ごっとさんのブログ

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命を削る可能性のある「心房細動」のはなし

2022-12-31 10:35:33 | 健康・医療
今年もついに大晦日になってしまいました。

通常今年の科学重大ニュースなどを書くのですが、どうもあまり面白いことが出ていませんでした。今年はウクライナ侵攻など大きなニュースはあったのですが、「科学」という観点ではあまり面白いことが無かった年といえそうです。そこでここでは心房細動のはなしです。

心電図検査では「不整脈」の検査が欠かせないものですが、最近「心房細動」による不整脈が増加しているようです。大人の脈拍数は通常安静時で1分間に50〜90回程度で、心臓の動きに合わせて規則的に拍を刻んでいます。

この拍の数が通常より極端に増えたり、逆に少なくなったりリズムが乱れたりする状態を不整脈と呼んでいます。心臓の大部分は心筋という筋肉でできており、この心筋が収縮を繰り返すことで血液を全身に送り出しています。

心筋の動きは電気信号によりますが、この電気信号が乱れると心臓の動きが乱れ不整脈となります。心臓の動きが悪くなれば、血液の流れが悪くなり脳梗塞の原因となる血栓ができるなどさまざまな問題が起きてきます。

不整脈にはいろいろな種類がありますが、心房細動は誰にでも起きる「期外収縮」に次いで多くみられる不整脈で、年齢が高くなるほど起きやすくなります。

日本では高齢化の進行を反映して、100万人を超える人が心房細動をかかえていると考えられています。さらに自分では気づいていない「隠れ心房細動」という人も少なくないようです。

心房細動の特徴としては、年齢とともに起きやすくなり基本的には中高年で発症します。また脳梗塞の原因になったり、心不全につながる恐れがあります。少しずつ進行していき、はじめは時々起きる程度ですが慢性化していくことが多いようです。

心房細動は基本的には老化現象のひとつという面がありますが、年齢以外には体質や全身の状態などが関係します。年齢以外の面では、肥満や飲酒・喫煙などの生活習慣の問題を抱えていたり、生活習慣病を併発している例が少なくないようです。

心房細動は進行性の不整脈ですので、自覚症状がほとんどなくても確実に進行していきます。進行しても心房細動そのもので命を奪われる恐れはほとんどありませんが、脳梗塞や心不全を起こす危険性は高まります。

心房細動の治療には、年齢や症状、進行度に応じて向いている治療と向いていない治療があり、誰もが同じ治療法で良いというわけではありません。

薬による治療は、血液を固まりにくくする抗血液凝固薬で血栓をできにくくする抗凝固法や、心拍数を抑える薬で心房の異常を心室に伝えにくくすることで動悸を抑えるレートコントロール法、抗不整脈薬で心拍のリズムを取り戻すリズムコントロール法などがあります。

薬以外の方法としては、カテーテルアブレーションがあり、肺静脈の左心房への入り口付近の組織を焼くことで肺静脈内にある異常な信号の発生源と電気的に絶縁する方法です。

結局いつものブログと同じになりましたが、皆さま良いお年をお迎えください。

高血圧で認知症リスクが大幅に上昇

2022-12-30 10:44:29 | 健康・医療
私も後期高齢者となりましたので、認知症が気になる年齢となっています。

友人など身近なところにも出ており、私の母は89歳で亡くなりましたが、80歳を過ぎたあたりで発症したようです。

高血圧であるとこの認知症の発症リスクが高まるという研究結果が発表されました。九州大学の久山町研究では、1988年に検診を受けた認知症の無い65〜79歳の住民668人を、血圧レベルで4つに分類して17年間追跡調査しました。

この久山町研究は、福岡県久山町の住民を対象に行われている生活習慣病の大規模(約9000人)疫学調査です。1961年の脳卒中の調査から始まり、現在では生活習慣病全般をテーマに研究が続けられています。

今回は「脳血管性認知症」と「アルツハイマー型認知症」の発症リスクを検討しています。ここで設定した4つの血圧レベルは、Ⅰ:正常血圧 収縮期血圧(上の血圧)120未満かつ拡張期血圧(下の血圧)80未満、Ⅱ:高血圧前症 120〜139または下80〜89、Ⅲ:高血圧ステージ1 140〜159または下90〜99、Ⅳ:高血圧ステージ2 160以上または下100以上。

この分類で正常血圧の人が認知症を発症するリスクを1として高血圧の人が発症するリスクを主に脳血管性認知症で計算しています。ここで中年期は50〜64歳、老年期は65〜79歳とし、中年期は同じ集団が15年前に検診した際の血圧を用いています。

