【 rare metal 】

此処 【 rare metal 】の物語や私的お喋りの全部がね、作者の勝手な妄想ですよ。誤解が御座いませんように。

自傷癖(イケナイアルバイト)

2008年08月19日 17時48分24秒 | イケナイアルバイト (仮題) 

T3年生イケナイアルバイト(2)
 


(母親)


或る日の昼下がり、アイツの母親が訪ねてきた。


「ぁッ、おかぁさん済みませんッ!娘さんをお許しもなく勝手にバイトさせてしまって」 
「ぁッ好いんですいぃんです、コチラこそ娘がご迷惑をお掛けして申し訳御座いませんぅ。」

実は母親と会話したのは、此の時が初めてでした。
何回か店には娘が居ない時間、夕方近くお客で訪れていました。
タブン母親が出勤前に、ウチの店の様子を窺いに来ているのだろうとは想っていました。
だけど、自分も此の人も娘のバイトのことには触れもしませんでした。
自分はなんとなく、母親が店に来るたびに座りの悪い心地がしていました。

この日は、何時もの夕方頃じゃぁなく、珍しくも昼下がりでした。
お顔の感じは夕方の出勤前みたいな、お水系の化粧がしていない殆ど素ッピン顔状態やった。
夜勤め女の普段の想いを隠す、綺麗系の化粧じゃぁなかった。
観ていても上品な感じで、人前で恥をかかない程度の化粧でした。

「あの子ぉ此処でお世話になった頃から、チョット変わってきたんですよぉ。」

以前は学校には滅多と行かず家に籠りっきりで、母親の私とも口をアンマシ利いてはくれなかった。
此の土地には、私が離婚してから引っ越してきたので、周りに友達もいなくて寂しい想いをさせていた。
今の学校ではナカナカ馴染めなくって、タブン苛められているのかも。
っと、気持の中に何かを溜めこんでいて、今ならその何かを話した方がぁ っとな物言いでした。
話の途中、奥の席に他の客が座っているのに初めて気がついた様な感じで、口を噤んだ。

サイフォン用の攪拌竹ヘラで其の客を指し、言ってやりました。

「アイツぅ気にせんでよろしいです、客とチャイますわ友達ですねん。口は滅多とおらん堅い方ですさかい、なぁ 」
「ぉッおぅ 」
「スミマセン、変なお話を聞かせてしまって、ごめんなさい 」
「ぁッボボッ僕ぅ、なぁんも聴いてませんから、キィ気ぃにせんといてください 」

自分もそうですけど、普通の人さんと会話する時には、コンナ場合タイガイ無理して丁寧語で喋ろうとします。
だけど普段、滅多と話さない言葉が急に頭に浮かぶはずもなく、突発性吃音状態まるだしですわ。
友人も丁寧語など言い難い事この上なく、直に読みかけの新聞に目を落とした。

「ぁのぉぅ 」

母親は何かを言いかけるが、思い直したのか喋るのを止めた。
暫くの間は店の中には静かさがおった。
珈琲を淹れていたので、沸騰するサイフォンがポコポコ鳴っていました。
其れと、アルコール燃料が燃える匂いもしていました。
日頃は、そんなものは気にもかけなかったけど、この日はぁ・・・・・

チョットなぁ、此の母娘にぃナンがあったか知らへんけど、如何にもなぁっと。
自分、サイフォンから漂ってくる珈琲の匂いを嗅ぎながらでした。

アルコールランプの火加減を見る振りをして奥の席の友人を視た。
友人、スポーツ新聞を広げていたけど、母親を横目で盗み見していた。
アルコールランプの炎越しに、目が合うと顎を母親の方に小さく振った。
ッデ、サイフォンを攪拌しながら話しだそうとすると、切迫する感じの声が先に聴こえた。

「それとぉ危めるんです 」
「アヤメルぅ?」

「自障癖があると、精神科のお医者様がぁ・・・・」

真夏の蒸せるような暑い中でも、長袖しか着なかった娘の左手首には、いつも白い布(キレ)が巻き付いていた。
時には白布の上から、タブン自分で編んだのか、安物ビーズ作りのカワイイ腕輪がしてあることも。
ドンナ客商売でも、不穏な何かを感じさせるものは御法度です。
誰が見ても、年がら年中左の手首にサポーターじゃぁあるまいし、包帯を巻き付けてるとぉぅ。
世間の人間は、アンガイ見ないようで観ています。人の何かをと詮索する目で。
だけど自分、そないなんマッタク気にもしませんでしたから、娘に外せとは言いませんでした。


