【 rare metal 】

此処 【 rare metal 】の物語や私的お喋りの全部がね、作者の勝手な妄想ですよ。誤解が御座いませんように。

あの晩の出来事

2008年03月31日 01時04分20秒 | オレンジ (仮題)
オレンジ 4


映画 【2001年宇宙の旅】は、未来に宇宙旅行にでかけたならば、
タブン、宇宙ってこんな感じかなぁ。ット、頭の中で想い描く以上の、
現実感に満ち溢れた物凄く面白い、トッテモ巧く出来た映画でした。
此の映画を観た後では、その後に制作された空想科学未来的宇宙物映画は、
ヨッポドお気張って製作しなければ、襤褸の滓みたいなタダノ俗物映画になっていた。

ッデ、此の晩に、イチコロ女とイッショニ観ました【時計仕掛けのオレンジ】は、

【2001年宇宙の旅】よりもですよ、コッチの映画の方が自分にはですね
ワテの軟弱なお頭(オツム:オカシラ:思考能力:適応性:当時は今以上にヨッパライのオツムやった)じゃぁ、
映画の物語の内容に、マッタクついて行かれないほどの、素的な快楽的大衝撃ぉ受けました。

其れはですね、ドンヨリト澱み濁った沼底の、汚泥みたいにフヤケタ、ワイのショボイ脳味噌が、
今までのSF映画とはマッタク違った、滅法面白い素的な内容に完全に遣られてしまい、
滅多と大興奮して一気に干上がり、矢鱈とカラカラに為って、キッチリ燃焼状態やねんッ!

まぁ要するに、脳味噌、全部丸焦げしそうなほどの衝撃を喰らいました。




【あの晩の出来事】


「ぁんなぁ、お話しぃ判らんとぉ 」

ッテ、肩を寄せてきて、ワイの耳元に口を近づけて囁いてきました。
ッデ、其れで自分、割り箸を手に持ったまま、ズゥ~ット、スクリーンを眺め続けていたのに気づいた。

「ぁッ、ぅん、そやな、ぉいもアンマシ判らんと。 それッ 」

っと指に挟んだ割り箸の先で、隣に座ってる女の胸元辺りを指しました。
営業用個人誂夜会服(ドレス)前身ごろの胸元辺り、鳩尾したまで大きく切れ下がっていました。
其処から覗く胸の谷間の前で、両手に大事に包むようにしていた物を、ワイに手渡そうとしたので、

「蓋ぁ開けてくれ 」

「ゥン 」

ット、周りの映画を観ている客に遠慮したような囁き返事。
ワイの肩に載せてた頭をお越すと、ポケット瓶のネジ蓋を開ける音がした。

「アイタァとぉ 」

自分、女が腕を叩いてきても、ポケット瓶を受け取りませんでした。

此の時スクリーンの中では、虹色みたいな綺麗な色をした、
先が丸くなって真ん中でグニャリっと曲がった氷菓子(アイスキャンデー)を手に持った若い女が、
賑やかしいカーニバル遊園地の中で歩きながら嘗めている場面に見とれていた。
自分、女がポケット瓶を渡そうと差し出してるのに気づきもしなかった。
『なんやぁァレ、ケッコウ卑猥な形のキャンデェやなぁ 』 ット、心想いしていました。

「ぁいたとぉ、なぁ 」 ッテ女の肘で突かれて、
「ぁッ!おぉきになぁ 」 ット生返事。前を観たまま女に手を差し出した。

女は、差し出したワイの掌にポケット瓶、ワイの指を曲げて握らせてくれた。
ポケット瓶のウイスキーを、お茶代わりに口に含んだら、女の掌の温もりがする。
優しげなヌルイ暖かさがして、ウイスキーが咽喉を通るとき自分、段々とサッキよりも、
自分は気分良く、ヨッパラッテきているのだと、判りだしました。

「美味しかと?」
「上手に作っとるけん美味かとばい 」
「チガウと、お酒ぇ 」 

「 ゥン」

ッデ、直ぐに幸せは、長続きはせんもんやねん。ッテ、思い知らされました。
今当時の事を偲べば、あの晩あの映画館で、肩を寄せてくる女と隣り合って並んで座り、
仲良く映画をみた出来事が、あの女と一番幸せな気分に囚われていた時やった。

