(仮)しょうせつぶろぐ

自作短編小説(SS)がメインになってます。

『FREE TIBET!』
チベットに自由と平和が訪れますように。

ある いたちさんの 半生

2009-02-12 19:02:29 | おとぎ草紙
ぼくは いたち。

ある日、たくさんのなかまがいるばしょから、
ここにつれられてきた。

ハンモック
トイレ
ごはん
おみず。
それが、ぼくのぜんぶ。

ぼくがすむことになった、てつでできたあみのはこのぜんぶ。

あつい日も、
さむい日も、
かぜのつよい日も、
あめがふる日も、
ぼくはずっとはこのなか。

なんかいもなんかいも
あさと、よるをすごして、
いつのまにかぼくのからだがおおきくなっても、
おなじはこのなか。

ごはんたべて
うんちして
ねむる。
ぼくのいちにちは、こうしておわる。

だれも、ぼくを、みない。
だれも、ぼくを、さわらない。

はこのなかはせますぎて
あるくこともできないから、
ぼくは、
あるきかたをわすれてしまった。

だれもぼくにさわらないから、
あったかいがどんなものか、
どんなきもちなのかわすれてしまった。

ぼくは、じぶんが、
どんなすがたかわすれちゃった。

なんでぼくは
ひとりぼっちなんだろう。
なんでだれも
さわってくれないんだろう。


ぼくは、
いきてる?
いきしてる?


ある日、ぼくをみたしらない人が、
めからおみずをこぼした。

おみずをこぼしながら、
ぼくにいった。
「かわいそうに。うちにおいで?」

ぼくにむけられた、
はじめての、め。

ぼくにさしだされた、
はじめての、て。

ぼくは、めからおみずをこぼしたひとの
おうちにいくことにした。
いままでごはんをくれてたひとは、
おわかれのときになっても、
ぼくを、さわらなかった。

めからおみずをこぼしたひとのおうちには、
にょろにょろながいのがふたりいて、
ぼくに「いっしょにあそぼ」っていったけど、

ぼくは、
あそぶが
わからない。

にょろにょろながいのに
「きみのなまえは、なんていうの?」
そうきかれたけど、

ぼくは、
なまえを
もっていない。

ぼくは
こわくて
どうしたらいいかわからなくて
ふたりをいっぱいかんじゃった。

めからおみずをこぼしたひとは、
こまったかおをして、
また、めからみずをこぼしながら、てをさしだした。

そのても
かんじゃった。

にょろにょろとなかよくなりたいけど、
こわくてこわくてどうしようもなくて、
ぎゅってかんじゃうんだ。

めからおみずをこぼすひとのてはやさしいのに、
こわくてこわくてどうしようもなくて、
ぎゅってかんじゃうんだ。


ぼくのめからも
おみずが
ながれた。


いっしょにあそびたい。


いっしょにねんねしたい。


いっしょに

いっしょに

いっしょに・・・・・・


でも、どうしていいかわからない。
こわくてこわくてたまわらなくて、
だめだとおもってるのに
ぎゅってかんじゃうんだ。

こわいと
さみしい。
それが、ぼくのせかいの、
ぜんぶだったから。


ある日、めからおみずをこぼしたひとが、
わらってるひとに、
ぼくをわたした。
また、めからおみずをこぼしながら。

わらってるひとは、
こわくてかたまってるぼくをみて、
もっとわらった。

こわくててをかんだら、
もっともっとわらった。

わらって
ぼくを
だっこした。

だっこは
こわい。

でも
あったかい。

ぼくは
おててがあったかいって
はじめてしったんだ。


ぼくは、
いきてるんだね。
いきてていいんだね。


わらってるひとは
ぼくになまえをくれました。
うまれてはじめてもらったなまえは、
きれいで、
きらきらしてて、
あったかかったよ。








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御神木

2008-07-01 16:55:31 | おとぎ草紙
小さな頃から私はこの場所で、さまざまな光景を目の当たりにして
生きてきた。
たくさんの命が生まれ、死に、やがて再び蘇るのを見てきた。
辺りの風景が変わっていくのを見て生きてきた。

私が立つこの場所を、小さな人間どもはさまざまな道具を頼りに
掘り返し、やがて息苦しく硬いもので埋め立ててしまった。
人間どもの意図がわからないまま、私には見守る事しかできなかった。
周囲にいた私の仲間達はことごとく切り倒され、細かく切り刻まれて
しまったが、私だけは奇妙な縄をつけられて生き残る事となって
しまった。
古木の私には、神が宿っているそうな。
馬鹿馬鹿しい。
切り倒された幼木たちにも、踏みにじられた草花にも、神は宿って
いるというのに。

私の周囲では、臭い空気を撒き散らす鉄の箱が走り回っている。
昼も夜も落ち着かない。
人間の住む箱が私を見下すように建ち並び、四六時中落ち着かない。
まったく、嫌な場所に変わり果てたものだ。

