【 rare metal 】

此処 【 rare metal 】の物語や私的お喋りの全部がね、作者の勝手な妄想ですよ。誤解が御座いませんように。

赤い爪の女 【バーテン】

2006年04月26日 02時03分42秒 | 夜の時代 【深夜倶楽部】 


 【苛立ち】


突然っ 急に声をかけられると 言葉に詰まります。 っけど
同時に、自分でも思いがけなく 何かに向けての怒りの気持ちも生じます。
此の時にも 知らずに湧いた怒りで自分、戸惑いました。



「ちぃふうぅ。 真二さんなぁ  あ奴ぅ遣るんかぁ∼? 」
「 ぇ!っ  なにがやぁ 」

自分、物思いに耽っていましたから
赤い爪の女に突然 聞かれましたから戸惑いました。

 倶楽部の中は、静けさがっ でした。

時折、後のボックス席の潜々声 背中が聴きます。
冷や汗みたいに粘ついてる感じ 背中していました。
何時も爪を赤く塗っています、此の店の女のバーテン。
ただ、左の小指の爪だけは まるで金箔を貼り付けた様な

 綺麗な金色していました

以前、「何で そっちの小指だけぇ 金やねん? 」 って
   「教えんっ! 」 答えは 一言。


「決めよるんやろぉ 」
「 そやさかいに、なにがやっ! 」
「みんな言ってるよぉ 真二は遣る時はやるやろぉ って 」
「 くっ ! 」

先ほどカウンター席 右端、何処かの中年男の連れの女が 
紫煙細く吐きもって サファイア色のカクテル。

 っを、ご注文  っと、聞いた彼女。

手慣れた身の熟しで 背後のバックボードから
カクテル材料の洋酒の瓶 幾本かをカウンターまで。
其れ、流麗な手捌きでシェーカーに注ぎ キャップ蓋閉じ
クローム鍍金のシェーカーキャップに添えた右親指 額の眉間の高さに。
其の両肘、水鳥が水面すれすれを舞い飛ぶ様にぃ 開き閉じ
手首 彼女独特のリズムでシェーク。

振り終わる動作の流れで 客の目の前
清く磨かれたカクテルグラスに キッチリ注ぎます。
細いグラスの脚 摘み、綺麗な二指で押します。
 女の客の目の前まで

「 どぉぞっ 」
 っの 声添えて


「聞いてぇわるかったみたいやねぇ、聴かんかったことにしてぇなぁ ごめんなぁ 」
シェーカー屈んで洗いながら 顎上げて

「ぅん。えぇがなっ 此れおかわりしてかぁ 」
「 ぅんっ  堪忍やでぇ 」
「    ぇえっ 」

みんなが知っている。っといっても、多分 仲間内の事やろかなぁ
けどっ此の噂 何処まで? っと、少し焦りました。

「かきちゃん昨日なっ 多分あいつやと思うん来てたで 」
「 ぇ? あいつって誰や 」
「   なぁ、自分とは昨日今日の付き合いちゃうやろっ なっ 」
「 !っ あぁ 」
「なぁ、そんなら聞くけどなっ 何で教えてくれへんのん? なぁ 」
「 なにぉやぁ? 」
「真ちゃん、どぉするんねっ? 」

真直ぐ見詰めてくる 微動だにしない女の瞳 
自分の後ろの ホールの天井で輝くミラーボールの光 映してました。
 瞳がキラキラ光っていました。

女が吸う細長い亜米利加煙草 
赤いマニキュアの細い指に挟んで、此方を見据えながら 時折口元に運ぶ時。 
小指の金色爪 カウンター上のダウンライトで浮かび 光りました。
首ぃこっちに伸ばして、まぁるく窄めた唇から 吐き出しました。

 まぁるい輪っかの煙をぉ

輪っか、広がりながら自分の顔を過ぎて行きました。
自分、堪え切れずに目線 逸らしました。

「こらっ! かきぃ どぉゆぅ了見してるんやっ 」
「はぁ!っ りょリョウケン? 」
「 阿保に晒すんやったら ナンボでもしてえぇんやっで! こらっ! 」

此れ、決して大声で言ってるのでは無いです。
唇 ほんまに動かさないで 微笑んで言ってます。
煌く眼 笑わんと据わってますから 十分に伝わります。此方に。

煙草持つ腕 綺麗に伸ばして再び口元へ

「ねぇ∼ かきちゃんっぅ 教えてくれはってもえぇんとちがうぅ∼ 」

 もぉ堪らん位の猫撫で声でした。

喋り終えると、躯ぁ斜めに構えて顎引いて 細指ぃうなじの髪に突っ込み掻き揚げます 
目線逸らさずに。剥き出しの 白い脇が見えました。

 自分、目の遣り場がぁ∼!

