【 rare metal 】

此処 【 rare metal 】の物語や私的お喋りの全部がね、作者の勝手な妄想ですよ。誤解が御座いませんように。

丸窓カラ驟雨ヲ覗ヶバ。

2008年09月27日 11時45分22秒 | 幻想世界(お伽噺) 
【叶わぬ雪の旅宿】 前作。




(忘却はいたせぬものかと。)



雨が降る朝に、泊まり宿の丸窓から外をと、覗きましょうかと。 

視れば港を覆う低きところの灰色な雨雲越しにの 朧げな暗き光が降っていました。


昨晩憶へし、慈しみあうエロスな出来事の果てに、雨降る薄暗さな朝の港を窺へば

雨雲覆う明かるさは、物の形を朧げ観へにと儚くと感じさせ、妖しさが隠れ視へました。


光は、暗さな優しきものなで射しきても 我の眼に映るは眩しきことでした。

眩しさなとの想いは、暗き処でふたり隠れ過ごし睦み合ったから。


逢瀬で過ごし往く時には、想わぬ事とて限りが御座いましょうに。

時がと浪費せし感覚は、深くと女(ヒト)と慈しむことほどには何方も、

キットお判りもいたしませぬかと。


雨は驟雨。 秋の初めの隠れ事隠しな、海風に吹かれ遠き沖より渡り来る。

隠し事を責めたる人の世の辛(カラ)さ雑じりな、降る音もなき噂が囁き混じりなり。


ふたりは雨宿りにと、何処かの軒の下にてでもと、隠れ過ごせぬ事でもなきに御座いましょうに。

遣らずな雨は、密か求めの肌を冷たさがで、責めたるものが潜まれして初秋に降るもの。

視れば、心隠すも透きとおる幕の如しな、静か降りな驟雨。


衣が擦れ音、微かにと背後より聴こへきて、我の汗な背に触れるゝはふたつ膨らみの硬き先。

細き腕は後ろよりと回され、冷たき掌は胸の上にて力なくとで抱かれる。

我の汗でまみれ濡れし左頬へと、肩越しに好きな女(ヒト)の冷たき頬が寄せられゝば。

耳朶(ジダ)が妖しき緩さで噛まれ、暫くは音たてゝ耳たぶ、ムシャブられまする。

ときに吐かれしは熱き吐息の如くな求め囁き。


其れは聴こへぬものぞとなふりな、我の下手な演技の耳元にて、好(ヨ)き匂いの吐く息で囁かれました。

「なにが観えるのぅ 」 っと、静か睦言喋りで我は問はれますれば。

応じるは、「観たくも無き物事、タダタダ視た気も無き、深く知りたくも無き物事 」


「いつもね、判らないことだらけみたい 」

「なにぉ知ればいぃ?」

「なにが知りたいのぉ?」


女が細くと吐く紫煙は部屋の中で低くと漂い、ふたりを窺う驟雨の幕かと。

漂いくる紫驟雨からの嗅げる匂い、我の脳裏で想う嫉妬が紡ぐ匂い。


「なにぉ知れば慰めになる、おまへの?」

「ジェラシー ?」

「馬鹿なっ!」 


っと我は力なく呟き言葉応じ。


丸窓から聴こへしは、幾度となく細き汽笛の音。 霧雨の向こう側は港のほうから。 

フット、懐かしむものが我の胸の心の中にて、刹那で去来いたしまする。

むかし一度となく間違へし、憶へし隠し出来事の既視感が、かもがと。


往時を偲べば或る日の時も、雪降りて白き帳(トバリ)の向こう側よりにと。

遠き記憶の向こう側にてより、咽ぶよな汽笛の音が何処までもと聴こへきた。


此処とは違うと或る場所にて、雪の朝に船出する古き船体の連絡船を。

自虐な物想いにて心ぉ塞ぎ、唯見送ることしかできぬ、あの時の姑息な卑怯者は我でした。

ときに忸怩たる想いする心の内は、卑怯者の悲しみを腐食させんもんと。


為に虐め尽くすかとな汽笛の音、意趣を返さんと迫らんと。

古き連絡船が港より出航し、沖にて影が消へ去るゝまで。


我は古き出来事、其のことを未だ憶へていたかと驚けば。

隠れていた忸怩たるな悔やむもの、永き時を経て再び心広がりしだしまする。

過ぎし日を懐かしむ耳の奥にて、汽笛の音は幻聴響きいたしました。


丸窓の濡れた面取り硝子越しから聴こへしは、細き汽笛の音。

我の惑乱し心を蝕み狂わせんものと。


驟雨の幕の中を突っ切り、裸足で冷たき水たまりを踏み、濡れるのも厭わずにと。

欧州は、阿蘭陀辺りの洋館風造りのバルコニーへと居出ますと。

剥き出しの肩肌は驟雨を纏うものゝ、濡れる冷たさは格別の物想い誘いましょうかと。


バルコニー手摺に身を任せ、驟雨に煙る港の風景ぉ望めば、其処に浮かびしは白き船体の遊覧船。

其れが古き船体なればと、深くと物憂げなものは胸の中で儚くも微かに。


「誰かゞ手ぇぉ振ってるはよ 」


っと聴こへるから、肩越しにと後ろを視れば。

泊まり客にと部屋に備へし双眼鏡にて、港を覗いてる女が居た。

ギリシャ神話の登場人が纏うキトンを真似たか、裸の躯の上に白きシーツ布を巻きつけた姿で。


「此れぇ重たい 」

「玉(レンズ)が大きいからな 」


一時代前の双眼鏡は、ズッシリと重たく大きかった。

覗けば、拡大されし風景が迫りくるような感覚で観えました。


好きな女が、「濡れて寒くはないのかなぁ 」 と。

我は応えきれずに、知らぬふりで応えました。



濡れたくもないけれど、濡れても隠せぬは心の隅の何処か。

憶へていても、言えぬこと。



言えば、ジェラシーなんか、かと。






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