ごっとさんのブログ

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ほぼ「接着剤」で組み立てられているクルマがある

2024-03-19 10:34:47 | 化学
このブログでも書いたことがありますが、私は接着剤に興味を持っていました。

残念ながらこの研究はできませんでしたが、カップ麺のようにぺりぺりはがすと簡単にはがれる物や、ウエットティッシュのように何回でもくっつくものなど本当に多彩です。しかしこの接着剤がなぜくっつくのかはいまだに謎になっているという話しもあります。

磁石がくっつくのが不思議なのと同様に、接着剤が物と物をくっつけるのは当たり前ではないようです。どうも「接着」という現象の根本的な仕組みは、まだ完全に解明されてはいないらしいです。

こういった接着の仕組みを調べている研究グループが、「接着剤が引きはがされるプロセスの電子顕微鏡によるリアルタイム観察」に成功しました。この産総研のグループによると、ここ10年くらいで接着剤に対する社会の期待が変わってきたそうです。

自動車、飛行機、建築物などの大きなものをくっつけることを「構造接着」と呼ぶそうです。それも含めて産業界には単に「くっつけばよい」では済まされない課題が山ほどあります。

最も大きなニーズがあるのは自動車業界で、電気自動車に置き換わる流れの中で、車体を軽量化するために鉄以外の軽い素材を使おうとしています。しかし鉄と違ってアルミや樹脂などの材料は、溶接で組み立てることができず、現実的な接合の方法は接着剤を使うことです。

市販されている瞬間接着剤などは、日常レベルでは強力ですが単なる仮止めみたいなもののようです。自動車分野で強力な接着剤の開発が進んでいるのはドイツをはじめとする欧州です。BMW社が製造した「i3」という車は、この分野の研究者や技術者に強い衝撃を与えました。

車体を丸ごとCFRP(炭素繊維強化プラスチック)でつくり、接合にはほぼウレタン系接着剤が使われています。ここで自然と求められたのが、はがれてしまう理由とさらには接着するメカニズムの解明です。

接着剤がくっつく基本的なメカニズムについては、昔から3つのモデルが考えられており、アンカー効果、分子間力、化学結合となっています。

アンカー効果は、いわば「機械的」な接着で、くっつけたいものの表面がざらざらしていると、その凸凹に接着剤が入って固まり、相互に絡み合うようにしてくっつきます。分子間力は、静電気のプラスとマイナスがくっつくような静電的な相互作用です。

化学結合は、基材表面の物質と接着剤の物質が、共有結合や水素結合などによってくっつくとされています。しかし瞬間接着剤がこの3つのどの作用でくっついているのかも、まだはっきり分かっていないとしています。

まだまだ謎だらけの接着材ですので、何とか研究してみたい気持ちが強くなりました。

アプリやトランプにも広がる「元素周期表」

2024-03-03 10:31:14 | 化学
元素周期表といっても教科書で見たことがある程度だと思いますが、私のような化学を専門にしていると馴染みが深いものです。

元素の性質が周期的に変化することを元素の周期律と呼んでおり、これを並べたものを周期律表と呼んでいましたが、現在は元素周期表に変わったようです。

私の知り合いの大学の女性の先生は、これを集めるのが趣味で先生の部屋の壁一面に貼ってありましたが、なかなかきれいなものでした。身の回りの物質はすべて元素でできており、周期表は「科学の扉」を開く格好の教材となるようです。

2016年には理化学研究所のグループが発見した113番目の元素が「ニホニウム」と命名され、新たに周期表に加わりました。この元素周期表を基にアプリケーションやカードゲームが開発されるなど、活用の幅が広がっています。

筑波大学付属の理科教諭は、情報通信技術(ICT)を用いた探求型授業の一環として「周期表アプリケーション」を製作し、授業で活用しているようです。ここで利用したのが一家に一枚の「元素周期表」ポスターです。

各元素が何に使われているかが描かれ、子供にもイメージしやすい利点があり、このポスターを元素ごとに切り取ってカード状にすればゲームになると発想しています。

各元素を一つひとつ切り出してランダムに表示させるなどして、元素記号の周期表上の正しい位置や手書き表記などを問うクイズ形式の授業を考案しました。

その後多くの学校現場で利用できるよう、アンドロイド端末などで使える周期表アプリを生徒ともに作成し、イオンや原子核まで深く学べるコンテンツに仕上げました。元素周期表はただ順番に暗記するのではなく、2次元のマトリックス(表)として触れるものです。