私の声を聞かなくなった人間達。
人間達はずいぶん変わってしまったが、私は変わらずここにいる。
私の腕で安らぐカラスに涼やかな風を送り、私の実をついばむツグミの
ために大きな実を育て、私の足許で戯れる動物達のために木陰をつくり。

どんなにこの場所が変わり果てても、私は変わらずにここにいる。
私を愛するものたちのため、私の愛するものたちのために。



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牢獄の狼

2008-04-21 09:52:25 | おとぎ草紙
あの時舞っていたのは雪だったか。
それとも桜だったのか。
もしかしたら陽光のきらめきだったかもしれず、
秋の木漏れ日だったのかもしれない。

そんないつだったかのある日、僕はなぜか動物園にいる。
開園直後の園内は静かで、ただ自分の息遣いだけが耳に響いた。
獣がいる気配は、匂いだけ。
その匂いも空中に拡散し、街角のペットショップ程にも
感じられない。

たくさんの動物たちが閉じ込められた動物園で、
獣たちは自らの気配を自身の記憶に封じ込めているのだろうか。


コンクリートで固められた牢獄の中、たった一頭の狼が
閉じ込められていた。
狭い空間を小走りに、右へ左へと休みなくうろつきながら。

美しく逞しい体の中で確かに心臓は動いてはいるのだけれど、
彼の心は生きているのか死んでいるのか区別がつかない。
優しい瞳には辺りの風景が映っているようだけれども、
彼が何かを見ているかどうかは定かではない。

狼は欧州の広く静かな森林を、仲間達を走っていたはずなのに、
やかましく騒ぎ立てる裸の猿に取り囲まれてたった一人で
過ごしている。

彼は、いったい、どこに行こうとしているのだろう。
どこに辿り着こうとしているのだろう。

狼の姿が美しく優雅であるが故に、その哀しみは切実だ。
彼が犬になれさえしたら、少しはその苦しみは軽減
されるだろうに。
狼として生まれた彼はどんなに囚われの身で育っても、
犬にはなれない。
狼でしかいられない。

自由を奪われ、仲間から引き離された狼は、檻の中で何を
思うのだろう。
自身を種族の最後の生き残りと思い込み、絶望と悲哀に包まれて
彷徨っているのだろうか。
どこかにいるはずの仲間を慕い、夜な夜な遠吠えを繰り返すのだろうか。

動物園の狼は、美しいのに哀しい。
その悲しさゆえに、僕は目を離せないでいる。
僕は狼には絶対になれない、哀れな裸の猿だから。


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足音

2008-04-14 09:13:33 | 戦争
最初は、気のせいだと思っていた。
本当に小さくて、日常の騒音に掻き消されるほどだったから。

ほんの僅かに近付いてきたかもしれないと感じた時、あまりにも
さりげなくカモフラージュされていて、気にしすぎてありもしない
気配に反応しているのだと自分を嗤った。

そして、気のせいなどではなく、現実に身近に迫っていると
はっきりと知った時。
もう逃れることなど出来なかった。



カッカッカッカッカッカッ・・・・・・



足音が響いてくる。まるで地鳴りのように。
何気なく見過ごし続けた自分を呪っても、もう手遅れだ。
自分の愚かさを、嘲笑うしかない。



カッカッカッカッカッカッ・・・・・・



硬い石畳を行進する、不吉な足音。
足音が聞こえてくるたびに、私の生活から何かが
消えていった。

新鮮な野菜、捌きたてのチキン、生きのいい鮮魚。
手始めに食べ物が乏しくなっていき、いつもお腹を
空かせる羽目に陥った。

石鹸、洋服の布地、勉強のためのノート。
生活に必要なものが次々に店頭から消え、かわりに空っぽの
お店の中でマスターが頭を抱えてうなだれる姿が見られるように
なっていった。

それでもまだ良かった。
町の人みんなで助け合って、支え合う余裕があった。
大切な誰かが一緒にいるから、安心して眠っていられた。

でも、思い知らされることになる。
足音が奪っていくのは、食べ物や日用品ばかりではないことを。



カッカッカッカッカッカッ・・・・・・



一番最初に消えたのは、小さな頃から可愛がってもらってた
本屋のご主人だった。
何も買わなくても子供たちにキャンディーを配ってくれるような、
お祝いやお祭りの日には知らない人にもごちそうを振る舞うような、
そんな気の好いご主人。
なぜ、何が目的で連れ去られたのか、誰にも判らなかった。
理由が判らないままでは不安だったから、政治的な思想が問題
だったのだと、無理矢理こじつけてみんなは噂しあったものだ。

次に消えたのは、車椅子に乗った年嵩の少年。
少年は足が動かないだけで、天才的な知能を持っていた。
知能だけではない。とても優しい性格で、貧しい家計を
助けるために不自由な体ながらも働いて、ほんの僅かな本代以外は
すべて両親に渡していた。
自身の身の不幸を嘆くことなく、常に笑顔を浮かべていた。
街のみんなは彼を大好きだったのだ。
でも、身体的な障害が問題だったのだと、みんなは噂しあったものだ。

