【 rare metal 】

此処 【 rare metal 】の物語や私的お喋りの全部がね、作者の勝手な妄想ですよ。誤解が御座いませんように。

(ユキガカリ・ナルヨウニシカナラン)

2012年07月10日 02時18分25秒 | 店の妓 ツネ嬢
         
            (画像は勝手イメージ:勝手ナ物事語リ)




【赤い髪の女ツネ嬢】(21)


茶店の滴が垂れる窓の向こう側。
肌寒い外は輝きのない淡い灰色だった。

心の暗さで沈んでいた。


魚町(トトマチ)通りの人気のない濡れた舗道。
穏やかな風に流れる粉糠な驟雨で静かに煙ってた。 



「カッキャン。アンタ苦しぃないんかぁ?」

❍○さんが鼻歌混じりで、ワイに訊いてきた。
コンマイ匙ぉ太い指先で摘まみ、珈琲カップの中を搔き回しながらやった。


「ナンもないですはぁ」

ワイ応えながら茶店の木枠窓に嵌った、細く流れる露で濡れた硝子。
俯いたまま首を無理やり曲げながら覗いた。

ワイ。❍○さんの方を向くのが厭ヤッタ。
コッチぉ観てる❍○さんの眼を覗くコトができなかったから。 


短くなった煙草ぉ、口に挟みかけたら窓の外を人影が横切った。
入口扉に吊るされた小さな鈴が鳴った。
濡れた肩で扉ぉ押しながら、❍○さんの若い衆が戻ってきた。

ワイらの席まで、音もなく歩きながら近づいてきた。
❍○さんの傍らにくると腰を屈め、❍○さんの耳元に顔をよせた。

「頭(カシラ)ぁ。頭のゆぅとぉりですわ」

その後はワイには聴こえなかった。


❍○さん、若い衆が耳元で囁くのを、珈琲カップを掻き混ぜながら聴いていた。
若い衆の方を視もしなかった。表情も変わらなかった。


「そぉか。お前、ナンか飲むか?」
「イエ。自分。用ぉ事がありますさかい、コイデ失礼させてもろうてえぇやろか?」
「えぇで、御苦労ハンやったなぁ」

「ホナ、失礼します。」
ワイにいうとき、伏し目ガチやった。


「カッキャン。人サンな。イロイロやなぁ」
「ナンがですんか?」
「上等なモンはぁ、アンマシぃ居らんチュウことや」


ワイ。頭ん中フル回転してた。
高速すぎて、パンクしそうやった。


脆い胸ん中の心。冷え冷えやった。




駆け引きゴトなんかしてなかったんやけど。
恐かった。


誤解されるんが。





若いコロ ナニぉやっても嘘がと

夢ぇ掴むん 難しすぎました

希望は 叶えるコトも叶わぬもんやと





赤い髪の女ツネ嬢】(21)



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【赤い髪の女ツネ嬢】

2012年02月19日 23時47分42秒 | 店の妓 ツネ嬢
 
【赤い髪の女ツネ嬢】(20)
 
 
 
【怖気る・オゾケル】
 
 
車の中。色濃く紫煙充満してた。
喉奥粘膜渇きキリ。今までにないイガラッポサで覆われていた。
 
粘膜のザラツキで、喉にナニか詰まってる感じがする。
外のド派手な喧嘩騒動ぉ眺めていても、ツキマトう喉を塞ぐ違和感。
 
刺ある塊感。
 
空咳してもツッカエがとれなかった。
堪らないほど息苦しかった。ソヤケド自分。また煙草を吸いたかった。
 
酒も飲みたかった。
強い酒で喉のツッカエ、直ぐにも洗い流したかった。
 
ハンドル抱くようにし、ダッシュボ-ドに置いてたモクのパッケとマッチ掴んだ。
手首のひと振りで突き出たフイルター摘まんでモクぉ抜き取った。
 
マッチ擦った。
小さな燐の炎が点る。
 
車内に漂う紫煙混じりの汚れた空気の渦。
薄明るく照らされると、灰色の靄がかかってるみたいだった。
ワイ。それぉ観れば尚更な煙たさで、眼に涙が滲んできた。
 
 
燃える燐の煙。鼻で吸い込んだ。
 
 
マッチ軸先の赤い燐球(リンダマ)。小さな花火みたいに燃焼し始める。
片手掌の中での、チッポケナ黄色ッポイ赤色(セキショク)輝きの花火。
 
リンダマの燃焼。寸な、ホンの僅かな時間やったけど
無性に゛眩しかったけど、ナンモカンモ忘れたくてタダ見つめていた。
 
 
ワイの息苦しさ紛れの喘ぐ息で炎が揺らがないよぉ、両手で覆った。
包む掌ウチ。其処だけが小さな輝く空間になってた。
 
息を殺した。例えようがない程。綺麗だった。
眩しかった。
 
 
細いマッチ軸ぉ焦がし燃焼する炎。掌ぉひらけば揺らぐ小さな炎。
輝き照らしで、靄汚れて漂う空気。薄影色にしてた。
 
燃えて上がる薄煙。細い筋で車の天井に向かってた。
息トメながら、揺らがずに登る煙の筋。
上目使いで追った。
 
 
軸を摘まむ指先近くまで炎が。
指の先に優しさな温もりが。
 
唇捲りあげ前歯に銜えたタバコ近づける。
微かに吐息をつき、一服した。
 
胸に煙を溜め、息を詰めてた苦しさで鼻腔で息をした。
硫黄臭ぅ混じった焦げ臭い煙吸いこんだ。
焦げた燐の匂い。凄い勢いで鼻粘膜と呼吸器官を奔った。
 
粘膜爛れ焼けしたようだった。
 
 
堪えていた咳が!
我慢しようとしたけど、辛抱堪らずに咳きこむ!
 
イガラッポイ喉を襲う、連続な空咳。
泪眼と洟水塗れなワイ。息が止まるかと。
 
悶える肺。酸素不足な苦しさで刺されたように傷む。
躯中が強烈な熱を帯びる。油な汗で皮膚が覆われる。
 
 
咳しもってドア窓ガラス。指一本分降ろした。
窓の隙間からパトの微かなサイレン音が聴こへた。
 
 
手の甲で洟と泪ぁ擦りながら外を見回す。
野次馬根性まるだしのヨッパライどもが大勢やった。
酒精で染められた赤ら顔し、喧嘩騒動を遠巻きに眺めてた。
 
舗道と車道に割れた硝子片が散らばってた。
ビルの電飾看板の輝き受け、綺麗な虹色で瞬き輝いてた。
車のボンネットの上でも硝子の粉。微塵輝きしてましたわ。
 
 
窓の隙間に鼻近づけ、外の冷たい空気吸ぉうとしたら。
ワイが今一番。出逢いたくないおヒトさんと眼が遭った。
 
 
両目眇めて覗くフロント硝子の向こう側。
喧嘩見物してる野次馬連中の隙間から覗けた。
舗道の向こうから、ユックリした足取りで遣ってくる。
 
 
トトマチ照らす電飾照明だけの薄暗い街中。
舗道置看板の眩(マバユ)い照明背にしてた。
 
人の黒い影形になって。コッチに向かって迫って来る。
 
 
遠目で視る小柄な小さな影姿でも。
今やったらキット。恐ろしいぃ眼ん球(メンタマ)くっ付いた。アノお面(ツラ)。
キット眼ン球。不気味に小さく輝いてる。ワイには見間違いようがなかった。
 
 
今のワイが置かれてる状況じゃぁ。
一番覗きたくもない眼ン球やった。
 
口にモッテいきかけた吸いかけの煙草。慌てゝ窓の隙間に押し込み捨てた。
 
 
自分此の時。物凄く背筋が凍りそぉやった。
 
逃げ出したかった! ナニモカモ放り出して。
 
 
ソヤケド。できんかった。
 
ワイ。蛇に睨まれた蛙やさかい。
 
 
狭いトトマチなんやからな。
 
何処にも逃げ場なんか在るもんか!
 
 
 
 
【赤い髪の女ツネ嬢】(20)
 
    

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【アヤフヤナ物事の進め方】

2011年06月23日 01時49分50秒 | 店の妓 ツネ嬢
  
   
 
 
 
【赤い髪の女ツネ嬢】(19)
 
 
【魚町通り・トトマチトォリ】
 
微睡むような暖かな日差の真ッ昼間。
歩く人影もなく、閑散とした飲み屋街。昨夜の賑やかしが嘘みたいだった。
時折。ヨッパライどもが飲み散らした酒瓶を回収する、酒屋の軽トラックが通るだけ。
 
 
自分。家族の仔をお供に、久しぶりに此の通りを散策した。
 
通りの眺めは、昔馴染んだ昭和の風景じゃぁなく、見知らぬテナントビルで埋め尽くされていた。
若いころに見知った店の看板は何処にも見当たらず、知らない飲み屋の看板しか。
 
漫ろ歩きに連れ添う家族の仔。金ハンが歩みを止め、振り返りながら後ろ脚をあげた。
舗道並木の根元に少々のオシッコを垂れ、甘えた声でクゥ~ンと鳴く。
 
 
「キン。ドナイしたんや?」 傍に近寄り頭を撫でながら訊く。
 
キン。オシッコをし終えると、はたしの手指を小さな舌でなめる。
 
「喉。渇くんかぁ?」 辺りを見回す。
 
 
夜働きしてた若いころ世話になった、某倶楽部の仕込みに行く途中。
眠気覚ましに珈琲飲みによく通った、古い茶店が在った街角辺りに自販機があった。
そこまで歩き、ペットボトルの水を手に入れた。
 
 
しゃがんで掌に水を注いで溜めようとすると、溜まる前からキンは舐めはじめる。
 
「そぉか喉渇いてたんか。オトン気づかんかったなぁ。ゴメンやで。」
 
注ぐ間もなくキンは飲む。焦ってペットボトルの口を直接舐める。
 
囁く声で 「キン。オトンな。ココらで夜勤めしてたんやで。」
 
 
キン。水ぉ小さな舌で舐めるんに、必死コイてた。
 
 
水を飲むキンの小さな舌は優しかった。掌をクスグルように舐めまわす。
自分。心が和みます。心が穏やかになります。
 
 
再び歩こうとすると、フト!頭の中に昔馴染んだ光景が蘇った。
明るい昼間なのに、夜の昔の世界が目の前に浮かんでた。
 
空耳なんかじゃぁない、お互いを牽制しあう罵声混じりの怒声。
確かな感じで蘇り、ワイの耳の底を埋めるように聴こへてきた。
 
突然。自分の心。刹那さで堪らない程、キリキリト締めつけられた。
穏やかだった胸の心拍は激しい動悸となり、老いの心が苦しさで啼き喚きそだった。
 
 
眼ノ前の幻視な光景の眩しさで俯く。
見上げるキンと眼があった。 
 
キン。立ち止ったワイを不思議そうに見上げてた。
 
 
 
