T3年生イケナイアルバイト。 (5) (最初の1話目)
(夢は夢。)
「おとおさんッ!おとおさんッ!おとぉおさんぅ。」
「ぁ、どないしたんやぁ、何処に居(オ)ったんやぁ 」
「ぉとおぉさん、おとおぉおさんぅッ! 」
「ナンや、どないしたんや、お前ぇどこにおったんやぁ? 」
胸の奥の何処かで、何かが透明に為りかけていました。
意識もしないで求めた暗さは、自分を隠すまで待ってはくれませんでした。
図らずも陥ってしまった暗闇は、其の透きとおる黒色で自分を優しく包み込んで、
忘れることなどしたくもなく、ただ想い願うだけの透明なものを奪おうと。
だから忘れることも叶わなかった。
(墜ちたら)
最初。自分がどうなったのか分からなかった。
アイツがお百度参りの橋から身を投げそうだと。
ッデ、駆け寄って引き留めようとしたら、自分が墜ちてしまった。
墜ちるまでの僅かな時間、チョット心が時メイていた。
(ナンや、簡単なんや)
心で想っていました。
(水の中から)
重たい水の冷たさは、自分の躯全部で感じていました。
水の冷たさで知った、醒めていなかった酒の酔い、如何しようもなく心地好いものでした。
水の中で視えるはずのないものにナニかを呼び掛けると、
自分の動かす口からは泡(アブク)が連なって出ていました。
声にならない声でした。
息は苦しくはありませんでした。 だから此の侭、深間な処までと希望していました。
(悪いのはウチ)
ウチは、自分が落ちるとばっかし思うていました。
掴んでた欄干から手を放すと、ナンだか眼の前の時間が真っ黒でユックリしてた。
ウチは放した手で空中の何かを掴もうとしていたと思います。
モシあの時にその何かを掴んでいたら、キットこぉぅ思っていたと思います。
あぁ、ヤット終わるんだぁ。やっとぉ。
そしたら、スカートの腰の辺りを抱っこされるみたいにされ、引き戻されました。
頬ッペタを叩かれたのは後まで憶えていたけど、どんな風にマスタァが落ちて行ったのかは分かりません。
暗かったし、ウチはあの時、どう言えばいいのかぁ?
心が何処かに在るような感じヤッタんです。
ザブン!ッテ 水の音がしたから橋の下を覗いたら、暗くて何も見えませんでした。
なんがあったのかと辺りを見たら、マスタァが居りませんでした。
タブンですけどわたしは頬の痛みから、マスタァはウチを叩いてそのまま落ちたんやと思います。
近道したあそこの橋の上まで、マスタァの後からついていってたけど、
暗かったけどマスタァ、脚がふらついてたのは知ってた。
あの人ぉなんだかぁ、悪酔いしているみたいヤッタんです。
今でも時々ウチは、あのままウチが落ちていれば良かったんだと、想うことがあります。
そんなとき、マスタァが落ちて死ななくて良かったとも、想います。
人って、アンガイ簡単に死ねるんやわぁッテ思います。
簡単に死ねるんだと解ると、簡単すぎて怖いです。
だから死に方を恐ろしくて、あれ以来アンマシ考えへんようになりました。
ッテ。 アイツ随分後で、ワイに言いよった。
(酔夢から醒めた)
突然、顎を何か力強い物で摑まえられるように支えられると、グングン上へと持ち揚げられ、首が水面にと浮かび上がった。
すると、「おとぉさんッ!」 っと叫ぶアイツの声と、湧き立つ水飛沫の中、知らない男の怒鳴る声が。
「アホッ!サッサトアッチへいかんか、コイツぉもってゆくさかい 」
耳奥に詰まった水のせいで、何処か遠くの彼方から聴こえてきているようだった。
自分、無意識に顎に掛った男の掌を外そうとしていた。
「ァホッ!動くなっ、泳ぎ難くぅなるわ、ダボっ!」
怒鳴られたので、顎を引っ張られる力に任せジッとした。
冷たさを感じなくなった水が時々顔の上を覆いながら、何処かにと引っ張られていました。
「おとおさんッ!おとおさんッ! おとぉぅさんッ! 」