「 なぁ、頼むからなぁ 似合わん事せんといてかぁ 」
「似合わんって 誰におっしゃってますんかぁ? 」
「あんたやっ!前にも言うたけどなぁ
  わてぇそないなぁ趣味ぃ 無いさかいになぁ 」
「あっ そぉかぁ  まぁカンニンして差し上げますがな もぉ!っ 」
「なぁ、なにもなぁ隠してるん違うんやでぇ 此れはなっ真二さんの問題やねん
  そやさかいにな、他人のわしらが どぉこぉぅ言う事とちやうねん
  其れぇ 解ってくれるかぁ? なぁ 」

其れから暫くは お互いに黙っていました。
バーテン女は 前を離れカウンターの洋酒の瓶を お片づけ
時間は、そろそろかなぁ? でした。

「かきちゃん、うちなぁ 心配やねんっ 」
「なぁんやぁ!っ ぅん? 」

顔上げて見たら バーテン女の眼に涙がぁ   !ぅ
自分、気分が滅入って来たけど 胸、高鳴るのがぁ   ! ぁかんっ 

「真ちゃん、此の事でぇ どっかに往ってしまうんちゃうかなぁ って 」
「 ま、まぁさかぁ! 」
「 泣きとぉなってくるわぁ∼! 」


泣きたいのは自分もやで っと
そやけど、仕舞いました。

 言葉を




                    


 

女と男の 昔話

2006年04月16日 00時34分24秒 | 夜の時代 【深夜倶楽部】 
    

 【聞くんじゃぁ無かった】


二人が 飯屋から居なくなってからの会話です。
 おかぁはんとの。


「あの二人、何時からやねん ? 」
「あんたぁ、ホンマに知らんのん? 」
「ぅん。知らん 」
「 ・・・・・そぉかぁ 」

おかぁはん。今夜は此処まで っと店仕舞いで 
汚れ皿を洗う手元を止め 自分の顔を暫くジッと視もって言いました。

「・・・・なぁっ、どぉなん? 」

おかぁはん目線 逸らしました。

「なになん? 」
「ほんまに知らんのんかぁ? 」
「・・・・・ぉかぁはん、なにがやぁ・・・・なぁ・・・? 」
「ぅん。ょっしゃ、わかった 」

洗い物、水切り籠に皿が割れるかとの勢いでぇ、置き
洗った布巾、無理やりのキツサデ絞り
両手で叩いて、後ろの棚並びのお皿に被せて言いました。

「ちょっと待ちっ 」 っと。

熱燗用一升瓶 流しの下から取り出し 
カウンター越しに 此方の自分に渡します。

「ほれっ 」 っと、 白い湯飲み茶碗、二つも。

カウンターから出て 引き戸に鍵をします。
陽焼けして黄色くなったカーテン 引いて閉めました。
っで、おかぁはん、自分の隣に座ります。
少し椅子を離して。自分、なんでか少し胸が高鳴りました。
 まさかなぁ・・・・! っと。

「あんなぁ・・・・なぁ、清美なぁ・・・どぉ言ぉかぁ 」

っと言い淀みながら 片手で持った一升瓶
二つの湯飲みに傾け 話し始めます。
自分 『ぁほっ、なに勘違いするねん! 』 やった。

「かきちゃん、あんたぁ口ぃかたいっ? 」
「ぇ、ぁっ、ぅん。かたいでっ 」
「絶対他にっなぁ やでっ 」
「あぁ、うん 」
「ぅんやぁないっ、誓いっ! 」
「ぁ、はいっ 」
「聞いたことぉ喋ったら 刺すからなっ 」
「!っ・・・・わかったっ 」

ぉかあはん普段から腹と胸に、白布の晒しを巻いてます。
別に妊婦帯でも無く、お腹が冷えるからでもないです。
胸の二つの膨らみ、白い晒し布で 無理やり押さえ込んでいます。

 気構えの為にです。
 生きて往く為の

其の晒しの中に、丁度今着ている前合わせの割烹着の 内懐辺りにです。
白鞘に入った 刃渡り一尺二寸程の刺身包丁、仕込んでいます。
おかぁはんの死んだ亭主が 店で愛用していた物です。
一度 おかぁはんが、カウンターの中で簀の子に躓いて 前のめり倒れた時
自分 大慌てで中に入って抱き起こしました。
其の時、思わず触れた胸の辺りに、長い硬い物がっ でした。

