいますが、これはトリカブトの中毒で神経に障害が起き、顔の表情がおかしくなったのを指すという説もあります。

さてこういったネオリンのような天然物が有効であることを知ると、私のような有機化学者は安価な原料から合成できないかを考えるのですが、この化合物は分子量もやや大きく複雑で不斉炭素も多いため、とても有機合成では作れそうにありませんでした。

やはり植物のトリカブトからの抽出が良さそうです。ただしトリカブトは株によってネオリン含量にばらつきがあり、その要因はわかっていないようです。

研究グループは、有効成分が分かったので、含有量の多いトリカブトを見つけ、より効果的な治療薬を作りたいとしています。