ごっとさんのブログ

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脊髄損傷の治療に光明

2019-04-02 10:21:12 | 健康・医療
これまで有効な治療法がなかった脊髄損傷は、重い後遺症を抱えた患者はそのまま車椅子や寝たきりの状態が続くのが普通でした。

そんな脊髄損傷患者をめぐる状況が大きく変わるかもしれない研究が発表されました。昨年末患者自身の細胞を使った画期的な再生医療製品の製造販売が、厚生労働省に承認されたのです。

脊髄損傷は日本国内で1年間に約5000人が新たに患者になるとされ、後遺症などを抱える慢性期患者は約10万人に上ると推定されます。これまで傷ついた神経の機能を回復させるのは難しく、手術やリハビリ以外に有効な治療法はありませんでした。

札幌医科大学の研究チームは、「間葉系幹細胞(MSC)」を使った治療法を開発しました。MSCとは、神経や血管、内臓などの様々な組織に分化する能力を持った細胞で、骨膵液中の細胞1万~10万個に1個の割合で存在します。

この細胞は、普段から骨髄から血液中に出て体内を回り、全身の新陳代謝に関わっています。傷ついたところがあれば、そこに集まって治す性質があり、自己治癒力に関わる存在と言えます。

これを利用した製剤で治療するにはMSCの採取、培養、投与という三つのステップがあります。まず患者の腸骨(お尻の骨)から骨髄液約十ミリリットルを採取します。

次に骨髄液からMSCを取り出して2週間ほどで1万倍(5000万~2億個)まで培養し、1週間ほどかけて安全性をチェックした後、約40ccの細胞製剤とします。

患者の体調と細胞製剤の両方の準備が整うと、パックされた製剤を通常の点滴と同じように、30分〜1時間かけて患者の静脈に投与します。投与は1回だけで、患者の身体的負担が軽いのもこの治療の特徴です。

治験では、参加した20~60代の重症患者13人のうち12人が、5段階ある機能障害の尺度(完全麻痺から正常までの5段階)で1段階以上改善する結果となりました。

転落事故で四肢がマヒした50代男性は、投与翌日に肘を曲げられるようになり、4週目には車いすに乗り、歩行訓練も開始しました。手指が動くようになったことで、自ら食事もとれるようになりました。16週目には床から自力で立ち上がり、早く歩くこともできるようになったとのことです。

これは今までの常識を覆す全く大きな進歩と言えます。厚生労働省は2015年に、「先駆け審査指定制度」を開始しました。これは脊髄損傷のような根治療法がない患者のため、治験の症例数が少なくても安全性が確認でき、有効性の大幅な改善が見込まれる場合、早期に実用化する制度です。

今回の細胞製剤は、2016年に再生医療等製品の第1回対象品目に選ばれ、その中で最も早く承認されました。今後作用のメカニズムなどをさらに検証し、効果が確認できれば販売を継続できるとしています。これは久しぶりの明るいニュースと言えるような気がします。