【 rare metal 】

此処 【 rare metal 】の物語や私的お喋りの全部がね、作者の勝手な妄想ですよ。誤解が御座いませんように。

In a dream 

2008年08月23日 03時30分05秒 | イケナイアルバイト (仮題) 
T3年生イケナイアルバイト (4)



(夢の中)

白木のカウンターにとまると、何時ものように白磁二合徳利の熱燗が、食い物を注文するより先に出てきた。
最初の一杯は、カウンターの向こうから割烹着七分袖の腕が伸びてきて、目の前に置かれた熱燗用耐熱硝子コップ
五分目少々だけ注いでくれる。

逸る呑みたさで口にコップをと運ぶと、鼻腔に酒の芳しさが。
チビリっと舐めると、舌に燗酒の熱さな旨味が沁みた。

隣の席ではアイツが身体を捻って後ろを見上げていた。
その横で大女将が、穏やかな優しい眼差しでアイツを見ながら、
壁に留められ並んだ御品書きが描かれた木札を指差し、食い物の説明をしてくれていた。

猪口を舐めもってアイツの幼い背中を観ると心の中が騒ぎ出し、
忸怩たる後悔する想いで溢れそうに為ってきた。
今夜、此の店にコイツと着たのは間違いだったのかもと。
夜更けた晩に、他に事情があろうとも、未成年の者を連れまわす罰が当たったなぁ、とも。

「なぁにぃちゃん、その娘(コ)ぉはアンタのなんや?」

案の定、自分の左隣の男が訊いてきた。
最初、此の店に入ってきたときから、興味シンシンすぎるで。っとな目ツキ顔まるだしやった。
自分普段なら、この男とは此の店の客の中でもケッコウ仲のいぃ方だったので、
訊かれたことには素直に応えていただろう。
タダ今夜は自分でも、自分の意識が如何にか為り掛けているのに気づいていた。
今夜、幾度となく口に含んだ酒の酔いも手伝い、ナニもかもが厭になり、

ッチ! ダボが。 要らんこと訊いてドナイするんやッ! っと少し凶暴におなりかけ。
だからもぅ、訊かれたことに応じるのも億劫になってきていた。

「ワイの娘やがな、ナンか用なんか。」
「ぃや、よぉッテ、なんも無いわな 」
「○○ッ、お前に興味があるんやッテ、挨拶したれ 」

(注:ホンマの名前なんか言えません。マシテ仮名なんかで言いたくない。)

「ぇッ、ぁッあいさつですかぁ 」

「そや、したれ。 ホンナラこの人かて得心するさかいな 」
「なんでウチが挨拶したらえぇの?」
「ムスメがなんで挨拶せなアカンねん。ゆうとるんやけどなッ! 」

「ぇッ、なんもワシ挨拶してくれ言うてへんのやけど 」

「挨拶せんでもえぇねんて、ホレ、サッサと食いな 」
「ぅん。」

「なんやねん、エライからむやないか、どないしましたんや 」
「済まんな。娘と久しぶりなもんやさかいな、何方さんにも邪魔されとぉないねん 」

自分この晩、頭の中の意識は酒の酔いに負けていた。
酒精に痺れはじめた意識の何処かで、ユックリト透明になりかけている物、ありました。

カウンターの中で人の吐く薄紫の煙草の煙が、人の頭の高さで棚引きながら店の奥の厨房にと。
意思があるように漂うその紫煙を眺めながら、透明に為りかけてるものがマッタク消え去らないようにと、
有線の低い音量に絞った流行歌(ハヤリウタ)聞き入ってるフリし、此れ以上ヨッパラッタら駄目だと。
胸の中、足掻くような感じで必死で堪えていました。


