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幼いころの記憶だ。
巨山のようにそびえたつ銀色の塔を見た。それは緑原の中央にあり、暴力的に地養を吸い上げて育った、奇怪な幻樹のようでもあった。
あれは、太陽を射る矢をつがえるための、弓だ。
そう教えてくれたのは、わたしの父だった。
わたしの名は、ヨルン・リープ・キオという。希望の超人という意味だ。わたしの父がわたしに名付けた。リープとはわたしの故郷の星の名でもある。美しい星だった。緑と銀の大地が広がり、朱や黄色の花々が咲き乱れていた。生き物がふんだんにいた。青麦色の森が栄え、都市文明が水晶の巨大な株のように地上に盛り上がっていた。人々は高い科学の技で、幻想的な世界を作り上げていた。
ありとあらゆるものがあった。リープの人間は自分の欲望をかなえるために、頭の中にある幻想をすべて現実に作りだした。ものを言う獣。翼のない鳥。空を飛ぶ魚。角が生えた蛇。虫のように動き回る花。巨大なザクロの実。生活を潤す様々な道具。光のように空を飛ぶ船。一日で国を消すことのできる武器。海底都市。
科学の技術でかなわない夢はない。そのためには何をしてもいい。それがほとんどのリープ人の信仰だった。
科学技術の発展の中で、リープ人は、自然の母の胎を使わずとも、人間を創造できるようにさえもなっていた。水晶ガラスで巨大な子宮を作り、銀色のレゴパズルのような部品を組み合わせて、奇妙な植物のような創造装置を作った。そこに人間の種を入れて、スイッチを入れれば、ほんの3週間のうちに、赤ん坊ができるのだ。産みの苦しみを味わわなくてもいいといって、女たちはそれを大喜びで認めた。もう二度とあんな苦しい思いをしなくていいのだ。それですべてが楽になる。
リープの女は、そういって子供を産むことを一切やめたのだ。
ゆえにわたしには、母はいない。わたしの親は、わたしの父だけだ。わたしは、父の生殖細胞をもとに、改良因子を加えられて作られた、希望の子供だった。わたしは、科学者であった父の夢の結晶だった。わたしの名は、希望の超人、ヨルン・リープ・キオ。キオとだけ呼んでくれればいい。
(つづく)