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ごっとさんのブログ

病気を治すのは薬ではなく自分自身
  
   薬と猫と時々時事

乳酸は疲労の味方だという運動の真実

2025-05-04 10:32:54 | 化学
運動をすると乳酸が産生され疲労を感じるとされていましたが、最新研究ではこれが間違いということになったようです。

乳酸は糖質をエネルギー源基質とした場合にのみ産生されます。解糖系において、乳酸が産生される場合とされない場合の違いは、運動強度に依存しているようです。

酸素を十分に取り込める低い強度の運動を行った場合、糖質の分解は穏やかに進み、その分解過程で生成した中間代謝物であるピルビン酸は、ほぼすべてがミトコンドリア内に入ります。そして有酸素系で二酸化炭素を生成しながら、エネルギーの供給源であるATPを産生します。

一方激しい運動を行い、必要なだけの酸素を取り込めないような条件では、糖質が大量に分解されて、ピルビン酸も大量に生成されます。そのためミトコンドリア内に取り込まれなかったピルビン酸は、乳酸へと変換されていきます。

通常の条件下では、筋肉細胞内の酸素分圧がゼロになることはほとんどありません。したがって糖質をエネルギー源基質とする運動に無酸素運動はないといっても言いすぎではないでしょう。

これまで乳酸を疲労物質と呼ぶように、運動により血中乳酸濃度が増加することが疲労を引き起こすかのように思われがちですが、これは誤解であり俗論と呼べるものです。

むしろ血中乳酸濃度が上昇するレベルの高強度な持久性運動を継続して行えるのは、筋グリコーゲンおよび血液から取り込まれたグルコースの分解によって、乳酸が産生されるからといえます。乳酸が多くのエネルギーを保有している中間代謝物であるということです。

持久性トレーニングは筋肉細胞内のミトコンドリアを増加させますが、それによってミトコンドリア内に組み込まれているクエン酸回路、電子伝達系を構成する諸酵素群が適応的に増加し、持久性パフォーマンスを向上させます。

持久性トレーニングを通じて、脂肪酸の傘下にかかわる酵素の活性が上昇すると、エネルギー源としての脂肪の利用を高めるので、筋内のグリコーゲンを節約することができるようになりますし、ダイエット効果も期待できるでしょう。

このように乳酸は重要な役割を有していますが、私の専門的にも興味ある化合物といえます。余談ですが、乳酸はもっとも単純な不斉炭素を持った化合物、つまり光学異性体が存在する化合物です。

天然にも広く存在していますし、安価で入手も容易ということで有機化学の分野では、光学活性体合性の原料として使われています。ひとつの化合物の中にカルボン酸と水酸基(OH)が存在しますので、原料としても非常に使いやすいものでした。

私にとって身近な乳酸が、疲労物質ではないということはなんとなくうれしい気がします。

白菜などの収穫期を調整する化合物を発見

2025-04-16 10:32:54 | 化学
最近は果物や野菜などの旬がわからなくなってきました。多くの果物や野菜などは1年じゅう店頭に並んでいるからですが、これは農業の進歩などがあるようです。

こういったハウス栽培など農家の方の努力によって達成されているのですが、消費者としてはありがたいことだと思っています。

奈良先端科学技術大学の研究チームが、白菜などの野菜が属するアブラナ科の植物の開花を制御できる化合物を発見しました。開花を遅らせることで、その分の栄養を使って葉を成長させて大きく育てたり、収穫時期をずらしたりすることが将来的に期待できるとしています。

研究チームが着目したのは脱春化と呼ばれる現象です。多くの温帯の植物は冬の寒さが一定期間続いたことを機に開花準備を始めますが、その直後に数日間の高温が続けば開花準備前の状態に戻ることを指します。

高温をきっかけに、開花を抑えるFLC遺伝子の働きが促されて起きるとされています。FLC遺伝子の働きを促す高温以外の要因があれば、脱春化を起こせるはずと考え、きっかけを与える物質を探しました。

研究チームは、植物細胞に浸透しやすい性質を持つ化合物約2万種をアブラナ科のモデル植物であるシロイヌナズナの種に与えて栽培しました。FLC遺伝子の働く量が多かった株を特定し、株に与えた化合物を調べたところ、計2種類の共通の構造があることを発見しました。

DVRsと名付けたこれらの化合物には、その後の実験でFLC遺伝子の働きを阻む物質を減らす効果があり、結果的に開花を抑えることがわかりました。通常の高温による脱春化と違い、ほぼFLC遺伝子のみに影響を与えることも確認できました。