「ちぃ~ふぅ襲ぉたら刺されるでっ 気ぃつけやぁ 」 真二がカウンター覗き込んで。
「おぉきにっ、おおきになぁかきちゃん・・・・。シンジっ阿保ぉ言わんときぃ! 」

おかぁはん。抱き起こす自分の腕を邪険そうに振り払い 起き上がりました。
自分 見たらアカンもん、偶然見てしまった様な、感じでした。
其の時は其の侭、不自然な程 何事も何も無かった様に話の続き っでした。
おかぁはん。男勝りな此の気丈な 女将さん
今は飯屋の此の店。昔は連れ合いさんと二人で、でした。

 其の当時は和風の割烹スタンドで
    屋号は 【喜竹】

自分が聞いた噂では、ほんまに仲睦まじい
女将さんと亭主の 二人だったそうです。
今は寡婦となってしまった此の女の人の胸に 白い晒しが。
其の晒しに、刃渡り一尺二寸の刺身包丁。
何時も抱いてます 亭主の魂を 抱いているのでしょぉ。
化粧しなくっても 今でも綺麗な女の人です。

一人身になった女。独りで世渡り。
並大抵じゃぁ此の夜の世界では でしょう。
綺麗だからこその、身持ちの持ち様、生き様でしょう。
自分。此の人には、一目置いてます。
多分、あと三目くらいわぁ・・・! でした。


「清美と真二なぁ 幼馴染やねん 」
「!っ ほんまなん 」」
「ほんまやぁ 」
「ぅそっ! 」
「嘘言うてどぉするん あんたに? 」
「 ・・・・ 」

「あの二人なぁ・・・・・ほんまに他所で喋ってみぃ、刺すさかいになぁ 」
 
 眼。座ってました。
 おかぁはんのマナコぉ!



話が済んで帰ろうとしたら 外は夜が明けて来ました。
結露した引き戸の硝子越しに 早朝の表路を
通勤人が 背中を丸めて通って行きます。
外に出て上着の襟立て 振り返るとカーテン閉じてました。
バスの始発駅まで歩くのが きつかったん覚えています。

自分。こんなん聞く位なら、丼飯にビールぶっ掛けて喰った方が
未だ ましかもなぁ! っと そお時想いました。

 おかぁはんの話し聞いたから


其の晩(昼間)は、安アパートに戻ってから
生まれて初めて 記憶を無くす酔い方をしたいなぁっと・・・・ぉ
最初、幾ら呑んでも眼が冴えて眠れません。
だけど其の内にやっと、酩酊気分がぁ
自分の元々軽い頭は次第に重たくなって、卓袱台が近づいてきます。
頭が次第に重くぅなってきてます。
まるでスカスカの糸瓜みたいな脳味噌に
液体水銀が 其の隙間に染み込んで来てますぅ様ぉぅなぁ・・・! 

 お脳はズクズク水銀状態 っにぃでした。

 

  やがてぇ・・・・
想いは 何処までも、いずこへぇと
  何処までもぉ やった。




                  

始まりの最初

2006年04月10日 23時49分16秒 | 夜の時代 【深夜倶楽部】 


【 見届け人・・・・・? 】


其の店。表のドアが 古風な漆塗片持ち扉です。 
色は朱色。 漆塗り特有の深みある艶は ありません。
店の者 其の漆独特の艶を嫌って、水研ぎ出しの艶消し仕上げ。
同じく扉の取っ手。此れも艶消しの鋳物焼結仕上げ。 


深夜の 深まる冬星空暗さの時、扉
右斜め上方 ランタン風外灯明かりの黄色い光で照らされます。
其の明かりで硬く閉じられた扉を視ると、
暗闇から 不思議な感じで浮き上がらせます。

 浮かぶは、赤錆色の扉でしょぉ・・・・


少し離れた左側に、黒錆浮き出た瓦斯灯風鉄柱。
其の上 突き出た横棒に、錬鉄製透かし蔓草模様文字看板 ぶら下がり
銀色月明かりに眺め読めば 屋号。

【 洋楽倶楽部 Saint Louis 】 っと。

時折 夜風にて、吊り下げ蝶番ゆらゆら揺れ、軋み音
鳴きながら 模造煉瓦タイル舗道を嘗め 何処かに・・・・ 

ランタン灯り届かぬ向こうで、暗さに赤い蛍。
赤が流れ飛んで歩道で 火花っ
靴が踏みます、吸いさしを。



 音無く扉、内側に 

薄暗がりに 五歩。コート脱ぎながら歩めば
背丈ほどのアジアン三つ折衝立、籐の。
向こうから 軽やかスイングジャズ耳に

 衝立抜け小さなクロークカウンター

「 よぉこそ 」 っと。何時もの娘。
「ぅん、後から来るからぁ 」
「はぃ、承知いたしました 」・・・・。

上下ポケット、上着内懐 弄り
ビーズのジャラ銭入れ 二折れ札入れ ジッポ 角ポケット瓶
クロークカウンターに次々とぉ お積み上げ。
そして 後ろベルトに挟んだ 細めに絞った紙袋。 

