夜の暗闇は、人を無口にします
冷たく醒めた黒色闇が 排気音と共に後ろに
無灯火セダン。 勝手知ったる細い裏道を選んで走ります。
車の窓は全開にしていました。
窓より流れ聴こえる音を 耳で嗅ぐためにでした。
エンジンの排気音 それ、妨げようと。
ヘッドライト消し 路地裏を走ります。
この季節 吹き込む風は冷たさが でした。
「あのボンは 何処の出なんや! 」 爆音と渦巻く風に逆らって 運転席の真二が
「どこって? 」 上着の両襟をキッツク合わせながら 助手席の自分
「お国の兵隊さんやったんやってねぇ 」 赤い髪の毛逆巻かせ 後ろの席から女が
「・・・・・へっヘイタイってぇ歳 なんぼや つねぇ・・・ 」
「北の方かぁ? 」
「知らん 」
「聴かないよぉ 」
「そぉかぁ 」
「ちぃふっ わしが帰ったらな礼ぃせななぁ・・・・」
「!・・・・ぁ、ぁ~ 」
自分 何時頃になる話しなんかなぁ? っと。
急に悪酔いじゃない、乱れ脈拍がぁやった。
「ぅち、待ってるよぉ~! 」
爆音の中に 静かさが迫って来ていました。
心、まさか と乱れていました。
真二っ アクセル踏み込みよったっ!
フロント硝子の 黒い影の裏町並みが 後に素っ飛んで逝く。
真二 爆音で聴こえない唸り声挙げ 奥歯噛み閉めもって
「そっか おぉきにやなぁ 」 尤 アクセル !
横向いて真二ぃ視ると 両眼を大きく見開き 噛み締めた上顎で唇
鼻にくっつきそうな位捲くれていた。 白い歯が覗けた。
自分 ダッシュボードに両手ついてました。 必死でっ!
「此の侭ぁ ドッカに逝けたらぁえぇのんにねぇ・・・」 阿保ぉ女がぁ!
眼 瞑らんと必死で開いていました。
瞑ったら何かに負ける っと思って。
巻き込む風が 目玉ぁ乾かしてもぉ やったっ!
フロントウインドウで 急激な両側に流れる暗闇景色
乗ってる車を呑み込む様な 錯覚がぁ!
時折、急ブレーキの叫び
躯ぁ横に持ってかれそうにぃ!
両手の肘っ 崩れそうにっ!
フロアー絨毯 突っ張る脚で捲くれてました
街灯の明かりが 一瞬で閃き輝いて ドッカニ!
突然! 嘔吐感。
腹の上辺あたりから喉道に 登ります。
窓に身を乗せました。 車体が右に回り込みます。
自分っ 躯がぁ! ベルトを捕まれる感触っ!
罵声がらみの 「こぉちゃん! なにしてるんっ! 」 女が
前の席の間から女が半分身を乗り出して ベルトを掴んでました。
今度は左にぃ・・・・ 吐いた。 我慢できしません。
逆噴射止めれません。 喉が焼けます 胃液で。
風で吐瀉した未消化物が後ろの女に 悲鳴っ!
まるで男の唸り声やった。
真二、甲高い笑い声でした。
アクセルを緩めたのでしょう 風が穏やかになりました。
自分、釣られて一緒にぃ 笑いました。
嘔吐感なくなるまで吐いたら 胸の苦しさは消えていました。
赤い髪の女 後ろで毒突いてました。
「こぉちゃん、あんた殺すさかいになぁ 」
「ぇ~よ。 今かぁ 」
「全部済んでからやぁ・・・・ 」
「そぉかぁ たのむなぁ 」
「ぅん・・・・ 」
突然 っ! 夜が輝きました。
後ろから 明かりが襲ってきました。
振り返ると、瞳を遣られました。 眩しさで !
「真ちゃん 逃げなっ! 」 女
真二が 加速する間もなくでした。
2サイクルのバイクが 車を抜き去りました。
川崎の キチガイ マッハでした。
焼けたオイルの匂い 窓から青い煙とぉ・・・やった。
キチガイ、少し離れた前方でドリフトして 横向きに停車しました。
自分 白バイと違う・・・・っと、安心しました。
510車体が急激に前のめりで沈んで 単車ギリギリで停車しました。
自分 またぁ厄介なんがぁ っと。
早く 終わらんかぁ! って