【あの時 :虚勢の浮かべ方】 
 
太陽が眩しい、明るさな真昼の風景の中。薄汚れた路地裏眺めれば。
大勢のヨッパライで繁華だった夜の世界が、マヤカシ嘘ゴト幻みたいな残滓風景。
 
街に漂う匂い嗅げば一抹の、寂しげ腐臭な陰り記憶。
ナニか満たされ損なった物憂げ香りが辺りに充満しています。
 
 
だけど陽が落ち宵の口過ぎれば、再び大勢のヨッパライ達で賑わう魚町。
其の通りの両側。繁華な舗道沿いには、数知れぬ雑多な飲み屋が詰まった街。 
派手色外壁でケバくデザインされた貸店舗ビル。昼に眺めれば。ケッシテ綺麗でもなく。
築歴の古さ、ドギツイ電飾の瞬き輝きでマヤカシ化粧された、嘘ゴト華やかな夜の街。
 
ビル壁角に沿うように連なり吊るされ、派手に瞬き輝く電飾看板光の下。
狭い舗道上では、怒り任せの怒声張り上げ、必死覚悟で躯ハッテ争う男達。
 
互いの躯肉を手荒く叩き遭い、ブッツケ遭う肉弾戦。
自分、舗道の縁石に片輪乗り上げ、斜めに傾いたアメ車の運転席から眺めていた。
知らぬ男達が命懸けて怒突き遭うん、❍○さんから預かったモクぅ吹かしもって。
 
ワイには、滅多と拝めぬ光景やった。シゲシゲと感慨深く眺めていましたわ。
 
 
多勢な凶悪顔の地廻りドモぉ相手に、○○さんと若い衆が奮闘してる様。
ワイの眼ぇには、お見事っ! っとしか言いようがなかった。
 
罵声ガラみな怒声吐き飛ばす、極悪顔な此処らアタリをショバにしてる地廻りらと。
○○さんと若い衆の掛け合う声。静かな車の中の自分の耳にはマッタク聴こえなかった。
 
 
ワイ。二本目の煙草燻らせもって外の乱闘騒ぎ眺めながら想いましたわ。
コノ始末。ドナイな風に終わるんやろぉ? ッテ。 
 
 
○○さんと配下の若い衆が争っている地廻りども。
 
此処ら辺りを縄張にしてる某団体の連中やった。
連中が所属する某団体が仕切っている島ウチで。
団体がメンドウみてる店(クラブ・バー・キャバレー・スタンド・他モロモロ)の妓(ホステス)に。
他店への引き抜きか、身請け話な粉掛けクサル❍○さんと若い衆。
 
(タブン。ワイも人数に入ってる!ゼッタイ。)
 
 
何処ゾノ馬の骨(ワイら三人)。コイツラ、此処らアタリに二度と再び顔ぉ見せんよぉ。
脚腰マトモニ立たんよぉ!キッチリ〆たる!
肋骨の一本や二本。腕の両方グライぃわぁ。ポッキリ!ヤッタロカイ!ドアホッ!
人相ボコボコにメンダロカァ!面(ツラ)の型ぁキッチリ変えたるわい!ボケッが!
船場川にぃ、簀巻きで浮かべたろかぁ!クソダボぉ~!
ドナイモコナイも出来クサランよぉ、魂(タマ)しぃイテもぉて抜くぞ!コラ!
 
キット。コナイに想うてくさる!
 
 
ワイはタダぁ。サッキの薬(シャブ)中毒女に納得づくで
此の前の出来事を無かったコトにして欲しいだけやった。
 
その為にぃ、ワイ。
 
イロイロと、周りに迷惑承知で小細工してるだけやった。
ソナイな心算やった。
だからコナイナ大事(オオゴト)になんかぁは、したくなかったんや。
 
そやけどな。タダぁ、為るようにしか為らんわい!
 
 
 
けどなぁ 嘘ゴト隠しな物事ぅ。巧いコトいきまヘンがな。
 
大概。巧いコトぉいきまヘンもんやがな。
 
 
 
大概なぁ・・・・・ッチ!
 
 
 
【赤い髪の女ツネ嬢】(19)
 
   
 
  

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【ジマワリ:関わりたくない者】

2011年06月16日 15時33分03秒 | 店の妓 ツネ嬢
 
 
 
【狼藉】
 
 
薬(シャブ)中女と、宵の口から魚町中をグルグル周るドライブ。
 
其の最後の一周。後部座席の○○さんと女との会話。
自分の耳にはナニも聴こえてはこなかった。
恐ろしいほどの、息の詰まる静かさだった。
 
 
薬中女がアメ車で魚町ドライブする前に、若い衆と車に乗り込んだ場所。
コノ地域の飲み屋街で、一番繁華な通りの舗道まで戻ってきた。
 
 
夜の街。魚町通りは派手な色合いで瞬き輝く電飾看板(ネオン)で照らされていた。
妄想な一夜の出来事などをと、叶わぬ熱情を掻き立てる、赤や緑などの原色。
妖しげな艶めかしさの桃色な瞬き輝きは、舗道をウロツク男達に酒以外のナニかをと期待させる。
 
 
アメ車を運転する若い衆。
ユッタリとした穏やかな感じで車を舗道の縁石に乗り上げさせた。
車体が斜めに傾きながら停車した。
 
微かにモーター音唸り、運転席と助手席ドアの窓ガラス少し降りた。
自分。窓の隙間からの冷たい空気、入ってくるのが嬉しかった。
車内に渦巻き漂うモクの煙じゃぁない、新鮮な外気が吸いたかった。
 
静かに吸いこんだ空気、濁ったニコチン臭い厭な匂いがした。
鼻腔の粘膜が紫煙に燻られ続けたからだろぅ。
口の中と喉の奥。もぉぅ唾液も出ない程のイガラッポサ。
 
 
○○さん車から降りようとする女に 「ホナ。ここでえぇんやなぁ?」 
物言い、何時もの優しげな喋り方に戻っていた。
 
女が無言でドアを開けようとしたら若い衆、後ろを振り向きもせず
「頭(カシラ)ぁ。来よりますわ」
 
夕方。若い衆が薬中女を連れてきた町角から、極悪顔の男達数人。
肩を怒らせ急ぎ足で向かって来る。
 
ワイの耳の後ろ辺りで○○さんの チッ! 舌打ち音。
 
「ナンか訊かれてもなぁ、ナンも知らん言うときんかぁ」
○○さん。ドアを開け降りかける女の背に。
 
蒼白な面(ツラ)ぁし降りた女。ナニも言わずドアを叩きつけるように閉めた。
  
「出せやぁ」
○○さん。疲れた感じの呟きみたいな物言いぃやった。
 
 
喚きながら車に近づいた男達。キッツイ罵り言葉で吠えまくった。
発進しようとしたアメ車の前に、知らぬ若い男が立ち塞がった。
他の男らは慣れた感じで車道に降り車を取り囲んだ。
通りかかったタクシーのタイヤ、悲鳴みたいな急ブレーキ。
大声で怒鳴り吠える若いヤツ、車のボンネット叩きながら喚いてた。
 
「ナニぃホザいてるんや!糞ダボがぁ!轢き殺っそッ!」
若い衆。ハンドル掴んで口を歪めながらやった。
 
滑らかだったエンジン音。急高速回転な図太い咆哮になった。
ボンネット叩き続ける男の眼ん玉。眼孔から零れるかとな剥き具合。
自分、若い衆が踏むブレーキペダル、小刻みに緩む振動ケツで感じていた。
幾度もドアが蹴られ続け、窓ガラス叩き割られるかと。
 
陽が落ちた魚町通り。暫くはエンジンが咆哮する音と怒声が渦巻いていた。
 
 
「停(ト)めやぁ、チィフ持っててかぁ」
 
運転席と助手席の背もたれの間から、モクを指に挟んだ○○さんの手。
ワイ。モクを自分の指に挟んで預かりましたわ。
 
「チィフ、アンタ。外に出たらアカンでぇ。おい、ロック開けんかぁ」
 
ット言い終わらないうちにドアのロック解除音。○○さん肩で突くようにドア開けた。
輩どもの緊迫した怒声。車内に雪崩こんだ。
 
自分。預かったモクを一服し、ヤッパしぃ、タダでは済まんかぁ。やった。
 
車のドア。○○さんが中から勢いよく開けたら、ドア蹴った男の脚を押し返した。
後ろにヨロメキながら転がされた男の背、飲み屋店先の置き看板倒した。
寝転んだ男が起き上がろうとしたら○○さん。男の股間を潰す勢いで踏みつけた。
潰された男。悲鳴を上げる間もなく、白目剥いて舗道に後頭部打ち付けた。
 
「ニイサン!頼むわッ!」
ハンドル叩きながらドアを開ける若い衆、ワイに言う。
 
直ぐに自分。コンソール跨ぎ運転席に坐った。
助手席ドアが急に開き、別の男が鉤爪開きの手をワイに伸ばしてくる。
指に挟んでいた吸いかけの煙草を掌の中に押し付けた。
聴きたくもない悲鳴を上げながら、手が引かれた。
上半身をイッパイに伸ばし助手席ドア閉め、全てのドアをロックした。
 
若い衆が加わった車外の派手な喧嘩騒動ぉ。
滅多と拝めない揉め事モンやった。
 
 
ワイ。外の騒動を眺めながらやった。ツクヅクと想いましたでぇ。
自分の渡っていく世間がコレでまた、狭くなるなぁ。ット
 
 
ホンマニぃ。ツクヅクやった。
 
 
 
【赤い髪の女ツネ嬢】(18)
 
  

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【哀しみの女】

2011年04月05日 02時17分10秒 | 店の妓 ツネ嬢
 
【赤い髪の女ツネ嬢】(17)
 
 
 