習うよりは慣れろではないが、ゲームを通して生徒が少しでも周期表に親しんでくれたらとの思いで、授業に工夫を凝らしているようです。また元素周期表ポスターを企画・制作した化学同人は、元素と素粒子が描かれたカードゲーム「えれめんトランプ」を発売しています。

元素や素粒子の美しいイラストとともに、その特徴が記されています。これを使って遊びながら自然と元素や周期表に触れられると人気なようです。

こういった動きがどれだけ化学(科学)に興味を持つ子供が出て来るかは、若干疑問のような気がします。

化学の基礎として元素記号と名前(例えばPbと鉛)を覚えることから始まりますが、それが自然にできたとしても、その重要性はそれほど高くない感じがします。面白い試みであることは確かと言えるでしょう。

化学構造分析を実現する質量分析装置を開発

2024-02-22 10:31:57 | 化学
有機化学者にとって、合成した化合物が正しいかどうかを調べる分析は重要な仕事となっています。

実際の化学反応よりも、この化学構造分析の方が時間がかかることさえあります。私は現場から離れて20年となりますが、その間も分析機器の進歩は目覚ましいものがありました。

研究室でもこの分析を中心に行う、分析研究室というグループがありました。この最新の機器分析の性能を見ていくと、昔は何日もかかっていた構造解析はAIでできるようになるのではないかと思っています。

有機化学の中に天然物有機化学という分野がありますが、これは植物や微生物から見つけた新規化合物の構造を決定するために、合成して同じものを作ってしまうという分野です。それだけ正しい構造を分析するという事は、難しい作業となっていました。

最近島津製作所は、脂質や天然化合物の詳細な構造分析を実現する、四重極飛行時間型質量分析計「OAD-TOFシステム」の販売を開始しました。

同社の質量分析研究所で研究開発に10年かけ、従来の方法であるイオン解離法(CID)とは異なる、世界で初めて酸素付着解離(OAD)技術を使った製品化に成功したとしています。

同システムは独自のOADと呼ばれるイオン解離技術を搭載することで、脂質や天然物などあらゆる化合物の構造解明を可能にしました。私が現役のころに出た、この前のTOF-システム質量分析計でも非常に感激した記憶があります。

これは化合物の分子量を計算する機器ですが、TOFを入れることによって分子量だけでなく示性式(炭素や水素、酸素、窒素などの比率)まで出るようになったのです。

今回のOADの詳細はあまりに専門的になりますので省略しますが、分子中に含まれる部分構造まで出るようになりました。有機合成反応の場合、目的とする化合物ができたかどうかは、この質量分析計を測定するだけで十分となりそうな気がします。

従来は主に4種の機器分析結果を総合して判断していましたので、非常に楽に構造決定ができることになります。ただしこういった構造解析は職人的な技術が必要でしたが、そういった技術を学ぶ場がなくなってしまうのかもしれません。

前述のようにこの構造解析・分析がAIによってできるようになるならば、その技術自身不要なものになるのかもしれません。それはやや寂しい気がしますが、今回のODA-TOFシステムはそういった自動分析の先駆けとなるような気もしています。

これは私の専門に直結していますので紹介しましたが、有機化学が分からないと分かり難い文章になっているかもしれません。

「人工光合成」研究の現在地

2023-12-05 10:35:19 | 化学
植物を模倣した「人工光合成」は、炭酸ガスの有効利用だけではなく、新たなエネルギー源としても注目を集めているようです。

光合成は太陽光をエネルギーとして水と炭酸ガスから有機物(糖類)を作り出す植物由来の反応ですが、30年以上前に知人の大学の助教授が人工光合成のプロトタイプができたと言って、見学に行ったことがあります。

3メートル四方ぐらいの大きな装置でしたが、太陽光を取り入れる大きなレンズ状の部分ぐらいしか記憶に残っていません。この時彼が悩んでいたのは、炭酸ガスの供給方法でした。この装置には炭酸ガスボンベから供給していましたが、自然に近くするためには空気を使いたいようでした。

