見舞いにぃ行かなかったのは、逃げたかったはずじゃぁなかった。
唯ぁ自分、アイツの顔を視るのが 恐くて辛かった。
タブン、アイツも同じでぇ、来て欲しくなかったと想う。
自分ぅ、今は兎も角 此れから先もぅ
其の事をぉ 悔やまんと想うねん。
知らせを聞いたときぃ、ヤッパシかぁ!
って、けど!ぅ、ナンデや!ナンで今なんや!!
何回も、何回もぅ! ナンデや、なんでやぁ!
・ ・ ・ ・ ナンでやぁ!
あの日以来、ギョウサンぅ酒ぇ 飲みました。
でもなぁ、酩酊はなぁ、訪れては暮れませんでしたぁ~!
暗さな気持ちがぁ、真っ暗さな心にぃ!
幾ら救いを求めてもなぁ、あかんもんやねん。
その年の秋にぃ F わぁ手術した。
でもぉ、そのまま帰ってこなかった。
二度目の手術と、ママに葬式の後で聞いた。
「あのこぉ、F なぁ童貞やったんやってぇ、知ってたんかぁ?あんたぁ 」
「うん、うすうすなぁ。 そやさかいにぃ、みさこはんに頼んだんかぁ! 」
「そうやぁ、他の誰に頼める?あの娘(こ)しかおらんかったんやでぇ 」
「ぅん。 おおきにやったなぁ、ママぁ 」
「うん、もぉええかぁ! 今日わぁ、あんたに聴いてもらうでぇ、ええかぁ? 」
「 ぇ! ・ ・ ・ ・ 聞かんとぉ あかんかぁ? 」
「うちぃかてなぁ、誰かにぃ聞いてもらわんかったら、気ぃオカシュウなるなぁ! 」
墓石の天辺にぃ柄杓で、バケツの水ぅ掛けながら
ママぁが振り返り様にぃ、ワイにぃ水っ! 掛けた。
「冷たいなぁ ママぁ 」
っと、喋った口調。 自分でもぅ、驚くほどの静かな語り口ぃやった。
「なぁ、冷たいなぁ。 コッチの(石の)中の方がぁモットやろなぁ 」
「ぁあ、そうやろなぁ 」
「あんたぁ チョットわぁ大人にぃ為ったみたいやなぁ! 」
「知るかっ! 」
ママぁ、隣のぅ墓の石灯篭にぃ腰ぃ降ろして、煙草ぉ銜えた。
自分、ジッポで火ぃ 点けてあげた。
「あん時ぃなぁ ・ ・ ・ ・ 」
尖がらせた唇から、紫煙吹いて喋り始めました。
あの日、みさこはんがぁ
舞台が終わって劇場の裏口から出たら、Fが待っていた。
そんな事は初めてやったから、みさこはん驚いた。
驚くぅみさこはん連れて、Fぅ 二人でオデン屋で晩飯ぃ。
それからぁ、ママぁの処(ボギィー)。
二人とも、よぉ笑っていたって!
っで、アパートに帰ったら、いつもなら別々にぃ 風呂入って寝る。
自分、想像してたけど、二人ぃ一度もぉ、同衾した事ぉなかったそうやぁ!
だけどぅ其の日わぁ Fがぁ 一緒や言うて誘った。
「そうかぁ、あいつなぁ なんかぁ吹っ切れたみたいにぃ、明るくなったもんなぁ! 」
「うん、ふたりともなぁ、救われたんやでぇ 」
「えぇ! 二人ともって、なにやねん? 」
「あんなぁ、あの日なぁ お風呂でなぁ ・ ・ ・ ・ 」
風呂場で、初めて視る Fの手術痕。
どないにぃ見てもぅ 傷わぁ傷。
みさこはん、Fの身体洗おうとしたら、Fが先にぃみさこはん洗い出した。
「此処さきに洗って 」
みさこはん、左の乳房の下ぁ 指ぃ差して言った。
舞台化粧ぉのぅ ドォーラン流れたら 傷ぅ出てきた。
鋭い切っ先のぅ、匕首かなんかのぅ、刃傷痕ぅ!
心中沙汰の、死に損ないの傷!ッ
「そうかぁ、しらんかったわぁ! 」
自分、墓場からの帰りの車の運転手。
「そう言えばなぁ、みさこはん。 長崎の話しぃ、途中でやめた事あったなぁ 」
「Fなぁ、生きたいゆうてたねんでぇ!」
「 ! ・ ・ ・ ・ ・ 」
「みさこがなぁ生きれ、生きなぁだめ ! っとぉ、って言うねん!ゆうってたわぁ! 」
雨も降らんのに、フロントガラスが見難いわぁ!
「あぁ、そうそう! みさこがぁこれ、あんたらに渡してって 」
「なになん? 」
「あんたらにわなぁ、感謝してもしきれん言うてたでぇ 」
「そうかぁ、そいでぇなになん? 」
「これ、なんやろなぁ? 」
小さな平たい紙包みが三つ。 ママの手のひらに載ってる。
「開けたらぁ 」
「チョット車停めてみぃ 」
「えぇさかいにぃ開けてみぃ 」
「じゃぁ、うちのん開けるわぁ 」
「なんやぁ、それならもっと早くに開けたらええねん 」
「そやけどなぁ、みんなぁでぇ・・・・!! 」
突然ママの嗚咽! 車を道路脇にぃ停めた。
「どないしたんやぁ!もぉ!ッ 」
ママぁの、震えながら差し出す手のひらから、わいの名前の包みをとった。
開くと、小さなぁ花びらが 自分の太腿にぃ 落ちた。
あの日、劇場で渡した花束の、押し花!
上手にできてた!
包み紙の裏に、細かい文字ぃが書いてた。
所々に、タブン、涙の跡ぅがあった。
途中まで読めたけど、後わぁ見えませんでしたぁ。
もぉ!堪らんかった!
ママぁと二人で、泣いて泣いて泣いてぇ!
泣き喚きましたぁ~!
お終い。