【あの時】
 
女を連れ、若い衆が戻ってきた。
 
助手席で前屈みになってる躯を尚更低くさせ、後ろのドアが開くのをまった。
顎先が膝に着き、頭の毛がダッシュボードを擦る。
無理な姿勢は胸を圧迫し、息苦しかった。
  
後部ドアの窓ガラスが軽く叩かれ、ドアが開く音がした。
飲み屋街の夜が始まるときの、賑やかな喧騒音が聴こえた。
 
「頭ぁ、連れてきました」
若い衆、開けたドアの外から言う。
 
「○○さんぅ、ご用ぉってなんですかぁ?」
 
「ぁあ、忙しぃのに悪いなぁ」
「いぃえぇ。ウチぃ今からお客さんと同伴しますんよぉ」
「それやったら、早ぁに済むさかい乗って話しぃしよかぁ」
 
女が乗り込むのを感じたので自分。普通の姿勢に坐り直した。
タイヤが車道に落ちる振動を尻で感じ、エンジン音低く唸りだす。
 
「チョットな、一廻りドライブしよかぁ」
○○さん、あくまでも優しいぃ声音やった。
 
「アンタぁ、店ぇかわったんやなぁ」
「ハイぃ。昨日からですぅ」
 
車が静々と動き出し、最初の角を曲がり終えた時やった。 
 
「ナッ!ナニしますの!」 
 
自分。助手席ドアに右肩つけ、首を後ろに向けないようにしながら、背もたれ越しに覗いた。
 
○○さん、女の右手首掴んで持ち上げていた。
夜会服(ドレス)の肌が透けて見える右袖、無理ヤリ捲りあげようとする。
女が必死な顔し左手で抵抗するのを○○さん、軽くいなすように払い除けた。
女の腕を車の天井まで上げさせ、袖を肘の上まで捲りあげた。
 
女の耳元まで口を近づけ、恐いくらいの穏やか囁き声で。訊いた。
 
「なんやねん?」
車の中が凍りついた。
 
冷たさは、Ⅴ8エンジンの唸り音隠し、静かすぎるくらいになった。
オンナは○○さんから顔を背け、窓の黒色カーテン。眼を見開いたまま観ていた。
女の横顔の、顎の筋肉が強く固まり、下唇が前歯で噛まれていた。
 
 
自分此の時の女の横顔。今でも憶えています。
ナンかぁ、凄惨な程の艶のある綺麗さやなぁ!
 
ット。そないに想ったのを憶えています。
 
 
○○さん、伸びた肘の内側に唾を飛ばした。
大きな掌と唾で、塗られている肌色ファンデーションを擦り取る。  
 
「チィフ視てみぃ」
○○さん。女の細い腕をユックリト下ろしながらやった。
 
「ぁ!アンタ!」
 
ワイを見て驚いた女の顔。直ぐに堕ちるように歪んだ。
見開かれた上瞼。益々コレ以上ないほど引き攣ってきた。
 
無理にと夜会服の袖、捲りあげ隠れていたものが覗いていた。
肘の内側。柔らかそぅな白い皮膚肌の下。
視えるはずの青い血管、隠れるほど肌が青黒く染まってた。
 
 
「モクくれるかぁ」
○○さん。掴んでいた女の手首、放り出しながらやった。
 
ワイが自分の煙草を捜す間もなく、運転席の若い衆が後ろに腕を伸ばした。
自分、此の時。車がいつ停車したのか気づきもしなかった。
 
「ワイちゃうがな」
女の方に顎を振った。
 
若い衆、直ぐに運転席の上で後ろ向きになるように両膝立ちし、座席の背もたれから身を乗り出した。
 
「姐さん。どぉぞ」
ナニも感情のこもらない喋り方やった。
 
若い衆が差し出すパッケの縁から突き出たモクのフイルター。
綺麗なエナメル塗った細い指先が摘まむとき。可哀そうなくらい細かく震えてた。
 
女が引き抜くと○○さん。若い衆の手からパッケ、取り上げた。
手首の一振りでフイルター浮かせながら口元へ。前歯で銜えた。
 
若い衆。手品師みたいに箱燐寸で小さな炎を点けた。
点した軸を両掌で囲うようにし、赤い紅色の唇が銜えたタバコに火を点けてやった。
 
オンナが大きく吸い込んだ。煙を吐き出す前に唇の端の小さな絆創膏を触った。
触てるその時。女の目線がワイの顔を掠め過ぎた。
 
 
ワイ。それがドナイしたんやボケ!アン時アンタを助けたん。
ワイなんとチャウんか。クソダボがぁ!小便垂れの糞アマぁ!
 
自分。心がオンナにたいしての憤りでイッパイでしたわ。
 
 
若い衆。直ぐにまた、手品師みたいな手つきで火をつけ直した。
腕を○○さんに向けかけたら、○○さん掌広げ断った。
燃える燐寸の軸。鮮やかなほどの一瞬な感じで、眼の前から消え去った。
 
○○さんがパッケ、ワイに差し出した。パッケごと頂いた。
○○さん、デュポン(ライター)で自分のモクに火を点けると、ワイの煙草にも火を回し点けてくれた。
 
車ん中。煙たいとかやなく火事場やった。
 
車が動き出した。コナイに煙が充満してるのに、よぉぅ!運転できるんやなぁ。
ット。自分。若い衆にホトホト感心しましたわ。
 
 
「アンタに話しあるん。コイツなんや」
ワイに顎をしゃくりながらやった。
 
「おとなしゅぅなアンタ。、チィフのゆうコト訊かんかったらなぁ・・・・」
それまで優しかった物言いの○○さん。ワザト言い淀んで見せた。
 
「ナニがですか?」
喋るとき、口から煙が流れ出ていた。
 
「アンタとチィフらの此の前のコトやからな、アンタが判断しぃや」
 
女。煙草を銜えようとしたけど、動きが止まった。
 
「ナンもアンタが憎いわけやないんや。頼んでるんやで」
「ナニぉです!」
 
 
アメ車のドライブ。一廻りどころか魚町を、何周したか解らんようになっていた。
フロント硝子越しに覗く、建ち並ぶ店舗ビルの電飾看板(ネオン)。煌びやかに瞬いてた。
 
 
自分。心が萎えそうやった。
 
後ろから聴こえてくる、○○さんが喋る一方通行の言葉。
それを無言で訊き齧り、ナンとか租借しようとする薬(シャブ)中女。
 
 
縄澤が憎かった。ドグサレ(腐れ)がぁ!やった。
 
それ以上にぃ。深くと自分の心が情けなかった。
 
 
 
酒が無性にぃ呑みたかった。
 
気が狂うほど呑みたかった。 
 
 
 
【赤い髪の女ツネ嬢】(17)
   

【嫌われ者】

2011年03月11日 01時33分22秒 | 店の妓 ツネ嬢
  
【赤い髪の女ツネ嬢】(16)
 
 
【突き詰める】
 
 
真冬の沈みかける太陽。寒さがで暗い赤色(セキショク)輝きしてた。
 
繁華な町中を東西に走る魚町(トトマチ)通り。
道の両脇には狭い石畳の舗道。
通りを挟んで沿い並んだ、古い建築の貸店舗ビル群。
 
沈みかける暗い夕陽、真横から影で建物を照らしてた。
 
 
大型アメ車の左タイヤ、舗道の縁石に乗り上げていた。
デッカイ排気量の米国車特有の野太いエンジン音。
後部座席両窓と後ろ窓には、黒色フレアー無しカーテン。
 
今みたいに窓に貼る、着色フイルムなんか無かった時代。
 
 
 
黄昏時の夕陽を後ろから浴び、薄暗い車内には紫煙が充満してた。
 
自分。傾いた助手席に坐り、前屈みでドアに凭れないようにし
ズボンのポケットの中で、右拳を握りしめ、フロント硝子視詰めていた。 
躯を前屈みにし、ダッシュボードに左手添えたままだったので
其の無理な態勢で左肩と腰、重い鈍さな痛みが。
 
握り締めた右拳緩め、懐を弄っていたら後ろから肩を叩かれた。
洋モク煙草のパッケ掴んだ、○○さんの手が伸びてきた。
 
「ぁ!ぉおきにですわぁ」
礼を小声で呟き、パッケから浮いてる茶色のフイルター摘まんだ。
 
ダッシュボォドのライター押し込み、暫く待って小さな赤い渦巻でモクに火を点けた。
根元まで、幾本と連続するモクの吸い過ぎは、舌の先痺れさせ喉元辺りを苦く焼く。
吐く紫煙は車内を満たし、煙たさがで眼が渋くなる。
 
アイドリングの微振動、小刻みな震えが尚更と腰に堪える。
坐り屈みが辛くなりかけていた。
 
 
○○さんと三時頃に喫茶店で落ち合い、遅い昼飯喰いながら打ち合わせをした。
茶店出て、○○さん所属団体の車で、街中ユルユル流しながら捜し者していた。
 
「ニイさん、ウロウロしたかて、しょぉうもないんとちがいますんか?」
事務所でワイの髪を鷲掴みにした若い衆、ハンドル回しながら訊いてきた。
 
ワイが応える前に後部座席の○○さんが喋った。
「ゴチャゴチャぬかさんと回さんかいっ(ハンドル)」
 
「スンマセン」
 
其れから暫くして○○さんの 「舗道に乗り上げろ」 との指示まで
低く唸るエンジンの音しか聴こえなかった。
 
○○さん。物言いは荒っぽいけど、ケッシデな物言いには聴こえなかった。
素人さんや、自分みたいな夜働きの者にも、偉そうな口ぃ利かんかった。
 
「視て来いや」
「ハイ」
 
若い衆、ドア開けかけたら○○さんに止められた。
 
「チィフ、ナンぞ飲むかぁ?」
「サッキ喰ったさかい、もぉぅえぇですわぁ」
 
若い衆、車から降りると駆け足だった。
 
「チィフ。アイツ、アンタのコト訊いてきたで」 
「ナニぉです?」
 
「玄人ちゃうんかぁ、やて」
「ワイ、夜働きやけど、自分はクロやない思いますねん」
 
「極道キライやもんなぁアンタ」
 
自分。応えようがなかった。
 
「なったらアカンで」
「なりまへんがな。昔ぃ○○さんと約束しましたやんか」
 
「そぉかぁ、そんなんしたんかぁ?」
「しましたがな。なったらワイが〆たる。言われましたがな」
 
○○さん。後部座席の背もたれに頭を預け、腕組んでました。
 
「アイツな、チィフがクロやんならな、お付き合いしたいらしいで」
「オッおつきあいッテ!ワッ、ワイそないな趣味ぃないですわ!カンニンしてくださいなぁ!」
 
「ナニ虚(ウロ)てるんや。抱けぇゆぅとるんやないで」
「ホナなんですねん?」
「まぁえぇがな。ナンかあったらアイツにゆうたらえぇで」
 
「ナンかぁって?」
「ナンかや。イロイロな」
 
後ろ向きに伸ばしてた首ぃ、フロント硝子に向けた。
魚町通りに並ぶ電飾看板に灯が点りはじめる中。
若い衆が戻って来るのが視えた。
 
後ろに夜会服(ドレス)姿の女が着いてきてた。
 
「ヤット見つけたなぁ」
「スンマセン」
「アンタがナンで謝らなアカンねん」
 
「そやけどぉ・・・」
ホンマは違います。唯ぁワイ嘘ぉ ット心で想っていたら。
 
 
「縄澤やろ。チャウんか?」
 
 
自分。ツクヅクやった。
ケド。嘘がバレタと想った瞬間。
 
心から安堵したんを今でも覚えています。
 
 
  
【赤い髪の女ツネ嬢】(16)

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【ケジメノツケカタ】

2011年03月06日 00時02分23秒 | 店の妓 ツネ嬢
 
 
 
【○○さん】2
 
「チィフ、アンタがこさえたモンやないやろ?」
(お前が計画したモノじゃないだろう?)
 
