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科学技術の異常な発展によって、不死の境地を垣間見たリープ人は、その結果訪れた、あまりにもむごい現実のすべてを、自分たちを創った神のせいにし、神を殺そうとしたのである。
バルガモス計画を阻止しようとする動きはあったが、それは功を奏しなかった。あの信者たちは、あらゆる難を乗り越えて、その計画を推し進め、ある日とうとう、ミサイルを発射するスイッチを押した。バルガモスを乗せたミサイルは、3か月で惑星リープを照らす太陽に届いた。
太陽は肥大し始めた。リープの環境が一変するまで、2年とかからなかった。季節の変化が突然なくなり、冬が来なくなった。夏と、一層暑い夏が続き、世界中から水がどんどんなくなり始めた。
植物が敗退し、森が枯れ始めた。そうなって初めて、人々は後悔したが、もう遅かった。リープはもう、滅びざるを得なかった。
このままでいけば、あと数万年で、リープは太陽に飲まれてしまうだろう。異様に肥大した太陽の寿命は一気に縮み、彼らが望んでいた通り、破裂して死んでしまう。だが神を殺せば、人間も死ぬのだ。なぜ彼らは、そのことを考えなかったのか。
わたしはその様子を、老いた父と一緒に、呆然と見ていた。父が情熱を傾けて追いかけていた不死の研究も、一切が無駄になろうとしていた。どんなにがんばっても、もう太陽はもとに戻らない。リープの世界が破壊されれば、不死になったとて何の意味があるのか。
そんな絶望の日々の中で、ある日、父と、わたしを育ててくれた家政婦が、わたしを呼んだ。そしてひとつの計画を、わたしにささやき、わたしに小さな装置をわたした。それは、蛙のような形をした不思議なバックルのついた、ベルトのようなものだった。
これは、時空跳躍装置だ。
父はそう言った。
まだこの世界にたった一つしかない装置だ。開発者が、わたしにくれたのだよ。おまえに渡してくれと。
父は淡々と語った。わたしは黙って聞いていた。
わたしはおまえを、宇宙に託そうと思う。この装置の記憶回路の中には、生命が存在する可能性のある惑星のデータが入っている。それを頼りに、おまえは自分が生きる新しい世界を探すのだ。
わたしは、にわかには父の言葉を飲み込めなかった。だが、父の意志に逆らうような気持ちは起きなかった。父の心に従う。それがそのときのわたしにとって、一番大事なことだった。
家政婦が、泣きながら、わたしを見つめていた。幼いころ、成長促進薬の入った粥を、小さな匙でゆっくりと食べさせてくれた、いい人だ。父は、静かに語り続けた。
もうこのリープに未来はない。だがおまえは、希望の超人だ。永遠に生きていける。宇宙空間でさえも、おまえの命を阻むことはできないだろう。
そのとおりだった。格安の宇宙服さえ着れば、わたしは宇宙空間でさえ生きていける。そういう研究結果はもう出ていた。
そうしてわたしはある日、父が求めた逃亡用の宇宙船の切符を持って、リープから飛び立ったのである。宇宙船に目的地などなかった。ただ、リープから逃げたい人間が、焦って作ったせんもない馬鹿船だった。
わかれのとき、父がわたしを抱きしめて言ってくれた言葉を、忘れない。
キオ、愛している。許してくれ。
それが、父から聞いた最後の言葉だった。
(つづく)