性別、年齢、降圧剤服用、糖尿病、喫煙、飲酒などの因子を調整しています。高血圧と脳血管性認知症の発症リスクは(正常血圧の人のリスクを1とした場合)、高血圧前症は中年期が2.4倍、老年期が3.2倍となりました。

高血圧ステージ1では中年期5.9倍、老年期4.7倍となり、高血圧ステージ2では中年期が何と10.1倍で老年期が7.3倍という結果となりました。一方アルツハイマー型認知症に関しては、老年期のみならず中年期の血圧レベルの上昇が発症を高めるような傾向は見られませんでした。

脳血管性認知症は脳卒中などの後発症するものですので、高血圧でリスクが上がるのは当然かもしれません。

ここでは高血圧による認知症リスクを下げる方法として、家庭で血圧を測ることを推奨しています。家庭で測る血圧値はリラックスして測れるだけに、低めに出やすい傾向があります。そのため収縮期血圧も拡張期血圧も5程度プラスするのがルールとなっているようです。

測るのは朝晩2回で、朝は起床後1時間以内、排尿を済ませて椅子に座って1〜2分安静にしてから測り、晩は就寝前、飲食や入浴を済ませてから測定し、測った血圧は記録してその変化を追うようにすると良いようです。

確かに自分の血圧を正確に把握するのは良いことだと思いますが、ここまでする意味はあまりないような気がします。

「精子濃度」の低下で人類は生殖の危機か

2022-12-29 10:41:27 | 自然
最近地球全体の人口が80億人を超えたという報道がありました。今後も100億まで増えるという予想もあり、インドが中国を抜くという可能性もありそうです。

その一方で精子数の減少に対処しなければ、人類は生殖の危機に直面するかもしれないという報告も出ています。

イスラエルのヘブライ大学から発表された研究では、1973年から2018年までの間で精子濃度の平均がおよそ1億120万/mlから4900万/mlと51.6%下がったことが示されています。この研究は153の推定値のメタ分析に基づいたものです。

同じ研究チームが2017年に発表した研究では、過去40年で精子濃度が半分以下に下がったという結果が出ました。しかし当時は世界のさまざまな場所からのデータが無かったため、研究結果はヨーロッパ、北米、オーストラリアに特化したものでした。今回の最新の研究には、53か国の最近のデータが含まれています。

精子濃度の低下は、これまで研究された地域のみならず中南米、アフリカ、アジアでも見られています。しかもその低下の速度が増しているようです。全大陸で集められた1972年以降のデータを見ると、精子濃度は平均して1年ごとに1.16%低下していることが分かっています。

ところが2000年以降に集められたデータだけ見ると、その低下率は1年ごとに2.64%になっているとしています。先行研究からは精子濃度が約4000万/ml以下になると生殖能力に支障が出ることが示されています。

最新の推定値はこの境界値を超えていますが、これは平均値でありこの境界値に届かない男性の割合は増えているだろうと指摘しています。

この研究では年齢やどれくらいの期間射精していなかったかなどの要因が勘案されて入るものの、精子の質を見るほかのマーカーは分析しなかったなどの限界もあるようです。私はこの研究結果には大いに疑問を持っています。

ひとつにはこの原因は不明で、内分泌かく乱物質やその他の環境的な要因が作用しているのではないかと推論している点です。また生殖は生命にとって最大の課題であり、それを妨げるような変化には自然に対応すると思っています。

実際に日本国内でも不妊患者が増加しているという話しも聞きませんし、特に男性が原因で不妊ということが増えているとは思えません。

この研究結果に専門家は喫煙や飲酒、肥満や偏食も関係しているかもしれず、健康的な生活スタイルが精子の数を増やすことに繋がるのではないかとしています。

まあこれはあくまでも一つの研究結果であり、その正否は今後の研究に任せるとしてあまり気にするようなことではないような気がします。

痛風の炎症、細胞内タンパク質が関与

2022-12-28 10:44:54 | 健康・医療
風が吹いても痛いという事で「痛風」という名前が付いたといわれていますが、私もやや尿酸値が高く若干心配しています。

痛風の原因は、血液などの体液中の尿酸が溶解度以上の濃度となると結晶化し、その鋭い結晶が神経を刺激して起こるという説があります。私はこの尿酸を実験に使ったことがありますが、確かに尿酸の結晶は鋭い針状の結晶でした。

この試薬の尿酸はかなり大きな結晶でしたが、多分体内で結晶化する場合は目に見えない程度の小さな結晶となりそうで、体内でこんな小さな針のようなものが出来たら本当に痛そうな実感がありました。

