「あんたなんか 死んじまえばいいのよ! 」
此の言葉が 如何して言えるのか
聴けるか 不思議でした
四畳半一間の世界 何の音も無く
消えて逝くのが 解かりました
二年弱の 同棲
気持ちが 互いに離れていくのが 解かりました
でも 「死ねばいい 」
今までの 今日までの 二人の歴史の否定
何故 っの答えが見つからず
心が 動揺で揺れます
意識の表面に 限りない細波が
湧いては消え 消えては生まれます
疑いが生まれます
お互いが 傷を抉り始めます
悲しみがです 生まれます
其れが怒りと憎しみに 変化します
抑えようの無い 何かの衝動が蠢き始めます
孤独に逃げた 心に
啼いて言います
「解からなかったの! 」
迫る言葉が 連なります
「鈍感! 自分勝手な男よおぉ あんたわぁ!
何も気づかなくってぇ おめでたいわねぇ あんたわぁあ! 」
少しずつ 少しずつ
気持ちが 萎えて逝きます
少しずつ 少しずつ
現実逃避が始まります
責める言葉が 何処か遠くでと
自分世界が 出来上がります
其処で 意識が浮遊し始めます
何も無い世界 です
だから 意識が遠のきます
何処かで 言葉の 音 鳴っています
「本当にぃ出て行くわよ それでいいの? 本気よ いいの? 」
意味が 解かりません
言葉が 心を射るだけの 音
意識が 何もかも拒絶します
黙って 部屋の外に出ました
背中で 音 響いています
後ろ手で ドアを閉めたら
バスの警笛 トラックの騒音
幼稚園の 送迎バスから降りる 子供の声
明るく迎える 親の声
木枯らしが 舞っていました
深夜に 酔っぱらって帰ったら
部屋には昼までの 雰囲気が無かった
孤独が居て 寂寥とした寂しさが 住み着いていました。
薄暗い台所の流しの中で 何かが割れていました
勢い良く 窓を開けたら
二つの 夫婦湯飲みの割れ口が
開けた窓から入る月明かりで 光っていました
破片を取り上げると 親指の先を切りました
思わず離した破片が落ち 部屋の中を音が奔りました
指先に 赤い血球が産まれ 月の光で輝きました
舐めると 鉄の錆び味
唾を吐くと 滲むような赤い血が
混ざっていました
流しの下から一升瓶を出し 喇叭呑みしました
ひと呑みごとに 酩酊が迫るのが 解かりました
寒さで気が付くと 玄関の框で 俯いて寝込んでいました
顔の下に 水が溜まっていました
舐めると しょっぱかった
誘い水で 涙が溢れてきました
青春が 終わろうとしていました
十九の冬の 事でした