【 rare metal 】

此処 【 rare metal 】の物語や私的お喋りの全部がね、作者の勝手な妄想ですよ。誤解が御座いませんように。

【夜遣る事は自分で勝手に盗め】

2006年04月05日 02時04分26秒 | 夜の時代 【深夜倶楽部】 



【夜の教育】


「こらっ! 呑めへんのんかぁあ、呑まんかいっ 」
「えっ、ぁ、も、もぉうアカンっ 呑めませんよぉ~! 」
「あかんっでぇ ぼぉおやぁ~、呑まんかぁいぃ~! 」

初回から、こんな調子でした。酔っぱらった酒癖は 見事なほどでした。
真二さん。 客や店のママ 女たちの前では、決して酔った姿を晒しません。
自分の前では酔います。何時もヘベレケニなるまで。

「ぼおやぁ呑めっ こらっ、呑めぇ 」

「真ちゃん、もぉ飲めへんゆうてるやないのぉ、無理ゆうたらあかんよぉ~ 」
 此の人、とある飯屋の おかぁはん。

毎晩 店がハネテから、
独り寝の棲家に帰りがけに 晩飯を喰いに寄っていた、
其処の 某飯屋の亭主です。
深夜営業の 水仕事の勤め帰りの人さん相手 専門の炉辺風飯屋でした。
丼飯の 色んな御菜の味付け、旨かったです。
当時 自分。 間取り一部屋の安アパートで、独り暮らしです。
未だ一度も自炊をした事が無く、喰いもんは専らインスタントの麺。
っか、ジャムかマーガリンを塗った 焼きもしない生食パン。 休日に時々一升酒瓶。
其の程度の食生活してました。だから此の飯屋
直ぐに贔屓に成ってしまいました。


目っ、瞑りもって流し込みます・・・・。ほんまの黙々ぅとぉでした。
空の中ジョッキ、ソロリとカウンターに置きました。
目を開けると、呑む前と視界が少しぃ、如何にかぁ でしたぁ・・・・

「かきちゃん、あんた。無理に飲まんでもえぇのにぃ! 」
「おかぁはん もぉ一本ください」・・・・堪えもって言いました。
「・・・・あんた。呑まんとき。もぉ出さへんっ!」
「おかんっ ボオヤが飲みたいちゅてます。出したってんかぁ~ 」
「真ちゃん、もぉぇえっ! あんたぁえぇ加減にしとき 放り出すでっ 」

何時もの事でした。放り出すでっ との、おかぁはんの此の一言で静まります。
可也な酩酊人の項垂れた真二さん、愚痴っぽく言い出します。

「悔しかったら、俺を抜かんかい、なっぁ! 抜いたらぇえんや!
  なぁカキぃ、悔しいやろぉ 抜いてみぃ・・・・ 」

今から想えばね、連夜に亘っての此れ
真二さん独特のね、新人教育みたいなもんでした。
随分後になって気づいたのは。目を掛けてくれていたって、事です。
あの頃は、人の出入りが激しかったです。
 女も男も、随分とでした。
自分の後に入店してきた男 何人もいました。
ですけど、飯食いに連れまわされていたのは、大概が自分。

月毎の集金日に 車の運転手役、自分でした。
魚河岸や青果市場への仕入れの時の 荷物運びも自分
店の女たちの急な用事で、薬屋に走っていき生理用品 買ってくるのも
客の誕生日に、バースデーケーキを手配するのも でした。
他にも、諸々の雑用係りは全部自分 引き受けさせられてました。


其のお陰でなんとか自分も 「 いっぱし 」 のぉ・・・・でした。


此れも、真二の愛の 「 シゴキ鞭 」 に耐えたからです。
其れとも、夜毎の酩酊巡りのお付き合いの お陰ですかねぇ・・・・




ところで 自分と真二。此の頃から今に至るまで、
お互いを名前で呼び合った事 殆ど無かったです。

 肩書きでした。呼ぶのは

自分が真二さんを呼ぶとき 『 マネージャー 』 っで
自分が呼ばれる時 『 ぼおや 』 っか 『 ボンさん 』 でした。
営業時間中の忙しい時は、『おい』、っで大概が 『 コラッ! 』。

 一番多かったのは、目線命令でした。

最初の頃、自分。真二さんが首と顎を動かしもっての 目線言葉。
全く理解不能でした。

 だから自分ぅ・・・・
『ぇ!なんや?・・・・ 』 っと、ド頭ホワイトアウト状態です。

「ボケっかぁ! 」 っと 真二が、カウンターの外から 唇動かさずに笑顔でっ。
『なにぉおっ! 』 っと即 思っても作り笑顔でぇ・・・・
「わいの指先見んかあぁ! 」 伸ばした腕、微動もしていません。
『 ゆ、指ぃ?・・・・ 』 っ何やねん?っと見てみれば