俯き加減で珈琲カップの淵から、ワイぉ見つめながらやった。
訊かれた時自分。正直に応えるしかなかった。
○○さん。事務所で社長に話してる途中で気づいてました。
コノひと、伊達に事務所で、輩な部下を統率してるんやなかった。
 
 
○○さん。以前所属してた団体を抜けたいので、団体と交わした杯を返したいと。
理由(ワケ)はない。在るとしたら団体の生き方が自分とは違ってるさかいです。
今までお世話になってきたのに、不義理なん。よぉ承知してます。
女ができたさかい堅気になるとかやない。
だたコノまま世話になってますと、この先キット迷惑を掛けると想う。
 
そやから自分をフクロ(袋・ボッコボコにドツク・簀巻きで川に・細かく切り刻む)
にするなりなんなりと、気の済むまでしてほしい。お願いしますんや。
 
雪の降る寒い時期に素っ裸で、火の気のない団体事務所の床に。
額を打ち付けるようにして、頼んだそうやねんなぁ。
 
まぁ、コノひとの性格やったら、一度言いだしたからには。
其れ相当の覚悟をしてるん、周りのお方さんらお判りしてたんやろぉ。
 
ッデ其の時も、団体の偉いさんにぃ問われました。
 
判った。そんならお前の覚悟ぉ視せいや。
儂(ワシ)らのケジメの着け方、お前も知っとろぉもん。
 
指ぃ詰めるんか。腹ぁ切るんか、どっちなんや?
 
 
昔の洋式剃刀(カミソリ)。二つ折りになってます。
古い時代の散髪屋さんが客の髭を剃る前に。
肌に剃刀をあてる前にぃ、厚い革の研皮で剃刀の刃を立ててました。
其の剃刀で○○さん。腹ぁ臍の下辺りをです。
左脇腹から右脇腹まで一文字に切りはった。
 
黙って息ぉ呑んで、○○さんを囲むようにしながら観てた周りの方々。
事務所の床に敷かれた一枚の真新しいぃ畳が血で染められた。
 
剃刀が臍の下辺りまで進んだ時。
 
「ワッ判った。もぉぅえぇ!」 団体社長が仰ったそうです。
 
「ワイの気が済まんさかい終われんっ!」
我慢で噛んでた下唇から血ぃ滴らせながら○○さんが。
 
剃刀が左脇腹まで進んだら頼んだそぅです。
「針と糸ぉ・・・」
 
社長。直ぐに察しました。
「糸は絹糸やッ!はよぉ持ってこんかいッ!」
 
若い衆が頼まれモンを都合してくる間。社長が畳に坐ってる○○さんの後ろで。
背中を抱くようにしてましたんや。
 
事務所内。コレ以上ない大騒動。
救急車呼ばんかいっ!ボケッ!そないナン呼んでドナイするねんダボがッ!
 
「喧しぃ(ヤカマシイ)!○○ん顔。立てたらんかっ!」
其の社長の一喝で、事務所内静まりかえりました。
 
○○さん、血の気のない蒼白な面(ツラ)で。
「スンマヘン。ワイの我儘で迷惑ぉ」
 
「もぉぅえっ!黙っとれ!」
 
「チョット横にするさかいにな」
社長。○○さんぉ静かにユックリト横たえます。
 
「ワイが縫うたるさかいにな」
「悪いわ!ワイがやりますんで」
 
「ドアホッ!餞別やないか。コン位させんかい!」
社長。若い衆が捧げ持つジッポの熱で赤くなった針を、前歯で曲げながらやった。
 
傷の消毒にはアルコール。じゃぁっと持ってきた日本酒の瓶を観て怒鳴る。
 
「ドアホッ!ナポレオンや!」
判らんのかッ!○○の門出やろも安酒なんか要らん。
サラヤ、ゲンの悪いコトさらすなっ!
 
差し出された瓶を掴もうとして怒鳴った!
「サッサト栓ぉ開けんか!ボケが殺すぞ!」
 
腹の刃傷を洗い流す勢いで撒くようにしながらでした。
「お前な、ゆうてもアカンやろけどな。居らんか?」
 
社長。泣きもってやったそぉです。
 
「スンマヘン。無理ですわ」
 
 
腹の傷ぉ縫い終わるまで、コトの最初からです。
○○さん。ナンの呻きもしませんでした。
 
 
そんな○○さんには自分。嘘ぉ吐けませんがな。
 
 
 
【紅い髪の女ツネ嬢】(15)

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【優しい強面】

2011年02月09日 16時44分32秒 | 店の妓 ツネ嬢
    
【紅い髪の女ツネ嬢】(14)
 
 【○○さん】
 
何処かの金融屋(マチキン)の奥の院で胡坐をかき居座ってる。
デッカイ古金庫のヤツみたいな、部厚く重たい某事務所の扉。
其の扉をナンとか肩で押し閉め終わった時。
 
もぉぅ!ツクヅクやった。
 
此処には今回みたいな用件では、絶対二度と着たくないなぁ。
っと心底やった。
 
二階事務所から下まで降りる急傾斜な階段。
ひとサンが、ヤット通れるか如何かの狭い造りで、二階の狭い踊り場には
クソ重たい扉の上に黒色の傘を被った、薄暗い裸電球が吊るされているだけ。
他には明りとりの小窓もないから、暗い電燈を背に階段を下りる時。
背中で灯りを遮るので、ホンマニぃ足元が覗き難い暗さやった。
 
一階の道路に面したビル出入り口扉は、コノゴロ流行りのマンション風な白塗りの鉄扉。
扉の表と裏側の壁上には、今じゃぁ考えられない様なデッカイ監視カメラ。
 
何処かの団体と厄介な揉め事ナンカの時。
相手からカチコミ掛けられたトキ、簡単には登り難いよぉな急な造りの階段。
ナニかと騒動の絶えない、此処の事情がそないな造りをさせたんやろなぁ。
 
 
 
「ナン杯や?」
 
○○さん。注文してた珈琲をウエイトレスのネエチャンが
お淑やかな仕草でテーブルに置く前から、砂糖ポットの蓋ぁ開けていた。
 
「ぁ、イヤ、自分で容れますよってぇ」
「ぇえがな。ナン杯や」
 
「ホナ、二杯ですわぁ」
 
ホンマは自分。無糖派やったけど断れなかった。
 
「ワイ武闘派やさかいな、エネルギーを充填せなアカンさかいギョウサンや」
○○さん自分のカップにはナン杯も小匙、傾けていた。
 
嬉しそぉな面(ツラ)ぁしながら、茶色の珈琲専用砂糖。
此処の喫茶店に預けてる自分専用の、チョット大きめの珈琲カップに容れていた。
肉の厚い指先で摘まんだ小さな小匙、玩具みたいやった。
 
以前。他所で聴いた話では、若いコロの○○さん。今とは別な団体に所属してました。
其の当時。○○さん。ナニか不始末を遣らかし、団体事務所の方々に迫られたそぉです。
 
指ぃ詰めるんか、墨ぃ入れるかドッチやねん! 
ット。迫られたんやそぉです。
 
ッデ○○さんが選んだのは、刺青ぉ掘る方。
 
左人差し指の爪元から肘までの刺青。
小さな梵字の崩し文字で、ワイにはマッタク意味の判らないコトが
青黒い紺色に近い墨で指先から手首までは一行で掘られ、文字は手首を一周してた。
其処から肘までは服の袖に隠れていたので、観れなかった。
 
「ドナイしたんや、冷めるで。飲まんかいな」
「サッキはスンマヘン。おぉきにですわぁ」
「ナンや。もぉぅえぇがな。サッサト飲まんか」
 
 
○○さん。某団体系に所属してるけども、面構えはケッコウ穏やかでした。
背丈は普通だけど躯全体を、強い筋肉がコレでもか!っと包んでいた。
 
チョット観ぃは、普通の勤め人さんらと同じ雰囲気。
話し方、他の某団体系のような強面な悪ぶるコトもなかった。
普段から、ケッシテ偉そうにはしなかった。
  
「シンジ務所でお勤めして居らんさかい、お前に頼むしかないんや」
っと、この前、縄澤に頼み事言われた。先ず頭に浮かんだのが○○さんやった。
 
○○さんやったら、腹割って話したら判ってもらえる。想ぉた。
 
自分。夜の世界で長いコト生きてきたけど、極道だけは好かんかった。
大っ嫌い!っで、嫌いでキライデ仕方がなかった。
だけども、コノ○○さんは違いました。理由(ワケ)はイロイロありますんやけど。
 
話せば、自分が夜勤めの駆け出しの頃まで遡りますさかいな。
止めときます。
 
自分、あの当時の此の時。
今ぁ白状しますんやけどホンマは最初から、○○さんと話がしたかった。
だけど一応。先に社長に話を通しとかんと、後で○○さんの顔が立たないだろうと。
若しかして勝手に巧くいくと想い描いてる心算の、コレから先の計画。
其れがヤヤッコシぃなったり、イラン方向に進んだ時ぃの布石です。
 
