共 結 来 縁 ~ あるヴァイオリン&ヴィオラ講師の戯言 ~

山川異域、風月同天、寄諸仏子、共結来縁…山川の域異れど、風月は同天にあり、諸仏の縁に寄りたる者、来たれる縁を共に結ばむ

暮れ行く空とシューベルト

2014年09月15日 22時08分10秒 | 日記
昨日の御霊神社のお祭りから一夜明けて、今日は殆ど家で練習していました。

特に演奏する予定もないのですが、何となく書庫からシューベルトの《アルペジオーネソナタ イ短調》の楽譜を引っ張り出してヴィオラで練習していたら、ふと気づいたらすっかり夕方になってしまって、結局どこへも出かけず終いでした…。

シューベルト晩年の名作のひとつであるこのソナタは、当時新たに考案・制作された『アルペジオーネ』という弦楽器のお披露目と普及のために特別に依頼されたものです。このアルペジオーネという楽器は別名『ギターレ・ダモーレ』とも呼ばれたもので、単純に言うとギターをチェロのように縦に構えて弓で弦を擦って演奏するというものでした。

開発当時はそこそこ話題にはなったようでしたが、演奏法が煩雑だったのと、その独特の音色が禍して音色が他の楽器と溶け合わないためアンサンブルに向いていなかったのとで結果としては実用化には至らず、音楽史の波の中に消えていってしまいました。それでも、たまたまシューベルトという天才と巡り合ったことでこの楽器を想定した名曲が生まれ、それによって楽器の名前だけが今日まで伝え残されたというのは、何とも皮肉なものです。

今日ではチェロで演奏されることが殆どで、他にヴィオラやフルート等でも演奏される曲ですが、たまたまこのアルペジオーネを復元したレプリカで演奏している動画がありましたので載せてみました。アルペジオーネは2001年にブリュッセルで制作されたもの、ピアノは1827年にウィーンで製作された、いわゆるハンマーフリューゲルとよばれる大型のフォルテピアノでの演奏です。

第1楽章はイ短調。シューベルト節とでも言うべきメランコリックなメロディが何とも美しい名作です。ところどころに『ギターレ・ダモーレ』としての演奏効果を狙ったピチカート(弦を指で弾く奏法)も盛り込まれています。こうして聴いてみると、チェロでは割とキーン!とした硬く緊張感のある音色になる高音域でも、本家アルペジオーネでは比較的柔らかく響くことが分かります。

サイトの都合なのか、第1楽章だけの映像と、第2・第3楽章が連続する映像とに分かれていました。こちらには第1楽章の画像を載せてあります。この欄の下に後半の映像のページも載せましたので、チェロでの演奏とは全く違う何とも古雅で柔らかな音色に御注目下さい。

Franz Schubert : Sonata for arpeggione & fortepiano - 1. Allegro moderato
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暮れ行く空とシューベルト Ⅱ

2014年09月15日 20時35分05秒 | 日記
こちらは《アルペジオーネソナタ》の第2、第3楽章です。切れ目なく演奏されます。

ホ長調の第2楽章は、歌曲王シューベルトの面目躍如たる柔らかで暖かな名旋律です。曲の後半で、アルペジオーネが音を長く伸ばしている裏でピアノが回転軸の太い転調を繰り広げるところも聴きどころです。

アルペジオーネの短いソロに続いて突入する第3楽章はイ長調。いわゆるロンド形式といわれるスタイルで、明るく伸びやかな印象のメロディに、16分音符が忙しなく波打つニ短調の部分と、田舎の素朴なダンスのようなホ長調の部分とが間に挟まります。

この曲は、現在では音域的に重なるチェロで演奏されることが殆どですが、こうして復元された指定楽器での演奏を聴くと、シューベルトが恐らく意図していたこの曲の響きというものは、こんなにも穏やかなものであったかということを再認識させられます。

涼やかな秋の夕べに、シューベルトの名曲を本来の姿で御堪能頂ければと思います。

Franz Schubert : Sonata for arpeggione & fortepiano - 2. Adagio & 3. Allegretto
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