母親に聞くまでもなく、左手首のことは自分知っていました。
暫く前、店がハネる頃(閉店間際)に、コンナ事がありました。

「それナ、切ったんか?」
「ぇッ! 」

急な問いの返事に詰まり、顔がチョット虚(ウロ)ってました。


最後の客が引け、椅子を後ろの壁際に退かし掃除を始めようとしていたアイツをカウンターの中に呼んだ。
中に入ってきたアイツから箒を取り上げ、食器を洗えと言ったら少し困惑顔をした。
ッデ、自分、ワザと言いました。手首の布(キレ)が濡れるから外せ、っと。
アイツ、本当に困ったような表情のコッチを上目視線でした。
自分、知らんフリしてカウンターの外に出て、掃除を始めました。

「ナンで煙草の灰ぉ、絨毯の上に落とすんかなぁ、ダボめぇ!」
「マスタァ、汚いのにねぇホンマニもぉぅ!」
「自分チノ畳の上にぁ、よぉ落とさんクセして余所でするんがイッチャン悪質やッ!」

ッデ同時に 「ダァボォゥ 」 っとハモりましたわ。

塵取りを取りにカウンターの中に戻り、アイツの後ろを通ろうとすると、アイツ背中で隠そうとした。
其の背中を向けるやり方が気になり、流しの中を覗くと、両の手を洗剤の泡のなかに埋めるように浸けていた。
だけど、手首までは隠せてはいませんでした。
泡を手首に無理にとくっ付けるようにしていたけど、隠しようがなかった。

「それナ、切ったんか?」
「ぇッ! 」

「返事はぁ? ナンか言わんかっ切ったんやろも 」
「ハイ 」

聴こえんほどの微かな返事やった。

「コナイナときにはな、ぅんでえぇねん 」
「ぅん 」
「いとぉ(痛くは)なかったんか 」
「ぃいやぁ、いとぉなかった 」
「ホンマか?」
「ぅん 」
 
「いとぉないってなぁ、心はなぁんも痛まんかったんか 」
「エッ!」

「なんも感じんと我を切るん、難しいぃんやけどなぁ 」
「ぅん 」

アイツ真っ青な顔を俯かせ、チョット躯がフラツイテた。

左肘掴んで、ユックリ泡から引き出してやったら、細っこい手首から肘にかけ、
何箇所も赤細い傷痕が走ってた。 古いものは赤褐色に変色していた。
流石に血管が浮き出ている内側辺りには傷痕は少なく、親指の付け根、手首周りが一番多かった。
良く視ると、シャツの袖を捲りあげた右腕にも、数は少なかったけど同じような傷痕があった。

「ヨッシャ今日は土曜や、ナンかえぇもん食いに行こか、なッ 」
「ぇッ、ゥチぃお腹ぁ空いてませんぅ 」
「ァホぅ、コナイナ状況で帰す訳ないやろもぅ、付き合え 」
「行かなアキマセンのぉ 」
「ナンヤ、夜中にドコゾのしょぉもないモン(者)と逢引でもする気なんか 」
「おッぉ、おりませんぅ! 」

「ホナ、つきあえ 」


店仕舞いが終わり、表通りに行くまで互いにナニも喋りませんでした。
そやけど、無口やけど、なんかぁ通うもんがあるなぁ ッテ。
まぁワイの勝手な想い込みやろうけどなぁ。

流石に土曜の深夜は走る車も多く、普段なら店が引ける時刻なら街燈が少ない此処ら辺りは、
痴漢騒動が多いくらい随分と暗いのが、切れ目なく走ってくる車のヘッドライトに照らされ明るかった。

肩越しに振り返ると、後ろから付いてくるアイツの幼顔の頬ツペタ。
サッキは真っ青やったんが赤みが差していました。

自分、此の時不意に想いました。

あぁ、ボクって優しいぃなぁ。ット 



ダケドモ直ぐに、用心せなアカンなぁ・・・・・トモ






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1 コメント

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こんばんわ (たけかな)
2008-08-19 21:40:39
自分自身を傷つけると、体は痛くなくても心が痛むという言葉にとても身に覚えがありました。主人公の痛みの先に何が待っているのか想像できて面白いです!!
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