「アッチへ行けゆうとろおもん、いかんかッ!お前も死にたいんかボケッ! 」
水が顔の上を流れ過ぎ、その度に水の中で眼を開けると水越しに、銀色に星が瞬く夜空が観えていた。
星の輝きを眺めながら、何処かにと身を任せていたら気づいた。
未だに心に透明なものが残っていることに。
そしたらまた堕ちました。
今度は吐き気催すような、最悪な気分の暗闇の中にでした。
(知らない男かも)
「ァンタらなんやねん?ドナイするつもりヤッタんやッ!」
怒鳴り声な物言いぃを、激しく揺れる車の後部座席で横になって聞かされた。
「止めてくれ 」
「喋るなっ!ドアホッ!」
「ぉとおさん、気がついたん!」
「なんや、ドナイなっとんや 」
「心中崩れや、お前ら 」
「違います、ウチが落ちたさかい助けようとしてくれたんです 」
「・・・・・・・ホンナラそいでえぇがな、ッタクゥ!」
「止めてくれッ!」
突然、軋むような急ブレーキ音がし、躯が前に飛んで前席の背もたれに当たると、
狭い後部座席との間の隙間に、挟み込まれるような感じで嵌った。
「ダボがッ!ナニ偉そうにゆうとんや、死に損ないがッ!」
「ボケッ 此処で吐いてもえぇんかッ!」
此の時ワリと元気な声が出たので自分、驚きました。
「ナニぃ?」
「ゲロやッ 」
後部扉が勢いよく開き、両足首を掴まれ力強く引っ張られた。
ドライブシャフトの山で頭を打ち、ドアの敷居部分でも後頭部を打った。
背中から地面に落ちた。 直ぐに気合を込めた短い声が飛ぶと横っ腹を蹴られた。
アイツの、「ナニしますのっ!」 っと叫ぶような悲鳴言葉が聞こえた。
全身に鈍い激痛が奔り、息つきがし難くなった。
「おとおさんにナニするんよっ!」 抗議の声。
「煩いッ!黙らんかいッ!」
「ナンで蹴るんですかッ!」
「蹴ったほうがよぉけ戻すんや、ダボッ!」
男が忌々しげに言ったのは、ホンマやった。
飲んだ川の水と今夜飲んだ酒、此れでもかと喉首筋を引き攣るようにさせ、ギョウサンゲロった。
道に腹ばいで側溝に首を突っ込むようにし、呻き痙攣しながらゲロ吐いてたワイの背中。
アイツ優しさで撫でてました。自分もぉぅ泣きそうやった。
「お前ら、ホンマニ親子か?」
男の訊き方、如何にも仕方がないわいな、ッテな感じの声でした。
「おとぉさんですッ!」
「お前と、オトンっの歳が合わんやろも 」
「おとおさんなんやってッ!」
「ホンナラそいで、えぇがな 」
男がワイの傍にしゃがむと、言ってきた。
「アンタ見たことあるわ。」
返事の代わりに、男の靴先にゲロってやった。
男、慌てて後ろに飛び退ると、足を後ろに引き想いッくそ蹴ってこようとした。
「止めてっ!」 アイツが男の脚に抱きつくように縋った。
アイツの着ている服、ズブ濡れやった。
濡れて肌に密着しているのが、通りすがる車のヘッドライトに照らされていた。
「抱きつくな、ボケっ!濡れとって気色悪いわ 」
「蹴らんといてくれるん?」
「分かった、もぉぅ蹴らんがな離せや。 」
「済まんけどな、戻ってくれんか 」
「ナニゆうとんや、医者に行くんが先やろも」
「おとぉおさん、病院いこぉ 」
「えぇねん、悪いけど戻ってくれや 」
「気分はドナイやねん?」
「吐いたらダイブよおなったさかい、医者はもぅえぇねん 」
「ッチ!死に損ないが偉そぉに、えぇわ戻ったるがな 」
(疑惑)
「アンタ、ナンであないな所に居ったんや?」
「ナンヤ、助けてやったワイになにゆうんや。」
「痴漢か、アンタ?」
微妙にハンドルが振れ、車体が微かに揺れた。
「チカンなん?オッチャン。」
「ァホ!チャうわいっ!」
「ホナ、ナンであないな時間に独りで神社の森に居ったんや 」
「ナンもないがな、お前ら助けてもろぉてナニゆうねん 」
「オッチャン、ナンであないなトコに居ったんぅ?」
「アンタ、覗き魔やろ。」
「お前らぁ 」
流れ任せな夜の為せる出来事は、時々です。
