【 rare metal 】

此処 【 rare metal 】の物語や私的お喋りの全部がね、作者の勝手な妄想ですよ。誤解が御座いませんように。

七つの子

2005年12月09日 14時38分10秒 | 幻想世界(お伽噺) 
   
「おまえさんになぁ、こどもがぁ・・・」
「ぅん、誰にも言わないでくださいね」
「言ぃやぁせん。だけどもなぁ・・・何時までもなぁ」
「・・・・・そうですねぇ」

「なぁ・・・」

 っと、いって話したのが、昨日のような気がします。


「お父さん、わたしがやっておくからね、早く休んで」

義理の娘が労わりで。
おかえしに。

「いぃよ。お前の方が疲れてるだろぉ」
「ぅうん。ぃいから早くぅ」
「そうか、じゃぁ」

冬の星空眺めて銭湯に。
溶けかけた石鹸と、研ぎ澄まされた日本剃刀の 髭剃りを
洗面道具と共に。小さな洗面器に。

 小脇に抱えて。

娘の子(連れ子)の手を引いて。
小さな彼女の小さな手を握って。優しく繋いで。

「じぃちゃん熱いよぉ」
「我慢しな」
「熱いよぉ」
「お前さんは我慢できませんなぁ」
「じぃちゃんが熱すぎるんだよぉ」
「ぉお そうか、じゃぁ おあがり」

 湯船からね。さっと。・・・鮎が水面(みなも)で跳ねる様にね。

小さな身体を洗ってあげるのは、心安らぐ小さな楽しみ。
皺が拠り始めた自分の手。泡でフワフワ。
可愛い頭が、泡でフワフワ。

「じっちゃん、目ぇ~」
「お!っ、目に入ったか」
「痛いよぉ」
「よしぃ、流すぞぉ」
「早くぅ~!」

 すすぎます。ゆっくりと。

「無くなったか」
「うん。でもぉ、まだぁ痛ぁいぃ」
「治るからね。我慢」
「うん。我慢」

 聞き分けが良い子です。

息子は明日、帰って来ます。
七年。待ち続けました。娘と共に。

 義理の娘と共に。
 孫と共に。

「じぃちゃん。おとぉさんね、道ぃ間違えないよねぇ」
「間違えるもんか。なんで?」
「うん。道ぃ忘れてないよね」
「うん。忘れてないよ」
「うん。じぃちゃんの息子だからね」
「うん。お前の父ちゃんだからね」
「うん」
「さっ」

顎まで上げた掛け布団。静かに叩きます。
鼓動と同じ調子で。心臓の。

「おとうさん。寝ましたぁ」
「ぉ、寝ましたよ」
「はい、ありがとうございます」
「うん。お前も、早くおやすみなさいな」
「はい。ありがとうございます」
「ぅん。おやすみ」
「おやすみなさい」
「ぅん」

 孫の寝顔。視ながらの寝つき。贅沢! 贅沢!


「おとん!ただいまっ」

 木枯らしが吹き込む、開け放たれた玄関で。・・・満面の笑みで。

「あんたぁ!」
「ぉっ、ふけたなぁ」
「馬鹿! 何を言う、連れ合いにぃ~! まっ、元気そうだね。おかえり」
「うん。ただいまぁ」
「ぉい。とうちゃんだよぉ」
「・・・・・」
「ただいまぁ」

跪いて、子供の目線で。蒼い顔して。息子が。
痩せ顔に、本当の笑みで。

「ぉかぇりぃ」
「あぁ? なんてぇ」
「おかえりぃい!」
「うん!っ ただいまぁ」

惚れた女と、女の娘を守る為。
犯した罪を償っての、息子のご帰還。

 幸せがです。やっと。

 纏まろうと・・・・。

「おとん。またせたな」偉そうに。強がって。
「うん。おかえり」
「ただいま」優しく。・・・本当に優しく。

「(慟哭)・・・・済みませんでしたぁ・・・」 やっとの・・・搾り出し。
「ぅん、うん。いぃよぉ!もぉいぃよぉ。なぁ息子ぉ・・・おまえの母さん、泣き虫」
「・・・ぉかぁさん。何で泣くのぉ?」
「ぅん。ごめんねぇ、嬉しくてねぇ、涙がぁねぇ・・・・ぅん・・」


枯れた眼にも、湧きます雫が。
孫が生まれて、七年。
辛抱の 七年。
待ちの 七年。
噂の 七年。
 
 幸せ待ちの 七年。


 七つの子がね、七つに。