指の先には、新品の ナポレオン の化粧箱が仕舞ってある 棚の扉。
真二、相変わらず唇を動かさずに言います。

「コラッ!殺すぞ。オチョクットンのかぁ?ボケッ! 」
「ぇ!なにがですか? 」
「キープや、はよぉとらんかいっ! 」
「ぇ、あっ!はいぃ~! 」

扉開いて、箱。箱開けて ボナパルトちゃん 取り出し、
瓶の表面 素早く磨いて、「 どぉぞっ! 」

「ドォゾわぁ要らん!覚えとけっ 」 っで、真二。再び客席に

なにが覚えとけやっ!アホにしくさってボケッがぁあ~! 
 っと一応心で。自分
素人と玄人。ボケとトンビ。ドォシテも、全く真二には歯が立ちません。
毎晩、こんな調子でした。

店が終わると、飯屋での「その日の反省会」という名の呑み会。
自分、失敗ばかりですから、罰をです。冷酒コップ一気飲み。
此の反省会の時は、他の従業員の男どもも一緒の時がたまに 。
其の男達も、真二の酒豪振りには叶いません。
只、他の男が居る時 真二。絶対に酔ったりは致しません。
普段 優しげな眼差しが、此れでもかと炯炯たる眼光鋭い輝きを増すだけでした。
話すことは、尤も過ぎるほどの内容。幾らでも喋ります。夜明け近くまでも。

真二、仕事の上でのミスを 絶対にしない男でした。
だけど 自分以外の部下や女たちには、何も完璧を求めません。
反省呑み会では 真二は、自分が想う事を話すだけでした。
みんなは、それ故に、真二を理解しようとします。
マネージャーの為に 仕事をコナセルナラっと、
為になる話しならと、何でも言うことを聞こうとします。
其の時、其の席では幾ら晩くても、全員素面が続きます。
酒量は上がり続けてもでした。

自分。此の時期は必死でした。
真二さんが考えている事 真二さんが思いつく前に。
っと、必死で予想し 仕事中は絶えず、真二さんの動きを目で追います。
毎日が イッパイイッパイの思いでした。

 でもね、予想。 当たる訳が無い。



或る日、
「ぼおやっ、チーフになれっ 」 っと。

「はぁ?・・・・、ぇ! 」
「お前が今日からチーフやっ 
「えっ、ぼ、ボクがっ・・・・ 」
「気色悪いこと抜かすな!っ 」
「ぇ!」
「ボクやっ、似合わんことヌカスナ、ボケェ~! 」
「は、はいぃ・・・・わぁ、わいがぁちぃ~ふぅですんかぁ!っ 」
「嫌かっ 」
「ぃ、いえっ します 」
「ほな、せぇやっ 」


此処数年。真二さんの御用が無い日は
昼過ぎに店に来て、チーフの仕込みの手伝いをしていました。
 まっ、料理見習いです。
此の頃やっと、客に出せるくらいのオードブル造れる様に でした。

「チーフはどないなんですか? 」
「あれは、昨日で止めた 」
「やめはったっ! 」
「そやっ、止めおった 」

其れだけでした。後は何の説明もでした。


少し後になって、聴こえて来た噂
店のホステスで、亭主持ち女とチーフが逃げた。

チーフ、籍も入れていなかった子持ちの女を置いてでした。
其の置いていかれた女、某スナックで働いてた。
何度かチーフに連れて行ってもらって、顔見知ってます。
可也 綺麗な女の人でした。
其の人を捨てての、駆け落ちです。

 アクマデモ噂で です。


「バーテン 募集かけたさかいにな。それまでは此の前入ったん使え 」
「はい、じゃっぁ此処(カウンター)ワイが仕切りますんか? 」
「誰がするんやっボケッ! チーフがするんやでぇ 」
「はいぃ! やらせて貰いますぅ~ 」

真二さん、ニヤリとして言いました
「あぁ せんかいっ、チィ~フゥはんっ 」 っと。


やっと、やっと卒業できました。

 「 坊やぁ 」 からぁ~!
 

夜更けに店がハネテから 店のみんなが、
わいの昇格お祝いやっ、ゆうて 某所で奢ってくれました。
明くる日は、強烈な二日酔いやったっ
其れでも、寝惚け顔で目覚めた時 多分。わい

 ニヤツイテタと想うでぇ~!