想わぬ悪さを仕出かします。
(夢は夢。)
「おとおさんッ!おとおさんッ!おとぉおさんぅ。」
「ぁ、どないしたんやぁ、何処に居(オ)ったんやぁ 」
「ぉとおぉさん、おとおぉおさんぅッ! 」
「ナンや、どないしたんや、お前ぇどこにおったんやぁ? 」
胸の奥の何処かで、何かが透明に為りかけていました。
意識もしないで求めた暗さは、自分を隠すまで待ってはくれませんでした。
図らずも陥ってしまった暗闇は、其の透きとおる黒色で自分を優しく包み込んで、
忘れることなどしたくもなく、ただ想い願うだけの透明なものを奪おうと。
だから忘れることも叶わなかった。
(墜ちたら)
最初。自分がどうなったのか分からなかった。
アイツがお百度参りの橋から身を投げそうだと。
ッデ、駆け寄って引き留めようとしたら、自分が墜ちてしまった。
墜ちるまでの僅かな時間、チョット心が時メイていた。
(ナンや、簡単なんや)
心で想っていました。
(水の中から)
重たい水の冷たさは、自分の躯全部で感じていました。
水の冷たさで知った、醒めていなかった酒の酔い、如何しようもなく心地好いものでした。
水の中で視えるはずのないものにナニかを呼び掛けると、
自分の動かす口からは泡(アブク)が連なって出ていました。
声にならない声でした。
息は苦しくはありませんでした。 だから此の侭、深間な処までと希望していました。
(悪いのはウチ)
ウチは、自分が落ちるとばっかし思うていました。
掴んでた欄干から手を放すと、ナンだか眼の前の時間が真っ黒でユックリしてた。
ウチは放した手で空中の何かを掴もうとしていたと思います。
モシあの時にその何かを掴んでいたら、キットこぉぅ思っていたと思います。
あぁ、ヤット終わるんだぁ。やっとぉ。
そしたら、スカートの腰の辺りを抱っこされるみたいにされ、引き戻されました。
頬ッペタを叩かれたのは後まで憶えていたけど、どんな風にマスタァが落ちて行ったのかは分かりません。
暗かったし、ウチはあの時、どう言えばいいのかぁ?
心が何処かに在るような感じヤッタんです。
ザブン!ッテ 水の音がしたから橋の下を覗いたら、暗くて何も見えませんでした。
なんがあったのかと辺りを見たら、マスタァが居りませんでした。
タブンですけどわたしは頬の痛みから、マスタァはウチを叩いてそのまま落ちたんやと思います。
近道したあそこの橋の上まで、マスタァの後からついていってたけど、
暗かったけどマスタァ、脚がふらついてたのは知ってた。
あの人ぉなんだかぁ、悪酔いしているみたいヤッタんです。
今でも時々ウチは、あのままウチが落ちていれば良かったんだと、想うことがあります。
そんなとき、マスタァが落ちて死ななくて良かったとも、想います。
人って、アンガイ簡単に死ねるんやわぁッテ思います。
簡単に死ねるんだと解ると、簡単すぎて怖いです。
だから死に方を恐ろしくて、あれ以来アンマシ考えへんようになりました。
ッテ。 アイツ随分後で、ワイに言いよった。
(酔夢から醒めた)
突然、顎を何か力強い物で摑まえられるように支えられると、グングン上へと持ち揚げられ、首が水面にと浮かび上がった。
すると、「おとぉさんッ!」 っと叫ぶアイツの声と、湧き立つ水飛沫の中、知らない男の怒鳴る声が。
「アホッ!サッサトアッチへいかんか、コイツぉもってゆくさかい 」
耳奥に詰まった水のせいで、何処か遠くの彼方から聴こえてきているようだった。
自分、無意識に顎に掛った男の掌を外そうとしていた。
「ァホッ!動くなっ、泳ぎ難くぅなるわ、ダボっ!」
怒鳴られたので、顎を引っ張られる力に任せジッとした。
冷たさを感じなくなった水が時々顔の上を覆いながら、何処かにと引っ張られていました。
「おとおさんッ!おとおさんッ! おとぉぅさんッ! 」
「アッチへ行けゆうとろおもん、いかんかッ!お前も死にたいんかボケッ! 」