 
まぁ、タブンどころか結局は、極めつけのドツボに陥ったり、嵌ったりするんやろぉけどなぁ。
 
 
 
【紅い髪の女ツネ嬢】(14)
   
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嘘の始まり

2011年02月03日 20時35分02秒 | 店の妓 ツネ嬢
 
  
【戯言語り】 
    
眼の前のテーブル越しに坐る、某事務所の社長さん。
物憂いような調子で喋ってきた。
 
 
「儂にぃ、ナニせぇゆうとるんやぁ?」
「そやからサッキ言いましたんや。頼みますさかい怒らんといて下さいぃ・・・・・」
 
ット言い終わらない内に、虚勢を張ってる自分の背後にヒトが迫るのを感じた。
 
瞬間的に身が竦む想いがし、後ろを振り返りそぅになった。
無理にと堪えタブン、ナニが起こるかと判っていたので、備えた。
 
座ってるソファの、独り椅子の背が大きな音発て、蹴られた。
椅子ごと眼前のテーブルに倒れそうになった。
咄嗟な感じでテーブルの硝子天板に両の手を突き、堪えた。
 
「止めとけやぁ」
社長の口調、呟くよぉな静かな物言いやった。
 
椅子は元に戻ったけど、前屈みの態勢で髪の毛を掴まれた。
両腕以外の身体から力を抜いてたので、簡単に上向かせられた。
 
「そやけど社長、糞みたいなんゆぅてますんやでッ!コンボケっがぁ!」
ワイの顔に、痰モドキの唾吐きもって喚いた。
 
部屋の真ん中を仕切ってる衝立の向こう側で
幾つもの椅子が駆られる音と、人が立ち上がる音がした。
 
髪を掴んだ手に尚更力が加わり、顔面を硝子の天板に向かって突っ込まれた。
支えていた腕の力が抜けた。硝子の天板に載った大きなクリスタル灰皿が迫った。
 
「すなや(ヤメロ)!」
 
瞑っていた瞼を開けると、知らずに無理にと顔を背けていたので、左眼ギリギリで止まっていた。
コナイナ近くで物を観るのはぁ、久々やなぁ。ット。
 
掴まれた髪の毛が一度揺すられて放された。
ユックリト、テーブルに突いてた腕を戻し、椅子に坐り直した。
首を横向け、神棚が祭られている事務所の、壁際のパイプ椅子に坐ってるヒトに言いました。
 
「○○さん、ぉおきにですわぁ!」
 
「えぇがなチィフ」
靴先に鉄板が仕込まれた安全靴に、古い歯ブラシで靴墨を擦りつけながらやった。 
 
 
「ホレ、頼んだで」
 
髪を掴んでいた若い衆に安全靴をつきだした。
若い衆、押し頂くような仕草で受け取った。 
 
「社長ぉ、ワイが後は訊いたったら宜しいぃやろか」
「ソナイせぇや、○○チャンのゆぅこと、よぉぅ訊いたるんやで」
 
「判りました、ソナイします」
軽く頷きもってやった。
 
「チィフ、来いや」
出入り口の部厚い扉に向かう背中や肩。堅そうな筋肉太りしてた。
 
「社長さん、今日は要らんコトゆうてもぉて、済みませんでした。堪忍してくださいッ!」
自分、膝の皿にぃ、額がクッツクほどのお辞儀をしました。
 
重たい扉を開けるとき。もぉぅ!優しすぎる位の声が背中で聴こえました。
 
「何時でも遊びにぃ来ぃやぁ」
 
 
倶楽部の飲み代。附けの集金以外じゃぁ、着たくもない場所やった。
 
あの時ぃ、部屋を仕切ってる大きな衝立の向こうと
隣の部屋じゃぁ、イッタイ何人が待機してたんやろぉ。 
 
 
二階からの階段降りる時、心で一段ゴトに、毒吐きモッテ踏みましたわ。
 
縄澤の糞ダボがぁ~ッ!
 
ッテ、イッパイぃ!
 
 
 
【紅い髪の女ツネ嬢】(13)
 

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【紅い髪の女】

2011年01月22日 19時16分56秒 | 店の妓 ツネ嬢
  
【紅い髪の女ツネ嬢】(12)
 
 
 
駅前で 縄澤に掴まった。
 
「縄澤ハン 戻ってきてたんですかぁ」
 
掴まれた右腕を振りほどきながらやった。
だけど、キッチリ掴まれた腕は、放してはくれなかった。
服の袖下の肉、指が喰い込んで痛さで呻いていた。
 
久しぶりに近くで視る薄黒い縄澤の顔、少し細くなっていた。
ヤツレた感じはしなかったけど、喋るときの口元に微かな小皺が窺えた。
 
「ナンや久しぶりの挨拶がそれかいなチィフ?」
「別にぃ、ナンも思わんと(言葉が)やさかいですわぁ」
 
夕方の駅前ゆぅたら、ヒトがギョウサン歩いてる。
そやけど、そのヒトさんら、上手にワイらを避けてお通りしてた。
 
キット、危なさそうなんが二人、往来の真中で突っ立ってるさかい
関わり合いになるんが厭なんやろ。
 
「何時帰ってきましたん」
「ナンでお前に言わなアカンねん?」
「言うてくれはたら、歓迎会でもしますのにぃ」
 
ボケっが腕、突き放すようにして放した。
ワイ痛みなんかマッタク感じてないふりし、脇腹にくっつけた。
 
「おまえな ぇえ加減にせんかったら承知せぇへんでッ!ボケッ!」
「ナッなんがやねんツ!」
 
「ナンがやねんぅ?」
 
っと 唇を動かさないで呟くように喋り、辺りを睥睨する様に見回した。
ワイの眼(マナコ)の底を覗くようにしながら、官支給の黒色コートの懐に手を入れる。
 
自分マサカぁ、賑やかな此処で、腹立ち紛れで遣られるんかぁ ット
 
ハイライトのパッケを取り出した。手首のヒト振りで、煙草を浮かせ前歯で銜えた。
 
「ホレ、吸えや」
 
言い方が命令口調だったので、断ったら為にならんなと感じ。
右手はサッキ掴まれていたので痺れていたから、黄色いフイルターを左指で摘まんだ。
詰めていた息が、漏れそうに為るのを堪えながらやった。
 
縄澤。箱燐寸で火を点けてくれた。
見せつけるようにしていた箱のラベル、見たくもない店のラベルやった。
 
自分 チッ!っと心で舌打ちした。
 
煙草の味ホンマニぃ不味かった。
だけど詰めた息を煙と一緒に吐き出すのには都合がよかった。
 
 
自分もハイライトは吸っていた。
煙になるんなら、銘柄はなんでもよかった。
 
 
 
「縄澤ハン、ツネさん検察送りになってるってホンマでっか?」
「それがどないしたゆぅんや?」
「都合が悪いんとチャイますの?」 
 
「コラっ! 舐めとんかワレッッ!」
「ナンも舐めてなんかぁ・・・・(クソガァ!)」
 
「前のときもアンサンぅ・・・」
自分この時、一発くらい殴られた方がえぇかな、思うてた。
 
縄澤、肩を広げるようにしながら、大きく煙草ぉ吸いこんだ。
薄く開いた唇と、鼻腔から煙を吹きながら訊いてきた。
 
「ナンが言いたいんや?」
縄澤の指に挟んだ煙草の先の燃え滓、下向きになって今にも落ちそうやった。 
 
「お前ら、ドナイしょうもない輩やな」
「真面目にいきてますがな、ワイら」
「・・・・・ソヤナ、お前らの世界やったらな」
 
「精一杯足掻くんがワイらの生き方やゆぅん、お判りでっしゃろ?」
 
縄澤、煙草のフイルターギリギリまで吸いこむと、歩道に投げ捨てよった。
 
コラコラ官がそないコトしてもな、えぇんかいッ!糞ダボがぁ!
ッテ 心でワイ、散々喚いてましたで。
 
「茶ぁシバクン、付き合えや」
「ワイらと茶ぁやってもえぇんですんか?」
「ゴチャゴチャさらすな」
 
縄澤、勝手にワイに背を向け歩きだしたので、仕方なくついていった。
縄澤が右腕をあげ、掌でナニかの合図をした。
あげた腕の方角を視ると、見覚えのある刑事が人混みの中にいた。
だけど、直ぐにその姿は消えてしまった。
 
ヤッパシなぁ、隠れ静か手配されてたんや。
 
 
実は、駅前で縄澤に偶然出来わした分けやない。
自分、檻から戻ってきても、世話になっている店(倶楽部)に行く気もしなかった。
店にぃ行けばママぁに、ナニされるかと考えるとぉ、っと心が滅入っていたから。
 
今日は朝から警察署の前で、縄澤が出てくるのを待っていた。
警察署の中に入り、受付で縄澤を尋ねようとは、マッタク想いもしなかった。
 
縄澤、署から出てくると、若い刑事が運転する覆面パトに乗りこんだ。
自分、隠れていた自動販売機の脇から姿を晒し、わざと交差点に出た。
 
横断歩道で信号待ちするワイの目の前を、パトに乗った縄澤が通り過ぎた。
 
信号が変わったので、横断歩道を歩きはじめた。
前を向いて歩きながら眼の隅で、パトのブレーキランプが点るのが視えた。
 
それから、プラプラと駅前まで何気に歩き続けた。
背中で、後ろを感じながらやった。
 
 
 
出された珈琲にふたりとも手をつけなかった。
互いにぃ、横向き合って煙をコレでもかと噴きだしあっていた。
 
「あの男な、ナンも言わんわ」
縄澤、眼を細め唇ぉ動かしもしないで喋りだした。
 
「男ぉって、何方サンやろ?」
「お前らが〆た奴やがな」
 
「ワイ、ナンもしてませんがな」
「調書上じゃぁな。お前ナンも歌ぉてないな」
 
暫くはふたりとも、キッチリ黙り込んでいました。
 
「ツネさんが独り被りしてますんか?」
「ボケッがな、被るみたいやで」
「ボン、ァッ!イヤ○○クンはどないですねん?」
 
「アレはしょうもないコト喋ってるわ」
「どないにぃ?」
「嘘丸出しもエェ加減にせんとアカンことバッカシや」
 
「ホンナラどないなりますんや?」
 
「前にお前らのお陰で、儂ぃ飛ばされたん知っとろぉもん」 
 
自分この時ぃ、ナンの返事も出来んかった。
コッチは迷惑掛けてない想うてても、ワイらのヤヤッコシイ出来事にぃやで。
仕事上で付き合わされた者だけが、立ち位置が違うだけでぇ、やろも。ッテ
自分、腹ん中で毒づいていました。
 