 『包まれてるのは、何かは知りませんでした 』
 カウンター嬢。後日、そぉ、証言したそうです。

「頼むよっ 」 
差し出します。
「はぃ、わかりました・・・・どぉぞお楽しみをぉ 」 
微笑みで受け取ります。


濃密モク煙透かして 薄暗ボックス客席視れば
みなさんの影 楽に合わせて御躯ぁスイング。
一段高めの舞台上 外来人達 眠たそうに演奏。

若い店人近づき、「よぉこそ 此方に」 っと、ご案内。通されるは、
天井より吊り下げ並んだ灯芯角灯(カンテラ)風ダウンライト下
 っの カウンター。
店人メッキ背凭れの椅子引かれ、「どぉぞ」 っと。

カウンター天板、メタルのジュラルミン一枚板。
表面、細波状のシボ模様。
其れ、ダウンライトが照らし輝かします。銀色鈍色に。
赤い爪の綺麗な細指が すわとう刺繍コースター

 目の前に。小さなクリスタルの灰皿と共に。

「なにをぉ? 寒かったぁ・・・・? 」
ジャズ音にも負けない、澄んだ声でっ
「ぅん。お湯割りぃ 」
唇を、読める程度の開きでっ

華奢な取っての、薄硝子製ホットグラス
 仄かに湯気が
二指で壊れそうなほど細い取っ手を 摘む
口元に運べば、漂う匂い西洋酒 ウイスキー
飲む。 心静々となりました。喉道、暖かさが落ちます。
腹、未だに決まらない思いを優しい熱が 包みます。

自分の心、何故か平和でした。
此れから始まるものが無い様な、
不思議な想い感覚に陥ってました。
 嘘の感覚でした 其れ。  
お湯割で正解でした。
一気に呑めませんからね。イッキに

 意識は、酔うなと。


見届けろと。心が命じます。




           

先輩の女

2006年04月07日 08時31分27秒 | 夜の時代 【深夜倶楽部】 
     
     
 【清美】


何時の頃からか, 酔っ払った真二を 女が迎えに来る様になりました。
其の女を最初に視た時、自分、直感で普通の女じゃぁ無い っと。

真二 紹介も何も致しません。
唯 「頼むっ・・・ 」 其れだけでした。
自分。「 姐さん 」 っと、自然に口に出して呼びました。
はにかんだ様に、少し頬染めました。あの真二が。

最初は 女の歳は自分よりも少し上かなぁ? っと想いました。
綺麗っかたです。トテモ。

 でもね。なんとなく陰がぁ・・・・



或る日 何時もの反省会を、何時もの飯屋で遣っていました。 
その日は 宵の口から雨が降っていました。
夜更けまでも、そぼ降る様に降り続いてました。

此の頃になると、真二。
自分に対して以前の様に 口を利きません。
聞いてみました。真二に。

 此の頃、あんまし何も言いませんけど?
                    っと。

「なにお言うねん・・・・」 魚の煮つけを 突っつきながら言いました。
「・・・・別にぃ・・・」 別なこと無いんですけど、言いました。

「 ・・・・・ 」 真二 黙った儘でぇコップ酒ぇ・・・

小さな躯を精一杯カウンタの向こうから伸ばし、
昔は細かった指で掴んだ一升瓶。
一升瓶から空いたコップに注ぎながら、おかぁはんが言います。

「かきちゃん、真ちゃんにグチャグチャ言われん様になったら、
  あんたもイッチョマエになった、ゆうことやねんでぇ・・・! 」 っと。

「・・・・そぉですんかぁ 」
「そぉやっ なに言うねん、お前にぃ・・・・ぁほかっ! 」

言いながら真二、何か考え事。しています。
此処最近、何かに憑かれたような感じです。真二
仕事は流石に手を抜きません。キッチリこなします。

醤油や何かのシミと 煙草の焦げ痕だらけのカウンター。
目の前には、食べかけの鯖の煮付けと 丼飯。
一段高めには、色んな料理が入った大鉢皿。並んでます。
立ち昇る湯気は、カウンター内の おでん鍋から。
おかぁはん、菜を刻みます包丁の音、軽やかに。

