【 見届け人・・・・・? 】
其の店。表のドアが 古風な漆塗片持ち扉です。
色は朱色。 漆塗り特有の深みある艶は ありません。
店の者 其の漆独特の艶を嫌って、水研ぎ出しの艶消し仕上げ。
同じく扉の取っ手。此れも艶消しの鋳物焼結仕上げ。
深夜の 深まる冬星空暗さの時、扉
右斜め上方 ランタン風外灯明かりの黄色い光で照らされます。
其の明かりで硬く閉じられた扉を視ると、
暗闇から 不思議な感じで浮き上がらせます。
浮かぶは、赤錆色の扉でしょぉ・・・・
少し離れた左側に、黒錆浮き出た瓦斯灯風鉄柱。
其の上 突き出た横棒に、錬鉄製透かし蔓草模様文字看板 ぶら下がり
銀色月明かりに眺め読めば 屋号。
【 洋楽倶楽部 Saint Louis 】 っと。
時折 夜風にて、吊り下げ蝶番ゆらゆら揺れ、軋み音
鳴きながら 模造煉瓦タイル舗道を嘗め 何処かに・・・・
ランタン灯り届かぬ向こうで、暗さに赤い蛍。
赤が流れ飛んで歩道で 火花っ
靴が踏みます、吸いさしを。
音無く扉、内側に
薄暗がりに 五歩。コート脱ぎながら歩めば
背丈ほどのアジアン三つ折衝立、籐の。
向こうから 軽やかスイングジャズ耳に
衝立抜け小さなクロークカウンター
「 よぉこそ 」 っと。何時もの娘。
「ぅん、後から来るからぁ 」
「はぃ、承知いたしました 」・・・・。
上下ポケット、上着内懐 弄り
ビーズのジャラ銭入れ 二折れ札入れ ジッポ 角ポケット瓶
クロークカウンターに次々とぉ お積み上げ。
そして 後ろベルトに挟んだ 細めに絞った紙袋。
『包まれてるのは、何かは知りませんでした 』
カウンター嬢。後日、そぉ、証言したそうです。
「頼むよっ 」
差し出します。
「はぃ、わかりました・・・・どぉぞお楽しみをぉ 」
微笑みで受け取ります。
濃密モク煙透かして 薄暗ボックス客席視れば
みなさんの影 楽に合わせて御躯ぁスイング。
一段高めの舞台上 外来人達 眠たそうに演奏。
若い店人近づき、「よぉこそ 此方に」 っと、ご案内。通されるは、
天井より吊り下げ並んだ灯芯角灯(カンテラ)風ダウンライト下
っの カウンター。
店人メッキ背凭れの椅子引かれ、「どぉぞ」 っと。
カウンター天板、メタルのジュラルミン一枚板。
表面、細波状のシボ模様。
其れ、ダウンライトが照らし輝かします。銀色鈍色に。
赤い爪の綺麗な細指が すわとう刺繍コースター
目の前に。小さなクリスタルの灰皿と共に。
「なにをぉ? 寒かったぁ・・・・? 」
ジャズ音にも負けない、澄んだ声でっ
「ぅん。お湯割りぃ 」
唇を、読める程度の開きでっ
華奢な取っての、薄硝子製ホットグラス
仄かに湯気が
二指で壊れそうなほど細い取っ手を 摘む
口元に運べば、漂う匂い西洋酒 ウイスキー
飲む。 心静々となりました。喉道、暖かさが落ちます。
腹、未だに決まらない思いを優しい熱が 包みます。
自分の心、何故か平和でした。
此れから始まるものが無い様な、
不思議な想い感覚に陥ってました。
嘘の感覚でした 其れ。
お湯割で正解でした。
一気に呑めませんからね。イッキに
意識は、酔うなと。
見届けろと。心が命じます。