水が顔の上を流れ過ぎ、その度に水の中で眼を開けると水越しに、銀色に星が瞬く夜空が観えていた。
星の輝きを眺めながら、何処かにと身を任せていたら気づいた。
未だに心に透明なものが残っていることに。
そしたらまた堕ちました。
今度は吐き気催すような、最悪な気分の暗闇の中にでした。
(知らない男かも)
「ァンタらなんやねん?ドナイするつもりヤッタんやッ!」
怒鳴り声な物言いぃを、激しく揺れる車の後部座席で横になって聞かされた。
「止めてくれ 」
「喋るなっ!ドアホッ!」
「ぉとおさん、気がついたん!」
「なんや、ドナイなっとんや 」
「心中崩れや、お前ら 」
「違います、ウチが落ちたさかい助けようとしてくれたんです 」
「・・・・・・・ホンナラそいでえぇがな、ッタクゥ!」
「止めてくれッ!」
突然、軋むような急ブレーキ音がし、躯が前に飛んで前席の背もたれに当たると、
狭い後部座席との間の隙間に、挟み込まれるような感じで嵌った。
「ダボがッ!ナニ偉そうにゆうとんや、死に損ないがッ!」
「ボケッ 此処で吐いてもえぇんかッ!」
此の時ワリと元気な声が出たので自分、驚きました。
「ナニぃ?」
「ゲロやッ 」
後部扉が勢いよく開き、両足首を掴まれ力強く引っ張られた。
ドライブシャフトの山で頭を打ち、ドアの敷居部分でも後頭部を打った。
背中から地面に落ちた。 直ぐに気合を込めた短い声が飛ぶと横っ腹を蹴られた。
アイツの、「ナニしますのっ!」 っと叫ぶような悲鳴言葉が聞こえた。
全身に鈍い激痛が奔り、息つきがし難くなった。
「おとおさんにナニするんよっ!」 抗議の声。
「煩いッ!黙らんかいッ!」
「ナンで蹴るんですかッ!」
「蹴ったほうがよぉけ戻すんや、ダボッ!」
男が忌々しげに言ったのは、ホンマやった。
飲んだ川の水と今夜飲んだ酒、此れでもかと喉首筋を引き攣るようにさせ、ギョウサンゲロった。
道に腹ばいで側溝に首を突っ込むようにし、呻き痙攣しながらゲロ吐いてたワイの背中。
アイツ優しさで撫でてました。自分もぉぅ泣きそうやった。
「お前ら、ホンマニ親子か?」
男の訊き方、如何にも仕方がないわいな、ッテな感じの声でした。
「おとぉさんですッ!」
「お前と、オトンっの歳が合わんやろも 」
「おとおさんなんやってッ!」
「ホンナラそいで、えぇがな 」
男がワイの傍にしゃがむと、言ってきた。
「アンタ見たことあるわ。」
返事の代わりに、男の靴先にゲロってやった。
男、慌てて後ろに飛び退ると、足を後ろに引き想いッくそ蹴ってこようとした。
「止めてっ!」 アイツが男の脚に抱きつくように縋った。
アイツの着ている服、ズブ濡れやった。
濡れて肌に密着しているのが、通りすがる車のヘッドライトに照らされていた。
「抱きつくな、ボケっ!濡れとって気色悪いわ 」
「蹴らんといてくれるん?」
「分かった、もぉぅ蹴らんがな離せや。 」
「済まんけどな、戻ってくれんか 」
「ナニゆうとんや、医者に行くんが先やろも」
「おとぉおさん、病院いこぉ 」
「えぇねん、悪いけど戻ってくれや 」
「気分はドナイやねん?」
「吐いたらダイブよおなったさかい、医者はもぅえぇねん 」
「ッチ!死に損ないが偉そぉに、えぇわ戻ったるがな 」
(疑惑)
「アンタ、ナンであないな所に居ったんや?」
「ナンヤ、助けてやったワイになにゆうんや。」
「痴漢か、アンタ?」
微妙にハンドルが振れ、車体が微かに揺れた。
「チカンなん?オッチャン。」
「ァホ!チャうわいっ!」
「ホナ、ナンであないな時間に独りで神社の森に居ったんや 」
「ナンもないがな、お前ら助けてもろぉてナニゆうねん 」
「オッチャン、ナンであないなトコに居ったんぅ?」
「アンタ、覗き魔やろ。」
「お前らぁ 」
流れ任せな夜の為せる出来事は、時々です。
想わぬ悪さを仕出かします。