 その姿勢のまま、話します。

「まねぇ~じゃぁ、此処んとこぉ、なんぞ気に成ることあるん?・・・・なぁ 」

おかん。何時も真ちゃんっと、呼びます。 だからぁ・・・・・
おかんっと、目が合いました。直ぐに逸らされましたぁ・・・・
 っで、視線。戻りました。
戻ったおかんの視線 目配せにぃ?・・・・なんやぁ?
っで。入り口の引き戸に飛んだ視線 辿ろうとしたら、
背中で引き戸が、軋みながらぁ 開いた。
自分。後ろを意識しながら丼飯、掻き込みみました。

 飯、頬張ったら肩越しにぃ驚かされました。


「はじめまして 清美(源氏名)いいます 」
「 ぐっ!はっ!・・・・、ぁ!はぐっ、ハザジメマシテ があっ! 」 飯がぁ~!

比較的高めな和風カウンター。其れにあわせた様な 高目の木造の椅子。
自分、突然背後から挨拶をされたので、慌てて足置き真鍮パイプを蹴って降りた。
ツモリガ慌ててしまい、椅子を倒しました。

「あほっ、なにしてるんやぁ! 」
「ぁ、ズっジィイマセン・・・・」 
「なんやきたんかぁ、此処 座れ 」
「カンニンなぁ・・・・あかんかったぁ? 」

此れ、女を最初に視た時です。
自分、飯が喉で留まってました。
おかん、直ぐに其れに気付いてくれて、コップをぉ・・・!
必死で飲んだら、酒やった !・・・・。ァホオォ~!


咳ぃ、暫く止まらんかったです。


涙目で視た女。
長い髪の毛に 小さな雨の雫がとまっていました。
夜更けの 此の時間に、こんな女が何でこないなぁ処にぃ・・・?
って、何と無く思いました。

真二。笑ってます・・・・・!。
普段。笑わん男がです。


けど 声は乾いていました



                  
                  



【夜遣る事は自分で勝手に盗め】

2006年04月05日 02時04分26秒 | 夜の時代 【深夜倶楽部】 



【夜の教育】


「こらっ! 呑めへんのんかぁあ、呑まんかいっ 」
「えっ、ぁ、も、もぉうアカンっ 呑めませんよぉ~! 」
「あかんっでぇ ぼぉおやぁ~、呑まんかぁいぃ~! 」

初回から、こんな調子でした。酔っぱらった酒癖は 見事なほどでした。
真二さん。 客や店のママ 女たちの前では、決して酔った姿を晒しません。
自分の前では酔います。何時もヘベレケニなるまで。

「ぼおやぁ呑めっ こらっ、呑めぇ 」

「真ちゃん、もぉ飲めへんゆうてるやないのぉ、無理ゆうたらあかんよぉ~ 」
 此の人、とある飯屋の おかぁはん。

毎晩 店がハネテから、
独り寝の棲家に帰りがけに 晩飯を喰いに寄っていた、
其処の 某飯屋の亭主です。
深夜営業の 水仕事の勤め帰りの人さん相手 専門の炉辺風飯屋でした。
丼飯の 色んな御菜の味付け、旨かったです。
当時 自分。 間取り一部屋の安アパートで、独り暮らしです。
未だ一度も自炊をした事が無く、喰いもんは専らインスタントの麺。
っか、ジャムかマーガリンを塗った 焼きもしない生食パン。 休日に時々一升酒瓶。
其の程度の食生活してました。だから此の飯屋
直ぐに贔屓に成ってしまいました。


目っ、瞑りもって流し込みます・・・・。ほんまの黙々ぅとぉでした。
空の中ジョッキ、ソロリとカウンターに置きました。
目を開けると、呑む前と視界が少しぃ、如何にかぁ でしたぁ・・・・

「かきちゃん、あんた。無理に飲まんでもえぇのにぃ! 」
「おかぁはん もぉ一本ください」・・・・堪えもって言いました。
「・・・・あんた。呑まんとき。もぉ出さへんっ!」
「おかんっ ボオヤが飲みたいちゅてます。出したってんかぁ~ 」
「真ちゃん、もぉぇえっ! あんたぁえぇ加減にしとき 放り出すでっ 」