「未だシンジは当分帰ってこれんさかいにぃな」
「何時までやったかなぁ?」
「当分や、戻れんやろも」
 
「アイツは自分でこけて、自分で怪我したゆうてる」
「○○さんがでっか?」
「そぉやがな、糞みたいな奴やで、ホンマニぃ」
 
「ツネさんに未だ惚れてますんやろ」
「チャウがな、街に戻りたいだけやがな」
「アナイナ目ぇに遭ってもですんか?」
 
「トト町(魚町)しか生きるトコないんやろ、ダボがぁ!」
「そぉなん、戻って来んでもえぇのになぁ」
「お前らの遣ったコトがドナイナ意味かぁ、よぉやっと気づいたんやろな」
 
「ドナイって?」
「お前らみたいな輩にぃな、逆ろうてたらトト町にぃ棲めんゆぅこっちゃ」
 
「チョット聴いてほしいんやけどな」
「ナンぉですんか?」
「シンジが居ったら頼むんやけどな、居らんさかいにぃな」
 
「マネージャー戻るまで待ってたらぁ・・・」 ット言いかけたら。
テーブル、縄澤の大きな掌で音高く叩かれた。
 
茶店内のざわめき、突然静まりましたわ。
直ぐに知り合いの店の者が近寄ってきてたのを、目配せで止めさせた。
 
 
其れからの話ぃ、ワイ、死ぬまで持って逝きますんや。
縄澤。コイツぅ嫌いです。ケドな、縄澤にぃ貸しができるとか。
官の弱みぃ握れるとかの話ぃやないねんな。
 
自分ら、普通のお人サンから見たらな、いい加減な半端者かもしれんけど。
縄澤ゆぅ男が、人に頼み事なんですさかいにな。
自分、キッチリ役割ごとぉ果たすつもりですんや。
 
 
其の話の途中からぁ、ツネが羨ましぃなりましたんやで、ワイ。
 
心でなぁ、アノ盆暗ぁドナイにい、してもたろぉ想いまし。
 
 
 
紅い髪の女 (12)   

心がぁトロトロ・・・・にぃ。

2009年02月03日 01時50分51秒 | 店の妓 ツネ嬢
(画像はイメージ 無関係)




【悔やむ心懐かしむ心】



牢屋に戻される途中、薄暗い廊下の向こうからやってくるツネとスレちがった。

自分と同じように腰縄を打たれ、手錠姿だった。
ツネの後ろには、留置所看守が従う様についてきていた。
前には若い刑事が露払いのように歩いてた。

ぅん? ォッ! ツネやないか。 お伴が二人もクッツイテるんかぁ。
エライ大事にされてからに、大モン(大物)扱いやでぇ・・・・ッタクゥ。

自分、ツクヅク感心しながら心で呟いた。
ッで、官ふたりに挟まれ、あないに大事にされたんじゃぁ歩き難かろうに。
気の毒やなぁ。ット。


ツネ。ワイに気づくと、暗い中庭に面した窓に、背けるように顔を向けた。
自分、ツネの化粧落とした顔なんか視たくもなかったので、反対側の壁をみた。
互いに気づかぬフリをし、其のまま通り過ぎたらいぃと想っていたら、後ろからワイの肩越しにクソダボが訊いた。


「どぉした?」

「検察送りですわ 」


他の刑事の顔なんか視たくもなかった。
声には聴き覚えがある気がしたけど、官に知り合いなんか居なかった。
ボロいリノリウム床の疵を数えながら無視を決め込んだ。


「こないな夜中にかいな 」

「ナンや急ぎらしいです 」

「ソッカ、可愛がりたいんやな、何処にでもマニアは居るさかになぁ 」


ツネを舐め回すように観ながらの喋りだろう、声に人の卑猥な厭らしさが滲んでた。
ツネを盗み見た。窓から視線を放さないツネの形の良い細い首筋、即っ真っ赤に染まった。
自分、ツネが廊下の角から現れた時から、ツネの項垂れた姿なんか観たくもないと。
だから今の落ち込んだツネを揶揄し、小馬鹿にする者に憎しみが。
今の状況じゃぁ自分には如何にもできんけど、胸の底で悔しさと怒りが同時に。

ワイ、刑事二人がコナイナ所で立ち話せんでもえぇやろ。クソが!
苛立ち抑え、廊下の窓から視える外の暗い景色を観る振りをしてたら、
後ろに倒れそうになるかと思うほど、腰縄を引っ張られた。

「ぉい!コイツぉ檻に戻しといてくれ、餌はやらんでえぇさかいにな 」 クソダボがっ! 

ツネの後ろの刑務官に命じるモノの言いかた、ホンマニ偉そうで大柄なものだった。
ボケっ!ワイ、動物チャうぞっ! ッで、想わず舌打ちした。

ケツを思いっきり蹴り上げられた。肛門に刺すような痛みが奔り、キツク萎んだ。
身悶えしながら身を折り、大きく口を開け、喉の奥にナンとか空気を送り込むのが精一杯だった。
激痛と悔しさで涙が。ホンマニ如何にもならず、我慢できなかった。


「縄沢さん、戻ってきますよ 」 っと耳元で囁かれた。

コナイナ時に、知らない刑事から声を掛けられるとは想ってもいなかった。驚いた。
痛みを堪え、下から掬いあげるように見上げた。
知らぬ官だとばかり想っていたが、以前、世話を掛けた○○署の刑事だった。


「自分ですか?」

「他に誰が居りますか 」


刑事が首を左右にふり、廊下を眺めたので釣られて自分も視た。


「ナンや、お前ら知り合いかいな 」

「はぁ、少し 」

「ほぉか。 ホナ、このドアホ頼んだで 」


薄暗い廊下に三人が佇み、ワイは寝転んでボケの後姿を見送った。
自分、角の向こう側にボケの姿が隠れると、下から囁いた。


「ぁん人、ドッカおかしいんとチャイますの?」

「ドッカって?」


ワイの足首を指差し、刑務官に目で合図しながらだった。
足枷が外された。脚は自由になったけど、痔の痛みで動かすこともできない。


「ドッドタマですがな 」

「タブン、あんたよかは廻りますやろなぁ 」

「ワイよか、えぇってか?」

「タブン 」

「ワイ、弱いモン苛めはせぇへんけどな 」

「そぉですか?」

「スマンケド、痔ぃ切れたみたいやねん 」

「ぇ!・・・・・・コナイナ晩い時間やから、治療は無理です 」


「痛ぉて歩けんわ 」


「他の者ぉ呼んできましょうか?」

「暫く此処で痛みが引くのを待ち、自分が房に連れていきますから、先に行っといてくれますか 」


ツネと看守が立ち去りかけると、訊いてきた。


「ナニか言っとく事、ありますか?」

「誰に?」

「此の○○○○にです 」 


ツネの本当の姓名だった。ツネが此方に振り向いた。
ワイ、顔を伏せた。ツネの顔を観たくもなかったから。
洟水と、涙流す顔を見られたくもなかった。


「○○チャン、元気にしぃやぁ 」

「ぉ、お前もな 」

「ぅん。おぉきに。ウチは元気にしてるわ。今度もまた付き合わせて悪かったね 」

「そんなん、えぇがな。そぉか、躯ぁ壊さんと元気にな 」


看守とツネの姿が観えなくなると、刑事がしゃがみ込んで背中を向けてきた。
逮捕術か、柔道や剣道で躯を鍛えてるのだろう、改めて近くで観ると、大きくて広かった。


「ナッナンの真似やねん 」

「オンブです 」

「ぇっ!」

「早くしてくれませんか 」

「ぇえわ、自分で歩きますわ 」

「無理せんほうがいいのと違いますか?」


壁に手をつき立ち上がろうとしたら、後ろから両脇に腕を突っ込まれ、ユックリと持ち揚げられた。
自分、不覚にも堪え切れずに泣いてしまった。
背中が暖かさで包まれたから。

コンナ場所じゃぁ、少しの優しさが犯罪者の命取りやわぁ~!
サッギでの悔しさ塗れな胸の中がぁ、トロトロやんかぁ・・・・・・


「コンナン、オフレコやけど。あんたら、ヨッポド仲間意識が旺盛なんですねぇ 」

「そぉかぁ・・・・・・・ぅん 」

「ツネさん、ある意味。幸せな人ですなぁ 」

「ぅん。唯の女の為になら、あないにはのめり込まんかったし、助勢もせぇへんかったわ 」

「縄沢さんもゆうてました。アイツらみたいなん滅多とおらんで っと 」


「何時、帰ってきますの 」

「近々、ヤット戻ってこれますわ 」



一晩中薄明るい電燈が灯ったままの、凍える寒さな牢屋で、
固い寝床で横に為り、臭い匂いのする毛布に包まれてた。
色々在り過ぎて眠れる訳もなく、仕方なく夜明け近くまで天井見上げてました。


ぁの、縄沢がなぁ、帰ってくるんかぁ・・・・・・ッチ!

ぇえ目ぇが出たらえぇんやけどなぁ。


明け方。天井近くの小窓から朝日が差し込みかけたら、漸く眠気が。
房の扉の錠に鍵が差し込まれる音。金属が滑らかに噛みあう音。

眠たさで痺れる頭が、エライ早ぁから、始める(取り調べ)んやなぁ。


「〇〇起きろ、保釈だ 」


眠気が吹っ飛んだ。

もしかしたら、えぇ目ぇかもしらんでぇ・・・・・・っ!



