今日のうた

思いつくままに書いています

すべての、白いものたちの

2019-12-02 10:19:50 | ③好きな歌と句と詩とことばと
韓江(ハン・ガン)著『すべての、白いものたちの』を読む。
以前、ラジオ番組「荻上チキSession-22」で韓国文学を特集した際に、
この本を翻訳した斎藤真理子さんが初心者向けに薦めていたものだ。
韓江(ハン・ガン)さんは、ポーランドの翻訳家、ユスチナ・ナイヴァル氏に
ワルシャワに招待され、13歳の子どもと一緒に8月の終わりから晩秋までを
この地で生活することになる。

こうした知識は「あとがき」を読んで初めて知る。表紙の白いものも、後になってわかる。
削ぎ落された文章を淡々と描くことで、読者は想像を巡らしながら読むことになる。
 そして後になり、「あっ」とつじつまが合う。
歴史をふまえ、詩のひとつひとつがチェーンストーリーのようになっている。 
「白」を基調にした詩はどれも、つめたく美しく純度が高く、そして深く、
 私の心にすうっと入ってきた。
気に入った詩の中から一部を引用させて頂きます。
(好きな詩はたくさんあるのですが)

 ①白く笑う  
 白く笑う、という表現は(おそらく)彼女の母国語だけにあるものだ。
 途方に暮れたように、寂しげに、こわれやすい清らかさをたたえて笑む顔。
 または、そのような笑み。  
 あなたは白く笑っていたね。
 例えばこう書くなら、それは静かに耐えながら、笑っていようと  
 努めていた誰かだ。
 その人は白く笑ってた。  
 こう書くなら、(おそらく)それは自分の中の
 何かと決別しようとして  努めている誰かだ。

 ②白髪  
 鳥の羽毛のように髪が真っ白になったら昔の恋人に会いに行きたいと言っていた、
 中年の上司のことを彼女は思い出す。すっかり年をとって、一本残らず  
 完全な白髪になったら・・・・・・一度だけ会いたい。  
 もう一度あの人に会いたいときが来るとしたら、きっとそのとき。  
 若さもなく肉体もなく、  
 何かを熱望する時間がすでに尽きたとき。  
 邂逅のあとに残されたことはただ一つーーー体を失い、ほんとうの決別が来る、  
 そのことだけというとき。

 ③わかれ  
 しなないで しなないでおねがい。  
 言葉を知らなかったあなたが黒い目を開けて聞いたその言葉を、  
 私が唇をあけてつぶやく。それを力をこめて、白紙に書きつける。  
 それだけが最も善い別れの言葉だと信じるから。  
 死なないようにと。生きていって、と。       (引用ここまで)

   
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