また株ごとの成長の様子を比較すると、DVRsを与えた株では開花までにかかる日数が平均15%長くなりました。この結果茎が同じ長さになった段階で比べると、葉の枚数を約3割多くできたとしています。

研究チームは、大根やキャベツなどのアブラナ科には共通の春化の仕組みがあり、春化をどう遅らせるかが課題になっていました。このDVRsが将来食糧増産や収穫の安定化に役立てばうれしいと話しています。

こういった植物の研究が非常に難しかったのは、モデル植物を育てるのに非常に時間と手間をとられてしまうためでした。今回の化合物の探索でも、シロイヌナズナを2万本準備することは実際問題として不可能でしょう。

それが遺伝子を取り出しそれに作用するといういわゆるインビトロの研究ができることで進展したと考えられます。

こういったことができるようになり、植物や一部動物実験も大量処理が可能になったと考えられます。

全国でPFASの検出相次ぎ政府が対応策

2024-10-15 10:37:08 | 化学
最近日本でも各地でPFASが検出されたという報道が出ています。PFASはフッ素化された炭化水素(アルキル)化合物という意味ですが、フッ素が入ると非常に面白い性質が出てきます。

私も医薬品合成にフッ素化合物を導入しようとしましたが、非常に難しく特定の部位にフッ素を入れるのはほぼ不可能でした。そこでPFASも色々なフッ素化合物の混合物となっています。

フッ素化合物の特徴として、非常に安定な化合物になるのですが、逆に自然環境でもほとんど分解されないという点が問題となっています。

PFASは体内に入っても反応することはありませんので、そのまま異物として排出されると思っていますが、非常に小さいため血管などに入り込むと傷つけたりする可能性はありそうです。政府は事態を重視し、環境省を中心に対応策を進めています。

同省では現在、PFASに特化した水道水の汚染状況調査を実施中で、専門家会議では水道水の暫定基準の見直しに向けた議論を始めています。環境省によるとPFASは有機フッ素化合物の総称で、4730種類以上で定義によっては1万種以上あるとされています。

耐熱、水や油をはじくなどの性質があり、2000年ごろまではフライパンなどのコーティングや食品包装、衣類の防水加工などの身近な製品の他、半導体や自動車の製造過程にも使われてきました。

PFASの中でも特に使用されてきたのがPFOSとPFOAの2物質で、PFOSはメッキ処理剤や泡消火剤などに、PFOAは撥水剤や界面活性剤などが主な用途でした。この2物質は難分解性、高蓄積性の他長距離移動性も高く、北極圏を含めて世界各国で広く残留しているとされます。

こうした性質から米国などでは「永遠の化学物質」とも呼ばれています。これら代表的なPFASについて2009年以降、動物実験で肝臓機能や体重減少などの影響の他、人体に対してもコレステロール値の上昇、発ガン性や免疫機構への影響を示す報告が出されています。

このためストックホルム条約による国際的な規制が進み、PFOSは2009年に、PFOAは2019年に廃絶される対象物質になりました。これを受けて日本では2021年までにこれら2物質の輸入や製造が原則禁止されました。

環境省は、2022年度の調査でPFOSとPFOAが全国16都府県の河川や地下水など111地点で暫定目標を超えていたと発表しました。この中には私の住んでいる神奈川県も入っており、最高だった大阪府では目標値の420倍という高濃度でした。

こうした結果を受けて世界保健機構は、2022年9月に暫定的な基準値として従来の値の10倍にすることを提案しました。

こういったことは何の対策にもなっていませんが、早急に人体にとって危険な濃度を定めるところから始めるべきではないでしょうか。実際は手の打ちようがないというのが本音なのかもしれません。

人類によって生み出された「人工元素」は何種類

2024-09-23 10:35:42 | 化学
私は有機化学者として元素(実際はそれからできた分子ですが)と元素を反応させ、新しい分子を作りだすという仕事をしていました。

従って多くの元素といわばなじみ深いのですが、元素自体はなかなか難しいものです。原子は現在までに118種類知られており、そのうち天然に存在するのは94種類です。どんな神秘な宇宙に行ってもこれ以外は存在しないという点が、私が宇宙に興味がなくなった理由のひとつです。

あらゆる物質は原子でできていますが、原子は陽子や中性子で作られた原子核と、周囲を取り巻く電子から成り立っています。陽子の電荷はプラス1なので、電荷がマイナス1である電子の数は足し合わせて電荷がゼロとなるように決まります。

すなわち陽子の数=取り巻く電子の数となっています。原子の持つ陽子の総数のことを「原子番号」と呼んでいます。原子の化学的性質を表わすために、異なる原子番号ごとに「元素」という言葉があてはめられました。