何時もの事でした。放り出すでっ との、おかぁはんの此の一言で静まります。
可也な酩酊人の項垂れた真二さん、愚痴っぽく言い出します。

「悔しかったら、俺を抜かんかい、なっぁ! 抜いたらぇえんや!
  なぁカキぃ、悔しいやろぉ 抜いてみぃ・・・・ 」

今から想えばね、連夜に亘っての此れ
真二さん独特のね、新人教育みたいなもんでした。
随分後になって気づいたのは。目を掛けてくれていたって、事です。
あの頃は、人の出入りが激しかったです。
 女も男も、随分とでした。
自分の後に入店してきた男 何人もいました。
ですけど、飯食いに連れまわされていたのは、大概が自分。

月毎の集金日に 車の運転手役、自分でした。
魚河岸や青果市場への仕入れの時の 荷物運びも自分
店の女たちの急な用事で、薬屋に走っていき生理用品 買ってくるのも
客の誕生日に、バースデーケーキを手配するのも でした。
他にも、諸々の雑用係りは全部自分 引き受けさせられてました。


其のお陰でなんとか自分も 「 いっぱし 」 のぉ・・・・でした。


此れも、真二の愛の 「 シゴキ鞭 」 に耐えたからです。
其れとも、夜毎の酩酊巡りのお付き合いの お陰ですかねぇ・・・・




ところで 自分と真二。此の頃から今に至るまで、
お互いを名前で呼び合った事 殆ど無かったです。

 肩書きでした。呼ぶのは

自分が真二さんを呼ぶとき 『 マネージャー 』 っで
自分が呼ばれる時 『 ぼおや 』 っか 『 ボンさん 』 でした。
営業時間中の忙しい時は、『おい』、っで大概が 『 コラッ! 』。

 一番多かったのは、目線命令でした。

最初の頃、自分。真二さんが首と顎を動かしもっての 目線言葉。
全く理解不能でした。

 だから自分ぅ・・・・
『ぇ!なんや?・・・・ 』 っと、ド頭ホワイトアウト状態です。

「ボケっかぁ! 」 っと 真二が、カウンターの外から 唇動かさずに笑顔でっ。
『なにぉおっ! 』 っと即 思っても作り笑顔でぇ・・・・
「わいの指先見んかあぁ! 」 伸ばした腕、微動もしていません。
『 ゆ、指ぃ?・・・・ 』 っ何やねん?っと見てみれば

指の先には、新品の ナポレオン の化粧箱が仕舞ってある 棚の扉。
真二、相変わらず唇を動かさずに言います。

「コラッ!殺すぞ。オチョクットンのかぁ?ボケッ! 」
「ぇ!なにがですか? 」
「キープや、はよぉとらんかいっ! 」
「ぇ、あっ!はいぃ~! 」

扉開いて、箱。箱開けて ボナパルトちゃん 取り出し、
瓶の表面 素早く磨いて、「 どぉぞっ! 」

「ドォゾわぁ要らん!覚えとけっ 」 っで、真二。再び客席に

なにが覚えとけやっ!アホにしくさってボケッがぁあ~! 
 っと一応心で。自分
素人と玄人。ボケとトンビ。ドォシテも、全く真二には歯が立ちません。
毎晩、こんな調子でした。

店が終わると、飯屋での「その日の反省会」という名の呑み会。
自分、失敗ばかりですから、罰をです。冷酒コップ一気飲み。
此の反省会の時は、他の従業員の男どもも一緒の時がたまに 。
其の男達も、真二の酒豪振りには叶いません。
只、他の男が居る時 真二。絶対に酔ったりは致しません。
普段 優しげな眼差しが、此れでもかと炯炯たる眼光鋭い輝きを増すだけでした。
話すことは、尤も過ぎるほどの内容。幾らでも喋ります。夜明け近くまでも。

真二、仕事の上でのミスを 絶対にしない男でした。
だけど 自分以外の部下や女たちには、何も完璧を求めません。
反省呑み会では 真二は、自分が想う事を話すだけでした。
みんなは、それ故に、真二を理解しようとします。
マネージャーの為に 仕事をコナセルナラっと、
為になる話しならと、何でも言うことを聞こうとします。
其の時、其の席では幾ら晩くても、全員素面が続きます。
酒量は上がり続けてもでした。

自分。此の時期は必死でした。
真二さんが考えている事 真二さんが思いつく前に。
っと、必死で予想し 仕事中は絶えず、真二さんの動きを目で追います。
毎日が イッパイイッパイの思いでした。

 でもね、予想。 当たる訳が無い。



或る日、
「ぼおやっ、チーフになれっ 」 っと。

「はぁ?・・・・、ぇ! 」
「お前が今日からチーフやっ 
「えっ、ぼ、ボクがっ・・・・ 」
「気色悪いこと抜かすな!っ 」
「ぇ!」
「ボクやっ、似合わんことヌカスナ、ボケェ~! 」
「は、はいぃ・・・・わぁ、わいがぁちぃ~ふぅですんかぁ!っ 」
「嫌かっ 」
「ぃ、いえっ します 」
「ほな、せぇやっ 」


