【 rare metal 】

此処 【 rare metal 】の物語や私的お喋りの全部がね、作者の勝手な妄想ですよ。誤解が御座いませんように。

オレンジ 2

2008年03月26日 15時56分27秒 | オレンジ (仮題)
   


土曜の夜の深夜零時過ぎに、珍しく客足が途絶えた。

艶消し朱色で漆塗りした重たい入り口扉、吊り下げた小さな金鈴が鳴り開いた。
外の様子を表に窺いにいってたマネージャが、赤煉瓦外壁と扉の横に吊り下げてた、
【十八才未満の方入店お断り】の小さな白木の札差と無垢の真鍮製
【営業中】の札を持って戻ってきた。

「ボン、換えとけッ!」
「ハイ 」

こちらを見向きもしないで投げられ、放物線を描いて飛んできた二つの札を掴み、
直ぐにカウンター奥の天板跳ね上げ、踝まで埋まるかとな赤絨毯フロアーに出ようとしたら、
壁に銀盆(シルバー)用にと誂えた棚に腰が当たり、棚に重なり収まった銀盆、
派手な音を発てる。

「チッ!」 誰かが舌打ち。

聴こえぬフリで直ぐに入り口横のクロークカウンターに入り、
表の看板や階段灯の電源を切る。

【準備中】の札を掴んで左肩で扉を押し、店の外に飛び出した。
朱塗り扉額縁の上辺り、階段上から降り注ぐ表からの薄明かりでも、
ピカピカに輝く真鍮製の鈎に、コレも真鍮製で鈍く輝く地金の上に、
黒の燻し文字で【準備中】と書かれた札を吊り下げる。

薄暗い階段、足元を視ずに面を上げ、地下入り口を視ながら駆け上がった。
舗道の電飾置き看板の電線を手繰って、
ビルの基礎を取り囲む植え込みの中に手を突っ込む。
弄って、基礎埋め込みのコンセントから、差込コンセントを抜くと置き看板の灯りが消えた。
両手で看板持ち上げ、慣れた足取りで階段を駆け降りる。

扉前の踊り場に看板を置き、扉を開けようとしたら内側に開いた。
店内の明かりを背に妓の姐さんたち、営業衣装の夜会服(ドレス)の、
剥き出しの肩肌に、其々の通勤用の私服上着を肩肌に引っ掛けた、
帰り支度で出てくる。

「ボン、お疲れッぇ!」
「ボンやん、ワルサせんとはよ帰るんやで 」
「ボン、えぇコトしぃやぁ 」
「ボン・・・・・ 」

イチイチお疲れさん、おぉきにッ!せえヘンがな、なんヤネン?っと、応じる。

「映画ぁ行くんかぁ?」
「ぇッ? 」
「早仕舞いやさかい観ぃに(オールナイト)ゆくんかぁ? 」
「チョット通してんかぁ、アンタら 」

「ぁ、ゴメンなさいッ!」
「スンマセンッ!」

「アンタら、コナイナ狭いトコ(入り口付近)で示し合わさんときんかぁ 」
「ぁ、イヤッ〇〇さんチャィますわぁ、もぉぅ! 」
「ァホッ! アンタぁこの娘(コ)ぉに恥ぃかかさんときんかッ!」
「ぉ姐さんッ!違いますぅ!」

「チョット、えぇ加減にしぃやぁ、後がつかえてますんやでぇ 」

ッデ、ゾロゾロと連なりながら、女の妓が全員お帰りに。
背中で扉を押し開き、其のまま後ずさりで看板を店内にと。

倶楽部がハネ、後片付けが全部済んで一息つき、就業終わり間際に
ドッカで飯ぃ喰ってそれからやな、お楽しみはっと想い、
厨房から出かけたら、イッツモ優しい先輩から、

「ボン、ホレッ大事なお土産やッ!」ッテ、ヨク押し付けれらてたわ。

エラソウニ先輩風ブンブン吹かせながら、調理場の隅を指差し示すは、
大きめな、黒色ビニール製業務用ゴミ袋。

其のゴミ袋を両手に提げ、地下から表通りの舗道にと。
明かりが落とされた暗い階段、奥歯噛み締めて登ります。
階段上がると、周りのビルの電飾看板で少しは明るい魚町通りの舗道を、
ゴミの集積場に指定された公園まで、チャリのハンダル片手で操作し、
もう片方の手には二つのゴミ袋を提げ、チャリのペダルをやね、

『怒ッァホッ!ウスラ先輩ッ野郎ぉッ目ェがぁ!!ダボッがぁ! 』

ット、悔しさ任せの勢いで漕ぎマクリ、未だ酔い足りず妖しげな酔眼で辺りを見回し、
千鳥歩きでウロツクホロ酔い人サンらぉ、酒臭さが漂うドブ池舗道の水面を、
水スマシしのように素早く交わして駆けます。

ゴミ集積場の山積のゴミ袋群に向け、
自転車で通過しながら手にしたゴミ袋を投げた。

「わッ!痛ッ!!」 コレ、自分の悲鳴
「クッ臭ッあッ!」 コレも

ゴミ袋を勢いよく投げたつもりが、イッペンに二袋もよぉ投げきれず、
一フクロが自分の顔に当たって破け、ペダル漕いでる太腿に落ち、
ペダル漕いでいたので、膝で跳ね上げられ地面に落ち、
ゴミをそこら辺に撒き散らしなが転がった。

コケそうに為ったチャリを急停止させ、
慌てて掌で顔をなでると汚さが尚更顔中にぃッ!
 
