今日のうた

思いつくままに書いています

苦海浄土 わが水俣病

2014-07-09 15:21:59 | ⑤エッセーと物語
石牟礼道子さんの『苦海浄土』を今日、読み了えた。
内容が重く、せりふは方言で書かれているので、少し読んでは休み、また休みして
結局、一年以上かかってしまった。

読み了えた日に、石牟礼さんが「第8回後藤新平賞」に決まった事を知り、嬉しかったです。
おめでとうございます。

『苦海浄土』の解説に、渡辺京二さんは次のように書いている。

 はじめて水俣の彼女の家を訪れた時、私は彼女の「書斎」なるものに深い印象を受けた。
 畳一枚を縦に半分に切ったくらいの広さの、板敷きの出っぱりで、貧弱な書棚が窓からの
 光をほとんどさえぎっていた。・・家の立場からみれば、それは、いい年をして文学や詩歌と
 縁を切ろうとしない主婦に対して許しうる、最大限の譲歩ででもあったろう。

こんな環境で書かれていたのかと思うと、胸がつまる。

その後、録画したETV特集「ふるさと`水俣´に生きる 次世代からのメッセージ」を観る。

番組の初めに、水俣のゆるキャラだという「やうちブラザーズ」が、裸に派手な飾りを付けて登場し、
「We love my mother」を歌い出す。

 動かない 浜のトドの様です
 テレビの前の 座敷トド
 朝は10時のおやつ食って 朝寝 
 昼は昼飯食って 昼寝

「やうちブラザーズ」の三人は、水俣三代目に当たり、祖父母や両親が水俣病を
患っていました。
その中の杉本肇さんと実さん兄弟のお母さん(栄子さん)は、妊娠中も激痛に転げ回り、
三度流産して、ようやく授かったのが肇さん(53歳)です。

歌に出て来る栄子さんは怠け者ではなく、病気に苦しんでいたのです。
栄子さんの教えは、「どんな時でも笑わんばダメぞ、笑わんば」
栄子さんのお父さんの教えは、「苛められてもやり返すな。そうしてすっきりして死にたい」

杉本さん一家がチッソを訴えようとすると、地域で孤立し、嫌がらせをされたという。
また水俣病患者の救済に尽力した川本輝夫さんは、名指しの誹謗中傷ビラを撒かれたという。
住民の7割が、チッソと関係のある生活をしていたのだ。

番組には、50年間以上にわたって水俣と向き合い続けた医師、
原田正純さんのお嬢さんの利恵さんが登場します。
昨年までの二年間は水俣に住み、地域の再生の調査研究をされていたという。
第三世代の人たちに聞き取りをして、この人たちの思いを伝えることが自分の役割だと
語っていた。

水俣病が公式に確認されて58年が経った。
水俣の海のもっとも汚染が酷かった所は埋め立てられ、毎年5月1日にはここで
「水俣病犠牲者慰霊式」が行われている。
50代後半になった胎児性患者の方々も出席する。

今年は川本輝夫さんの息子さんの愛一郎さん(56歳)が、祈りの言葉を述べた。

 (昭和43年、新日本窒素肥料株式会社はチッソが原因と認めたが、補償交渉は難航した)
 「愛一郎さんのお父さんの輝夫さんは、東京の本社前に1年7か月坐りこみを続け、
  社長に次のように訴えたそうだ。

 『水俣病だった親父は精神病院に入れられ、誰にも最期を看取られることなく死んだ。
  最後にひと匙のおかゆを食べさせたくても、米を買う銭が無かった』

  そして愛一郎さんは、不条理に奪われた人間としての尊厳と生活を、
  名前を持った一人一人のその手に取り戻していきたい」と語った。

杉本肇さんは高校卒業後、東京に就職したが、水俣に戻ってきて弟の実さんと漁師をしている。
家族で船に乗った時の栄子さんの笑顔が素晴らしかった。
栄子さんは、「まちっと生きろうごたつ(もう少し生きたい)」という言葉を遺して
亡くなりました。

胎児性水俣病の坂本しのぶさん(57歳)は、次のように語っています。
 「やはり(福島は)水俣と同じだなあと思います。黙っとればだめだなぁと思っております。
  ちゃんと話をしていかないと」

一点の瑕疵(かし)もないのに、命に関わる被害をこうむった住民が、
なぜ差別や偏見を受けなければならないのか。そして、なぜ十分な補償が受けられないのか。
症状があっても水俣病と認められない約400人の裁判が、今も続いている。

水俣の語り部だった栄子さん亡き後は、肇さんが引き継いでいる。
その日も肇さんの家には、福島や東京から若者たちが話を聞きに来ていた。

(細部に間違いがありましたら、お赦しください)


追記1
水俣の人気お笑いトリオ、「 やうちブラザーズ 」 の演奏が視聴できます。
               ↓
https://www.youtube.com/watch?v=I3sYX22IAJ8

(2015年5月24日 記)

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