映画の上映が終わり、多勢の人さんらと混じって映画館の外、夜の表へと。
朝近い外気は冷たくて肌寒く、未だ明けやらぬ薄暗さで見上げる空には、雨雲が低く垂れ込めてた。

「そげん薄着ばしとっと、寒かなかと?」
「よかとぉ着るけん 」

袋から裾の長い毛糸の上着を取り出し、肩肌掛けの上から羽織る。

「持っとたんなら、着とったらよかとばい 」
「よかとぉぅ・・・・ 」
「ナンや、どげんしたと?」
「ぅちぉ視とって欲しかったけん 」
「そぉかぁ 」


「ウヂで送るけん、何処ね?」
「○○町の○○喫茶店の近くぅ 」
「近かばい、送るけん乗らんとね 」

自分の自転車は、当時流行ったミニチャリ。後ろに人を乗せて走ると、ケッコウ安定せずにハンドル振られます。
オマケに自分、映画を観ながらウイスキー、チビチビ嘗めて歩けないほどではなかったけど、ヨッパラッデした。
チャリの後ろで女が横座りしてたし、もぉぅ蛇行運転しながらやった。
チャリが大きく振られると嬌声を発し、落とされまいとワイの腹辺りに腕を回し、
必死でしがみついてきた。

「落ちんようにしとけよ 」
「ぅん、大丈夫ぅ 」
「寒いやろ?」

ッテ問いかけには、返事してきませんでした。
片腕でしがみ付いていたのが、チャリのよろけ方が酷くなったら、両腕で後ろから抱き付いてきた。

「そげんしたら腹がきつかけん、緩めんね 」

腕の力がさっきよりも、モット強くなった。女の躯の温もりが背中全体に広がった。

「ナンや、どげんしたとね?」
「ナンもせんとよ 」
「力ば抜かんかッ!苦しかけんッ!」

返事の代わりに、鼻をススル音がして片腕が離れた。

「上着ぃ汚したとぉ、ゴメンナサイぃ 」

ッデ、再びの両腕抱きつきやった、其れもサッキ以上の力がこもっていました。
後から上着を脱いで背中側を見たら、チョウド女の顔が当たっていた辺りが濡れ模様に為っていました。
自分、女の抱きつき方ぁ、なんだかなぁ・・・・ット。。


女ぁ、住居近くに着いて、チャリを降りるまで何も言いませんでした。
自分、ナニを喋っていいかも判らずに、タダ黙ってチャリのペダルを漕いでいました。
女、到着してチャリを降りるとき、コッチを見ようともしなかった。

「ホナ、またな 」

ット、自分、なにか判らんかったけど、心に不安が募り始めてましたけど言いました。
女は顔を俯かせたままで、「ありがとぉぅ 」ッテ、聴こえるかどうかの小声やった。

其の時、夜明け近くの茜色が、俯いた女の横顔を覗かせました。
頬が濡れていて、茜色を反射していました。
自分、突然、なんとも言えへん物が胸の中で暴れ始めてる感覚が致しました。

「あんなッ! 」
「なにッ!」 背中見せて歩き始めた女、急に振り向いて。

今夜二度目の、あの突き刺すような視線でコッチを視てきます。
自分、イチヅな瞳の中で光る、茜色に気圧されてしまいます。
昂りかけた気持ちが参り、代わりに心細さが生まれます。

「ぁッぅん、なんもないんや、今夜はゴッツゥ楽しかったさかいな、また礼させてんかぁ 」
「えぇよぉ、ウチもおんなじやさかいにぃ 」

ふたりぃ、播州弁が自然に出ました。
此の時ぃ、ふたりの夢が済んで、終わりましたんやろなぁ。


未だ開店していない喫茶店の横、路地裏に抜ける薄暗い細道を、
肩を窄ませて歩いてゆく女の後姿が、奥のパートの陰に隠れるまで待って、チャリを漕ぎ出した。

自分の住処に辿り着くまでの間、チャリをユックリト漕ぎ色々な事を考えました。
普段いい加減なことしか遣ってなかったので、あんなにイッパイ物事を考えたこと、
今まで無かったので、襤褸アパートに着く頃には頭の芯が痺れ、思考が麻痺してた。
万年床に潜り込んでも、なにやら覚醒したような悶々状態。
眠気なんかサッパリ感じないで、気分が如何にも落ちつかなかったのを覚えています。