裏切りは、最初は期待を持たせるもんですねん。




  
【店の妓ツネ嬢】(11)


【永い夜が終わり逝く】

2009年01月31日 01時39分07秒 | 店の妓 ツネ嬢
 
 (画像はイメージ 無関係)



以前、此処(警察署、マッポ、管)で厄介になった時。取り調べ室では手錠ナンか嵌められなかった。
ズボンのベルトも取り上げられなかったし、況して今回みたいに足枷なんぞされなかった。


昔の取り調べ、今みたいにナニ(犯罪者の人権)やらの権利なんて無視されるのが当たり前だった。
だから足枷は被疑者の心を萎えさせ、管にたいして少しの反抗心も持たせないためなんだろう。
だけど自分が捕まった時、前みたいに手を焼かせたりせずナンの抵抗もしなかった。

タブン、目の前の取り調べ官の、個人的悪趣味なんだろうと想うことにした。

脚を組むこともできない前下がり座面の椅子に腰かけ、躯を動かせもできない不自由な身。
固まった躯じゅうの関節とゆぅ関節を微かに軋ませることしかできない。


小便がしたい。 今にも漏れそうだった。


眼の前の刑事、燻らす煙草の紫煙。何度も自分に向けて吹きかけてきた。


「スマンケド漏れますわ 」

「ナンがや 」

「ショウベン 」


「しょぉもないな、ホナ終わったる 」


吸いかけの煙草が飛んできた。避けることもできず胸に当たった。

クッソがぁ! 自分、胸で想うたけど情けなかった。

取り調べ初日が漸く終わった。



疵塗れの古いリノリウム貼りの廊下、黄色っぽい裸電灯で照らされていた。
今までに大勢の人が歩いたからだろう、所々捲れ汚く禿げてた。
自分、一目散に便所目がけ走り出したかった。
後ろからワイの腰に打たれた縛紐を掴ん歩く刑事。ワザとな感じでユックリと歩いた。
縄紐、振り切って走り出したかった。

焦る気持ちを見透かすように、「急がんでも(トイレは)逃げへんがな 」

ボケっ!クソダボ・・・・・・・


ナンとか男便器の前に辿り着く。
バンド締めていないのでチャック降ろさんでも手を放せばズボンが勝手に下がる。
落ちたズボン、足枷で引っ掛かり足首辺りで纏まった。

小便が切れ目もなく長々とぉ・・・・・
漸く間に合った安堵感から、想う存分に垂れ流せた。

コン時、垂れ流す自分の小便が、躯の中に僅かに残っていた肝心な温もり。
全部一緒に持って逝ってると感じていた。便器見下ろす視界に自然と涙が滲んだ。 


フト、垂れる小便、泪とオンナジなんやろかぁ。

想う情けなさは、情けなさでしかなかった。


辛抱にも、慰めにもならないもんやった。






【店の妓ツネ嬢】(10)

死に逝く心

2009年01月20日 01時18分53秒 | 店の妓 ツネ嬢
 
 (画像はイメージ 無関係)



【閉塞感】


四方を囲む壁には、ナンの装飾も施されてはいなかった。

コンクリ土間の真ん中に、犯罪者と取り調べる者が相対して向き合う机を置き、
部屋の隅、壁際に取り調べ記録用の机を置けば、イッパイいっぱいの室内。


空間を圧するように囲む壁には、マッタク味気ないほどナンの塗装も施されず、
荒れたコンクリ地肌が剥き出しだった。
其の飾りっ気もない壁が、今の自分の置かれている状況を見透かすように、
静かに、段々と、心が味わうように胸に迫ってくる。っかとな感覚に陥ってくる。

天井辺りに一つだけある小窓には、頑丈そうな太い鉄格子が嵌っていた。
部厚い窓硝子は金網入り。オマケニその上からご丁寧にも粗目の鉄網が。
歴代の徒が人たち(罪人、犯罪者、役立たず、ナラズ者)らは此処で、
折りたためないパイプ椅子に座らされる。
座面は前下がりで、座ると自然と滑り落ちそうになる。


鬼面な感じする容貌の刑事から、厳しく容赦ない追究で追い込まれる者。
俯きながら、諦め気分で周りを盗み観れば、何処にも逃げる事も叶わずと納得。
心萎えるしかなく、深まる心細さで滅多と遣られるしかないと。
徹底的に何処までもと堕とされそうな、殺伐風景なだけの取調室。

如何にもならない情けなさと悔しさで俯けば、ベルトを取り上げられたズボンがズリ落ちない様にと、
両手揃えてズボンの前を掴んだ手首をキツク締めるは、冷たき鉄輝きする金(カネ)の輪っ枷。
揃えた膝の下、便所スリッパ履く足首にも足枷が。
出かけた嘆きの溜息、奥歯噛んで押し殺した。


「ナニ思うてんねん?」


っと不意に、呟くような低い声で訊かれた。
上目づかいで机の向こう、中年刑事の頭のテッペン、白髪混じりな渦巻き視た。
疵だらけの小汚い取り調べ机に、広い肩幅で覆い被さるようにしながら、
ワイの調書を清書していた刑事、顔も上げずに再び訊いてきた。


「返事はぁ?」


頑丈そうな太い手指、爪を白っぽくさせ握るボールペン。
紙の上で滑りながら文字書く音、聴こえさせていた。


「ナンも想ぉてないですわ 」


刑事が顔を上げそうだったので眼を逸らし、刑事の肩越しに窓を見上げた。
外は真っ暗やった。其の黒色を眺めれば心に寒さが募る。
無性に小便がしたかった。ソロソロ我慢の限界に近かった。


「一服点けよか、なっ?」

「小便させてもらえませんやろか?」

「もぉ少しや、辛抱でけんか 」 


薄ら笑いしながら言いよった。自分だけ煙草を銜えた。
ハイライトの濃い紫煙ぉ、天井めがけ噴いた。
次は、ワイの顔に向けてやった。
小便を堪える必死な我慢の形相を観られるのが嫌で、俯いた。
胸の奥底で燃えるものが広がりだし、散々毒突いてました。


噛みしめる顎の筋肉、此れ以上なく固まった。


糞ダボがぁ~!ボケっ!薄ら弩アホのクソバカお頭テンテンオブラートロクデナシ
ブッサイクな顔しやがってクッソ生意気な根性無しがぁ~!!・・・・・・ハヨ(速く)死にクサランかいっ!
ボケ!滓っ!死にぞこない!厄病神・・・・・ッチ!

コン時に想いつく限りの悪態やった。



小便。限りなくと漏れそうやった。

我慢もぉ・・・・心が想いっクソっ!死にそぉやった。





【店の妓ツネ嬢】(9)

【郷愁を肴に】 

2009年01月11日 02時44分12秒 | 店の妓 ツネ嬢
  
(画像はイメージ 無関係)



あの頃のことを時々想いだします。

夜中に、独りで酒ぇ呑んでる時に懐かしく想いだす、古い物事。
其の郷愁の味が、ケッコウ、えぇ酒の肴になりますねん。


嫉妬からの、痴情な縺れる出来事は、
トコトン突き詰め裏切られるまではぁ、治まらんもんやと。
今になって想い返しても、つくづくとそんな風に感じます。
そやけど、もぉいちどあの時に戻れゝば、あの時と同じように繰り返せと言われゝば。

タブン、もぉいちど繰り返すと想う。

タブンやけどな。 タブン。



【心寒々(ココロサムザム)】


ツネ、ボン、ワイらの足元の雪解け泥水に、
物好きにも躯ぁ丸め無様に寝ッ転んだ、不始末男。
泥水の冷たさに凍え、顔面蒼白にし躯と色ない唇小刻みに震えさせていた。

自分、男の後頭部近くで蹲踞し言いました。


「コラっ!もぉ判ったやろ、ダボが!」

下目がけて吐く、自分の言葉息が白っぽく視えた。

「ナッナンがや、ワイがナンしたちゅうねんっ!」

ワイの白息、消える間もなく地面からの、絶え絶えな息言葉と交差した。


男が後ろのワイに、無理にと首をひねり顔を向けようとしたら、
鼻血が止まらず顎先から血球ぉ滴らせるボンに、濡れた髪の毛ぇ掴まれた。

ボン、男の逆訊き無視し、泥水塗れの髪の毛ぇ毟り採る勢いで頭ぁ揺すった。
ツネ、細めた眼ぇで無表情な顔し、見下ろしてました。

「ツネ、どないや、コンくらいで堪えたったら?」

ツネ、応えないで大きく肩で息をし、腰を捻りながら右脚を後ろに。
ゴール目指しサッカーボール蹴る勢いで右足の爪先、男の股間に減り込ませた。

男の躯、痙攣しながら尚更丸まった。

悲鳴なんか出んくらい、痛いんやろなぁ。

ット、ワイが想像してたらツネ、返す尖がった靴先、髪を掴まれモガク男の顔面にと。
男の唇が内側にと隠れ、靴先銜えさせたままにし、暫く動かなかった。


「どぉなん、アンタが好きな口に突っ込んでしゃぶらされる気持ちぃ?」


聴きたくもない言葉だったので自分、雪を降ろす雲を見上げた。
濃い灰色の雲から、小粒な黒い影がイッパイ降ってきていた。


ツネの細い足首、男の濡れて震える指が這い、掴んだ。
掴まれた黒色ストッキングに泥水が染み込み、黒の色に深みが増した。

自分、眺めながら煙草を吸いたいと。

ワイ、煙草を求めて無意識にコートのポケット弄った。
ボン、男の髪のけ掴んだ右手を、左手に持ち替え、
顔を上向け顎先と、鼻の下を擦り、鼻血塗れの手ぉ懐に突っ込んだ。
潰れかけて捩れた煙草のパッケ取り出し、ワイの方に向けてきた。

パッケに付いた血ぃ気にせず、縒れた煙草を引き抜こうとしてたらツネに言われた。

「○○チャンぅ、ウチもおくれんかぁ 」

ナニかに (タブン血の匂い) 酩酊してるような、囁き声やった。


三本、ナンとか折れないようにと抜き採り、
一本づつ真っ直ぐにしながら銜えさせてやった。
ワイ、ボン、ツネの順で、ジッポで火を点けた。

ツネ、長いこと一本足で上手に立っていました。
薄く口を開き、煙を吐いてました。


「ぁんたがコウテ(買って)くれたコレ(ヒール)、美味しいやろ?」


恐ろしいほどの静かな物言いやったけど、隠し憎しみ物言いでした。
だがら容赦なく減り込ませた靴先。揺すってました。
口を塞がれた男、泣きながらツネの足首掴み鼻の穴で呻いてた。
ワイ涙ぁは、あないにギョウサン溢れ出るもんかぁ。ット、少しぃ関心して観てました。