足音が聞こえるたびに、街で誰かが姿を消すようになる。
知的障害者だったり、流れ者のロマだったり。
そのたびにみんなは噂しあった。
彼らにはこんな問題があった、だから連れて行かれたのだと。
そして密かに安心しあったのだ、何の問題もない自分自身は
大丈夫だと。


やがて足音の聞こえない夜はなくなり、連れて行かれるのにも
理由はなくなった。
大通りを歩いていただけで連れて行かれ、街角に立っていただけで
連れて行かれ。
それでもみんなは噂しあったのだ。
あの時彼らはあの場所にいたから。
家にいれば大丈夫、目に付かなければ安心だと。

でもね、もうどんな場所にいても安心なんてできないの。
だって足音は、全ての家の前までやってきたから。
ごく普通の生活を営んで、どんな理由も見出せない私達の家の前にも
やってきたから。
不吉な足音は、街中を覆い尽くしてしまったから。


今夜も足音が聞こえる。
連れ去られた者は、二度と戻っては来ない。

不吉な足音に飲み込まれる。


まだ足音が小さかったあの時、気のせいだなんて思わずに
警戒の声をあげていればよかった。
自分を誤魔化すんじゃなかった。
聞こえない振りをするんじゃなかった。

どんなに後悔しても遅い。

足音が聞こえないふりをし続けた私は、耳をふさぎ続けた私は、
自分で自分の心臓を抉り出す行為に加担したのだから。



カッカッカッカッカッカッ・・・・・・



今日も足音が聞こえる。





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ここにいる

2008-03-21 07:14:56 | おとぎ草紙
辛気臭いったらありゃしない。

私の前でべそべそと泣くのは、もう止めてくれないかしら。
お願いだから。

あなたの頬を濡らす涙。
その涙を見ていると、大嫌いな雨の日を思い出して憂鬱になるの。
雨の日は訳もなく不愉快で鬱陶しくて、ほんの少し体を動かすのも
億劫なくらいなのに。
ただでさえそこら中が痛くて、関節がどこもかしこも悲鳴を上げてる私に、
これ以上嫌な思いをさせないで。


大嫌いな雨の日。
私が、誰かに、見捨てられた日。
そして、あなたと、出会った日。


いつまでもやまない雨に打たれて、私の体は冷え切って。
不安で泣き疲れて、声も出なくなっていた。
汚らしいゴミ屑のように打ち捨てられた私を、
初めて出会ったあなたは何も言わずに抱きしめて、
着ていたコートが泥だらけになるのもかまわずに、
そっと包んでくれたわねえ。

そんな、どこにでもあるような、ありふれた、幸福な出会い。


そうね、雨の日には嫌なことばかりじゃあなかったわ。
でもね、あなたが泣くのは嫌い。
いつものように微笑んで、私を温めて頂戴。
私の体に顔をうずめて、優しく抱きしめて。

あなたは知っているかしら。
あなたに抱きしめられることを、
撫でられることを、
口づけされることを、
私がどれだけ待ち望んでいたか。


思うようにならないこの肉体。
とっくに気づいてたわよ、あの頃の私じゃないってこと。
羽が生えたように軽やかだった手足は、今ではほんの少しの
段差でさえも超えられない。
立ち上がるどころか、這いずるようにしか動けない。
あなたの指を甘噛みしていた美しい自慢の歯はボロボロで、
何かを噛み砕くことなんてできやしない。
あなたが口の中に流し込んでくれたスープを何とか飲み込んで、
生命を繋ぐのがやっと。
あなたが愛してくれた私の体、絹のようになめらかだと讃えてくれた
この体は、今ではもう襤褸布の手触りなんじゃないかしらね。

満足に見えなくなった目では、確かめようもないけれど。


すっかり変わってしまったこの体を、あなたはそれでも
抱きしめてくれる。
あの頃は荒々しくて時には迷惑に感じた抱擁も、
今は脆いガラス細工を扱うような手つきで。

あなたの指は、私の一番気持ち良い場所を知っているのね。
撫でられて目を細める私を、あなたは寂しげに、優しく見つめるの。


あなたがいるから、私は生きていられる。

あなたのためになら、私はいきられる。

あなたが変わらず見守ってくれているから、
抱きしめていてくれるから。

私は、

この上もなく安らかな気持ちのままで、

死ねる。



小さな痙攣を何度も繰り返し、最後に小さなため息を漏らすと、
硬く強張った四肢から力が抜けた。


魂が抜けおちる。


年老いて病に侵され、長いこと自由が利かなくなっていた肉体。
まだ温かいが急速に熱を奪われ始めた自分の肉体を踏み台にすると、
彼女は亡骸を抱きしめたままで動かない飼い主の膝に飛び乗った。

ねえ、私の体躯から生命は消えちゃったけど、ここにいるよ。

あなたのそばにいるよ。
ずっとずっと、いつまでも。



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