此処数年。真二さんの御用が無い日は
昼過ぎに店に来て、チーフの仕込みの手伝いをしていました。
 まっ、料理見習いです。
此の頃やっと、客に出せるくらいのオードブル造れる様に でした。

「チーフはどないなんですか? 」
「あれは、昨日で止めた 」
「やめはったっ! 」
「そやっ、止めおった 」

其れだけでした。後は何の説明もでした。


少し後になって、聴こえて来た噂
店のホステスで、亭主持ち女とチーフが逃げた。

チーフ、籍も入れていなかった子持ちの女を置いてでした。
其の置いていかれた女、某スナックで働いてた。
何度かチーフに連れて行ってもらって、顔見知ってます。
可也 綺麗な女の人でした。
其の人を捨てての、駆け落ちです。

 アクマデモ噂で です。


「バーテン 募集かけたさかいにな。それまでは此の前入ったん使え 」
「はい、じゃっぁ此処(カウンター)ワイが仕切りますんか? 」
「誰がするんやっボケッ! チーフがするんやでぇ 」
「はいぃ! やらせて貰いますぅ~ 」

真二さん、ニヤリとして言いました
「あぁ せんかいっ、チィ~フゥはんっ 」 っと。


やっと、やっと卒業できました。

 「 坊やぁ 」 からぁ~!
 

夜更けに店がハネテから 店のみんなが、
わいの昇格お祝いやっ、ゆうて 某所で奢ってくれました。
明くる日は、強烈な二日酔いやったっ
其れでも、寝惚け顔で目覚めた時 多分。わい

 ニヤツイテタと想うでぇ~!




        

夜の玄人 

2006年04月04日 00時58分50秒 | 夜の時代 【深夜倶楽部】 


【先輩真二】


真二とは、此の時に知り合ってから、四年余りの付き合いです。

元々は、自分が此の世界に飛び込んだ 未だ駆け出しの頃に 
他店で始めて勤めだした時からの、知り合いです。

実は其の当時。自分と真二とはお互いに、反りは合っていませんでした。

此の世界で右も左も解らない自分を、最初に雇ってくれた某倶楽部店では、
此の真二が先輩でした。店では 真二、威張っていました。可也。
歳は 多分。 自分とはあんまり変わらないのかも?
っと言いますのも、未だにお互いの歳は知りません・・・・多分 真二も・・・
自分は昔から若く見られる方だし、真二は老け顔だからぁ・・・・
自分が入店してから少し経って、もぉ少しで店がハネる時間に
真二が厨房に入ってきて 誘ってきました。

「ぼぉやっ 慣れたんかぁ?」
「ぁ、はいぃ」
「そぉかぁ じゃぁ今から飯喰いにいこかぁ」
「ぇ!・・・・」

自分 嫌でした。此の男となんて。っと・・・・でした。

此の夜の世界では 兎も角。実力が物を言います。
 真二は、仕事が出来ました。

毎晩 店に遊びに来る、多様な客の扱いも巧かったし、
夜働く女達のアシライ方も慣れた者でした。
倶楽部の経営者も、真二を頼りしてました。
当時 店で働いてた男は、自分を含めて七人 。
カウンターと厨房で三人、ホールで四人でした。
自分は厨房で洗い方専門番で、滅多と其処からは出させては貰えません。
日毎、皿洗いの毎日が続いてました。
荒れてきていました、手が。洗剤焼けで、カサカサ状態
皮膚が粉吹き ひび割れ、赤切れしていました。

偶に、当時のチーフに用事で呼ばれ 厨房からカウンターに
其処からは、薄暗いホールのボックス席が丸観えでした。
真二さん。テキパキとされていました。
羨ましい程の身のコナシで テーブル席の間を泳いでいます。

 笑顔で・・・・客の前ではね、何時でも笑顔でした



先輩に誘われたら 絶対です。
況して此の世界、実力ある先輩の言う事は 聞くのが当たり前。
 自分、直ぐに諦めました。

店がハネてから仕方なく、真二さんの背中を見ながら付いていきました。
飯屋、路地裏にです。看板も上がっていません。
真二さん 慣れた手つきで軋む引き戸を開け、入ります。
自分も、入りました。煮しめた様な木の色の くの字カウンターだけの店でした。
薄座布団が載ってる腰掛に座り、黙っていても 丼飯と味噌汁お椀が目の前に。
頼みもしないのに、大瓶ビール、二人の間に。
当然の如く真二さん、自分の目の前にビヤグラス 突き出します。空の