しかし空気には400ppmしか炭酸ガスが含まれていません。この僅か100万中の400という濃度ではあまりにも効率が悪いのです。化学反応は分子同士の偶然の衝突によって起こりますので、ある程度の濃度が無いとこの衝突が起きず非常に遅い反応となってしまうわけです。

その点植物はこの低濃度の炭酸ガスをうまく利用しているメカニズムは非常に興味があるところです。残念ながらこの人工光合成にはどこか大きな欠陥があったようで、その後すぐ研究は中止となってしまいました。

大坂公立大学と岡山大学の研究チームが、自然光合成における水分解・酸素発生のメカニズムを明らかにしたと発表しました。光合成は複数の反応が折り重なったシステムです。

太陽光エネルギーを吸収して反応が起こる「明反応」と、その産生物をもらって炭酸ガスから糖質を合成する「暗反応」の2種の反応があります。明反応は光エネルギーにより水を分解すると、酸素と水素イオン、電子を生成します。

最初の水を分解する段階で有効な触媒が必要になり、これを「光化学系Ⅱ(PSⅡ)と呼んでいます。藻類や植物の葉の中にある膜タンパク質で、光合成による酸素分子の発生に重要な役割を果たします。

研究チームはPSⅡの結晶化に成功し、その働きを詳細に研究しました。この詳細は無機化学の専門的な話であり、私もよく理解できませんので割愛しますが、現在は70%程度まで解析ができているようです。

このように明反応についてはかなり明らかになってきたようですが、私の専門である有機化学に近い暗反応の解明はまだまだ先といえるのかもしれません。

紫外線でリサイクルできる接着剤を開発

2023-08-29 10:36:11 | 化学
私は退職後勤務した研究所で、高分子樹脂の研究を行っていました。この高分子は被膜用の樹脂でしたが、せっかく高分子研究をするなら接着剤をやってみたいと思っていました。

接着剤には本当にいろいろな種類があり、一旦くっつくと剥がれないものや、カップヌードルの蓋のようにぺりぺりと簡単にはがせてくっついたりしないもの、ウエットティッシュの出口のように簡単に外れてまた接着できるものなど多種多様になっています。

こういった性質と化学構造とにどんな関連があるのか調べてみましたが、非常に難しそうでした。この研究所には8年も勤務しましたが、残念ながら接着剤の研究はできませんでした。

さて物質・材料研究機構(NIMS)が、波長の違う紫外線をスイッチにして強い接着と容易な剥離を両立し、リサイクルが可能となる接着剤を開発しました。プラスチックなど接着しにくい素材に対応するうえ、水中を含めた湿潤な環境でも使えるようです。

NIMS高分子研究センターでは、ムラサキイガイやフジツボなどが海岸の岩礁や船底に付着する仕組みに着目し、付着を防ぐコーティング剤などを研究していました。

今回の研究では、コーヒーをはじめ植物全体に存在する「カフェ酸」に注目しました。カフェ酸は波長365ナノメートルの紫外線を当てると分子が橋渡しをしたようにつながる架橋反応を起こし、波長254ナノメートルの紫外線を当てると脱架橋反応で元に戻る性質があります。

カフェ酸の化学構造にムラサキイガイが分泌する接着成分に多く含まれるカテコール基があることより、架橋反応によって接着強度が高まり、脱架橋反応によって接着強度がなくなる接着剤の開発を目指しました。

カフェ酸を組み込んで開発した接着剤は、まず基材に塗り365ナノメートルの紫外線を当てると表面に塗膜ができて保存が可能になります。これを80℃程度に加熱しながら基材同士を合わせると主にカテコール基部分が働いて接着します。

接着したものは無理やりはがしてまた加熱してつける操作を30回繰り返しても接着の性能は変わりませんでした。接着を止めるときは、まず接着剤に波長254ナノメートルの紫外線を当て、カフェ酸の脱架橋反応で高分子が元の直鎖上に戻り、基材から離れやすくします。

機材の表面についた接着剤を溶剤で洗い流すことで基材、接着剤共に回収し再利用できます。この接着剤は機材の制約を受けないのが特徴で、プラスチックや木、カーボン、金属などで強い接着強度が得られます。

このように紫外線で着脱でき、カテコールを含むため湿潤下や水中でも接着できるという面白い性質を持っています。

このため手術時の体内で用いる医療用接着剤や、洋上建造物の補修工事などに寄与することが見込まれるとしています。