神なる冬

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コンサドーレサポーターなSFファンのブログ(謎)

[SF] 焦熱期

2011-05-17 21:07:18 | SF
『焦熱期』 ポール・アンダースン (ハヤカワ文庫 SF)

良い方のポール・アンダーソンでも、悪い方のポール・アンダーソンでもなくって、SF作家のポール・アンダースンの1974年の作品。

ヒューゴー賞候補作。このとき受賞したのはル=グィンの『闇の左手』だそうな。そりゃ負けるわな。



三重連星系の惑星イシュタルへ、千年に一度やってくる〈侵略の太陽〉アヌ。おまえはラーメタルか!

幾度も文明の発展を阻んできた焦熱期を、今回は地球人が原住民のイシュタル人をサポートすることによって、乗り切れるはずだった。しかし、イシュタルの外で泥沼化しつつある戦争のため、そのサポートは打ち切られようとしていた。

一方、イシュタル上では、地球人にサポートを受ける部族と、それ以外の蛮族との対立が激化し、ここでも戦火が巻き起ころうとしていた。

さらには、北部辺境に棲む小鬼とアヌの惑星との関係が明らかになり、イシュタルの命運を握る鍵となるのであった。



イシュタル人の造形はケンタウロスそのままで、体毛や毛髪替わりの植物と共生していたり、獣や鳥に進化した6本肢生物が作り出す生態系は非常に興味深い。

甲冑に身を包んだケンタウロスが中世のような攻城兵器を使って戦う戦争シーンは、まさしくファンタジー世界のSF的実現であり、かれらの文化や思想もよく考えられている。

しかし、それらのファンタジー世界と、ベトナム戦争を暗示する宇宙戦争との関わりが今ひとつこなれておらず、別な物語を無理にくっつけたような感じがしてしまう。

T-生命形態の話題も中途半端な扱いだし、この辺をもっと衝撃的に使えば起死回生の大円団になったかもしれないのに、惜しい感じ。SF的な部分よりも、社会学的なテーマ性を重視したのだと思うが、消化不良で中途半端だと思う。

いや、返って後味の悪さを残すのが狙いだったのだとすると……ちょっと詰め込みすぎで、やっぱり焦点がぼやけてしまっているのではないか。

献辞は『重力の使命』を描いたハル・クレメント宛てで、ブログの感想にアシモフの『夜来たる』を上げている人もいるが、自分がまっさきに想起したのはマキャフリイの〈パーンの竜騎士〉シリーズ。連星系で、文明が続かずに、しかも生命体まで降ってくる。そういった意味では、ちょっと意外性に欠けたかも。

アンダースンは、短編、中編での受賞はあるが、長編では万年候補で終わってしまった。逆にいえば、どれも安心して読める水準作ということ。それはそれですばらしい業績だと思う。