自分この時。真二さんの顔を観ない様にして、酌注ぎしました。
自分の心、穏やかでは無くなり掛けていました。
「お前も飲め」 っと言われて手酌しました。
乾杯も何も無く、真二さん。イッキしました。

 追う様に自分もでした。


 自分、此の時
先に酔う方が勝ち っだと・・・・。勝手に思い込んでいました。
 っけど 其の読み、

 キッチリ外れました。見事に。



   
                  
              
          

夜の時代  【深夜倶楽部】

2006年04月03日 00時45分46秒 | 夜の時代 【深夜倶楽部】 
    
【深夜倶楽部】

   
サッキまで営業してた、華やか賑やかしだった店内が 静まっています。

店の女たちは みんな帰ってしまい、今は誰もです。
照明を落とした薄暗いホールの奥から、営業時間中に切れ目無く聞こえていた 
雰囲気盛り上げな 静かな洋楽レコード曲の変わりに 今は、
有線放送の音量絞られたド演歌、流れ聴こえてきていました。
だから、カウンターに男同士で収まってるのが なんだかなぁ?・・・・。

 っな、雰囲気、漂っていました。

二人。 わたしが勝手に棚から持ち出した、客のキープボトル呑んいでました。  
亭主のママは 奥の厨房に若ボンを連れて引っ込んでいるしぃ・・・
他には 自分たち以外には誰もいず、二人黙って
仇を遣っ付けるみたいにウイスキー、呑み続けていました。

時折 ヒソヒソと声を潜めて何かを話す ママと若ボンの声が、
開け放たれたドアの厨房から 漏れ聴こえるだけです。


 突然、言い出しました。

「チーフ あれといっしょになるわぁ」 っと

勢いをつける様に呷った ファショングラスを普段なら
叩き付けるように置く 真二(仮名) 
今夜はカウンターに静かに置いて、何かを堪え 抑える様な溜息交じりの
酒精交じりの 吐き出すような低い声で言いました。


「ぁ、ぇ、ホ、ホンマか?」
「ぁ~、えぇねん。もぉええねん」
「  ・・・ 」
「 もぉ、ええんやっ! 」

「!っ・・・・お前なぁ 何がえぇんやっ?」

って、わたしは言いましたけど、
直ぐ傍の、一本脚スツールにとまってる真二を、まともに視れませんでした。

 再び、お互いに黙ってしまいました。

暫くは、二人の間の静かさが、益々 潜めた演歌をシミジミと聴こえさせます。
場持ちに 煙草(ハイライト)を一本取り出し、咥えながら真二の横顔を盗みました。
顔、蒼白かったです。今まで視た事も無い様な、苦悶の表情していました。
奥歯、噛み締めてる顎の筋肉 震えていました。
細長い洋モク挿んだ真二の白い手、何かを堪え 耐えている様に震えていました。
真二、何かをわたしに悟られ、視られてると分かると、直ぐに煙草を揉み消し、
達磨(サントリーオルドウイスキー)を掴んで赤いキャップを回し取り、
空いたグラスの氷に 注ぎました。

わたし、其の注ぎ方
相変わらず巧いなっ と思いながら 眺めていました。
半分も呑んでいない わたしのグラスにもでした。
縁ギリギリで ストップします。
わたしこの時思います。

 此処、酒屋の立ち飲みカウンターかぁ? っと。

グラスの縁に迎えさせます、唇を。
啜ると、喉の奥までウイスキーで洗われました。
少し、心に穏やかさがです。巡ってきました。
酩酊も、釣られて遣って来ようとしていました。
隣で真二が何かを言っていましたが、只の何かの話にしか、聴こえなくなりました。
暫くすると、肩を揺すってるのは若ボンなんだろぉかぁ・・・・?でした。
天井の照明を隔てて、影になったママの顔。
自分を見下ろしてるママが、何かを言いながら、手に握らせてくれ様と・・・・


目覚めたら、ボックス席のソファーで寝ていました。
向こうのソファーでは真二が眠っていた。
眉間、縦に 二本の深い皺。刻まれていました。

自分、右掌で万札握り締めていました。
ママが何かを言いながら 握らせた様な微かな記憶がぁ・・・・
喉元に嘔吐感、込み上げかけて来ています。
ジッと動かず観てました。暗闇天井のミラーボール。
 輝かないでぶら下がったまま。

 あれが、落ちればいいのにっ・・・・とっ


耳には。
エアコンの静かなリズム音 微かに聴こえていました。