ケッキョク、マッタク寝付かれないので、何かの折にと秘蔵していた某地方の銘酒を、
睡眠薬代わりにと、冷(ヒヤ)で浴びるほど呑みました。


「ぁんた、どないしましたんや?」化粧ッケがマッタクない能面顔のママが。
「どないって?」自分。

一升瓶六本用の木枠に座り、出前の中華ソバを啜るのを止め、
顔を下から覗き込むママに問い返した。

「目の周り、真っ黒ッ!」

傍らのステンレス磨き仕上げの鏡面みたいな、
業務用冷蔵庫の扉に映る自分の顔を覗いた。

「ママ、大袈裟でっせ 」
「ほぉかぁ、そないな立派な隈観るん、滅多とないわぁ!」
「ママ、日曜やのにドナイしましたんや?」
「ぁんた、ナンデまた、日曜出勤してますんや?コナイな早ぁにぃ 」

早いと言っても午後の二時半くらいです。
まぁ、水商売じゃぁ早起きのうちですけどな。

「明日(月曜日)の貸しきり宴会の予約の仕込みぃしてますんやでママ、ボケはったんでっか 」
「ぁッ!そぉやったなぁ、慌てッテたさかいチョット忘れしてましたわ 」
「慌ててハッタって、なんですねん?」
「ぅん、チョットなぁ 」
「ママ、ナニ?」
「まッえっかぁ、どぉせ分かることやしな 」

だけど、ママ、暫くなんにも喋りませんでした。
自分、冷めかけてる中華ソバを啜りなおします。

「あんなぁ、ぁんたなぁ刃傷沙汰やねん 」
「ニンジョォ?ッテ、どっかで切り遭いでっかッ?」
「○○ちゃん、刺されたんやで 」
「ぇッ!なんでッ?」
「サッキやっと播磨署(仮名)から帰してもろうたんやけどな、刑事ハンが心中沙汰やって言いますネン 」
「シッ心中ぅってママっ!あの娘(コ)ぉ独りもんとチャイマすんか!」
「チャイますねん、男がおったそうやねん 」
「男が居ったぁ?」
「同棲してたそぉやで 」
「ナンデ刺されなアカンかったんやろ?」

「○○ちゃんが今朝なぁ、朝帰りしたさかいに男ぉが頭に血ぃ昇らせ刺しよったそうやぁ 」

突然自分、躯全部から力が抜け堕ちました。持ってた丼、厨房の濡れた土間タイルの上で砕けました。

「どないしたんやッ!あんたッ! 」
「ドッどないもしませんがな 」
「真っ青やで顔ッ!」
「ママ、どないなってますねん?」
「なッなにが?」
「○○ちゃんやッ!」

「刺し所が悪ぅてなぁアンタ、心臓一突きぃやったそうやで 」

眼の前が真っ暗になるってあの時、初めて知りました。


後でママぁとふたりで、更衣室の○○ちゃん専用のロッカー整理しました。
ロッカーの中には、あの時に手に提げていたのと同じ、神戸の百貨店の名前が印刷された、
紙のショッピング袋が、上の段の棚に載っていました。

袋の中の私物の中から、四つに丁寧に折り畳まれた○○ちゃんの実名で署名捺印され、
其れ以外は、なにも書き込みが無い空欄だらけな、古い婚姻届が出てきた。

「ママ、コンナン出てきよったわ 」

ママは暫く俯いて、ジッと婚姻届を見つめてから顔を上げ、ワイに何かを言いかけたら、
化粧ッケのない白っぽい唇が歪んで、前歯で下唇を噛み嗚咽泣きし出しました。
自分、其れまでナントカ堪えて、我慢していたけど想わずな、誘われ泣きしました。





 終わり



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