「帰ろぉかぁ 」

そぉっとワイの肘をツッツきながらやった。

「ギョウサン食ったんかぁ 」
「ぅん。 」
「かぁちゃん、腹空かして帰ってくるんやからナンゾ購(コオ)て帰えろか。」
「要らんッテ言うよぉ 」
「なんでや 」
「寝る前に食べたら太るッテ 」
「あないに細いやないかぁ、なんでや? 」
「ぅん、前と比べたらよぉ痩せたさかい、もぉ前みたいに肥りとぉないゆうとったぁ 」

「ナンで痩せるんや?」
「ぇッ! ナンでぇッテぇ 」

言葉に詰まり、ワイを見上げてた視線が泳ぎながら逸らされ顔を伏せた。
自分、直ぐに気づいた。もぉぅ酔いが吹っ飛びそうやった。
ホトホト自分の料簡のなさにはぁッと、舌を噛み切りたいほど後悔し情けなかった。
人が痩せるゆぅたら、況してや肉体労働なんかしたこともないような女が痩せる。
原因は重い病か、ヨッポドな気苦労で精神的に参ってしまう、痩せるしかなかった。

「ホナ、帰ろか 」
「ぅん 」



(お百度参りの時に渡る暗い橋の上で)


ふたりで夜を見上げると、月はなく深い紺色の空に星が低く輝いていた。

「家まで送ったろ 」
「えぇわぁ、独りで帰れるぅ 」
「此処らは痴漢が出るねんで 」
「ぅん 」

コイツが母親とふたりで住ん居るのは、川向うの国鉄線路近くの借家だった。
近道で、車が行き交う本通りを歩かずに、田圃の中を突っ切ることにした。
あの頃は、今なら何処にでもあるような防犯燈なんか整備されておらず、
夜中に表通りから狭い路地裏に入ると、足元も覚束ないような暗さだった。

「ホレ、手ぇ引いたろ 」
「ぅん 」

後ろに伸ばしたワイの腕に追いつこうとする幽かな足音がした。
手先に何かが触れたので掴むと、白布(キレ)巻いた手首やった。
放して握り直すと、冷えた小さな手ぇやった。

古い民家の土塀に挟まれた路地は直ぐに終わり、黒い影の田圃が広がる処に出た。
其の黒影の中の農道、舗装されず土が剥きだしだったので、夜目にも仄白く浮き上がっていた。


川向う、田圃の中のコンモリとした鎮守の森。
其処の小さな社に祭られているお稲荷さん。

その神社に此方側から川を渡って行くのに戦前から架かっている、
人の往来がやっとなほどの幅しかない、昼間観ると元の朱色も剥げ落ちた古い橋を渡っている途中、
後ろから付いてきてるはずのアイツの足音が急に聴こえなくなった。立ち止まって振り返った。
アイツ、橋の袂の対の木燈籠の仄かな燈明の陰になり、黒い影で橋の外の闇に浮き上がっていた。
橋の真ん中あたりの欄干に手を添え、暗闇に身を乗り出し橋の下を覗いてた。

「なんか居るんか 」
「観えないよぉ 」
「そっか、暗いさかいな 」

「ぅん 」 っと、返事はするけど、身は乗り出したままだった。

暗さを見透かし暫く影を眺めてると、ナンだか不吉なものを感じた。

「ナンヤ、もっと此処に居りたいんか?」
「ねぇマスタァ、コッカら飛んだらドッカニいけるかなぁ 」

自分、咄嗟に息を呑み、アイツの問いに応えることができなかった。

「ドッドッカって?」

「マスタァ ずっるいわぁ!」
「なんがや?」
「ウチがナンか訊いたら、イッツモ逆訊きする 」
「ソッそぉかぁ 」
「ぅん、する。」

「そぉなら、ワルカッタな 」
「マスタァ、ウチぃ誰に認めてもろぉたらいぃんやろかぁ 」

「ぇッ! 」



夜は 暗闇は 暗さで包んで視え難いもんやけど 人の心は隠してはくれませんでした


今でもね、あの時にアイツの影がね、黒い中に堕ちて逝く夢を見ますねん。






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