中性子は、元素の化学的性質には関わりありません。水素や鉄、鉛など、天然には94種類の元素があります。地上には150万種もの動植物が暮らしていますが、生物に限らずすべての物質がこれらの元素の組み合わせでできていることになります。

原子についての理解が進んでいなかった古代エジプト時代から20世紀初頭までの長い間、変色せずに加工性に富んだ金を他の物質から作る錬金術という試みが盛んに行われましたが、企てはことごとく失敗しました。

元素の変換に初めて成功したのは1919年です。アルファ粒子(ヘリウム原子核)を窒素に照射すると、陽子が飛び出してくることを発見したのです。このとき窒素が酸素に変換されました。

元素の変換とは、原子核が異なる原子核へと変化したことを指しており、この反応を「原子核反応」と呼んでいます。原子核を高速で他の原子核にぶつければ、原子核反応を起こせることが分りました。

そこで効率的に反応を起こして原子核を研究するために、原子核を高速に加速する加速器の開発が始まりました。そして1936年、発明されたばかりのサイクロトロンという加速器をを使って重水素を加速し、原子番号42のモリブデンに照射するという実験を行いました。

その結果地上では当時見つけられていなかった43番目の元素テクネチウムを発見しました。このようにしてこれまでに61番のプロメチウムと85番目のアスタチン、および93番元素のネツプニウムから118番元素のオガネソンまで29種類の元素が、人類によって生み出されました。

ただこの中の5種類は後の研究で、微量ながらも地上に存在していることが明らかになりました。

このように人類は新しい元素を作り出してきましたが、そろそろ限界のような気がしています。多分研究が進むにつれて人工元素も天然に存在することが分ってくるような気もします。

糸状コラーゲンを高速で作る技術を開発

2024-08-14 10:38:12 | 化学
コラーゲンというとぷりぷりしたタンパク質のイメージがありますが、実際は非常に強いもので腱や靱帯も糸状コラーゲンでできているようです。

北海道大学などが、腱や靱帯を形作るコラーゲンマイクロファイバーを高速で作る紡糸技術を開発しました。糸状コラーゲンを束にすると、健常な人の靱帯の2分の1から3分の1程度の硬さや丈夫さとなり、臨床応用できる十分な強度が得られました。

スポーツ選手など多くの人が患い、体内の別部分の腱を自家移植するのが一般的だった膝前十字靱帯損傷の治療に人工腱として使える可能性が高いとしています。筋肉と骨をつなぐ腱や骨と骨をつなぐ靱帯はコラーゲンからできています。

人体と同様に線維が一方向に整列した似た構造を持つ糸状コラーゲンを増産できれば、人工腱の材料となり得ます。これまでの技術では、1時間で数十メートル程度作るのにとどまり、実用化に結びついていませんでした。

北海道大学の研究チームは、長年研究されてきたノズルを通して紡糸用コラーゲン水溶液を凝固液とエタノール液を通してから線維として巻き取る「湿式紡糸」を基に、水溶液を凝固液に通さなくてもエタノール液中で凝固するものに改良しました。

これにより紡糸の行程を短縮し、凝固液内に含まれる薬剤を除去する手間も省けます。これまでの紡糸技術ではエタノール液中で凝固過程のコラーゲンを引っ張って伸ばす「延伸」を行う際に切れてしまう課題がありました。

延伸しやすいよう成分を工夫したコラーゲン水溶液を独自開発し、エタノール液中に押し出すことで形成される糸状コラーゲンゲルを乾燥してマクロファイバー化する過程で巻き取る速さを押し出す速さより高速にすることで、延伸を実現しました。

延伸の工程があることでコラーゲン繊維が一方向に整列した内部構造を得ました。具体的には、紡糸用コラーゲン水溶液を47マイクロメートルでエタノール浴に押しだし、押しだすよりも4.4倍の速さで巻き取ることで延伸しました。

紡糸速度は1時間に200メートルまで上がり、直径が10〜20マイクロメートルの生体内コラーゲン繊維に近い22マイクロメートルの糸状コラーゲンが得られ、糸状コラーゲンの連続生産が可能になりました。

ただ実際の靱帯や腱のコラーゲン繊維の断面が真円であるのとは違い、得られた糸状コラーゲンの断面は楕円形となり、延伸時にローラーから圧力を受けた影響とみられています。

断面が楕円形の糸状コラーゲンが、医療現場で人工腱として使うことができるかを調べた結果、天然の腱よりやや弱いものの臨床応用にとっては十分な強度が得られました。

この人工腱は10年後に治験を行うことを目指しています。