靴先、引き抜くと、赤い歯茎肉がクッ付いた前歯が幾本か出てきた。


門の辺りから人の気配がしたので振り向いた。
誰かがブロック塀の向こうの地面蹴りながら走る音がし、遠のいてゆく。
冬の日暮は素早くて、薄暗さの中、重たそうな雪雲が空を覆っていた。
次第にぃ粉雪、ギョウサン音なく舞だしてきた。


あの場を支配してた、其々の遣る瀬ない人の気持ち。
観る白っぽい降るものでナカナカにと。隠しようがなく、なかなかにと。

自分、此の侭何処かに逝ってしまいたかたん、今でも憶えてます。


遠くから聴こえてくる踏み切り警鐘の乱打音と混じり、
幾つもの近づく警察車両のサイレン音。


ブロック塀の上から、パトの回転灯が突き出て観えたら、門から勢いよく侵入してきた。
急ブレーキで回転止めたタイヤが、濡れた地面削りながら急停止。

警察車両、後から後から何台も湧いてきていました。


パトの回転灯、フラッシュライトみたいに粉雪照らしてた。
照らされた粉雪、空中で静止し、赤い粒に為って浮かんでた。
ワイ、あないな綺麗な赤い色の粉雪観たん初めてやった。

ワイらさんにん、互いの赤い光が舐める顔、見合いました。
三つの覚悟し燻らす紫煙、舞う白い粉雪で地面にと降りました。


自分、両腕を警官に抑えられ、膝の後ろを蹴られ脚を折られた。
濡れた地面に膝まづかされると、背中を踏まれ前屈みで泥の中にと。
背中の痛みを奥歯噛みしめ堪えるとき、泥を噛む歯応えがした。

冷たい泥水の味が舌の上に広がった。


終わったなぁ。 漸くぅ・・・・・・・ッチ!






【店の妓ツネ嬢】(8)

【人が狂う様 ヒトガクルウサマ】

2008年12月19日 16時06分20秒 | 店の妓 ツネ嬢
(画像はイメージ 無関係)




【揃いの螺鈿細工】



女(ツネ)が、昨日までの自分の色(オトコ、ヒモ、アクタレ)を刺した。


町外れ、農道わきの古い借家。
平屋の民家を使用した、借家とは見えない一軒家。


セメントブロック積み上げた門柱の陰で、寒さ凌ぎで脚踏みしながら眺めていた。

スリ硝子が嵌った細い木格子の玄関引き戸、レールが錆びているからだろう。
開け難かったのか苛立しげに外にと倒し、硝子が割れる音が聴こえてきた。
玄関から裸足の若い男が、片足で跳ねながら、ナニかに追われるような感じで出てきた。
倒れた引き戸に躓いたのか、割れた硝子破片の上に前のめりで転がった。
直ぐに立ち上がり一歩踏み出したが、膝が折れるようになって再び前のめりに寝っ転んだ。

昔からの、顔見知りの男やった。


昼前まで僅かに降り積っていた初雪が消え、冷たく濡れた地面でモガいてた。
自分、音を立てないように忍び足で男に横から近付いた。
男は噛みしめた歯の間から白い息吐きながら、濡れた地面に片膝立ちで前屈みに為り、
太腿に突き刺さったアイスピック、掴んで抜こうとしていた。


「アイスピックかぁ、まぁショウガナイわな。コンくらいはコイツに辛抱してもらわんとぅ 」 

っと自分、声を出さずに呟いた。

実際、この位の事は起こるかも。っと覚悟して着ていた。

男、左から近づくワイに気づいたのか顔を上げ、此方を向きかけた。
走りより、大きく後ろに右脚引き、勢いよく前にと振り上げ下腹ぉ蹴りあげた。
男の躯が吹っ飛んで再び、泥の中で転がり濡れ汚れた。

男の息詰める呻き消す、化け鳥が鳴き喚くよな金切り悲鳴。
開け放たれた玄関奥から湧いてきた。
聴いた悲鳴で、二度目の蹴りをと後ろに引いた脚。ユックリと戻した。


ボンがワイの横を抜け、玄関に入ろうとしていたのを上腕掴んで引きとめた。

「ホットケ。ツネの好きにさせたらえぇ 」

ボン。頷くとワイの掴んだ腕、邪魔くさそうに振り解いた。

若い女の笑い声ともとれる嗚咽混じりの泣きの音の後、ツネの尋常為らざる嚇し文句の羅列。
甲高い声やったけど、マルデ歌うような、軽やかな調子やった。


「ニィさん。ドナイします?」

ボン、しかめっ面混じりの笑い顔で訊いてきた。


「気が済むまでや 」

「アレやったら片輪(カタワ)にし兼ねまへんで 」

「ソンときはソン時や 」

「ツネさん。肥後の守(ヒゴノカミ)ぃ、握ってましたんやけどなぁ 」


自分、此の後の事、脛が痛かったのを今でも憶えています。
大慌てで、玄関に飛び込んだのしか憶えていないのにです。
タブン慌てていたので玄関上がり框の角ででも、強く打ったのでしょう。
タブンですけどな。タブン。


(スミマセン、嘘です。悉く全部、鮮明に憶えています
 何度も忘れようとしましたんやけど、でけんかった。)


濡れ泥の中に浮かぶ、胎児みたいに丸くなった男の脇腹。
想いっクソ革靴で踏んづけ玄関に飛び込んだ。

泥濡れした靴底、土間で滑り此の時に、上り框に脛を打ちつけました。
自分、堪らずにシャガミ込んで框に両手ぇつき、痛さに耐えながら必死で我慢した。
廊下の暗さに眼が慣れると、脳裏に想い描いた厭になる光景が窺えた。

ダボがぁ!畜生がぁ! ッで、想った通りだったと。


薄暗い廊下の突き辺り、屋根裏物置部屋へ登る階段横の板壁に。
恐怖で腰を抜かしたのか、見知らぬ若い女が裸の背中ツケ座りこんでいた。
畳んだ両脚の膝を大きく割るようにする、正座で。

細い指で後ろの板壁、掴める筈もないのに指を鉤状にし、
掻き毟るように爪をたていました。
割れた爪の間から、板伝いに血が細くなって下にと。 

ツネ。開いた女の膝の前で、少し屈みしながら裸足で立っていた。
涙塗れの若い女の顎ぉ左手で下から受けるように掴んでた。
引き攣る蒼白な顔、持ち上げ上向かせてた。

掌の握力で、血の気のない唇を無理にと薄く開けさせ、
小刀(ヒゴノカミ)の切っ先。隠れさせていました。

自分、場の光景に呑まれ声も出ませんでした。


濡れた女の眼ん球、今にも飛び出すのかと、此れ以上もないほど剥かれていた。
ツネ、女の顔に自分の顔近づけた。 顔、舐めまわすような仕草でナニかを囁いた。
女、咄嗟な感じで顎を掴んだツネの左手首、両手で掴んだ。

肥後の守の刃先を挿み込まされた唇、動かせなかったので、
喉の奥から絞り出すよな、声に為らない必死な声で頻りにナニかを訴えてました。


ワイに気づいた女が、縋るように向けてきた横眼で、助けてくれと。
ツネ、コッチも視ずに言い放ちました。

「アカンデ〇〇チャン。来たら胸ぇ刺すよってな 」

自分コナイナ時にぃ、ワイの本名渾名ぉ呼ぶんかいっ!クっソダボッ!がぁ~! っと心で。

框に打ちつけた脛の痛み、ナンとか我慢し土足で上がった。


「来たら逝てまうでっ!ゆうとるやろっ!」


唇で隠れてた小刀切っ先、ツネが引き抜くとき唇の端が切れた。
驚愕した女、アマリニも驚きすぎたのか、引き息での小さな悲鳴しか。
代わりにヘタリ込んだ床の上、仄かな湯気をあげながら小便が広がり溜まった。

「コッ、殺さんといて、オッお願いやからコロサンといてぇ!」

「コイツが盗人猫や、逝てもうたる 」

女の首、物凄い速さでイヤイヤの動きし始めた。
乱れていた女の髪が、座敷童みたいなオカッパ風に見えるように広がった。

ツネの小刀持つ腕の肘、後ろにと。

止めさせようと一歩脚を踏みだしかけたら、ワイの背中で怒鳴り声がした。
直ぐに勢いよく壁際にと除けられそうになって、倒れそうにと躯がヨロメキ掛ける。
咄嗟に両側の板壁に両腕突き、必死の思いで耐え廊下を塞いだ。

「もおぉええっ!止めんかっ!」 怒鳴った。


「ニィさん、どいてんかッ!」

「ボケッ!ナニさらすんや 」

「ツネさん前持ちや(執行猶予中) ワイが極(キ)めたる 」

耳元でのボンの怒鳴り声、自分、心底からの怒り覚えました。


「怒ァホっ!」 振り向きざまボンの顔面、怒゛突いてた。


ボン、背中から狭い玄関土間、モザイクタイルの上にと斃れました。
広げた腕で、下駄箱の上に飾ってた模造花の籠と、電話機ぉ払いなあがら。
玄関入口横袖、明かり採りのカタ硝子を後頭部で割りもって。やった。

ボンが隠し持っていたボンの道具、斃れるときに手から放れ薄暗い中、
閃きながらワイのコメカミ掠め、空中を奔り後ろにと。
天井に当たった音がし、床に突き刺さる、軽い音が聴こえた。
硬い金属が微振動で震える、虫の羽音みたいな微か音(ネ)がした。

振りかえり床を視る。 握り柄に虹色に輝く阿古屋貝(アコヤガイ)を、
螺鈿細工で埋め込んだ、カスタムナイフが突っ立って振動していた。


「ボン 」 ってツネの呟き。


視るとツネの前で、気を堕とし白眼剥いた半裸の小便女が、乳ぃ放り出して横倒し。

小刀がツネの下ろした手から放れ落ち、同じように床に突き刺さった。


ッチ!ダボがぁ、ナンがヒゴノカミやねんっ!


短かったけど、刃が細身拵えのケッコウな代物やった。
柄に、カスタムと同じような二枚貝の螺鈿、施されていた。



ドイツもコイツもぉぅ!ロクデナシばっかしやんかっ!

続いて、想いつく限りの悪態。吐いた。


暫くして想いだした。

「道具ぅ、用いたら承知せぇへんさかいにな、絶対アキマヘンで!」


自分。ママァに、半殺しにぃ・・・・ ッテ。



もぉぅ、ツクヅクやった。



 

【店の妓ツネ嬢】(7)