また血液検査での尿酸値の上限が、この飽和溶解度というそれより少しでも増えたら結晶化するという数値のようで、これを超えたら痛風が発症するというのは納得性があるものです。

さてこの痛風の痛みに関して新たなメカニズムが報告されました。大阪大学の研究チームは、痛風で炎症が起きる過程で、細胞内の「ラギュレーター複合体」と呼ばれるタンパク質が関与していることが分かったと発表しました。

この複合体の働きを抑える薬が開発されれば、痛風や動脈硬化などの治療につながる可能性があるとしています。なおこの発見は痛風の原因が、尿酸結晶の刺激であるという点を否定しているわけではありません。

細胞は尿酸などが内部に侵入すると「異物」と認識し、対応するための物質「インフラマソーム」を活性化させます。この物質は身体の防御に有効ですが、痛風などさまざまな病気で炎症を引き起こす面もあり、働きを制御する研究が進んでいます。

研究チームは、ラギュレーター複合体がインフラマソームの働きを制御しているとみて、同複合体を十分働かないようにしたマウスに痛風を発症させる実験を実施しました。すると通常のマウスに比べ複合体が働かないマウスは、通常のマウスに比べ痛風の炎症が軽くなりました。

さらに脂質異常症などの治療に使われる合成型ビタミンEである「α-トコフェロール」を投与すると、痛風の炎症が軽減されました。研究チームは、合成型ビタミンEのほかにも、ラギュレータ―複合体を標的にした薬剤を開発すれば、治療への応用が期待できると話しています。

このビタミンEがどういう作用機構で複合体の働きを抑えているのかは言及がありませんでした。

現在の通風治療薬がどういうメカニズムで効果を発揮するのかは分かりませんが、こういった新しい炎症発現の機構の発見で新たな薬剤が開発できれば、痛風の治療や予防に役立つのかもしれません。

人工的な「冬眠状態」の医療応用に向けてマウスで成果

2022-12-27 10:36:10 | 健康・医療
クマが冬眠するはなしは当然のようにとらえていますが、長期間眠ったような状態で過ごすというのは不思議な現象といえます。

「人工冬眠」はSFの世界ではコールドスリープと呼ばれ良く登場していますが、実際にその状態が作れれば手術の時などに患者の臓器や組織を保護できるという研究が進んでいるようです。

理化学研究所と京都大学の研究グループは、マウスの脳にある特定の神経を刺激して人工冬眠状態にして、心臓血管手術時に腎臓への負担を軽減できるかを確認したと発表しました。

これは理研と筑波大学の研究グループが2020年に「人工冬眠実験マウス」を作った実績を生かした成果で、医療応用に向けて前進させたものです。冬眠の研究は古く、16世紀ごろにさかのぼるとされていますが、心電図や脳波を計測できるようになって研究は進展しました。

冬眠する哺乳類は食糧が不足する寒い時期をしのぐため「省エネ状態」を保ち、栄養が乏しい環境を生き抜きますが、そのメカニズムはよく分かっていませんでした。応用研究を大きく進める契機になったのは、人工冬眠マウスの誕生です。

2020年に筑波大学と理研の研究グループが、本来は冬眠しないマウスやラット脳にある「休眠誘導神経(Q神経)」と名付けた細胞を刺激して、冬眠に近い状態を作り出すことができたと発表しました。

視床下部にあるQ神経をある薬剤で刺激して人為的に興奮させると、平常は37℃付近のマウスの体温は大きく低下し代謝の働きを示す酸素の消費量も大幅に減少しました。

この一連の研究により、多くの哺乳類にあるQ神経を刺激すると、通常は冬眠しない動物を人工的に冬眠させることができることが判明しました。この成果を応用し、今回理研と京都大学の研究グループは、人工冬眠の研究を安全な心臓血管手術などの実現に向けて大きく前進させました。

日本胸部外科学会によると、2017年の年間心臓血管手術件数は約7万件ですが、手術時死亡率も10%近くあるようです。これは手術時には循環停止する必要があるためで、5〜50%に腎障害が起きるとされています。

大動脈手術の際は腎障害を減らすために人工心肺装置で血液を冷やして身体に戻しながら低体温の状態で臓器を保護しています。研究グループは人工的にQ神経を操作できるマウスを作製し、実際の血管手術を想定して大動脈の血流を遮断して虚血状態にしました。

この人工冬眠マウスは低体温にしなくても腎障害を一定程度予防できることを確認しました。これはまだ動物実験の段階ですが、ヒトでもQ神経で冬眠を誘導できるようになれば、循環停止を伴う心臓血管手術を低体温にすることなく臓器保護を実現できる可能性があるとしています。