食いモン屋の営業用のゴミ袋の中身なんか、タイガイ汚いもんやねん。
二つにへし折って捨てた割り箸なんかで、袋には無数に小さな孔が開いてますねん。
其の孔から、中の残飯ゴミから染み出る汚水なんかが垂れてます。
チャリで走ってきた道路を振り返って観ると、臭わす汚水の雫の跡が、
黒く濡れた小さな点々となって連なり、向こうの街角までぇッテ。

直ぐに集積場の後ろ、公園の汚いトイレに駆け込んで冷たい水で顔を洗います。
口に水を含んでウガイもします、何回も歯茎や歯ぁもススギます。
漸くトイレから出てきて、衣服を改めると衣服には汚水の雫の痕がぁ!

自分、此の晩、ホンマニ情けない想いがイッパイで悲しかった。


ッデ、災難に遭った晩は土曜日で(正確には午前零時を過ぎてたので日曜日)、
映画館はオールナイイト上映中。だから朝まで好きな映画が観れますねん。
自分、日常的に金欠だったあの頃の一番の贅沢が、好きな映画を観ることやった。
今の世みたいな、手軽に映画のビデオが借りられる、レンタルビデオなんかがない時代。
映画を観るなら、街の大きな映画館でしか視れなかった時代。
当時は、映画俳優の高倉さん鶴田さんなど、東映の仁侠映画真っ盛。

ヤクザ映画を観終わって、映画の主人公に為りきった観客さん。
映画館から出てくると、タイガイみなさん肩を怒らせたり、
横に銜える極道の煙草の吸い方を真似した、妙に男気取りした人さんが多かった。

ッデ自分、何故か極道物はアンガイ観ていません。
邦画よりも洋物系が好みやったんですよ、棲んでる世界がお水系やのにねぇ。
観てくれ風体なんかぁ、ケッコウ随分な和風面(醤油ツラ)してますのになぁ?


自分、服が汚水で濡れ汚れ、鼻が曲がるかとな臭さに辟易してしまい、
飯喰う元気も失せたけど、このままじゃぁアマリにも自分が惨めやったので、
セメテ映画だけでも観てやろうと想いました。
臭さ誤魔化しに煙草を咥え、シキリニ吸いまくって煙で臭いを誤魔化そうとしたけど、
如何にもぉぅ、我慢するしかなかった。

イッソノコト、映画を観ながらチビチビ舐めようかと、
ズボンの後ろポケットに忍ばせ用意してきた、
ウイスキーのポケット瓶の中身を、汚れた服に振り撒いて、
臭い消しに使ってやろうかと。

『アカンッ!ソナイナモンに酒つこうたら酒飲み作法の御法度もんやで、
 邪道やッ!ダボがぁ!』

ッテ。チャリ漕ぎながら独り毒づき、映画館のある現在は西行の一方通行になってる、
十二陣屋前通りの北側舗道を、あの時絶対に観たかった【時計仕掛けのオレンジ】
ッが上映されてた映画館目差し、情けなさを堪えてチャリのハンドル握りながら、
乱れた心静めるようにユックリと、チャリのペダル踏んで゛行きました。



オレンジ・2




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【時計仕掛けのオレンジ】

2008年03月26日 15時50分18秒 | オレンジ (仮題)
   


映画【時計仕掛けのオレンジ】っを、

若いころに、街の映画館で深夜、ヨッパラィながら観ました。

この映画が上映されていたあの時期、
わたしの稼業は水商売で、毎日深夜働きしていた。


勤めていた店はお水系の某ッ倶楽部、其処は夜更けた晩に一夜の何かをと、
胸に淡い期待を潜ませた男たちが、綺麗な姐さん方が夜の笑顔で迎え、
タダノ客だからと、お仕事なんだからとお相手し、お酒を嗜みながら、
楽しく歓談する、其れなりに表向き華やかな処。

当時世話に為っていたのは、某【深夜倶楽部:カメイデッセ・イエマヘン】
時計の針が深夜の午前零時を回ってからも、客に零時以降の酒類提供禁止
の条例を無視し、風営法違反承知で時には明け方近くまで営業していた。

場所は、此処播磨地方でも一番と言われる歓楽街、【魚町】(ウオマチ:通称トトマチ)
ッを抱える某観光都市、市街の真ん中には、後に世界遺産に登録される、
別名、白鷺城と呼ばれる大きな城郭があり、街の何処からでも高く聳えるお城が望めます。

繁華な飲み屋街を大きく南北にと分けるのは、魚町通り(通称・トトマチトオリ)。
其の通りを西にと突き当りまで往きますと、北から南へと流れる川、船場側に。
昔は重要な交通路だった川の流れは、瀬戸内海に面した港まで流れていきます。
船場川の少し手前、通りの左手に貸店舗専用の雑居ビルが御座います。
其のビルの地下一階で、明け方まで隠れ営業していたのが【深夜倶楽部】

当時の魚町、夜ともなれば夜更けからの何かッ!
ぉ、期待し繁華な通りをホロ酔い気分でウロツク、
多勢の男たちで賑わっておりました。

其の頃の自分、マダマダ夜の世界では新参の駆け出し者な、マッタク役立たずな半端者。
そやから見習いの身ぃが貰う賃金、勿体無いようなハナクソほどの僅かな銭やった。


毎日チャリ(自転車)に乗って、勤める店と食材や酒の仕入先へと通い、
タダ万年床で寝るだけの棲家、建ったのが戦後間もなくの焼け野原に建てられた、
見るからに安普請なのが判る、襤褸アパートへの往復。
毎日が喰うて寝るだけで精一杯、タマの店の休みに何処かに出かけ、
遊んで無駄金使うことなんか、トテモトテモ! 
だから、ホンマニ金には随分と不自由してた。


気安く自由に使えるほどの身銭も、よぉぅ稼げへん器量ナシのショボイ若造やった。




オレンジ・1




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